映画「散歩する侵略者」感想|概念と言葉の意味を考えてみた

映画「散歩する侵略者」

(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会

9月9日に公開された映画「散歩する侵略者」を見てきました。

宇宙人に侵略されるという壮大な設定ですが、ハリウッド映画のようなど派手なアクションやCGを使った“大きなSF”ではなく、日本ならではの、身近なところに存在する“小さなSF”という感じ。

映画「散歩する侵略者」についてまとめてみました。

基本情報

  • 製作年:2017年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:129分
  • 公開日:2017年9月9日
  • 監督:黒沢清
  • 脚本:田中幸子、黒沢清
  • 撮影:芦澤明子
  • 音楽:林祐介
  • 原作:前川知大「散歩する侵略者」

あらすじ

数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。
急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。
夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?

その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。
ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、
二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。

やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。
「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。

当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。(公式サイトより)

登場人物(キャスト)

  • 加瀬鳴海……長澤まさみ
  • 加瀬真治……松田龍平
  • 天野……高杉真宙
  • 立花あきら……恒松祐里
  • 明日美……前田敦子
  • 丸尾……満島真之介
  • 車田……児島一哉(アンジャッシュ)
  • 鈴木……光石研
  • 牧師……東出昌大
  • 医者……小泉今日子
  • 品川……笹野高史
  • 桜井……長谷川博己

感想(ネタバレあり)

面白かったです。
退屈という感想も聞かれたので、あまり期待せずに行ったのですが、まったく退屈しませんでした。時間を忘れるくらい、この奇妙な世界に引きこまれました。

私が黒沢清監督の作品を見るのは、今回が初めてです。
なので、どういうところが「黒澤監督らしい」かは、ちょっとわかりません。

物語は、夫婦仲が完全に冷め切っている妻・鳴海と夫・真治のパート、そして一家惨殺の生き残りの少女・あきらと彼女を探す少年・天野、事件を取材する桜井のパートで、それぞれ展開していきます。

行方不明だった夫・真治が別人となって帰ってきてから、彼の奇妙な言動に振り回される鳴海。ところが次第に、鳴海は失ったはずの夫との絆を徐々に取り戻していくようになります。

一方、宇宙人を名乗る天野とあきらに付き合わされるはめになったジャーナリスト・桜井は、彼らと行動を共にするうちに、彼らが地球征服を企む正真正銘の宇宙人であることを認めるようになります。

さらに、彼らが地球侵略の手始めに行ったことは、人間から【概念】を奪うことでした。

この【概念】を奪う、という着想がとても面白い!

鳴海の妹・明日美は、真治から【家族】の概念を奪われ鳴海に対しよそよそしくなります。
刑事・車田は、天野とあきらから【自分と他人】という概念を奪われ、自他の区別がつかなくなります。
鳴海に仕事を依頼する鈴木は、真治から【仕事】の概念を奪われ、職場で子供のように遊び回ります。

もともとこのお話は、劇団イキウメ(怖いネーミングだなぁ…)の人気舞台で、さまざまな謎と解釈が混在する難解な作品らしいです。

ですが、主演の長澤まさみさんと松田龍平さんが、何度もテレビで念押ししていた(ように私には感じられた)ように、この映画は「エンターテインメント」でした。

なので、ホラー的な要素を持ちつつも(冒頭にショッキングな場面あり)、深刻になりすぎず、全体的にどこか明るくユーモラスな雰囲気をまとっているんです。
特に松田龍平さん演じる真治(侵略者)には、終始笑わせる雰囲気がありました。

そこが、良くも悪くも中途半端な印象を与えてしまうのかもしれない。

宇宙人に【概念】を奪われた人が、どうなるか。
この映画で最も興味が募る部分なのですが、意外とぼんやりしていて変化がわかりにくく、私は少し拍子抜けしました。

だって、仕事や家族や自他の【概念】を奪われたら、普通、もっと大変なことになるんじゃないかと思うんですよ。

この変化がもうちょっと劇的というか、わかりやすかったら、ラストの感動もまた違ったんじゃないかなぁ……。

以下、結末のネタバレを含みますのでご注意ください。

孤高のジャーナリスト・桜井は、いつしか宇宙人と共に生きることを考えるようになり、天野が死ぬ間際、自分に乗り移るよう言います。

一方、宇宙人の真治を愛してしまった鳴海は、人類が滅亡する前に自分の中にある【愛】の概念を奪ってくれ、と真治に訴えます。【愛】の概念を与えられるのは、自分だけだと。

鳴海から【愛】の概念を奪った真治は、そのすごさに圧倒されてしまいます。
ふたりが見つめる中、いよいよ宇宙人たちの侵略が始まります。

しかし、宇宙人たちはなぜか、侵略を途中でやめてしまいます。
地球に残った真治は、【愛】の概念が抜け落ちた鳴海に、一生そばにいることを誓います。

このラストですが……。
完全に、某局の24時間テレビのテーマと被ってしまいます。
それがちょっと、残念な感じでした。

【愛】の概念を奪われた鳴海と、【愛】を受け取った真治の、それぞれの変化がイマイチわかりにくかった(劇的とはいえない)のも気になりました。

でもこのへんは、あえての演出かもしれませんね。
わからないけど。

私個人としては、24時間テレビのテーマよりも、【概念】を奪われるとはどういうことなのか?という問いのほうが圧倒的に興味がありました。

劇中、東出昌大さん演じる牧師に、真治が「愛とはなんですか?」と尋ねる場面があります。牧師はたくさんの言葉を使って流暢に愛を語るのですが、真治は、牧師から【概念】を奪うことができませんでした。

もしかしたら人間は、「言葉によってコミュニケーションを成立させている」と勘違いしているんじゃないか。言葉というのは「入れ物」に過ぎないんじゃないか。中身が空っぽの入れ物を持っていたって、なんの意味もないんじゃないか。

そんなことを考えさせられた、面白い映画でした。

この映画のスピンオフドラマ「予兆 散歩する侵略者」についてはこちらで書いています。

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