「がん消滅の罠」感想:ラストの意味が気になる。救済と脅迫が表す矛盾した心

ドラマ特別企画「がん消滅の罠」

どうも、夏蜜柑です。
TBSドラマ特別企画「がん消滅の罠~完全寛解の謎~」。

がん消滅がどうしてミステリーになるの?と見る前から不思議に思っていたのですが、開けてビックリ。こういうことだったんですね。

専門用語連発でとっつきにくいドラマになりそうなところを、やや漫画チックに描いて柔らかめに仕上げていた印象。リアリティには欠けていたけど、完全寛解の謎を追うところは面白かったです。

以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

番組情報

  • 放送局:TBS
  • 放送時間:2018年4月2日(月)夜8時~
  • 原作:岩木一麻「がん消滅の罠〜完全寛解の謎」
  • 脚本:吉本昌弘、船橋勧
  • 演出:竹村謙太郎
  • 番組公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gan_shoumetsunowana/

あらすじ

  • 日本がんセンターの呼吸器内科医・夏目典明(唐沢寿明)は、生真面目で誠実な性格の優秀な医師。ある日、夏目が担当する末期がん患者・小暮麻里(柴本幸)のがんが消え、完全寛解する。
  • 夏目の高校時代の同級生で、生命保険会社の調査部に勤める森川雄一(及川光博)と部下の水島瑠璃子(渡辺麻友)は、麻里が生前給付金の3000万円を受け取っていたことから保険金詐欺を疑うが、夏目は断固否定する。
  • その後、麻里と同じく末期の肺腺がんだった横山宗彦(みのすけ)もまた、生命保険の生前給付金を受け取った後に完治。夏目は同僚の羽島悠馬(渡部篤郎)と共に完全寛解の原因を探るが、一向にわからない。
  • その後、退院した横山が何者かに殺され、夏目は警察から保険金詐欺と殺人の疑いをかけられる。センターから謹慎を言いつけられた夏目は、麻里と横山が「湾岸医療センター」から転院してきたことを知り、羽島と共に湾岸医療センターの担当医・宇垣玲奈(りょう)に会いに行く。
  • 湾岸医療センターは、夏目の妻・紗希(麻生久美子)が人間ドックを受けた病院でもあった。無名に近い病院だが、なぜか大物政治家や有名人が数多く通っているという噂も。そんな中、紗希が妊娠していることがわかり、夏目は喜ぶ。
  • 湾岸医療センターの理事長は、夏目のかつての恩師・西條征士郎(北大路欣也)だった。さらに、同センターの患者は年収が高いほどがんが転移・再発していることもわかる。羽島は20年前の恋人・恵理香を西條が見殺しにしたことで西條を恨んでいた。恵理香は西條の娘で、新薬が手に入らずがんで亡くなっていた。
  • 夏目と羽島は、麻里が湾岸医療センターでアレルギー治療を行っていたことから、宇垣が免疫抑制状態の人間に他人のがん細胞を移植したのでは、と推測する。免疫抑制の治療をやめれば、他人のがん細胞は自然に消える。西條は、がんを自由に操ることで政治家や官僚を脅し、日本の医療を変えようとしていたのだった。
  • 紗希が肺腺がんに侵され、宇垣が何らかの処置を施していたことがわかる。西條は、紗希を救う代わりに夏目に自分の後継者になって医療革命を成し遂げてほしいと言うが、夏目は断る。西條は夏目と羽島の目の前で榊原(吉田鋼太郎)の手下に刺され、拉致される。
  • 西條に協力していた西寺(手塚とおる)が、紗希のがん細胞に組み込まれた”自殺装置を作動させる化合物”を持って夏目の前に現れる。それによって紗希のがんは消え、完全寛解する。
  • 西條を殺したという男が警察に自首するが、西條の遺体は見つからない。湾岸医療センターは閉鎖される。森川は、西條と宇垣が一芝居打ち、西條を死んだと思わせてリセットしたのではないかと推測する。
  • その頃西條は、宇垣と共に新たな展開へと進もうとしていた。

キャスト

  • 夏目典明……唐沢寿明
  • 羽島悠馬……渡部篤郎
  • 森川雄一……及川光博
  • 夏目紗季……麻生久美子
  • 水島瑠璃子……渡辺麻友
  • 小暮麻里……柴本幸
  • 西寺直樹……手塚とおる
  • 柳沢昌志……加藤虎ノ介
  • 早乙女誠二……勝野洋
  • 榊原一成……吉田鋼太郎
  • 宇垣玲奈……りょう
  • 西條征士郎……北大路欣也

感想

がん消滅の謎を解くという設定そのものが新鮮で、面白かったです。

唐沢寿明さんと渡部篤郎さんが同級生で、2人が事件の謎を追うというのもシブい。
同じく同級生設定の及川光博さんの出番が、思ってたより少なかったのが残念でした。もう少し絡んでほしかったなー。

ちなみに唐沢さんの実年齢は54歳、渡部さんは49歳、及川さんは48歳です(及川さんだけ異常に若く見えるのはなぜ)。ドラマでは、3人とも45歳という設定でした^^

真面目な医療ドラマはダメですか?

途中までは、どうしてがんが消えたのか(作為的なのかどうかも含め)全くわからず、物語の結末も予想できなくてハラハラしていたのですが、ホーンテッドマンションみたいな湾岸医療センターが登場したあたりから、急におかしな方向に^^;

りょうさん演じる宇垣玲奈は魔女みたいだし、北大路欣也さん演じる西條征士郎の部屋は悪趣味だし、薄暗い部屋で薬を作る手塚とおるさんは怪しすぎ。健全な病院には見えない(笑)

原作は未読なので、ここらへんがどういう描写になっているのか知らないけど、真面目な(硬派な)医療ドラマで真っ向勝負するつもりはなかったのかしら……。

主人公・夏目が殺人容疑をかけられてパトカーから逃げ回るシーンも、ちょっと違和感があったなぁ。夏目は優秀な医師で、生真面目で誠実な性格という設定なんだから、そんな派手な動きは要らなかったと思うんだけど。

後半、紗希の妊娠が発覚し、急に話が主軸から逸れてしまったのも残念。妊娠⇒肺腺がん判明⇒西條が脅迫⇒自殺装置を作動させてがん消滅⇒無事出産、という流れには無理があるし、取ってつけた感満載。原作にはないエピソードらしいけど、やはり不自然でしたね。

がんを凶器として扱う斬新さ

物語の主軸を構成する素材のひとつひとつは、どれも興味深くて面白かったです。

医療に通じていない人間にとっては、「他人のがんを移植しても拒絶反応によって消える」とか「免疫抑制状態で他人のがんを移植すると増殖する」とか、「がん細胞に自殺装置を組み込み、化合物で作動させることによってがんを消滅させる」とか、へぇ~って感じで。

がんという病気を、自分の目的を成し遂げる手段に使うというアイデアが斬新ですよね。こういうの、今までにもあったのかな?わたしは初めて見たけど。

確かに、がんも人を殺すものであることに変わりなく。ナイフや銃と同じように、道具として使いこなすことさえできれば、凶器になりうるということですね。毒やウイルスのように。

人の手でがんを消せるのはいいことだけど、人が操作できるものが増えるということは、人為的に壊せるものが増えるということで。少しゾッとする話でもありました。

西條の目的は「革命」だった

西條は、「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことがしたい」と言って大学を辞め、20年もの間消息を絶っていました。

がんを生むことは倫理的に医師にはできない。
医学的知識を持った医師でなければ、がんを生むこともできない。
そして救済という名目でがんを自由に操り、どんな医師にも成し遂げられなかったことをしようと。

20年前、西條は新薬が認可されなかったことで娘を亡くしています。
そのことから、西條はがんを武器に、利権をむさぼる連中を自分の思うままにしようと考えたのでした。

「裕福な人たちだけがよい薬を変えて、貧しい人たちは死んでいくしかない社会です。政治家や官僚は、国民を守ことに本腰を入れていない。だから私は、弱者のために革命を起こすんです」

そのために、政治家や厚労省の官僚にがんを植え付けて脅迫、従わない人間は殺す。少数の犠牲があっても、圧倒的多数の人が幸せになれるのなら、国民全体の幸せと言えるのだと。

このへんの西條の演説は、迫力がありましたね。さすが北大路欣也さんです。
やってることは明らかに犯罪なのに、正しいことを言っているように聞こえてしまう。

「救済」と「脅迫」は西條の矛盾した心

結局、がん患者の皆さん(柳沢以外)は、何も知らなかったってことなんでしょうか?

森川たちが麻里の自宅を訪れたとき、麻里が窓からそっと森川たちの帰って行く姿を見つめるシーンがあったので、わたしはてっきり合意の上だと思ってました。

つまり保険金を手に入れるために、湾岸医療センターの治療を受けたのだと。

保険金もらって遊び回っていた横山も、何も知らずに西條らに弄ばれた挙げ句、警察が嗅ぎつけたので殺されたってことになるのかな(殺したのは榊原の手下でしょう)

夏目は、「救済」と「脅迫」という矛盾する行為は、西條の心そのものだと言っていました。
医療革命のために手段を選ばない西條の心は、貧しい人を救うという行為でバランスを取っていると。

西條は自分の罪悪感を消すために弱者である横山を救っておきながら、都合が悪くなると殺してしまう。まさに矛盾そのものですね。国民のためとか言いながら、気分が悪くなるほど自己中心的です。

人の命を弄ぶ行為が正しいわけありません。どんな理由があってもです。

最後のどんでん返し、りょうさんと北大路欣也さんにすっかり騙されてしまったわー。
吉田鋼太郎さん演じるヤクザの親分も、結局この2人にいいように使われたってことですね。

3時間ドラマだったけど、要素がたくさんありすぎて物足りない部分も多かった。

夏目のトラウマ(余命宣告した患者が自殺した)羽島のトラウマ(大学時代の恋人を救えなかった)については、克服したのかしてないのか、よくわからないままでした。

りょうさん演じる宇垣も、何かありそうで何もなかったなー。彼女は小児白血病だったのを西條に助けられて医者になった、とさらっと語っていたけど、それだけでこんな大それたことに加担するかなぁ。

どうやら原作とはかなり違っているようなのですが、西條が生きていたという結末は原作と同じようです。

わたしは西條を逃がしたこのラストが、どういう意味を持っているのかとても気になります。原作を読めば、作者の意図がわかるのかな。

演出と脚本はイマイチでしたが、素材自体は面白かったので充分楽しめたドラマでした。

このドラマに登場した専門用語

 

寛解
がんの症状が軽減した状態。がんが縮小し、症状が改善された状態を部分寛解、がんが消失し、検査値も正常を示す状態を完全寛解という。
リビングニーズ特約
医師から余命6か月以内の宣告を受けたとき、契約している死亡保険金の一部を生前に受け取れる特約。
TLS
腫瘍崩壊症候群。抗がん剤治療などで、がん細胞が短時間に大量に死滅することで起こる症候群で、場合によっては死亡することもある。
免疫抑制剤
「自分と違う異物」を攻撃し、排除しようとする人間の体の防御システムを止める薬剤。
ドラッグ・ラグ
海外では使用されている薬が、日本国内では承認が遅れている為、使用出来ない状態を指す言葉。