WOWOW連続ドラマW「1972 渚の螢火」(全5話)についてまとめました。
1972年、沖縄本土復帰を目前に控えた激動の時代。通貨切替(ドルから円へ)の混乱の中、現金輸送車襲撃事件が発生。琉球警察のエリート・真栄田太一は、複雑な人間関係と沖縄の歴史的背景に翻弄されながら、事件の真相を追います。
「帰属」と「正義」をめぐる葛藤、そして沖縄という土地に刻まれた理不尽が交錯する、重厚なクライムサスペンスドラマ。原作は坂上泉さんの同名小説。主人公・真栄田太一を高橋一生さんが演じます。
戦後の沖縄という複雑な時代背景を描きながら、サスペンスとしての緊張感や展開の面白さも存分に楽しめるエンターテインメント作品です。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2025年10月19日(日)から毎週日曜22:00~ほか
- 原作:坂上泉『渚の螢火』
- 脚本:常盤司郎 倉田健次
- 監督:平山秀幸
- 音楽:安川午朗
あらすじ
1972年、本土復帰を間近に控えた沖縄で、100万ドルの米ドル札を積んだ現金輸送車が襲われ行方を絶った。円ドル交換が完全な形で遂行できなければ日米外交紛争に発展しかねないと、琉球警察はこれを秘密裏に解決する特別対策室を編成した。班長に任命されたのは警視庁派遣から沖縄に戻ってきた真栄田(高橋一生)。そのほか、同級生でありながら真栄田をライバル視する捜査一課班長・与那覇(青木崇高)、そして定年を控えたベテランの玉城(小林薫)をはじめとするたった5人のメンバー。事件解決のタイムリミットは本土復帰までの18日間。捜査を進めるうちに、事態は沖縄財界や地元ギャング、さらには米軍関係者を巻き込み、二転三転していく……。真栄田らは期限までに100万ドルを取り戻し、犯人を捕らえることができるのか——。沖縄の未来を懸けた戦いが始まる!
WOWOW公式サイトより
原作について
このドラマの原作は、坂上泉さんの長編小説『渚の螢火』(2022年刊行)です。
1972年、沖縄の本土復帰を目前に控えた混乱の中、現金輸送車襲撃事件が発生。琉球警察のエリート・真栄田太一は、複雑な人間関係と沖縄の歴史的背景に翻弄されながら、事件の真相を追います。
沖縄という土地の「理不尽」や「矛盾」に光を当てながら、登場人物たちの葛藤と成長を描いた重厚な物語です。
時代背景(年表)
| 1941年 | 太平洋戦争始まる |
| 1945年 | アメリカ軍が沖縄に上陸、全島が連合軍の占領下に置かれる 日本がポツダム宣言を受諾、降伏 |
| 1951年 | サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約締結 |
| 1952年 | サンフランシスコ講和条約発効、日本の独立回復 (沖縄、小笠原諸島はアメリカの統治下に置かれる) |
| 1952年 | 琉球政府が設置される |
| 1955年 | ベトナム戦争始まる |
| 1956年 | 日本が国際連合に加盟 高度経済成長始まる |
| 1964年 | 東海道新幹線開通 東京オリンピック開催 |
| 1968年 | 小笠原諸島が日本復帰 三億円強奪事件 |
| 1970年 | 沖縄でコザ騒動が起こる |
| 1972年 | グアム島で発見された残留日本兵の横井庄一氏が帰国 札幌オリンピック開催 あさま山荘事件 沖縄が日本復帰、ドルから円へ切替 |
登場人物(キャスト)一覧
琉球警察
真栄田太一(高橋一生)
琉球警察「本土復帰特別対策室」班長。八重山諸島・石垣島出身。東京の大学に進学した後、当時珍しかった大卒として琉球警察に入署したエリート。2年間の警視庁派遣から琉球警察に戻ってきたところ、特別対策室の班長に任命される。自分が何者なのか、常にアイデンティティを問い続けている。
与那覇清徳(青木崇高)
琉球警察・捜査一課班長。真栄田とは高校の同級生だが、沖縄を出て東京に行っていた真栄田のことを敵視し、「内地の犬」と罵る。100万ドル強奪事件の捜査に加わるため、対策室に入ることになる。叩き上げの刑事で独自で培った捜査ルートを持っている。
玉城泰栄(小林薫)
琉球警察のベテラン刑事。100万ドル強奪事件の捜査を任される「本土復帰特別対策室」の室長。情に厚く、多くの琉球警察署員から信頼される人物。真栄田とも付き合いが長く、彼にとって父親のような存在。
新里愛子(清島千楓)
「本土復帰特別対策室」の事務職員。刑事志望だが琉球警察に婦警採用がなく、会計課で事務をしていたところ、玉城から対策室にスカウトされた。聞き込み相手の嘘を見抜くなど、刑事としての素質を持っている。両親は軍雇用員として働いている。
比嘉雄二(広田亮平)
石川南署捜査課の捜査員。100万ドル強奪事件が起きた際、真っ先に現場に駆けつけたことから、何も知らされず対策室に配属される。不良上がりで、入署する前は与那覇にやっかいになっていた。
座間味喜福(藤木志ぃさー)
琉球警察・本部長。戦前から警察に奉職する生き字引。最後の琉球警察本部長であり、のちに初代沖縄県警本部長に就任。100万ドル強奪事件の捜査を真栄田らに託す。ある理由から、コザで起きた娼婦殺害事件の捜査を早々に打ち切る。
喜屋武幸勇(ベンガル)
琉球警察・刑事部長。座間味本部長の下で戦後、あらゆる刑事事件を捜査してきた。本土復帰前後に想定される問題に関して、各島の警察署と対策しようと躍起になる。
宮里ギャングと周辺人物
宮里武男(嘉島陸)
戦争孤児で不良グループのリーダー。コザの裏路地で米兵狩りに興じるうちに、“宮里ギャング”と呼ばれるギャング団を結成する。100万ドル強奪事件の重要被疑者として名前が挙がり、真栄田たち対策室に追われる。
稲嶺コウジ(佐久本宝)
宮里ギャングの一人。敗戦直後、宮里と同じ孤児院にいた。グループのムードメーカー的存在で、スリと鍵破りに長けた、根っからの盗人。三線を得意とする。
照屋ジョー(Moctar)
宮里ギャングの一人。娼婦と黒人兵の間に生まれ、英語が堪能。
又吉キヨシ(神田青)
宮里ギャングの一人。空手の達人。
知花ケン(栗原颯人)
宮里ギャングの一人。女性を誘惑するのが上手い。
伊波正美(MAAKIII)
コザの外れにあるバー「カリホルニヤ」の雇われママ。宮里武男が関西に逃亡する前に関係を持っていた女性。
琉球中央銀行
仲宗根(肥後克広)
琉球中央銀行の副総裁。100万ドル強奪事件の捜査を琉球警察に依頼する。
西銘勉(近藤公園)
琉球中央銀行那覇本店公務部の次長。那覇本店への現金輸送中に襲撃を受け、現金100万ドルとともに犯人グループに連れ去られる。
アメリカ政府関係者
ジャック・シンスケ・イケザワ(城田優)
米軍で刑事事件の捜査を担当するCID(アメリカ陸軍犯罪捜査局)の憲兵大尉。日系二世。真栄田ら特別対策室に協力し、事件解決に尽力する。
オーガスト・ミラー(ジェフリー・ロウ)
在沖米国総領事館の二等書記官。本土復帰間際の沖縄に十数年ぶりに再派遣される。
そのほか
川平朝雄(沢村一樹)
川平興業社長。沖縄政財界に太いパイプがある沖縄の実業家。戦後の沖縄で事業を成功させ、政財界にも影響力を持つようになる。戦後、米軍から物資を略奪する“戦果アギヤー”だったという噂もある。
真栄田真弓(北香那)
真栄田太一の妻。出産のため、実家の東京へ帰省する。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
第二次世界大戦末期、米軍占領下の沖縄では、民間人が収容所生活を余儀なくされ、物資不足の中で米軍の物資を盗み出す“戦果アギヤー”が登場する。少年たちは命がけで物資を奪い、仲間に分け与えるが、敗残兵による襲撃で命を落とす者もいた。
1972年4月。琉球警察署では、5月15日の沖縄本土復帰に向けて「特別復帰対策室」を設置。警視庁から戻ったばかりの真栄田太一(高橋一生)が班長に任命され、ベテラン刑事の玉城(小林薫)が室長として加わる。
そんな中、コザで娼婦殺害事件が発生。捜査一課の与那覇(青木崇高)はアメリカ兵による犯行を疑い、怒りを露わにするが、捜査は早々に打ち切られる。沖縄では、過去にも米兵による凶悪事件がもみ消されてきた経緯があり、与那覇はその理不尽さに憤る。
4月28日の夜、琉球中央銀行の現金輸送車が襲撃され、100万ドルが強奪される事件が発生する。日米間の外交紛争を懸念した琉球政府は、琉球警察に極秘捜査を依頼。特別対策室がその任に就くことに。真栄田と玉城は本土復帰までの18日間のタイムリミットの中で犯人を追うことになる。
対策室の事務職員・新里愛子(清島千楓)や、捜査一課の与那覇も応援として捜査に加わるが、与那覇は真栄田に対して憎悪を剥き出しにする。
事件現場に向かった真栄田、与那覇、新里の3人は、襲われた輸送車のドライバーから、米兵の服を着た犯人が沖縄の言葉や関西弁を話していたという証言を得る。さらに犯人が発砲した銃弾も発見。
与那覇は現場にいた石川南署捜査課の比嘉雄二(広田亮平)とコザヘ向かい、地元ギャングの関与を突き止める。かつて沖縄で暴れ回っていた宮里武男(嘉島陸)を中心とする5人のギャングが、逃亡先の関西から再び沖縄に戻ってきており、今回の強奪事件にも関与している可能性が高まる。
真栄田は警視庁の同期に関西での彼らの動向を探らせるとともに、琉銀関係者の事情聴取を行うことを決める。しかし、与那覇は真栄田の捜査姿勢に疑念を抱き、「内地の犬」と罵る。激高した真栄田は与那覇に殴りかかり、2人は激しく衝突する。
一方、米軍CID(アメリカ陸軍犯罪捜査局)のイケザワ大尉(城田優)は、琉球政府とアメリカ国務省の動きを探っていた。
同じ頃、宮里たちは現金強奪に協力したアメリカ人・ビルを海岸で射殺し、「これからわったーの本当の戦争さ。全員たっくるさんとよ!」と宣言する。
犯人グループに拉致されていた琉球中央銀行の西銘次長(近藤公園)が帰還し、真栄田と新里は彼の証言に不自然な点を見出す。
口座記録を洗った結果、西銘が息子名義の口座から多額の金を引き出していたことが判明し、さらに高級サロン「サザンクロス」に頻繁に通っていた事実が浮かび上がる。真栄田の追及により、西銘は未成年女性・由紀恵との関係を宮里らに脅され、現金輸送の情報を漏洩したことを白状する。
一方、与那覇は高校時代の真栄田との確執を玉城に語り、沖縄が受けてきた差別と屈辱への怒りをぶつける。しかし玉城は、八重山出身の真栄田を差別する与那覇の姿勢こそ、アメリカや本土の人間による沖縄差別と同じだと諭す。
与那覇は宮里武男と関係のあった女性・伊波正美(MAAKIII)の存在にたどり着き、彼女の住むアパートで宮里の目撃情報を得る。
現金強奪現場で発見された銃弾から、使用されたのが米軍所有のカービン銃であることが判明。これにより、対策室の捜査は米軍CIDのイケザワ大尉の知るところとなり、真栄田は呼び出されて捜査権の剥奪を示唆される。
だが真栄田は「沖縄の未来は沖縄自身が決断すべき」と毅然と主張し、敗者としての沖縄の27年にわたる闘いを語る。イケザワはその姿勢に興味を示し、今後の対応を見極めると告げる。
比嘉と新里は業者になりすまして「サザンクロス」に潜入し、表に出ない“裏のオーナー”の存在を従業員から聞き出す。また、真栄田の警視庁時代の元同僚・藤井からの連絡により、宮里が米軍の軍艦で沖縄に戻ってきた可能性が浮上し、事件の背後に米軍の関与があるらしいことがわかる。
そんな中、再び娼婦殺害事件が発生。現場に駆けつけた刑事部長の喜屋武は、なぜか捜査を封じ、情報の秘匿を命じる。
沖縄本土復帰まで残された時間は13日。那覇軍港には540億円の現金が到着し、厳重な警備のもとで日本銀行那覇支店へと輸送される。
沖縄屈指の実業家・川平朝雄(沢村一樹)は、19年前に起きたある事件を回想する。殺害されたのは宮里武男の姉シズだった。シズの遺体に駆け寄った若き日の川平を、刑事の喜屋武と座間味が制止する。その場に居合わせた幼い武男は、姉の死を目の当たりにしてしまう。
1972年5月。沖縄の本土復帰が目前に迫る中、米軍基地の全面返還は暗礁に乗り上げ、核持ち込みをめぐる日米の密約が県民の不信を煽っていた。東京では、出産を控えて里帰りしていた真栄田の妻・真弓(北香那)が、沖縄の現状がほとんど報じられないことに戸惑いを覚える。
その頃、真栄田と新里は高級サロン「サザンクロス」の裏のオーナーを探るべく張り込みを決行。新里が従業員から聞き出した情報をもとに待ち構えると、現れたのは川平朝雄だった。さらに新里と玉城が登記簿と戸籍を調査した結果、「サザンクロス」の土地所有者が川平の実父であり、建物の所有者のうち3人が川平興業の取締役であることが判明する。
一方、真栄田と与那覇は、かつて宮里と関係のあった伊波正美が勤めるバー「カリホルニア」に客を装って潜入し、正美に揺さぶりをかける。翌朝、正美はタクシーで山中の廃屋へ向かい、そこに潜んでいた宮里一派と合流する。
彼女を尾行した真栄田、与那覇、比嘉の3人が様子をうかがっていると、川平が車で乗り付け、建物の中へ入っていく。その日は、宮里の姉・シズの命日だった。川平と正美は、宮里らとともにウチカビを燃やしてシズの供養を行う。
しかし突如、謎の武装グループが廃屋に乱入し、銃撃を開始。宮里一派の又吉キヨシ、照屋ジョー、稲嶺コウジが次々と撃たれ、知花ケンは敵兵に抱きついて手榴弾で自爆する。真栄田たちも爆発に巻き込まれるが、辛くも生き延びる。
混乱の中、金の入ったケースを抱えた宮里は正美を連れて逃走。真栄田は現場にいた川平に銃を向け、「動くな」と叫ぶ。
真栄田は、宮里ギャングのアジトで拘束した川平朝雄を取り調べるが、川平は石垣島出身の真栄田が戦争マラリアで家族を失った過去を暴き、「島を捨てたお前が沖縄の未来を語るな」と非難する。川平はそのまま釈放され、米軍基地に姿を消す。
捜査が難航する中、新里は川平が所有する土地の中で唯一手つかずの石川のビーチに着目。玉城はそこが沖縄戦中の収容所の近くであり、自身の原点でもあると語る。
真栄田は、戦争マラリアで幼い妹や家族を失った過去を吐露し、「自分には守りたいものがなかったのかもしれない」と苦悩を打ち明ける。玉城は「居場所がわからなくても、お前にしかできないことがある」と静かに背中を押す。
真栄田はCIDのイケザワ大尉と再び面会し、宮里ギャングを襲撃した武装グループの正体が米国務省の秘密保安部門“SY”だと知らされる。
今回の100万ドル強奪事件には、沖縄返還の混乱を外交カードとして利用しようとする米国務省が関与していた。計画を持ちかけたのは、19年ぶりに沖縄に赴任した外交官オーガスト・ミラー。そしてミラーと実行犯である宮里ギャングをつないだ人物こそ、川平朝雄だった。
真栄田は襲撃現場で見つけた1枚の写真と、病床で稲嶺コウジが漏らした言葉を手がかりに、ある真実にたどり着く。宮里ギャングの5人、伊波正美、川平朝雄、そして宮里武男の姉・シズは、かつて戦争孤児として身を寄せ合い、家族のように暮らしていたのだ。
真栄田は宮里シズが19年前にコザで起きた連続娼婦殺害事件の被害者であることを知り、当時の担当刑事だった座間味と喜屋武を問い詰める。2人は犯人がオーガスト・ミラーであることを明かす。
19年前、ミラーは外交官特権により逮捕もされず帰国した。そのミラーが再び沖縄に舞い戻ったことを知った喜屋武たちは、今回の娼婦殺害事件も彼の犯行であるとみて、証拠を集めるためにあえて泳がせていた。先日の式典で押収したシャンパングラスの指紋は、娼婦殺害現場に残された指紋と一致していた。
真栄田は、シズを殺したミラーへの復讐こそが今回の強奪計画の動機であると確信する。川平自身がこの事件を計画し、ミラーに吹き込み、沖縄におびき寄せたのだ。
その夜、川平と密会した玉城は、昏睡から目覚めた稲嶺の病室へ向かう。玉城の名前を聞いた稲嶺は、「収容所でうちなーんちゅを殺した」と川平から聞いた玉城の過去を口にする。
玉城は稲嶺の首を絞めて殺害する。沖縄本土復帰まで、残された時間はあと1日。
かつて戦争孤児として共に暮らした仲間たちを次々と失った伊波正美は、川平と宮里を救いたい一心で琉球警察に出頭する。彼女の証言から、2人が「サザンクロス」に潜伏していることが判明し、真栄田と与那覇は100万ドルの受け渡し現場への突入を決意する。応援要請に対し、座間味本部長と喜屋武刑事部長は一度は躊躇するが、与那覇の怒りと訴えに突き動かされ、ついに出動を決断する。
その頃、川平はサザンクロスでミラーと対峙し、強奪した100万ドルを手渡すふりをして復讐の機をうかがっていた。ミラーが19年前の連続娼婦殺害事件の被害者・宮里シズを「暴漢に刺された」と語ったことで、川平は彼こそが犯人であると確信し、銃を突きつける。そこへ真栄田が駆けつけ、川平を説得する。「沖縄は今この瞬間も作られている」と語る真栄田の言葉に、川平は一瞬心を揺らす。
やがて与那覇と喜屋武が応援部隊とともに到着し、川平は逮捕される。ミラーは外交官特権を盾に逃れようとするが、CIDのイケザワ大尉が現れ、米国の名のもとに拘束を宣言する。だがその瞬間、隠れていた宮里武男がナイフを手にミラーに襲いかかる。ミラーは所持していた拳銃を発砲し、宮里はその場で命を落とす。混乱の中、川平はミラーに銃弾を浴びせ、ミラーを射殺。直後、CIDの兵士に撃たれ、川平もまた命を落とす。
事件の終結とともに、沖縄は1972年5月15日午前0時を迎え、本土復帰を果たす。だがその瞬間を迎えても、真栄田と与那覇は言葉を失い、街に鳴り響くサイレンを聞きながら立ち尽くすだけだった。
その後、真栄田は玉城の家を訪ね、稲嶺コウジ殺害の容疑で令状請求の準備が進んでいることを告げる。玉城は真栄田を海岸へ連れ出し、自らの過去を語り始める。沖縄戦中、少年兵で構成された護郷隊の小隊長だった玉城は、敗戦後、収容所を襲撃する上官に加担し、同胞を殺めてしまった過去を抱えていた。その現場を目撃していたのが少年時代の川平であり、以後、川平の脅迫に従い、今回の計画に加担していたことを明かす。罪を償う術を求めて警察官となった玉城は、「もういいだろう、この地獄から出してくれ」と涙ながらに語り、真栄田とともに出頭する。
真栄田の妻・真弓は東京で無事に出産を終え、沖縄復帰の5月15日に生まれてきた我が子に特別な思いを抱く。玉城から託されたはずの子の名前を問われた真栄田は、嗚咽し、言葉を失う。
1年後、真栄田、与那覇、新里、比嘉の4人は海岸に集まり、亡き者たちを偲ぶしーみーを行う。火の粉が空に舞い上がる中、4人はそれぞれの想いを胸に、新たな時代の沖縄を見つめる。
感想(ネタバレ有)
歴史の闇に触れるということ
今年はとくに、歴史を知ることの大切さを強く感じた1年でした。この作品に触れて思ったのは、「知らないことが多すぎる」ということ。沖縄の歴史について、自分はいかに不勉強だったか。
ドラマを観る前に原作を読んだのですが、知らない言葉や出来事が次々に出てきて、調べながらでないと読み進められませんでした(後半は物語の面白さに引き込まれて、夢中で読んでしまいましたが)。
でもそのおかげでドラマは最初からすんなりと入り込むことができ、純粋に映像やストーリーを楽しむ余裕が持てました。
100万ドル強奪事件の背後には、沖縄戦がもたらした戦争孤児の存在、米軍による統治、通貨の切り替え、そして外交問題など、複雑な背景が絡み合っています。個人の行動が国家の思惑と結びついていて、問題は単純には解決できない構造になっていました。
原作者の坂上泉さんは、日本近現代史を専門とする歴史研究者でもあります。そのため、物語の中には当時の世相や事件、地域性が巧みに織り込まれています。登場人物たちは歴史の文脈の中で生きていて、その背景が人物像に深みを与えていました。
ドラマでもその点は引き継がれていて、真栄田や与那覇が実在したかのように感じられるのは、歴史の重みが彼らの言葉や行動に宿っているからだと思います。フィクションでありながら、ノンフィクションのような説得力があるのが、この作品の魅力のひとつでした。
八重山諸島を襲った悲劇
第4話で明かされる真栄田の過去──石垣島で「戦争マラリア」によって家族を失ったという設定は、原作にはないドラマ独自の描写です。わたしは「戦争マラリア」という言葉すら知りませんでした。
「戦争マラリア」とは、第二次世界大戦末期、八重山諸島の住民が強制的にマラリア流行地へ移住させられ、多くの人が感染し、命を落とした出来事をいいます。
第1話で、真栄田と与那覇が激しく言い争う場面がありました。与那覇が「八重山にいたからわからんか。ここがどれだけ地獄だったか!」と叫び、真栄田が「地獄だったさ! 八重山も!」と返す。そのやりとりの意味が、後になってようやく腑に落ちました。
戦争による直接的な被害だけでなく、移住政策や感染症といった“戦闘以外の悲劇”が登場人物の背景として描かれることで、沖縄の“地獄”が一面的ではないことが浮かび上がってきます。
真栄田の葛藤が示唆するもの
真栄田は石垣島の出身ですが、沖縄本島では「いぇーまんちゅ(八重山人)」と呼ばれ、差別されます。
本土に行けば「うちなーんちゅ(沖縄人)」と見下され、沖縄に戻れば今度は「ないちゃー(本土人)」と責められる。どこにいても“よそ者”扱いされ、誰からも完全には受け入れてもらえない存在です。
原作では、真栄田の父が台湾で育った日本人という設定になっていて、そのため石垣島でも「外から来た人」として見られていました。つまり、彼は生まれ育った場所でも“よそ者”だったんです。
そんな彼の人生には、いつも「自分は何者なのか」という問いがつきまといます。その葛藤は、沖縄という土地の複雑さそのものを映しているように見えます。
当時の沖縄は、日本でありながら日本ではなく、アメリカでありながらアメリカでもない、そんな曖昧な立場に置かれていた場所でした。真栄田の存在はその曖昧さを体現していて、沖縄という場所が抱える構造的な問題を象徴しているように思えます。
原作とドラマでは異なる玉城の罪
真栄田にとって「父親代わり」だった玉城もまた、過去の“地獄”にとらわれていたことが、物語の終盤で明らかになります。
彼が最後に残した「なんで俺が責められるわけ? 誰が、あのときの俺を責められるわけ?」という言葉は、わたしの中でずっと答えが出ないまま、心に引っかかっています。
実は、玉城が過去に犯した罪については、ドラマと原作で大きく異なっています。ドラマでは、彼は上官の命令で収容所を襲撃し、地元の老人を殺したという設定です。しかし原作では、襲撃の混乱の中で、まだ11歳だった宮里シズを性的に暴行しています。その場面を目撃していた川平は、長年その記憶を抱え続け、ついに玉城を撃ち殺します。
わたしは、「戦争だから」という言葉では、玉城の行為は決して許されないと思っています。性暴力は、どんな理由でも正当化できません。原作における玉城は、オーガスト・ミラーと本質的に変わらない存在です。ドラマではその点が改変されていたため、玉城は川平に殺されずにすんだのだと思います。
戦争が人を狂わせるのは事実ですが、その中で「どこまでが許されるのか」「誰が誰を裁けるのか」という問いは、簡単には答えが出せません。玉城の問いかけは、過去の罪と向き合うことの難しさ、そしてその責任を誰が引き受けるのかという重いテーマを突きつけてきます。
映像がつなぐ過去と現在
ドラマでは、ときおり当時の映像や新聞記事が挿入されます。フィクションの中にノンフィクションの要素が混ざることで、物語に独特の緊張感が生まれていました。1970年代の沖縄の空気や、混沌とした時代の勢いのようなものが、映像を通して伝わってきました。
あのとき真栄田や与那覇たちが信じた沖縄の未来は、今、わたしたちの手の中にあります。けれど、米軍基地の問題、経済的な格差など、沖縄は今も多くの課題を抱えています。
50年という時間が経っても、彼らの願いがすべて叶ったとは言えない現実がある。そのことに、わたしは申し訳なさを感じました。彼らが命を懸けて守ろうとしたもの、信じたものを、わたしたちは本当に受け継げているのか。そんな思いが残りました。
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