Aではない君と|SOSに気づけなかった父親

ドラマ「Aではない君と」ネタバレ感想

どうも、夏蜜柑です。
テレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャル「Aではない君と」

夏蜜柑

重い内容のドラマでしたが、よかったです。
動物も人間も虐待はダメ、絶対。

ふぐ丸

以下、ネタバレを含みます。

あらすじ・キャスト

あらすじ

  • 建設会社に勤務する吉永圭一(佐藤浩市)の携帯電話に、14歳の一人息子・翼(杉田雷麟)から着信が入る。仕事中だった吉永は、その電話を無視してしまう。一週間後、吉永は離婚した妻・純子(戸田菜穂)から「翼が逮捕された」と連絡を受ける。
  • 翼は、同級生の藤井優斗(中川翼)を殺害した容疑で逮捕された。母親の純子はショックでパニック障害を起こし、大阪へ引っ越す。吉永は翼のために弁護士の長戸(八嶋智人)を雇うが、翼は一切話そうとしない。
  • 吉永は、長戸から紹介されたお母さん弁護士の神崎京子(天海祐希)に翼の弁護を依頼するが、翼はなぜか弁護士を敵視していた。吉永のマンションや会社にマスコミが押し寄せ、結婚を考えていた恋人の美咲(市川実日子)は吉永のもとを去っていく。
  • 翼はついに殺害を認めるが、動機については語ろうとしない。翼が吉永と2人きりで会いたがっていることを知った京子は、吉永に付添人になることを提案する。付添人になれば、翼と2人だけで時間の制限なしに会えるという。
  • 吉永と京子は、翼の小学生時代の同級生に会いに行き、優斗がいじめっ子だったという事実を知る。さらに、翼の部屋で木槌を見つけた吉永は、翼が優斗から「被告」と呼ばれ、残酷なイジメを受けていたことを知る。
  • 翼は優斗に脅され、可愛がっていた猫のペロを殺すよう命じられたのだった。「動物を殺すのは許されるのに、人は殺しちゃダメなの?」「あいつは僕の心を殺した。それでもあいつを殺しちゃいけないの?」と問われ、答えられない吉永。
  • ついに審判の日がやってくるが、翼は反省の言葉を口にしようとしない。吉永は、翼が優斗を呼び出したのは殺すためではなく、自殺した自分の亡骸を見せるためだったのではないかと問うが、翼が答えない。
  • 吉永は優斗の父・藤井(仲村トオル)に面会を許される。藤井は優斗が翼にしたことを公にしないこと、翼が更生したら連れてくることを、吉永に約束させる。
  • 3年後。翼は少年院を出て、富士宮の飲食店で働き始める。吉永は翼を連れて藤井に会いに行こうとするが、翼は直前になって姿を消す。飲食店の同僚たちが事件のことを知り、翼の作ったまかないを食べずに捨てたという。
  • 吉永は翼を探してペロの墓がある事件現場へと向かう。そこで翼は真実を語る。自殺するつもりはなく、優斗を殺すために呼び出したこと。それを知られたら吉永に嫌われると思い、言えなかったこと。吉永は翼を自宅に連れて帰る。自分が作ったチャーハンを「うまい」と言って食べる吉永を見て、嗚咽を漏らす翼。
  • 吉永と翼は藤井の家を訪ねる。翼に向かって「君は更生したのか?」と問う藤井。藤井は優斗の引き出しに入っていたという写真を翼に見せる。そこには、翼と一緒に笑顔で映る優斗がいた。写真を抱き締めて泣き崩れる翼。
  • 藤井は翼に「焼香をしたら出て行け。二度と来るな」と叫ぶ。吉永は翼の背中を見つめて、この先もずっと罪を背負っていく息子を思い、死の瞬間まで翼の幸せを願うことを心の中で誓う。

キャスト

吉永圭一……佐藤浩市
神崎京子……天海祐希
青葉翼……杉田雷麟
青葉純子……戸田菜穂
野依美咲……市川実日子
中尾俊樹……山本耕史
長戸光孝……八嶋智人
井川……寺島進
瀬戸調査官……安田顕
藤井智康……仲村トオル
吉永克彦……山﨑努

原作について

このドラマの原作は、薬丸岳さんの小説「Aではない君と」(2015年刊行)です。
2016年に第37回吉川英治文学新人賞を受賞した作品です。

加害少年の父親が主人公のため、父親視点で物語が描かれています。

わたしのように子供を産んだことも育てたこともない人間には、正直、共感できることは少ないです。経験がないので「そういうものかな」という気持ちで読むしかありません。

それでも、罪を犯した子供と向き合う父親が、自分自身の罪に気づき、後悔に打ちのめされる場面には胸が痛くなりました。どうしてよいかわからず、さんざん悩んで出した答えでさえ何度も間違えてしまう頼りない父親の姿に、涙があふれていました。

特に、少年が社会復帰を果たしてからの第三章が秀逸です。
絶望と希望の入り交じった唐突な終わり方もよかったです。

感想

原作に忠実で、見応えがありました。

残酷なイジメの内容については改変されるかもしれないな……と思っていたのですが、原作どおりでしたね。作り手の本気度がうかがえるドラマでした。

夏蜜柑

猫を飼っているわたしには、辛すぎる内容だったけど。
何があっても生き物を虐待するのはダメ!

ふぐ丸

2時間半と長めだったけど、最後が少し駆け足な印象だったのが残念。

特に翼が真相を打ち明け、吉永と一緒にチャーハンを食べるシーン。
もうちょっと長く見ていたかったなぁ。

原作だと、2人はもっといろいろ話すんだよね。
その会話が胸に迫る内容で、涙なしでは読めません。

小説のドラマ化って難しい。
2時間だと足りないし、連ドラだと間延びしてしまう。

でも今回のドラマは原作と比べても見劣りせず、よかったと思います。

原作にはない神崎弁護士の過去の失敗も、物語の展開にうまく生かされていてわかりやすかったです。

夏蜜柑

佐藤浩市さんは少し年齢高めだけど、違和感なくハマってました。
翼役の杉田雷麟くんもよかったねぇ。

ふぐ丸

小説を読むだけでは想像しにくかったけど、14歳ってやっぱり微妙な年齢だなぁと、彼を見て思いました。子供でもなく大人でもない、すごく不安定な感じがよく出ていました。

ちなみにドラマの終わり方が唐突な印象をお持ちの方もおられると思いますが、原作もあの場面で終わっています。後日談はありません。

以下、少しわかりづらかった部分について補足しておきます。

翼が父親に不満を抱いた理由

翼が優斗と仲良くなったのは、「父親に不満を抱いている」という共通点があったからです。
では、なぜ翼は吉永に不満を抱いていたのか?

ドラマでは割愛されていましたが、その頃、吉永は美咲と付き合うようになっていました。

翼は吉永の家に遊びに行きたい、と何度もおねだりするのですが、その都度、吉永は適当な理由で断りました。なぜなら、自宅には美咲の私物が置いてあったからです。

それで翼は、吉永の愛情を疑うようになってしまったんですね。
吉永にしてみれば他愛ないことで、それで翼が傷ついていたとは思いもしなかったようです。

翼が万引きした理由

ドラマでは説明がありませんでしたが、翼が優斗たちから受けていたいじめ(裁判ごっこ)は、1年にもわたって毎日行われていました。

翼が弁護士を信用できなかったのは、その「裁判ごっこ」のせいです。
裁判官も検察官も弁護士も、自分の味方ではないと思い込むようになったんですね。

母親の純子は仕事で忙しく、事件が起こる前から鬱で病院にかかっていたこともあって、翼は母親に相談することができませんでした。

だから、翼は吉永にSOSを送ることにしたのです。
ハムスターの餌を万引きしたのは、吉永を呼び出すため。

翼の家ではハムスターを飼っていません。
「どうしてハムスターの餌なんか万引きしたんだ」と、吉永に問いただしてほしかったんですね。

でも、当日、純子も吉永も仕事で、万引きした翼を迎えに行くことができませんでした。

翼が年賀状にウソを書いた理由

次に、翼は吉永に年賀状を出します。

年賀状には、1か月前にペロが死んだこと、拾った場所に埋めたことを書き、引っ越し先の住所を書いて送りました。

実際には、ペロが死んだのはもっと前の5月。
拾った場所にはマンションが建っていて、埋めることなど不可能でした。

翼は、年賀状を見てペロを弔いに言った吉永が、「どうしてそんなウソを書いたんだ」と問いただしてくれることを願っていたのです。

しかし、吉永は翼が必死の思いで出したSOSに気づけず、翼が引っ越していることにすら気づけませんでした。

翼が吉永に電話をした理由

翼は、ペロの墓がある事件現場に行って、優斗を殺すことを決意します。

ドラマでは、殺したハムスターを埋めようとしてペロの首輪を掘り起こし、突如ペロを殺した悲しみと優斗への怒りに囚われ、殺そうと思った……と語っていました。

原作では、翼は事件現場でハムスターを殺そうとして、ハムスターに噛みつかれ、逃がしてしまうのです。
そして突如、優斗への怒りに駆られ、優斗を殺してもかまわない、という思いに囚われます。

でも、衝動的に優斗を呼び出すメールを送ったものの、急に怖くなってしまう。

優斗を殺そうとしている自分が怖くてたまらなくなり、誰かに止めてほしくなった。
翼は吉永に助けを求めて電話をしたのでした。

しかし、吉永はそのSOSもまた、無視してしまうのです。

心と体と

翼が吉永に問いかけたセリフが印象的でした。

「動物を殺すのは許されるのに、人は殺しちゃダメなの?」
「あいつは僕の心を殺した。それでもあいつを殺しちゃいけないの?」
「心を殺すのと、体を殺すの、どっちが悪いの?」

即答できず、絶句する吉永。

ドラマでは、吉永はその問いに対する答えを、翼ではなく神崎弁護士に語りました。
原作では、翼と一緒にチャーハンを食べるシーンで語られます。

吉永は、翼が突然嗚咽を漏らすのを見て、大切なことに気づきます。

当たり前のことなのに今まで気づかなかった。
自分は翼に愛されていた。
自分の料理を食べた吉永に、こんなに嗚咽するほど。
翼はこんなにも自分を必要としているのだ。自分はこんなにも愛されているのだ。

そして、翼にこう言います。

「いつかお父さんに訊いたよな。心とからだと、どちらを殺したほうが悪いの、って。今なら間違いなく答えられる。からだを殺すほうが悪い」

「もし、二度と翼の声を聞くこともできず、翼に触れることもできなくなってしまったらお父さんはどれほど辛いか……(中略)ましてや誰かに殺されたとしたら……お父さんは自分の命がなくなるまで、その人間を恨み続けるだろう」

『Aではない君と』講談社文庫より引用

翼は、自分が優斗だけではなく、優斗を大切にしていた人たちの心をも殺していたことに気づきます。

そして、藤井に会いに行く決意をするのです。


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