「風の市兵衛」ネタバレ感想|ドラマ化が楽しみな痛快時代小説

「風の市兵衛」ネタバレ感想

どうも、夏蜜柑です。
辻堂魁さんの長編時代小説「風の市兵衛」を読みました。

面白かったです。主人公・市兵衛は好感の持てるキャラクターだし、徐々に登場人物が繋がり、謎が明らかになっていくストーリー構成もよかった。これはドラマにも期待してしまうなぁ。

以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

感想

面白かったので正味2日で読んでしまいました.
難しい内容ではないので、読み始めると(特に後半は)どんどん進みます。

でも久しぶりの時代小説だったので、最初は江戸の町がなかなか思い出せず困りました^^;
時代小説を読む際には古地図が欠かせませんね(「大江戸今昔めぐり」いう古地図のアプリが便利)

ちなみにこの作品は「風の市兵衛シリーズ」の初巻で、シリーズは現時点(2018年5月)で21冊刊行されています。

物語の背景

この物語は、文政四年八月から九月のお話です。

西暦でいうと1821年。
将軍は、徳川家斉の時代です。

  • 7月、伊能忠敬の「大日本沿海輿地全図」(日本の実測地図)が完成
  • これより19年後、イギリスと中国(清)の間でアヘン戦争が勃発

この2つの歴史的事項が、物語に大きく関わってきます。

ちなみに、シーボルトが来日したのが文政6年。
江戸幕府が「異国船打払令」を発したのが文政8年です。

主人公は“算盤侍”で凄腕の剣士

武士の身分で算盤が得意、という主人公がユニークで魅力的です。
しかもこの市兵衛、算盤だけでなく米作りや酒造り、商いのやり方まで学んでいるのです。

この時代は「算盤は商人が学ぶもの」という考えが一般的ですから、作中でもことあるごとに珍しがられます。

今作の雇い主である旗本・高松家の長男頼之(8才)にも、「侍が商人を真似て算盤を学んだり、百姓のように米作りをしようと、どうして思い立ったのですか」と不思議がられる始末。

でも市兵衛は自分の選んだ生き方に誇りを持っていますから、子供の疑問にも狼狽することなく理路整然と、かつわかりやすく丁寧に答えます。

そのうえ、ひとたび剣を抜くと常人ならざる働きをする凄腕の剣士。
風のようにしなやかに剣を操る「風の剣」の遣い手なのです。

けれども、市兵衛自身「剣よりも算盤のほうが役に立つ」と考えるような人物ですから、普段は決して腕前を見せびらかしたりはしません。まさに「能ある鷹は爪を隠す」。

こういうところにわたしは魅力を感じまして、あっという間に市兵衛のファンになりました^^

旗本の家計から大事件へ

物語の発端は、家禄百石の貧乏旗本・高松道久と御家人の妻・絵梨の相対死(心中)でした。

武士にあるまじき不祥事を起こした高松家は、本来なら改易になるところ。
ところが、ある事情により許され、8歳になる息子・頼之が家督を相続することになります。

市兵衛は、主人の道久が残した五十両もの借金に苦しむ高松家に雇われ、家計を預かることになります。

遺された妻・安曇と一人息子の頼之は、つましい暮らしをしており、とても浪費癖があるようには見えないことから、市兵衛は高松家の家計に不審を抱きます。

50両もの借金を、何に使ったのか。
その理由を探るべく道久の周囲を調べるうちに、市兵衛はやがてとんでもない事件へと巻き込まれていくことになります。

事件に関わる人物が徐々に繋がり、謎が明らかになっていくさまは爽快で、ワクワクさせられました。

市兵衛の過去

※ここからがっつりネタバレします※

物語の真ん中あたりで、市兵衛の出自が明らかになります。
ここも読み応えがあり、作品の山場のひとつでした。

市兵衛は、公儀十人目付・片岡信正の15歳下の弟で、先代の片岡賢斎が側室に産ませた子供でした。

十人目付とは?
旗本以下の武家を監察する公儀の高官で、若年寄に属して江戸城内外の査察、非常時の差配、殿中礼法の指揮などの職務を務めました。享保17年(1732年)以降10人に固定され、十人目付と称されるように。

片岡家は目付衆筆頭支配の家柄で、家禄は千五百石。
「旗本御家人なら片岡の名前を聞いただけでも身が縮む」ほどだそう。

片岡家に仕える足軽の娘だった母・市枝は、市兵衛を産んですぐに世を去り、父・賢斎も市兵衛が13歳の時に亡くなっています。

父が死んだ時、市兵衛は片岡家を出ることを決意。
祖父・唐木忠左衛門(市枝の父)に頼んで元服をし、唐木の名字を名乗り、兄に黙って江戸を去りました。

その後は、

  • 南都興福寺(奈良)で剣の修行をしながら18歳まで過ごす
  • 大坂の米問屋で3年間修行する
  • 仲買い問屋で1年間修行する
  • 灘の醸造業者で半年間修行する
  • 河内の豪農に1年半身を寄せる
  • 京にのぼって家宰として公家に仕える
  • 酒、博奕、女郎買い、やくざ相手の喧嘩など放蕩三昧の日々を過ごす
  • 30近くなって諸国放浪の旅に出る
  • 3年前江戸に戻り、宰領屋の口入れによって武家を渡る「渡り用人」となる

という、波瀾万丈な人生を送っています。

兄・片岡信正との関係

市兵衛が高松道久の周囲を調べるうち、怪しい男たちに見張られていることに気づきます。
その男たちこそ、兄・片岡信正とその配下である小人目付の返弥陀ノ介でした。

市兵衛と兄・信正は24年ぶりに再会を果たします。
最初は誰だか気づかず、敵だと思い込んで剣を交える市兵衛。

兄・信正のほうは、すぐに市兵衛(才蔵)だと気づいたみたいですけどね。

これは市兵衛も気づいていないようなのですが、信正は昔、市兵衛の母・市枝に恋をしていたんですね。
9歳上の市枝を嫁にしたい、と密かに思っていたところ、父・賢斎が市枝を側室にしてしまった。

そして市枝は、市兵衛を産んですぐに亡くなってしまう。
信正は、市枝の命を奪い、彼女の美しい面影を遺した市兵衛を憎んでいた、と言います。

しかしそれも昔の話で。
今は、立派に成長した弟を誇らしく思っているのではないでしょうか。

事件の真相

信正は事件の真相を語り、24年ぶりに再会した弟・市兵衛に協力を求めます。

高松道久の心中は、何者かに偽装されたものでした。
道久は、信正の密命を受けて日本橋本石町の薬種問屋・柳屋稲左衛門を調べているさなか、正体がバレて殺されたのです。

柳屋稲左衛門は、阿片(アヘン)の密貿易を行っていました。

阿片(アヘン)とは?
ケシの実から取れる液を乾燥させた麻薬の一種です。18世紀半ばに中国から全世界に広がったと言われ、日本では「津軽」という名で呼ばれていました。鎮痛作用と麻酔作用があるため当時は薬として使用されていましたが、中毒性が強く、現在は麻薬及び向精神薬取締法でケシの栽培・アヘンの製造は厳重に制限されています。

柳屋はロシアが江戸幕府の内情を探っていることを知り、情報を提供する代わりにロシア船から大量の阿片を安く買い付け、江戸市中に売りさばいていたのでした。

全員総出の大捕物

北町奉行所定町廻り同心・渋井鬼三次が命がけで手に入れた情報により、柳屋がロシアに逃げようとしていることを突き止めた市兵衛は、兄・信正、弥陀ノ介らと共に柳屋を追って川越へ向かいます。

夜明け前の大捕物の末、柳屋を討ち果たす市兵衛。

高松道久の不名誉はそそがれ、晴れて道久の葬儀と頼之の家督相続を正式に披露。
公儀からは、弔慰金三百両が高松家に下賜されました。

それによって市兵衛はお役御免となり、高松家を去ることになります。
市兵衛に密かに想いを寄せていた安曇。

彼女が最後に言った「わたくし、算盤が好きです」という言葉が切ないラストシーンでした。

登場人物

※ネタバレを含んでいます※

唐木市兵衛

痩躯白皙の渡り用人で、年は三十半ば。温厚で優しい性格。算盤と商いに長ける一方、「風の剣」の遣い手でもある。実は十人目付・片岡信正の異母弟で、13歳の時に片岡家を出て以来己の力で生きている。「唐木」は母方の祖父の名字。腰に差す大小は祖父から譲られたもの。

渋井鬼三次

北町奉行所の定町廻り同心。年は四十過ぎで、あだ名は「鬼しぶ」(渋井が市中取締りに現れると、闇夜の鬼が渋い面をするという意)。手掛かりを見逃さないため、自らの手で死体を調べることを厭わない。柳町の蘭医・柳井宗秀を介して市兵衛と知り合う。

矢籐太

神田三河町の請け人宿「宰領屋」の主人。市兵衛とは十年来の付き合い。元は島原の廓で女衒をしていたが、「宰領屋」の前主人に気に入られ、婿に入った。3年前、市兵衛に渡り用人家業を薦め、仕事を仲介している。

柳井宗秀

長崎帰りの蘭医。年は四十すぎで、柳町で診療所を営んでいる。市兵衛が大坂にいた頃からの知り合いで、同心の渋井とも顔見知りの仲。阿片がどういうものかを市兵衛に教える。

片岡信正

十人目付筆頭、家禄千五百石の片岡家の主で、市兵衛の15歳上の兄。道久の死をめぐる謎を追う中で、24年ぶりに市兵衛と再会。市兵衛に協力を要請する。小人目付・返弥陀之介からは「頭」と呼ばれている。元服前、市兵衛の母・市枝に恋をしていた。

返弥陀之介

信正に仕える小人目付。大地を這う岩のような剣を遣う。川越では市兵衛と共に活躍し、柳屋一味を一網打尽にした。

高松道久

公儀番方小十人衆、知行地百石の旗本。神田川で中山丹波の妻・絵梨と相対死(心中)する。実は信正の密命を受けており、柳屋稲左衛門を調べる中で正体が露呈し、石井彦十郎と長治に殺された。

安曇

道久の妻。心配性で奥ゆかしい女性。家計を把握しておらず、夫が50両もの借財を残して相対死したことに心を痛める。こっそり市兵衛から算盤を習うなど、ひたむきで可愛らしい一面も。密かに市兵衛に想いを寄せるようになる。

高松頼之

高松家の嫡男。8歳だが利発で好奇心旺盛。侍の本分について市兵衛と議論を交わす。市兵衛と共に赴いた片岡家で父の死の真相を知ってからは、父を殺した犯人を見つけ出すため市兵衛と行動を共にする。

大原甚右衛門

高松家の老家士。愛想のいい老人で、市兵衛に対しても協力的。

柳屋稲左衛門

日本橋本石町の薬種問屋の主人。この物語の黒幕。室町時代に武蔵にやってきた唐人商人の末裔。30歳の時、流行病で妻と2人の子を失い、商いに心血を注ぐようになる。江戸幕府の内情と引き換えにロシア船から大量の阿片を買い付け、向島の寮に搬入し、長治を介して江戸市中の岡場所に売りさばいていた。公儀に目を付けられたことを知ってロシアに逃げようとするが、川越で捕方に待ち伏せされ、歯向かった末に市兵衛に斬られる。

石井彦十郎

四千石の旗本寄合席。道久の幼い頃からの友人。気位が高い小心者。頭寒の持病があり、かねてから付き合いのあった柳屋稲左衛門に治療薬として阿片を処方されたことから阿片の虜となる。道久に柳屋を紹介するものの、道久が公儀の密偵だと知り、心中に見せかけて始末する。道久が女道楽で50両の借財をしたように見せかけ、借用書を偽造した。

中山丹波

本所二ツ目に住む小普請組御家人。道久と心中した絵梨の夫。元は養玉院の寺小姓で、中山家には婿養子で入った。十代の頃、住職・清海の寵愛を受け、清海より阿片を与えられて依存するようになる。中山家の婿になった後もやめられず、形ばかりの夫婦だった絵梨と共に柳屋を脅して阿片を手に入れようと企むが、石井彦十郎に殺される。

絵梨

丹波の妻。道久と心中したように思われていたが、実は阿片をめぐって柳屋を脅そうと企み、石井彦十郎に殺された。

清海

下谷御切手町の天台宗養玉院の住職。寺小姓だった丹波を可愛がり、媚薬と称して阿片を嗅がせていた。

荻野長敬

深川に住む御家人。10歳の時、寺小姓として養玉院に入る。丹波とは気心の知れた仲。丹波が媚薬を使っていたことを市兵衛に教える。

平沢角之進

公儀天文方のひとり。石井彦十郎の口利きで向島小梅村の柳屋の寮に招かれ、柳屋から伊能図を持ち出すよう頼まれる。

佐波

鎌倉河岸の京風小料理屋「薄墨」の女将。信正とは二十数年来の付き合いで、生涯連れ添うことを誓った仲。

白川佳済

道久の組頭で、頼之の名付け親。道久が組の仕事以外に、目付の仕事に協力していたことを市兵衛に教える。

長治

神田多町の廓の主人で、岡場所の店頭。馴染みの客だった石井彦十郎の口利きで柳屋を紹介され、阿片の売り先である岡場所や遊里を仕切るようになる。廓を訪ねてきた市兵衛と頼之を無頼に襲わせて始末しようとする。中山丹波の妻・絵梨と懇ろになり、絵梨に抜け荷のからくりを漏らしてしまう。

広沢孫太夫

川越藩町奉行伊賀役。信正からの要請を受け、柳屋一味の捕縛に協力する。

春五郎

三十間堀に住む町人。以前、石井彦十郎の紹介で高松家に渡り用人として雇われていた。道久の死後、暇を申し出て高松家を去っている。石井や長治らと結託し、五十両の借金手形を偽造した。

助弥

渋井の手下で、常に渋井と行動を共にする岡っ引き。

庄二郎

田原町の蛇骨長屋に住む男。中山丹波とは深い関係にあり、阿片にとりつかれた丹波ことを心配していた。

翠、楊、青

石井家に寄宿する男装の女たち。柳屋が長崎を訪れた際、唐人屋敷の商人から差し出され、石井に贈った。中国の剣法を使いこなし、川越で市兵衛、弥陀ノ介の前に立ちはだかる。


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