Netflix「泣きたい私は猫をかぶる」あらすじと感想|仮面を脱ぐのは難しい

Netflix「泣きたい私は猫をかぶる」

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2020年6月に劇場公開が予定されながらも、コロナウイルス問題で急遽Netflixでの独占配信に変更された本作。

ストーリーはシンプルで意外性はないものの、他人や社会と折り合うために猫をかぶる(=自分を殺す)という誰もが内包する葛藤や悩みをファンタジーの手法を使ってうまく描いています。

絵がとにかく綺麗(背景描写が特によい)なのと、猫がひたすら可愛い。見終わった後は優しい気持ちになります。終盤の異世界描写には少し不満が残ったので、個人的にいちばん盛り上がったのは中盤かな。

年齢的に中学生たちに共感する部分は少なかったのですが、きなこ(猫)にうちの愛猫を重ねてしまい、そっちのほうでウルウルきてしまいました。

作品概要

  • 製作国:日本(2020年)
  • 上映時間:104分
  • 公開日:2020年6月18日
  • 脚本:岡田麿里
  • 監督:佐藤順一/柴山智隆
  • 音楽:窪田ミナ
  • 主題歌:ヨルシカ「花に亡霊」
  • 制作会社:スタジオコロリド

あらすじ

周囲になじめない少女の唯一の楽しみは、猫に変身して好きな人に会いに行くこと。でもそんな毎日を続けるうちに、猫と人間の境界が次第にあいまいになり始め……。

Netflix公式サイトより

予告動画

登場人物(キャスト)

笹木美代(志田未来)
13歳。中学2年生。10歳の時に両親が離婚し、現在は父とその婚約者と3人で暮らしている。空気を読まない言動で友人からは「ムゲ(無限大謎人間)」と呼ばれている。夏祭りの夜に猫店主からもらったお面の力で猫に変身することができ、猫の姿で想いを寄せるクラスメイト・日之出の家に通う。

日之出賢人(花江夏樹)
美代のクラスメイト。成績優秀。陶芸家の祖父を尊敬し、自身も陶芸をやりたいと密かに思っているが、自信がなく口に出して言えない。母親からは受験勉強に身を入れるように言われてている。家に通ってくる猫に昔飼っていた愛犬の名前〝太郎〟を付けて可愛がっている。

深瀬頼子(寿美菜子)
美代のクラスメイトで、小学校からの幼なじみ。美代の行動に冷めた態度で対応しつつも、心の底では深い友情を抱いている。美代がいつか日之出にフラれて傷つくのではないかと心配している。

伊佐美正道(小野賢章)
美代のクラスメイト。日之出の親友。日之出が美代から毎日のように熱烈アピールされているのを隣で見ながら、茶化すことなく笑顔で見守っている。

笹木洋治(千葉進歩)
美代の父。市役所勤務。美代の母・美紀とは離婚し、現在は薫と婚約して同居中。美代が薫と仲良くなってくれることを願っている。

水谷薫(川澄綾子)
美代の父・洋治の婚約者。カフェを経営している。現在は愛猫のきなことともに笹木家で同居しているが、美代と仲良くなれないことに悩んでいる。

斎藤美紀(大原さやか)
美代の母親。洋治と離婚して家を出て行った。現在は通訳の仕事をしつつ独り暮らしをしている。美代と一緒に暮らしたいと考えており、薫を責める。

きなこ
薫の飼い猫。12歳。現在は薫とともに笹木家で暮らしている。美代には懐いていない。猫と人間の二重生活を楽しむ美代を観察している。

坂口智也(浪川大輔)
日之出の祖父・賢三が営む陶芸工房の職人。

楠木先生(小木博明)
美代のクラスの担任教師。英語担当。

猫店主(山寺宏一)
夏祭りの夜に美代が出会った謎のお面屋の店主。かぶると猫に変身できるお面を美代にプレゼントし、その後も美代の前にたびたび現れる。

あらすじ(ネタバレ有)

笹木美代は、明るく陽気な中学2年生の女の子。空気を読まない言動でみんなを驚かせることから、ムゲ(無限大謎人間)というあだ名で呼ばれている。

美代はクラスメイトの日之出賢人に想いを寄せており、毎日のように人目もはばからず猛烈アピール。日之出からはまったく相手にされず、親友の頼子に呆れられながらも、諦める気はさらさらない。

実は美代には、誰にも言えない秘密があった。夏祭りの夜、不思議なお面屋にいた猫の店主から「かぶると猫の姿に変身する」不思議なお面をもらって以来、猫の〝太郎〟として日之出の家に通っていたのだ。

日之出を好きになったのも、猫の姿で雨宿りをしている時に偶然日之出と出会い、彼の優しさと子供のような笑顔に触れたからだった。

普段はクールに振る舞う日之出も、猫の〝太郎〟にだけは素直な心の内を打ち明けることができ、いつしか太郎は日之出にとって心の支えになっていた。

ある日、日之出の祖父・賢三が営む陶芸工房を畳むことが決まり、日之出はショックを受ける。陶芸が好きな日之出は工房の存続を望むも、それを家族に伝えることができず、自己嫌悪に陥る。

美代は日之出を勇気づけるための言葉を手紙に綴り、教室で渡そうとするが、クラスの男子に見つかってみんなの前で手紙を読み上げられてしまう。日之出は恥ずかしさのあまり美代に「大嫌いだ」と言い、傷ついた美代は泣きながら教室を出て行く。

さらに、帰宅すると父・洋治の婚約者・薫が「本当は無理して笑ってるんじゃないの?」と美代を問い詰め、大人たちの勝手な振る舞いに我慢ができなくなった美代は「どうだっていい! みんな要らない!」と叫んで家を飛び出す。

〝美代〟として生きることに疲れ果てた美代は、猫店主に勧められるままに〈人間の顔〉を捨て、猫として生きることを選択する。猫店主は美代が外した〈人間の顔〉を持って消えてしまう。

家や学校では美代が家出したと大騒ぎになり、洋治や薫だけでなく、頼子や日之出までもが美代を探し回る。日之出は頼子から美代の家庭事情が複雑なことや、美代が自分の感情を抑えていることを聞かされる。

3日後、美代は帰宅して今までどおり学校に通い始めるが、その様子は以前とは違っていた。彼女の正体は、薫の飼い猫きなこだった。きなこはお面屋から美代の顔をもらい、薫のそばにいるために美代の寿命をお面屋と半分ずつ分けることに決めたのだという。

美代は人間に戻るため、お面屋を追って猫島へ渡る。一方、薫は行方不明になったきなこを探して憔悴し、その様子を見たきなこは猫に戻ることを決意。きなこは日之出の前で美代の姿から猫に戻り、美代を救うため日之出を連れて一緒に猫島へ渡る。

美代は猫島で「かつて人だった猫たち」に会い、彼らの力を借りて日之出ときなこを探し出す。再会した美代と日之出は互いに想い合う気持ちを言葉で伝え、お面屋に奪われた美代の寿命を取り戻して人間の世界に戻ってくる。

人間の姿に戻った美代に「好きだ」と告げる日之出。美代も「大好き」と応える。猫の姿にもどったきなこは薫のもとに戻る。

感想(ネタバレ有)

陽気な主人公が隠している本性

好きな男の子に片想いをしている主人公、というと、わたしの世代だと「内気で恥ずかしがり屋な女の子」を想像するのですが、本作の主人公・美代(ムゲ)は違います。

明るく陽気で、空気を読まず、突拍子もない行動を取っては大好きな男の子・日之出を困らせる主人公。日之出にスルーされてもめげず、クラスメイトにひやかされても気にせず、猛烈アピールを続けます。

彼女は10歳のときに両親が離婚して母親が家を出ていき、それが原因で学校でイジメに遭うという経験をしていて、陽気な仮面に隠されている心の奥底には「誰からも必要とされていない」という暗い感情が渦巻いています。

日之出を好きになったのも、〝猫〟としての自分を好きになってくれたから。美代の願いは、日之出に人間としての自分を愛してもらい、〝自分の居場所〟を手に入れることでした。

仮面を脱ぐのは難しい

成績優秀な日之出は母親の期待を裏切れず、「陶芸家になりたい」という夢を打ち明けることができません。日之出もまた本当の自分を隠していて、その素顔を猫の〝太郎〟にだけ見せるのです。

猫ではなく人間として日之出に愛されたいと、意を決して手紙を書いた美代でしたが、彼女が必死に紡いだ言葉はクラスメイトによってゆがめられ、日之出に拒絶されてしまいます。

それを機に、仮面がはがれ落ちてしまう美代。表面的にはうまくいっていた父親の婚約者・薫に対しても、「どうでもいい、みんな要らない」とずっと隠し続けてきた本心をぶちまけてしまいます。

無理して笑う理由について、美代は「なんとか受け入れて平和に暮らそうとしてるんじゃん!」と言ってたけど、その怒りの根っこにあるのは、これ以上傷つきたくない、誰とも関わりたくないという両親の離婚によって生じた不信感で、信頼関係を築きたいという薫の思いとは真逆。

大人はみんな「素直な子供」が大好きで、そのくせ自分に都合の悪い態度を取られると「わがまま」と怒り出す勝手な生き物。「勝手すぎる」という美代の言い分もそのとおりなのです。

とはいえ、大人でも厄介な〈仮面〉を、子供が使いこなすのは難しい。特に「脱げなくなった仮面」はさまざまな問題を引き起こします。

美代は不本意かもしれないけど、ここで〈仮面〉を脱ぐことができたのは、結果的にはよかったのかもしれない。

自分の言葉は自分にしか語れない

知らず知らずのうちに、仮面を脱ぐことができず追い詰められていた美代。絶望した美代は〈人間〉を捨てて、〈猫〉として生きることを選びます。

仮面をかぶって窮屈に生きる人間よりも、本能のまま自由に生きる猫のほうがいい。そう思う気持ちには多くの人が共感するだろうけど、このとき美代が捨てたのは〈仮面〉ではないんですよね。

本来「猫をかぶる」とは、本性を隠しておとなしそうに見せかけるという意味。猫の面をかぶった美代は、やっぱり「本性を隠して」いる。そして美代の言葉(本心)は、人間の美代にしか語れないのです。

それは、〈美代の顔〉を手に入れて人間になった猫のきなこにも当てはまります。大好きな薫のそばにずっといたい、彼女を幸せにしたい、と美代になることを選んだきなこ。でも、美代の姿になったきなこがどんなに優しい言葉をかけても、薫には届きません。

残念な猫島、そして気になる家庭事情

日之出に自分の気持ちを伝えたい。人間に戻るため、猫店主を追って〝猫島〟へ渡る美代。日之出もまた、美代になったきなこに事情を打ち明けられ、きなこと一緒に〝猫島〟に渡ります。

ここまでいい感じの流れで盛り上げ、いよいよクライマックスの舞台〝猫島〟へと移るのですが、残念なことにここから失速してしまいます。

再会した美代(太郎)と日之出が、かつて人だった猫たちの力を借りて猫店主をやっつけ、美代の寿命を取り戻すという展開が、これといった盛り上がりもなくサラーッと描かれます。

仕掛けが弱いというか浅いというか、ワクワクするシーンもなければ、画面にクギヅケになるシーンもなかった。せっかくここまでお膳立てしたのに、本当にもったいないことです。

わたしはいっそのこと大人たちも猫島に渡ってきて冒険すればよかったんじゃないかと思うのですが…。

人間に戻った美代は、日之出に「大好き」と告白。彼女がこれまでしていたことは、日之出に「好き」と言ってもらうためのアピールだったけれど、ようやく自分の言葉(=本心)を口にすることができましたね。

たぶんわたしはこの作品のターゲット層からは大きく外れているだろうから仕方ないのだけど、中学生の恋愛よりも、彼らの家庭事情のほうが気になってしまって、あの後うまくおさまったんだろうかと心配になりました。

そして薫ときなこの関係がわたしと18歳の愛猫に重なって、きなこが長生きしますようにと願わずにはいられませんでした。

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