映画「スリー・ビルボード」感想|3枚の広告看板が暗示するもの

映画「スリー・ビルボード」ネタバレ感想

「スリー・ビルボード」

どうも、夏蜜柑です。

人間ドラマとしての評価が高い映画「スリー・ビルボード」を見ました。

夏蜜柑

傑作です。脚本も演技も素晴らしかったです。
まったく予想どおりにならない展開。

ふぐ丸

作品情報

  • 製作国:アメリカ合衆国/イギリス
  • 上映時間:115分
  • 公開日:2017年11月10日(アメリカ)、2018年2月1日(日本)
  • 原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
  • 監督・脚本:マーティン・マクドナー
  • 音楽:カーター・バーウェル
  • 受賞:第90回アカデミー賞主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(サム・ロックウェル)

あらすじ


アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドが、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める……。(公式サイトより)

登場人物

ミルドレッド・ヘイズ……フランシス・マクドーマンド
レイプ事件の被害者アンジェラの母親。「目には目を」を実行する過激な女性。事件の捜査が進まないことに苛立ち、3枚の立て看板に広告を出す。善良なウィロビー署長を名指しで非難したため、警察や住民から反感を買う。

ビル・ウィロビー署長……ウディ・ハレルソン
エビング警察の署長。誠実な人柄で、警察仲間や町の住民からの信頼も厚い。ミルドレッドが出した広告看板で名指しされる。レイプ事件の犯人を逮捕できないことに対しては心苦しく思っているが、ある理由から捜査を進められずにいる。

ジェイソン・ディクソン巡査……サム・ロックウェル
エビング警察の警官。ウィロビー署長を敬愛している。差別主義者で暴力的、すぐにカッとなる性格。父と死別した後、同じく差別主義者の母親と2人で暮らしている。

レッド・ウェルビー……ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
広告代理店の若き経営者。あまり仕事熱心ではないが、優しい心の持ち主。ミルドレッドに広告看板を貸したため、ディクソン巡査から嫌がらせを受ける。

アン・ウィロビー……アビー・コーニッシュ
ビルの妻。夫と2人の娘をこよなく愛する美しく聡明な女性。

チャーリー……ジョン・ホークス
ミルドレッドの別れた夫。ミルドレッドとの関係はかなり険悪。動物園で働く19歳の少女と交際中。

ジェームズ……ピーター・ディンクレイジ
小人症の男性。町の住民から見下されている。ミルドレッドをデートに誘う。

ロビー・ヘイズ……ルーカス・ヘッジズ
ミルドレッドの息子。ミルドレッドが広告看板を出したことで、学校で悪口を言われる。

アンジェラ・ヘイズ……キャスリン・ニュートン
ミルドレッドの娘。ミルドレッドと喧嘩をして家を出た後、レイプされて焼き殺される。

デニス……アマンダ・ウォーレン
ミルドレッドを応援する友人。職場の同僚でもある。薬物所持でディクソン巡査に逮捕される。

感想

※ネタバレを含みます

「こうなるだろうな」という予想を、ことごとく裏切ってくれました。
特に中盤からラストにかけての意外な展開には驚きしかないです。

結末はハッピーエンドではないし、スッキリもしません。
犯人探しがメインのミステリーでもありません。

ストーリーを楽しむというよりは、登場人物たちの思惑と人間模様を楽しむ作品。

人間という生き物の複雑さと単純さ。
それゆえにすれ違い、誤解を生み、誰も予想できない「暴走」にまで発展するおかしみが描かれています。

どうなるのかわからない緊張感が続く中にも、ふっと涙腺を緩ませるシーンが出てきたり。そのまま収束するのかと思ったら、あっけなくくつがえされたり。

しかも、単純な“どんでん返し”ではないところがすごいんです。

こんなの見たことない。

ふぐ丸

タイトルが暗示するもの

タイトルの「スリー・ビルボード」。

「3枚の屋外広告看板」という意味ですが、実は主要登場人物の3人――ミルドレッド、ディクソン巡査、ウィロビー署長を暗示しています。

ミルドレッドは、娘を殺したレイプ犯が捕まらないことに苛立ち、3枚の立て看板に広告を出すことで怠慢な警察を痛烈に批判します。

その3枚の広告看板に書かれたそれぞれの文言が、こちら。

  1. レイプされて死亡
  2. 犯人逮捕はまだ?
  3. なぜ?ウィロビー署長

1枚目はミルドレッド、2枚目はディクソン巡査、3枚目はウィロビー署長をあらわしています。どういうことなのか?

ストーリーに沿って解説していきながら、最後に答え合わせをしたいと思います。

ミルドレッドの後悔

物語の前半は、娘を殺されたミルドレッドが主人公です。

愛する娘をレイプ犯に殺された母親。
その境遇を聞いただけで、同情したくなりますよね。

ところがこのお母さん、とんでもないモンスターなんです。
警察に脅されたら脅し返すし、町の人から嫌がらせを受けたら暴力でやり返す。

「やりすぎじゃね?」とドン引きするほど、ぶっ飛んでいます。

夏蜜柑

一瞬、このお母さんが娘を殺したのかと思ったよ。
それくらい怖い。

ふぐ丸

実は彼女の胸の底には、誰にも言えない後悔が潜んでいました。

娘のアンジェラが殺された日の昼間、「今夜、車を貸してほしい」というアンジェラの頼みを断ります。怒ったアンジェラは、父親(ミルドレッドが別れたDV夫)と密かに会っていることを、つい口走ってしまう。

腹を立てたミルドレッドは「歩けばいいでしょ」と言い返し、怒ったアンジェラは、「途中でレイプされても知らないからね!」と叫んで家を出て行く。

ミルドレッドは、アンジェラの背中に「レイプされればいい!」という言葉をぶつけてしまうのです。

そのことを、ミルドレッドは激しく後悔している。
同時に、「私のせいじゃない」という思いにも囚われている。

ミルドレッドは罪の意識から逃れるために、「被害者の母親」として犯人に怒りをぶつけたい。しかし、その犯人がいっこうに捕まらない。

そこで、彼女は警察に怒りをぶつけることにしたのです。

ウィロビー署長の決断

中盤の主人公は、ウィロビー署長です。

ミルドレッドに名指しで批判されるくらいだから、よほどの悪徳警官なんだろう……と思いきや。

夏蜜柑

めっっっちゃいい人。

家族を愛し、部下と町の人々からこよなく敬愛される立派な署長さん。
誰に対しても愛を与える〈神〉のような存在でした。

彼には、レイプ事件の捜査を進められない理由がありまして。

ウィロビー署長は膵臓がんで、余命わずかだったのです。
そしてそのことは、町中の人が知っている。もちろん、ミルドレッドも知っていました。

しかし、ミルドレッドはモンスター。
相手が不治の病だからと容赦しません。

警察も、町の人も、アンジェラが殺されたことに対しては、ミルドレッドに同情している。犯人が早く捕まることを願っています。

でも、ミルドレッドが余命わずかなウィロビー署長を責めることは、許せない。

ミルドレッドの怒りは、犯人→犯人を捕まえられないウィロビー署長→ウィロビー署長を擁護する町の人へと、滑稽なほど見当違いな方向にねじ曲がっていきます。

そんな時、ウィロビー署長は自殺を図って死んでしまう。

夏蜜柑

衝撃だった。
死んだ場所が〈馬小屋〉というのが意味深。

ふぐ丸

〈神〉のように完璧な存在だったウィロビー署長。
その彼が、「自殺」という決して許されない最大の罪を犯してしまうのです。

ウィロビー署長が自殺したことで、ミルドレッドはさらに警察や町の人たちから敵意を向けられることになります。

署長が自殺したのは、愛する妻のため。

彼女に、自分が苦しんで死んでいく姿を見せたくなかった。悲しませたくなかった。
最後に幸福で楽しい思い出を残して死んでいきたかった、と遺書に書き残します。

彼は、ミルドレッドとディクソン巡査宛にも手紙を残していました。

憎しみだけに囚われないでほしいとミルドレッドを心配する一方で、「広告看板はいいアイデアだった」と賞賛し、看板の来月分の料金をミルドレッドに残すのです。

ウィロビー署長が残した手紙は、後半、ミルドレッドとディクソンの心に大きな変化をもたらします。

2人は〈神〉の罪によって救われた、と言えるかもしれません。

ディクソン巡査の秘密

最後の主人公は、ディクソン巡査です。

ところで、この物語の舞台はミズーリ州なんですね。

ミズーリ州といえば、2014年に黒人青年が白人警察官に射殺された「マイケル・ブラウン事件」が発端となり、暴動が起きた場所。

ディクソン巡査は、この事件を想起させる差別的・暴力的な人物として描かれます。

夏蜜柑

前半はクソ野郎だと思ったけど、後半はまさかの展開に。

ウィロビー署長の自殺を知らされた朝、彼はトイレで号泣します。

そして、復讐のために看板を貸した広告社に殴り込み、経営者のレッドに暴行を加え、2階の窓から突き落としてしまう。

その現場を見た黒人の新任署長は、ディクソンを即刻クビにする。
ふてくされるディクソンのもとに、死んだウィロビー署長からの手紙が届きます。

そこには、ディクソンが立派な警察官になることを信じて疑わない、ウィロビーの愛にあふれた言葉が……。

このとき初めて、わたしはディクソンが同性愛者で、密かにウィロビーを愛していたことを知りました。

夏蜜柑

少し前のシーンに、ディクソンがこっそりとABBAの「チキチータ」を聴いているシーンがありました。わたしは知りませんでしたが、ABBAはゲイに愛されているバンドなのだそうです。

暴走する怒り

ミルドレッドの3枚の広告看板が、夫のチャーリーによって燃やされてしまいます。

頭に血がのぼったミルドレッドは、看板を燃やした犯人が警察だと勘違い。
復讐のため、夜中の警察署に火炎瓶を投げ込み、大火災を引き起こします。

誰もいないはずの警察署でしたが、中にはディクソンがいました。

ディクソンは炎に包まれ大やけどを負いながらも、アンジェラの事件の資料を燃やすまいと必死に守り、外に飛び出します。

全身を包帯でぐるぐる巻きにされたディクソンが運び込まれたのは、自分が窓から突き落とし大怪我を負わせたレッドのいる病室でした。

夏蜜柑

このシーン、泣ける。

レッドもまた、愛にあふれた人物として描かれます。
ディクソンは、レッドとウィロビーに赦されたことで、真っ当な人間になろうと心を入れ替えるのです。

……が!

このまますんなりとは行かないんですよね^^;

怒りはどこへ

退院したディクソンは、アンジェラを殺した犯人と思われる男に偶然出会います。
なんとかその男のDNAを採取することに成功し、事件は解決するかに思われたのですが……。

その男は犯人ではありませんでした。

しかし、その男が誰かをレイプして殺したことは確か。
そう考えたディクソンは、男を殺すため、ミルドレッドと共に車に乗り込みます。

ミルドレッドは、警察署を燃やしたのは自分だと告白。
ディクソンは「ほかに誰がいる」と笑って受け流します。

夏蜜柑

この会話のやりとり、2人の表情も含めてよかった。

車中、あんまり乗り気ではないことを打ち明ける2人。
どうするかは道々決めよう、と。

映画はここで終わります。
2人がどうなったのかは想像にお任せします、という結末。

でもねー。
わたしは、もう2人の中に、人を傷つけるほどの怒りはないんじゃないか、と思うのですよ。なんとなくだけど。

本来ならば、犯人にまっすぐ向かうはずだった怒り。
それがズレにズレまくった結果、急カーブを描いてどっかに行ってしまった、という感じ。

3枚の広告=3人の罪

さて、ここでもう一度、3枚の広告看板の文言を振り返ってみましょう。

  1. レイプされて死亡
  2. 犯人逮捕はまだ?
  3. なぜ?ウィロビー署長

〈1〉はミルドレッドの罪を、〈2〉はディクソンの罪を、〈3〉はウィロビー署長の罪(=自殺)をあらわしていることがわかると思います。

ですが、最後にミルドレッドとディクソンを乗せた車が走っていくシーンで、2人は広告看板を振り返りませんでした。画面には、看板の裏側の真っ黒な背面だけが、3つ並んで映っただけ。

これは、3人の罪が赦されたことを暗示しているようにも思えます。

動画配信は…
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