映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」感想|孤独な青年が得たものは

映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」感想

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映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」を見ました。

原作は、イギリスで大ベストセラーを記録したノンフィクション。
人生ドン底男が野良猫を拾って幸せになる話。

まったく予備知識なく(あまり期待せず)見たのですが、すごくよかったです。

実話だけにリアルで辛い場面もあるので、単純に「可愛い猫を見て癒やされたい」という人にはおすすめしません。でも、いい映画です。

驚くべきは、実在の猫「ボブ」が、劇中のボブ役(の殆どのシーン)を演じていること!

なんて賢い猫なの~!

作品情報

  • 製作国:イギリス
  • 上映時間:103分
  • 公開日:2016年11月4日(イギリス)、2017年8月26日(日本)
  • 原題:A Street Cat Named Bob
  • 監督:ロジャー・スポティスウッド
  • 脚本:ティム・ジョン/マリア・ネイション
  • 原作:ジェームズ・ボーエン/ギャリー・ジェンキンズ『ボブという名のストリート・キャット』

あらすじ

ロンドンでプロのミュージシャンを目指すが夢破れ、家族にも見放されてホームレスとなった青年ジェームズ。人生に目的も目標も持てないまま、薬物依存から抜け出す事もできず、まさにドン底の生活を送っていた彼のもとにある日、足にケガをした一匹の野良猫(ボブと命名)が迷い込んでくる。ジェームズが有り金全てをはたいてボブを助けて以来、ふたりはどこへ行くにも一緒で、次第にその動向が世間の注目を集めるようになる。しかし、彼らの前に次々と試練と困難が立ちはだかり、ジェームズはボブのためにも、それらを1つ1つ乗り越え、やがて大きなチャンスが訪れることになり……。(公式サイトより)

予告動画

キャスト

  • ジェームズ・ボーエン……ルーク・トレッダウェイ
  • ベティ……ルタ・ゲドミンタス
  • ヴァル……ジョアンヌ・フロガット
  • ジャック・ボーエン……アンソニー・ヘッド
  • メアリー……キャロライン・グッドール
  • ヒラリー……ベス・ゴダード
  • ボブ……ボブ

感想(ネタバレ有)

これ、「英国王のスピーチ」の製作陣が手がけているんですよね。

わたしはイギリス映画のちょっと暗い雰囲気や、控えめで淡々とした演出が好き。
なので、この映画も気持ちよく見ることができました。

主人公の置かれている境遇がシビアなので、明るい映画ではありません。
ただ猫が可愛いだけの映画でもありません。

主人公ジェームズと野良猫ボブの友情物語……と言っても、ジェームズもボブも、特別なことは何もしていません。普通に出会い、普通に一緒に暮らしているだけ。

でも、その普通すぎる「猫との暮らし」が、いいんです!

わたしも猫との2人暮らしが長かったので(なんと15年間)、なんともたまらない気持ちになってしまいました。

ジェームズとボブの出会い

主人公のジェームズは、11歳の時から薬物依存と更生を繰り返している路上生活者。

ボロボロのギター本で路上ライブを行い、わずかな収入を得ながら、食料と寝床を探す日々を送っています。

彼が薬物に手を出すようになったきっかけは、両親の離婚とオーストラリアへの移住でした。その後、イギリスに戻ってきたものの、再婚した父親の家族はジェームズを毛嫌いして寄せつけない。

ソーシャルワーカーの口利きでなんとか住居を手に入れたたものの、ジェームズの貧しい暮らしぶりは変わりません。

そこへ現れたのが、一匹のトラ猫。
ジェームズは怪我をしている猫を放っておけず、病院へ連れて行き、なけなしの金で治療してもらう。

飼い主を探しても見つからず、ジェームズは「ボブ」と名付けて飼うことに。

孤独な青年に芽生えた責任感

ジェームズが暮らす低所得者層の街の荒廃した空気や、いつまた転落するかわからないギリギリの暮らし、ジェームズ自身が持つ危うさなど、心が寒くなるような光景が淡々と描かれます。

そんな中、ボブの存在だけが温もりを感じさせてくれる。

主人公のジェームズは、まっとうな仕事に就くこともできず、簡単に薬に手を出す不器用で弱い人間だけど、他人や動物を傷つけることだけはしません。

本来ならば外に発散すべきストレスを、自分自身に向けてしまうんでしょうね。

誰からも愛されない孤独な彼が、初めて自分を必要としてくれる相手――ボブと出会い、「ボブを守れるのは自分しかいない」という責任感が芽生えていくところ、めちゃくちゃよくわかります。わたしもそうだった……。

もうこの段階で、ボブはジェームズを救っているのだと思います。

幸運と試練

ボブを連れて路上ライブを行うジェームズは、たちまち大人気に。

その後、もめ事に巻き込まれてライブを禁止されてしまい、仕方なくビッグイシューの販売員になるのですが、そこでもボブのおかげで人気者になります。

このあたりの展開はお約束というか(といっても実話だけど)、ただラッキーなだけ。
あくまでもボブのおかげであって、ジェームズ本人が変わったわけではないんですよね。

やがて、ジェームズに最大の危機が訪れます。

ほのかに恋心を寄せる隣人ベティとの絶交(隠していた薬物依存がバレた)
ほかの販売員との縄張りトラブルで1か月の販売禁止。
ボブが行方不明になり、何日も帰ってこない。

精神的に追い込まれたジェームズは、フラフラと家を出て、薬の売人のもとへ……。
もうダメだ~と思った瞬間、彼は思い直して家に戻るのです。

その後、ボブが無事に帰ってきて、ジェームズは薬を断つことを決意します。

愛する存在

長く苦しい断薬の日々をどうにか乗り越え、薬物依存から立ち直ったジェームズ。

ジェームズのもとに、出版社から「本を出さないか」という依頼が舞い込みます。
隣人ベティとも仲直りし、全てが明るい方向へと向かっていきます。

本が出版され、ジェームズはお世話になった人々に恩返しをするというハッピーエンド。

わたしは本が売れて人気者になったとか、大金持ちになったとか、サクセスストーリーとしての結末にはあまり興味がない。この映画が伝えたいことも、たぶんそこじゃないと思う。

ボブがもたらした最大の幸福は、お金でも成功でもなく(結果的にはそうだとしても)、ジェームズに愛する存在を与えたことだと思う。

願わくば、ボブが長生きしますように。
ボブが天寿を全うした後も、ジェームズが前を向いて生きていけますように……。

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