
(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
どうも、夏蜜柑です。
WOWOWで放送された映画「彼らが本気で編むときは、」を見ました。
とてもいい作品。見る前から「これ好きだな」って思ってました。ただ温かいだけでなく、ゾッとするような怖さや悲しさもあって、さまざまな感情に揺さぶられました。
リンコというキャラクターが素晴らしいです。
この記事の目次
基本情報
- 製作国:日本
- 上映時間:127分
- 公開日:2017年2月25日
- 監督:荻上直子
- 脚本:荻上直子
- 撮影:柴崎幸三
- 音楽:江藤直子
あらすじネタバレ
母親(ミムラ)からネグレクトされている小学5年生のトモ(柿原りんか)は、叔父・マキオ(桐谷健太)の家に転がり込む。そこにはマキオの恋人でトランスジェンダーの女性・リンコ (生田斗真)がいた。
リンコの存在に最初は戸惑っていたトモも、整頓された部屋やリンコが作る手料理に安らぎを感じ、次第に信頼を寄せるようになる。
リンコが編む“煩悩”の意味を知ったトモは、マキオと共に編み物を手伝う。リンコはトモと本当の家族になりたいとマキオに打ち明ける。
母親のヒロミは突然トモの前に現れ、リンコを激しく非難する。トモはリンコをかばい、ヒロミに「なぜ母親らしくしてくれないの」と訴える。
トモは母親と暮らすことを決め、マキオの家を出ていく。
キャスト
- リンコ……生田斗真(中学生時代:高橋楓翔)
- マキオ……桐谷健太
- トモ……柿原りんか
- ヒロミ……ミムラ
- ナオミ……小池栄子
- 佑香……門脇麦
- ヨシオ……柏原収史
- カイ……込江海翔
- サユリ……りりィ
- フミコ……田中美佐子
- 金井……江口のりこ
- 斉藤……品川徹
感想(ネタバレあり)
登場人物のほとんどが難しい問題を抱えていて、不安と共に生きています。
トランスジェンダーのリンコ。
母親からネグレクトされているトモ。
男の子が好きなトモの同級生・カイ。
リンコの個性を尊重し守ろうとする母親のフミコ。
トモの母親・ヒロミもまた、自身の母親との関係をうまく築くことができなかったせいで、子供の愛し方がわからず悩んでいます。
この映画のいいところは、言葉で表現すれば辛すぎる状況を、静かな映像で淡々と映し出していくところ。
穏やかな画面からひたひたと伝わってくる登場人物たちの言葉にできない思いに、心が揺さぶられ、どんどん引きこまれていきました。
▼
泣いてしまったのは、中学生のリンコが思い詰めた末、母親のフミコに「オッパイが欲しいの」と打ち明けるシーン。
フミコは泣き出したリンコをぎゅっと抱き締め、「泣かなくていいんだよ、リンちゃんは何も悪くないんだから」と言うんです。
リンコに、このお母さんがいてくれてよかった。心からそう思いました。
いえ、この母親がいたからこそ、リンコは強さと優しさを持つ心の豊かな女性に成長したんでしょうね。
それから、男の子にラブレターを書いたことが母親にバレて、自殺未遂を図ったカイに、トモが「あんたのママは、たまに間違う」と力強く断言するシーン。
リンコによって救われたトモが、今度はカイを救うんです。もう、泣かずにはいられないです。
▼
リンコは常に偏見や差別と戦っていますが、決して可哀想な人物として描かれていません。
リンコにひと目ぼれしたマキオは彼女との幸せな生活を手に入れ、リンコから愛情をもらったトモはひとまわり大きく成長しました。
マキオ(とヒロミ)の母親は、リンコの心の通った介護によって、胸の奥底にしまっていた夫への愛憎を吐き出します。
みんな、リンコの尽きることない愛情によって救われているんです。
映画の中でマキオも言っていましたが、人として素晴らしいことに、男とか女とか関係ない。
性別なんてどうでもいい。
そんなふうに思えるほど、リンコは素敵です。
果たして自分は、まわりの人たちに愛情をもって接することができているだろうかと、考えてしまいました。
自分を守ることにばかり必死になって、相手を疑ってばかりいるんじゃないかと。
▼
リンコはどんなことがあっても怒りません。
自分が傷ついても、相手を傷つけたり攻撃したりしません。悔しいことがあるたびに、編み物で“チャラ”にします。
トモは、リンコの編み物に込められた願いを知って、手伝うようになります。
この編み物がちょっとクセモノで、マフラーとか手袋とか、そんな可愛らしいモノじゃないんですよね。
なんと、リンコが手術で失った“男根”。
リンコはそれを「煩悩」と呼び、108本の「煩悩」を編み上げたら、戸籍を女性に変えてマキオと家族になろうと考えています。
そして、そこにトモも加えたい、と密かに考えていました。
▼
だけど、どんなにリンコが愛情を注いでも、トモにとってのお母さんはひとりだけ。トモが本当に愛されたいのは、ヒロミなんですよね。
トモとリンコの別れは切なかったけれど、きっとこの先、ふたりはいい友達になるんじゃないかな。トモも、リンコも、マキオも、カイも。
別れの淋しさと同時に、彼らのこれからを想像して優しい気持ちになるラストシーンでした。