映画「未来のミライ」解説と感想|暗い未来と隠された主人公

映画「未来のミライ」

「未来のミライ」

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どうも、夏蜜柑です。
映画「未来のミライ」を観ました。

第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞、および第76回ゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネートされて話題なった、細田守監督の長編アニメーション映画です。

海外での高評価に比べて、国内では否定的な声が多く聞かれた作品。

わたしは細田作品の設定と作画が好みで、「時をかける少女」以降の長編アニメーション作品はすべて観ているのですが、正直に言ってストーリーを面白いと思ったことはありません。

この作品は、今までの細田監督のどの作品よりもストーリーが退屈でした。しかしそれ以上に、作品全体からそこはかとない不気味さと違和感を感じ、今までにない強烈なインパクトを残した作品でもありました。

その正体について、自分なりに考察してみました。

※感想にはネタバレを含んでいます。また、作品の解釈はあくまで個人的なものです

作品概要

  • 製作国:日本
  • 上映時間:98分
  • 公開日:2018年7月20日
  • 監督:細田守
  • 脚本:細田守
  • 音楽:高木正勝
  • オープニングテーマ:山下達郎「ミライのテーマ」
  • 主題歌:山下達郎「うたのきしゃ」

あらすじ

とある都会の片隅の、小さな庭に小さな木の生えた小さな家。ある日、甘えん坊のくんちゃんに生まれたばかりの妹がやってきます。妹に両親の愛情を奪われ、寂しさいっぱいのくんちゃん。そんな時くんちゃんは家の庭で自分のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ、不思議な少女と出会います。彼女は未来からやってきた妹・ミライちゃんでした。ミライちゃんに導かれ、時をこえた家族の物語へと旅立つくんちゃん。むかし王子だったと名乗る謎の男との出会い、幼い頃の母との不思議な体験、そして父の面影を宿す青年からの教え。そこで初めて知る様々な「家族の愛」の形。果たして、くんちゃんが最後にたどり着いた場所とは?ミライちゃんがやってきた本当の理由とは……。(Amazonより)

予告動画


キャスト

くんちゃん…上白石萌歌
ミライちゃん…黒木華
おとうさん…星野源
おかあさん…麻生久美子
ゆっこ…吉原光夫
ばあば…宮崎美子
じいじ…役所広司
青年…福山雅治
少女…雑賀サクラ
男子高校生…畠中祐
東京駅の遺失物受付センターのロボット…神田松之丞

あらすじ解説と感想

誰の物語なのか?

ポスターとタイトルに騙されました。

わたしはてっきり、4歳の男の子〝くんちゃん〟が異空間に迷い込み、未来から来た妹のミライちゃんと冒険をする明るいファミリー映画だと思っていました。

ところが蓋を開けてみると、実際に冒険するのはくんちゃん一人で、妹のミライちゃんは最初のほうと最後のほうのちょっとしか登場しません。

では、くんちゃんの成長を描いた作品かというと、それだけでもないような気がする。

この作品には、ハッキリとは描かれていないけれど、もっと暗い側面がある。
ひねくれた見方ですが、わたしはこの家族がこのまま幸せな未来を迎えるとは、どうしても思えなかったのです。

違和感その1:退屈な日常風景

物語はくんちゃんの家に産まれたばかりの妹を抱いたお母さんが帰ってくるところから始まり、前半は妹への嫉妬で赤ちゃん返りをしたくんちゃんが、駄々をこねて両親を困らせる日常風景が主に描かれます。

この日常風景がとてつもなく退屈でした。

この作品は、4歳の男の子〝くんちゃん〟の視点で描かれています。くんちゃんはまだアイデンティティが確立していない不安定な4歳児としてリアリスティックに描かれ、突然現れた妹に嫉妬し、赤ちゃん返りをして両親を困らせます。

この主人公の視点に、はたしてどのくらいの人が寄り添えたでしょうか?
わたしには無理でした。

わたしが子供だったら、絵本を読むような感覚で楽しめたかもしれません。
くんちゃんの目に映るものを、同じように新鮮に感じ取れたかもしれません。

けれど大人には何もかもが経験済みのことで、退屈でしかないのです。

なぜリアルな4歳児を主人公にしたのか?
くんちゃんの目を通して、いったい何を見せたかったのか?

違和感の正体がわからないまま、物語は淡々と進んでいきます。

違和感その2:愛情を与えない両親

では、くんちゃんの両親の視点ではどうかというと、これも厳しい。

わたしには子育て経験はありませんが、その点を差し引いて見ても、この両親の行動には違和感を覚えました。彼らの子育ては、どこか表面的で「おままごと」のように見えるのです。

デザインにこだわるあまり階段や段差だらけの危険な家で2人の子供を育てようとしたり、ご近所さんたちに〝いいお父さん〟をアピールして悦に入ったり、妹への嫉妬で苦しむくんちゃんの気持ちにまるで気づかなかったり。

両親ふたりともが最後までくんちゃんを無視し続けるという、恐ろしい展開。

彼らはくんちゃんが求める愛情をきちんと与えないまま、異次元体験によって成長したくんちゃんを見て満足し、互いを慰め合って完結してしまうのです。

「そこそこで十分。最悪じゃなきゃいいよ」という母親のセリフからは、「完璧な親である必要はない」あるいは「子供の成長力は親の想像を超える」というポジティブなメッセージを受け取ることができます。

その一方で、もうひとつの可能性を示唆しているようにも思えてなりません。

 

くんちゃんが迷い込む異空間の美しさ

くんちゃんは中庭を通してさまざまな異次元体験を繰り返します。

異空間への扉は、くんちゃんが「両親から愛してもらえない」と感じると開く設定になっている。そのため、「駄々をこねる」⇒「異空間へ迷いこむ」⇒「駄々をこねる」⇒「異空間へ迷いこむ」⇒「駄々をこねる」を繰り返します。

ちなみにくんちゃんが迷い込んだ異空間は、以下の通り。

  1. 愛犬ゆっこが謎の男として登場する中庭
  2. 未来のミライが雛人形をしまうために現れた中庭
  3. 母親の子供時代
  4. 曽祖父の青年時代
  5. 未来の東京駅

いずれのシーンも作画の美しさには目を奪われました。
導入部も芸術的で素晴らしかったです。

特に圧巻だったのが「未来の東京駅」。
本作のクライマックスシーンでもありますが、力の入れようが半端ない。

特に神田松之丞さんが声を担当した遺失物受付センターのロボットが絶品で、個人的に大好きな場面です。この東京駅だけでも見る価値がありました。

そしてこの東京駅のシーンに、これまでに抱いた謎の違和感の答えがありました。

もうひとりの主人公

この作品は、細田監督自身の実体験がもとになっているそうです。

妹が生まれて両親の愛情を奪われたように感じ、嫉妬と不安で赤ちゃん返りしてしまう4歳の男の子。まだアイデンティティが確立していない〝あいまいな存在〟である彼も、いずれは成長して大人になります。

細田監督は幼い息子の向こうに、成長した彼の姿が透けて見えていたのではないでしょうか。4歳の男の子の葛藤と成長を描くと同時に、10代後半の少年の心の揺らぎも描こうとしたのではないでしょうか。

クライマックスシーンに登場する未来の東京駅は、ダイバーシティを具現化していました。まだ何者でもない4歳のくんちゃんは、そこで初めて「ミライちゃんのお兄ちゃん」というポジションを確立します。

そしてここにはもうひとり、高校生のくんちゃんも紛れ込んでいると思われます。

なぜなら、くんちゃんは東京駅へ向かう列車に乗る直前、未来の自分に会っています。4歳のくんちゃんは、あのとき高校生のくんちゃんも一緒に連れて、旅の終着点である「東京駅」へやってきたのだと思います。

高校生のくんちゃん

未来のくんちゃんが4歳のくんちゃんと一緒に東京駅へやってきたことには、大きな意味が隠されているように思えます。

高校生のくんちゃんはなぜかふてくされ、暗い表情をしていました。
具体的な描写はないものの、何かに悩んで立ち止まっていることは確か。

これまでの違和感と結びつけるなら(多少強引ですが)、親との関係がうまくいっていないのでは? 無意識下に存在する「愛されなかった記憶」に苦しめられている可能性は大いにありそうです。

異空間にいる彼は自分の中にいるわがままな子供(=4歳のくんちゃん)を冷静に分析していましたが、たぶん現実世界ではそううまくはいかず、反抗的な態度を取っていると思われます。

そして高校生の彼は、この壁を自力で乗り越えなければなりません。

愛されなかった記憶(=4歳のくんちゃん)は、彼にとっては必要不可欠なパートナーでした。過去の自分を肯定することでようやく辿り着いた最終目的地「未来の東京駅」は、高校生のくんちゃんが失ったアイデンティティーを取り戻し、未来へと踏み出す場所でもあったわけです。

 

ミライがやってきた理由

さて、ここでもうひとりの重要人物であるミライちゃんの視点に立ってみます。

彼女はなぜ、くんちゃんの前に現れたのでしょう?
十数年後の未来から、わざわざ「雛人形をしまうため」にやってきたとは思えません。

未来のミライちゃんは、高校生のくんちゃんが悩んでいることを知っています。
もしかしたら、両親と兄の間に立たされて、彼女なりに苦労しているかもしれません。

ミライちゃんは、そんな兄を助けるために現れたように見えます。

未来のくんちゃんとミライちゃんの視点に立てば、未来の世界こそが現実。
当然ながら、4歳のくんちゃんがいる場所は、2人にとって「過去」であり「異空間」です。

そう考えると、この物語は「くんちゃんの冒険物語」ではなく、「兄妹の冒険物語」であることがわかります。2重の構造を持つ物語世界に奥行きが感じられ、SFとしても面白く、さまざまな違和感も腑に落ちます。

とはいえ、バラバラで繋がりのない〝異空間での体験〟はすべてくんちゃんの成長のためにお膳立てされたように感じるし、最後の最後にいちばん大切なメッセージをミライちゃんにセリフで言わせてしまうなど、脚本の残念さは否めません。

次回作は、この強烈な世界観が最大限に生かされた脚本になることを期待します。

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