
「オリエント急行殺人事件」
どうも、夏蜜柑です。
2017年公開の映画「オリエント急行殺人事件」を見ました。

過去に何度も映像化されているし、日本でも2015年に三谷幸喜さん脚本・野村萬斎さん主演でドラマ化されているので、今さら感は否めません。
新たに映像化するからには、過去作にはない見どころがあるはずなのですが……。

この物語におけるわたしの好きな要素が、改変によってことごとく消されていたんですよね。
どういうところにガッカリしたか、順番に解説したいと思います。
ダメ出しのオンパレードになりますので、この映画が気に入ってる方はほかのレビューをご覧ください。
この記事の目次
作品情報
- 製作国:アメリカ合衆国
- 上映時間:114分
- 公開日: 2017年11月10日(アメリカ)/2017年12月8日(日本)
- 原題:Murder on the Orient Express
- 監督:ケネス・ブラナー
- 脚本:マイケル・グリーン
- 原作:アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』
- 製作:リドリー・スコットほか
- 音楽:パトリック・ドイル
あらすじ
エルサレムで教会の遺物が盗まれ、鮮やかな推理で犯人を突き止めた、名探偵のエルキュール・ポワロ。イスタンブールで休暇をとろうとした彼だが、イギリスでの事件の解決を頼まれて急遽、オリエント急行に乗車する。
出発したオリエント急行でくつろぐポアロに話しかけてきたのは、アメリカ人富豪のラチェットだ。脅迫を受けているという彼は、ポアロに身辺の警護を頼む。しかしポアロはラチェットの要請をあっさりと断るのだった。
深夜、オリエント急行は雪崩のために脱線事故を起こし、山腹の高架橋で立ち往生してしまう。そしてその車内では殺人事件が起こっていた。ラチェットが12ヶ所も刺され、死体で発見されたのだ。乗り合わせていた医師のアーバスノットは、死亡時刻を深夜の0時から2時の間だと断定する。
鉄道会社のブークから捜査を頼まれたポアロは、乗客たち一人一人に話を聞き始める。ラチェットの隣室のハバード夫人が「自分の部屋に男が忍び込んだ」と訴えるなど、乗客たちの証言によって、さまざまな事実が明らかになってきた。しかし乗客全員にアリバイがあり、ポアロの腕をもってしても犯人像は浮上しない。
ラチェットの部屋で発見された手紙の燃えかすが明らかになったのは、彼がかつてアームストロング誘拐事件に関わっていた事実だった。少女を誘拐し、殺害したラチェットが、復讐のために殺されたのか? 殺害犯は乗客の中にいるのか、それとも……?(公式サイトより)
キャスト
- エルキュール・ポワロ……ケネス・ブラナー
- エドワード・ラチェット……ジョニー・デップ
- キャロライン・ハバード夫人……ミシェル・ファイファー
- ピラール・エストラバドス……ペネロペ・クルス
- メアリ・デブナム……デイジー・リドリー
- ゲアハルト・ハードマン……ウィレム・デフォー
- ドラゴミロフ公爵夫人……ジュディ・デンチ
- ヘクター・マックイーン……ジョシュ・ギャッド
- エドワード・ヘンリー・マスターマン……デレク・ジャコビ
- ドクター・アーバスノット……レスリー・オドム・Jr
- ブーク……トム・ベイトマン
- ヒルデガルデ・シュミット……オリヴィア・コールマン
- エレナ・アンドレニ伯爵夫人……ルーシー・ボイントン
- ピエール・ミシェル……マーワン・ケンザリ(
- ビニアミノ・マルケス……マヌエル・ガルシア=ルルフォ
- ルドルフ・アンドレニ伯爵……セルゲイ・ポルーニン
- ソニア・アームストロング……ミランダ・レーゾン
感想
ファンタジー映画のようだった
大部分を65mmフィルムで撮影したというこだわり満点の映像は、息をのむほど美しく迫力がありました。
しかし、何もかも豪華で綺麗すぎるゆえにリアリティは皆無。
1930年代を思わせる要素はどこにもなくて、まるでファンタジー映画を見ているようでした。

ガッカリ点その1:「古典の味わい」がない
そこはかとなく感じる1930年代の味わいが好きだったんですけどねぇ。
衣装や小道具が古いだけじゃなく、画面から漂ってくる埃っぽさと言いますか。
どうしてファンタジーにしちゃったんだろう……。
ただ、この大迫力の美しい映像は、多くの映画ファンには好意的に受け止められている様子。わたしには、どうにも違和感が拭えなかったけど……。
アクションシーンがつまらない
観客を飽きさせない工夫のひとつとして、原作にないアクションシーンが加えられているのですが、これがわたしには退屈でしょうがなかった。
アクションシーンと言っても、大したものではありません。
車外に逃走した乗客をポアロが追いかけるとか、ポアロが銃で撃たれるとか、その程度。
ガッカリ点その2:「密室劇」じゃない
雪で閉ざされたオリエント急行の列車の中で、殺人事件が起こる。
列車という逃げ場のない密室で犯人探しが始まる緊張感。
それがたまらなく好きだったんです!
あの息詰まる感じにクギヅケだったんです!
なぜホイホイと列車の外に出てしまうんですか~!?
逃走劇とかいらないよ~。
豪華なキャストの見せ場がない
主人公のポアロを演じるのはケネス・ブラナー。
「マイティ・ソー」「シンデレラ」といった大ヒット作品を監督した凄い人らしいんですけど、わたしは詳しくないのであんまり知りません。
ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ミシェル・ファイファー、それに「スターウォーズ/フォースの覚醒」で主人公レイ役に抜擢されたデイジー・リドリーなど、キャスト陣は超豪華。
でもね……。
正直、ポアロ(ケネス・ブラナー)の独壇場です。
彼の見せ場がほとんどで、印象に残っているのはあのふっさふさのお髭だけ。
ほかの俳優たちは、残念ながらこれといって印象深い見せ場がないまま退場しています。
唯一あげるとしたら、ミシェル・ファイファーくらいかなぁ。
ガッカリ点その3:「ポアロと乗客たちの会話」があっさり
ラチェットが殺された後、ポアロは犯人を特定するため乗客ひとりひとりから話を聞きます。
これまでの作品は、この会話にこそ多くの時間を割いていて、観客に「犯人は誰か?」を推理させる時間を与えてくれていました。
ところが今回の映画では、原作にはないシーンを多く取り入れたため、この会話の時間が大幅に削られていました。
場面展開は早いしテンポもいい。
でも、ポアロと乗客たちの駆け引き(俳優同士の演技対決)を見る楽しみはなくなりましたね。
謎解きのカタルシスがない
ここからがっつりネタバレします。
ラチェットを殺した犯人は、乗客全員でした。
ラチェットの本名はカセッティ。
彼は、かつてアームストロング家の幼い令嬢・デイジーを誘拐して殺害した犯人だったのです。
乗客たちはみなアームストロング家にゆかりのある人物で、カセッティに復讐するため用意周到に計画を立て、それぞれ見知らぬ者同士を装って列車の乗客として乗り込み、全員でカセッティを殺害したのです。
殺害計画を立てた首謀者は、ハバード夫人(ミシェル・ファイファー)。
彼女は、殺されたデイジーの祖母で、事件直後にショックで亡くなったデイジーの母・ソニアの母親でした。
ガッカリ点その4:「乗客全員が犯人」の驚きがない
この衝撃の真相は、結末を知っていてもそこそこ楽しめるのですが、今作の場合、真相が明かされる場面の盛り上がりがさほどでもなく、ものすごく消化不良でした。
ここがいちばん楽しみだったのに……。
この映画は、ミステリーの醍醐味とも言える謎解きのカタルシスが二の次になってるんですよね。
「最後の晩餐」を模倣した意味
原作およびこれまでの映像作品では、ラストの謎解きの場面は列車の中でした。
しかし今作は、列車の外。
トンネルの入り口に用意された長いテーブルにつく12人の姿は、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「最後の晩餐」を彷彿とさせます。
「最後の晩餐」は、イエス・キリストが処刑される前夜の夕食時の様子を描いたものです。
12人の弟子が横並びに席に着き、中央にはキリストが腰かけています。
映画では、中央に座るのはハバード夫人でした。
彼らにとって、ハバード夫人は先導者(=神)だったのでしょう。
雪に閉ざされトンネルの前で立ち往生している列車は、「裁きを待つ存在」のメタファーとも考えられます。
ガッカリ点その5:「ポアロが推理を披露する場所が列車内」じゃない
ポアロが自らの推理を披露し、真犯人を指し示す場所が、オリエント急行の車内じゃない……というのはショックでした。
斬新ではあるけど、やっぱりわたしは列車の中でやってほしかった。
列車の外だと開放感がありすぎて、謎解きの息詰まる感じが全くないんですよね(そこが狙いじゃないからなんだけど)。
答えを出せないポアロ
カセッティは、同情の余地もない悪人。
彼らがカセッティを殺害する理由は、胸に迫るものがありました。
原作では、ポアロは真相を公にしないことを決め、彼らの罪を見逃します。
でも、この映画のポアロは、解決方法を犯人自身に丸投げしてしまうのです。
おそらくこの場面が、この映画の最大の見せ場だと思います。
ポアロにとって、この世は善と悪しかなく、その中間は存在しない(そのことを印象づけるため、原作にはないエルサレムでの遺物盗難事件が冒頭に加えられていました)。
しかし、彼らが犯した罪は、善悪では割り切れない。
そしてポアロ自身、アームストロング大佐から事件の調査依頼の手紙を受け取りながら間に合わず、一家を救うことができなかったばかりか、復讐を止めることもできなかったという罪を背負っている。
ポアロから拳銃を差し出され「私を撃つか、自分自身を撃つか」選ぶように言われたハバード夫人は、ためらうことなく自死を選びます。しかし、拳銃には弾がこめられていませんでした。
ガッカリ点その6:「ポアロが冷静沈着」じゃない
今作のポアロは、見た目も中身も今までとは違っていました。
ステッキを得物のように扱ったり、車外を走り回ったり、恋人らしき女性の名前をつぶやいて苦悩したり……。
過去作との差別化をはかったのでしょうけど、今作のポアロはちょっと暑苦しい。
わたしはどこまでも冷静で、淡々と事件を解決するポアロのほうが好きだなぁ。
なお、20世紀フォックスは「ナイルに死す」の映画化を決めたようです。
期待薄だけど、やっぱり見てしまうかも。