映画「ルームロンダリング」感想|赤いミニカーの意味と母親失踪の真相

映画「ルームロンダリング」ネタバレ感想

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映画「ルームロンダリング」を観ました。

上映時は小規模公開ながら、ひそかに話題になっていた作品。
わたしは先にドラマ(続編)を見たので、前後の話が繋がってスッキリしました。

ドラマ同様、コミカルな演出で笑わせながらも、不器用な生者と、ちょっと前まで生者だった不器用な死者の拙い交流を、温かい作風で丁寧に描いた良作です。

重たいテーマなのに作風がユニークなので、暗くはありません。
最後は少し切なくて、少し泣ける。

特にミニカーのくだりは……やられました。

幽霊が見える能力を持つ〝引きこもり女子〟を池田エライザさんが好演。
オダギリジョーさん演じる〝うさんくさい叔父さん〟も見事にハマってます。

作品概要

  • 製作国:日本
  • 上映時間:109分
  • 公開日:2018年7月7日
  • 監督: 片桐健滋
  • 脚本: 片桐健滋/梅本竜矢

あらすじ

5歳で父親と死別した八雲御子。翌年には母親も失踪してしまい、祖母に引き取られた御子だが、18歳になると祖母も亡くなり、天涯孤独となってしまった。しかし、祖母の葬式に母親の弟である雷土悟郎が現れ、住む場所とアルバイトを用意してくれた。その仕事とは、ワケあり物件に住み込んで事故の履歴を帳消しにし、次の住人を迎えるまでにクリーンな空き部屋へと浄化すること=“ルームロンダリング”。引っ込み思案で人づき合いが苦手な御子にとって都合の良い仕事だったはずが、行く先々で待ち受けていたのは、幽霊となって部屋に居座る、この世に未練たらたらな元住人たち。ミュージシャンになる夢を諦めきれないパンクロッカーや見ず知らずの男に命を奪われ恨み節が止まらないOL、カニの扮装をした小学生!?なぜか彼らの姿が見えてしまう御子は、そのお悩み相談に振り回されて…!?(公式サイトより)

予告動画

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コロムビアミュージックエンタテインメント

登場人物(キャスト)

八雲御子(池田エライザ)
引っ込み思案で人づき合いが苦手なこじらせ女子。5歳で父親が交通事故死、母親は翌年に失踪。祖母に引き取られるも、18歳の時に祖母が亡くなる。祖母の葬式で出会った叔父の悟郎に〈ルームロンダリング〉の仕事を紹介され、引っ越しを繰り返すことに。子供の頃、誕生日に両親からプレゼントされたアヒルのランプが宝物。

雷土悟郎(オダギリジョー)
御子の叔父。イカヅチ不動産の経営者。西前から斡旋された〈ルームロンダリング〉の仕事を御子に紹介したり、オーバーステイの外人に偽造カードを売るなど、うさんくさい仕事にも手を出している。御子と同じく幽霊が見えてしまう“霊感体質”。

虹川亜樹人(伊藤健太郎)
御子が引っ越した「2K・10万円」の部屋の隣人。コンビニでアルバイトをしながら小説家を目指している。御子が引っ越す前に住んでいた悠希が襲われた際、助けを求める声が聞こえたにもかかわらず無視してしまったことを後悔しており、新しい隣人の御子に何かと声を掛ける。

春日公比古(渋川清彦)
御子が引っ越した「1K・4万円」の部屋にいたパンクロッカーの幽霊。人生に絶望し、風呂場で手首を切って自殺した。死んだことを後悔しており、未だにミュージシャンになる夢を諦められず成仏できない。その後、部屋ではなく〝カセット〟に憑いていることが判明。

千夏本悠希(光宗薫)
御子が引っ越した「2K・10万円」の部屋にいたOL。コスプレが趣味で、ブログで自身のコスプレ写真を公開している。帰宅した直後にストーカーに襲われ、刺殺された。この世への未練と犯人への恨みで成仏できない。

宗冬はぐむ(込江大牙)
御子の小学校時代の同級生で、成仏できずに公園に留まっている幽霊。学芸会の当日の朝に車に轢かれたため、「サルカニ合戦」のカニの扮装をしている。御子が本音で話せる友達。

西前(田口トモロヲ)
悟郎に〈ルームロンダリング〉の物件を斡旋するブローカー。

寺田(奥野瑛太)
なんでも屋「寺田リサイクル」の経営者。悟郎を慕い、御子の引っ越しを手伝うなど使いっ走りをしている。「人使いが荒いんだから~」が口癖。

野口(木下隆行)
御子が引っ越した先の交番のおまわりさん。

八雲深月(つみきみほ)
御子の母。御子が6歳のときに失踪している。

陽子(渡辺えり)
御子の祖母で、悟郎と深月の母。深月の失踪後、御子を引き取って育てた。御子が18歳の時に亡くなっている。

感想(ネタバレ有)

ルームロンダリングとは?

死亡事故や自殺などがあったワケあり物件は、次の入居者に説明する義務があります。
でも、その説明義務には、何人目とか何年間とかの制限がない。

「我々が仕込んだ1人目の人間を入居させ、よきタイミングで退去させることによって、事故物件だった部屋はクリーンな空き部屋へと変身します。裏社会で手に入れた金の浄化をマネーロンダリングと言いますが、それをもじって我々の業界では部屋の浄化を〈ルームロンダリング〉と言っています」

事実かどうかはわかりませんが、着眼点が面白いです。

幽霊のような主人公・御子

主人公の御子は、どっから見てもうさんくさい叔父の悟郎に、この〈ルームロンダリング〉のアルバイトを紹介されています。

不幸な生い立ちと〝霊が見える〟という特殊な能力のせいで、自分の殻に引きこもりがちな彼女は、生きているにもかかわらず覇気がなく、生きる意味も見いだせず、ほとんど幽霊のような存在。

むしろ御子が引っ越し先で出会うホンモノの霊たちのほうが、生に執着していて、元気に見えます。

御子は「自分には何もできない」と思い込んでいるので、幽霊たちの頼みをきくつもりもなければ、彼らを成仏させるつもりもない。引っ越し先のご近所さんたちと付き合う気もさらさらない。

ところが、そんな御子が〝あること〟をきっかけに、変わることになります。

この先はネタバレを含みます。ご注意ください。

赤いミニカーを探す男

ある日、御子は線路脇に供えられている花を見つけます。
次にその道を通ると、男性が花の前で手を合わせていました。

その次に御子がその道を通ったとき、頭から血を流した男の幽霊が道にはいつくばって、「車がない……車がない」と必死に何かを探していました。

御子は掲示板の上にあった赤いミニカーを見つけ、男の前に差し出します。
男は「20年間、ずっと下ばっかり見てたから」と言い、御子に何度も「ありがとう」と礼を言います。

そのとき、御子は初めて「自分でも役に立てる」と気づいたのです。

男はなぜミニカーを探していたのか?

この赤いミニカーは、映画の終わり近くにも登場します。

ある男性の部屋の前の廊下に置かれていたのです。
ミニカーを見つけた男性は、何かを思い出して泣いていました。

柄本時生さん演じるこの男性は、御子が2回目に線路脇の道を通りがかったとき、花の前で手を合わせていた男性と同一人物であることが、着ているジャケットからわかります。

ここからは想像ですが、おそらく彼は、線路脇でミニカーを探していた男性の幽霊の息子だと思われます。

小さかった彼が子供の頃、大切なミニカーをなくしてしまい、お父さんが代わりに探していたのではないでしょうか? お父さんはミニカーを探して「ずっと下ばっかり見てたから」、車に気づかず、交通事故に遭って亡くなったのだと思います。

何の説明もない短いシーンでしたが、彼ら親子の20年間を想像させる印象深いシーンでした。

悠希を殺した意外な犯人

コスプレOLの悠希は、ストーカーに刺されて死にました。
「なぜわたしが?」と、死を受け入れられない悠希。

彼女の力になろうと決めた御子は、犯人の人相を聞いて似顔絵を作成。
隣人の亜樹人に、警察に見せるよう頼みます。

ところが、亜樹人の部屋にやってきた警察官こそが犯人でした。

亜樹人はあっという間に警察官に殴り飛ばされ、加勢しようとした幽霊の公比古も、まったく役に立たない(幽霊なのですり抜けてしまう)

霊が見えるからって調子に乗ったからだ…と、後悔する御子。

しかし、そこで小学生の頃にやった学芸会の「サルカニ合戦」を思い出し(御子自身は馬糞の役だった)、悟郎と寺田の力を借りて、警察官を叩きのめすことに成功します。

御子の母親はなぜ失踪したのか?

事件が解決した後、御子は悟郎から母・深月の失踪に関する真実を聞かされます。

深月もまた〝霊が見える能力〟を持っており、霊の声に耳を傾けるうちに自分を見失い、施設に入ったのだと。

かつて両親と暮らしていた家があった空き地で、深月と再会する御子。
久しぶりの再会を喜ぶ御子でしたが、やがて辛い事実に気づきます。

悟郎が抱えるアヒルのランプが、チカチカと瞬いています。
母は、すでにこの世の人間ではなくなっていました。

だから悟郎は、御子を母親に会わせることをためらっていたんですね。
霊となった母親を見て、御子が苦しむのではないかと……。

「泣いちゃダメ。笑って」

深月はそう言って姿を消します。

深月が死んだ理由

深月が死んだ理由については、具体的に語られていませんでした。

続編となるドラマでは、悟郎が「姉ちゃんみたいに戻ってこられなくなるぞ」と意味深な発言をしていました。施設で何があったのか気になりますね……。

ドラマの続編やらないかな?

個性豊かな登場人物たち

御子が関わる登場人物たちは、みんな個性豊かで存在感バツグンです。

わたしのいちばんのお気に入りは、御子の同級生だった小学生の幽霊はぐむ
おそらく彼らは小学校時代からの付き合いなんでしょうね~。

今は立ち入り禁止になっているあの団地は、はぐむがかつて住んでいた場所なのでしょう。

はぐむは続編のドラマ版にも登場しています。

それからパンクロッカーの公比古
彼もレギュラー化してまして、ドラマにも登場して御子や悟郎と仲良くやっています。

伊藤健太郎さん演じる隣人・亜樹人の純粋でまっすぐな人柄も好きです。

そしてなんと言ってもオダギリジョーさん演じる悟郎
あんな汚い仕事を御子にやらせやがって!金の亡者か!

と思っていたら、実は優しかった。

御子を美大に通わせるために、密かに貯金してたりして。
その手段はまっとうではないけど、彼なりに必死なんだろね。

動き出した御子の人生

幽霊のように無気力だった御子が、ラストシーンでは別人のように明るい笑顔を見せていました。

自分が動けば何かが変わる……と気づいた彼女は、これから幽霊たちに積極的に関わっていくことになります。

そして亜樹人との付き合いも、継続中。
ふたりの関係はどうなるのか。

続きはドラマ版で見られます。

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