
どうも、夏蜜柑です。
NHK・BSプレミアムで放送された特集ドラマ「ファーストラヴ」のあらすじと感想です。
直木賞受賞作『ファーストラヴ』をドラマ化!「なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか」。公認心理師の主人公が“愛”と“殺意”に迫る究極のヒューマンミステリー。
NHK公式サイトより
公認心理師の主人公が父親を殺した女子大生の心の奥底に潜む闇を解き明かし、事件の真相に迫るというミステリータッチのヒューマンドラマ。
主人公の由紀を演じた真木よう子さん、殺人犯の女子大生を演じた上白石萌歌さんともに心に訴える素晴らしい演技で、最後まで引き込まれました。
この記事の目次
作品情報
- 放送局:NHK・BSプレミアム
- 放送時間:2020年2月22日(土)夜9時~【単発】
- 原作:島本理生『ファーストラヴ』
- 脚本:吉澤智子(「あなたのことはそれほど」「初めて恋をした日に読む話」)
- 演出:宮武由衣
原作について
このドラマの原作は、島本理生さんの長編小説『ファーストラヴ』(2018年刊)です。
2018年第159回直木賞受賞作。確かな文章力と行間の豊かさ、内面に潜む闇や不安の表現が高く評価されました。
登場人物(キャスト)
真壁由紀(真木よう子)
公認心理師。夫と小学生の息子と3人で暮らす。出版社から「美人女子大生の父親刺殺事件」のドキュメンタリー本の執筆を依頼され、殺人犯の環菜と面談を重ねる。ある理由から、両親とは距離を置いている。
聖山環菜(上白石萌歌)
父親を刺殺した容疑で逮捕された女子大生。アナウンサー志望で、事件の直前にテレビ局の面接を受けている。警察の取調で「動機はそちらで見つけてください」と語り、波紋を呼ぶ。
庵野迦葉(平岡祐太)
環菜の国選弁護人で、由紀の義理の弟。大学時代、由紀と付き合っていた。由紀とともに事件の真相を追う。幼いころ母親に育児放棄され、叔母のもとで育った。
真壁我聞(吉沢悠)
由紀の夫で、迦葉の兄。写真家。育児を優先して報道写真家を諦め、現在はウェディングカメラマンとして働いている。
聖山昭菜(黒木瞳)
環菜の母。夫の那雄人を恐れ、環菜のSOSに気付きつつも目をそらし続けている。裁判では検察側の証人として環菜と対立することに。
聖山那雄人(飯田基祐)
環菜の父。画家。血は繋がっていない。幼いころから環菜に絵のモデルを強要し、精神的ストレスを与え続けていた。大学のトイレで環菜に刺されて死亡する。
小泉裕二(忍成修吾)
環菜が12歳のときに出会った初恋の相手。当時コンビニの店員で、家を追い出された環菜を保護して家に連れて帰った。
辻憲太(谷田部俊)
出版社の編集者。由紀に事件のルポを依頼する。
南羽澄人(駿河太郎)
染織家。大学生のとき、那雄人のデッサン会に参加していた。由紀と迦葉の訪問を受け、当時のデッサン画を見せる。
賀川洋一(戸塚純貴)
環菜の元恋人。前の恋人からDVを受けていた環菜の相談に乗り、関係を持った。「彼女の奴隷だった」と週刊誌に告白記事を出す。
あらすじ
公認心理師の由紀(真木よう子)は、写真家の夫・我聞(吉沢悠)との間に一人息子をもうけ、幸せに暮らしている。ある日、由紀は出版社から「美人女子大生の父親刺殺事件」のルポの執筆依頼を受ける。
殺人犯の環菜(上白石萌歌)は警察に「動機は見つけてください」と語り、波紋を呼んでいた。環菜の国選弁護人は、大学時代の由紀の恋人で我門の弟でもある迦葉(平岡祐太)だった。
由紀は環菜と面会して話を聞き出そうとするが、環菜の話はどこからが嘘でどこまでが真実なのか判然とせず、環菜自身も「自分のことがわからない」と戸惑っていた。
面談を重ねるうちに、環菜が血の繋がらない父親・那雄人(飯田基祐)を恐れていたこと、幼い頃から絵のモデルを強要されていたこと、母親の昭菜(黒木瞳)が環菜の自傷行為に気づいていながら気づかないふりをしていたことがわかる。
事件の真相を探る中で、由紀自身も自らの過去と向き合うことに。由紀の父は海外出張のたびに児童買春をしていた。当時、由紀は自分を見る父の視線に違和感を覚えていたが、その意味を悟ったのは大人になってからだった。
迦葉もまた幼少期のトラウマを抱えていた。母親に育児放棄されて伯母夫婦に引き取られた迦葉は、大学時代に出会った由紀と心の傷を共有するようになるが、2人の関係はうまくいかずに終わっていた。
由紀と迦葉は環菜が「初恋の人」と語る小泉裕二(忍成修吾)に会いに行く。当時21歳でコンビニ店員だった小泉は、父親に家を追い出されて途方に暮れていた12歳の環菜に声をかけ、家に連れて帰って体に触るなどのわいせつ行為をしていた。
法廷で検察側の証人となった昭菜の証言に、環菜は初めて怒りを露わにする。由紀は環菜の心の傷に真正面から向き合い、彼女が以前から強いストレス状態で解離を起こしていたことを知る。環菜の話が曖昧だったのは、解離によって記憶が飛んでいたためだった。
環菜の殺意を疑い始めた由紀は、事件当日の環菜の足取りを辿る。記憶を取り戻した環菜は、自殺するために包丁を買ったこと、大学のトイレで父親と揉み合っているうちに足が滑って転び、包丁が胸に刺さってしまったことを思い出す。
父親を殺してしまった環菜はパニックになり、帰宅して母に助けを求めたが、母の昭菜は問題に向き合おうとせず、自分を守るために環菜を突き放したのだった。
由紀は裁判所のトイレで、昭菜の腕にもリストカットの傷痕がたくさん残っているのを見る。迦葉は環菜に殺意はなかったとして無罪を主張するが、その後、環菜には懲役8年の判決が下る。環菜は控訴せず判決を受け入れる。
由紀は本を出版しないことを決める。由紀の夫・我門は、由紀と迦葉の関係に前から気づいていたことを打ち明け、由紀と出会ってからずっと幸せだと語る。由紀もまた、我門と結婚してよかったと告げる。
感想(ネタバレ有)
心が解放されるとき
ショッキングな内容でしたが、心を揺さぶられるドラマでした。
由紀、環菜、迦葉に共感できる人は少なからずいるはずで、その人たちにとっては、彼らと一緒に涙する内容だったのではないかと思う。
物語の最後に3人の心が解放されたことで、わたしも少しだけ救われたような気持ちになりました。優しい希望を感じるラストでした。
真木よう子さんと上白石萌歌の演技が素晴らしかった。たぶんこれからもいろんな場面で2人を見ることがあると思うけど、今回の作品の演技は深く記憶に刻まれましたね。
原作は未読で、島本理生さんの作品自体読んだことがなかったのですが、読んでみたくなりました。文章でこの作品を味わってみたい。
心に刺さった由紀のセリフ
「ファーストラヴ」というタイトルから恋愛小説を想像していたら、まったく違いました。タイトルの意味がわかると、切なくて泣きそうになる。
ただ、重要な意味を持つタイトルに繋がる小泉とのエピソードが、少し弱い気もしました。原作ではどうなっているんだろう。ドラマ化するにあたって、倫理的に省略せざるをえない部分が多かったのかな。
後半は、個人的に刺さる場面がたくさんあって、心の中がとんでもない状態になってました。まずはクライマックスの由紀のセリフ。
「あなたしか感じられない気持ちを、あなたが話さずに誰が話すの? 誰にもわかってもらえないまま、何年も何年も刑務所にいるなんて、おかしいでしょ! 本当の環菜さんがかわいそうでしょ!」
本当に、本当に共感しかない。環菜は、由紀のこの言葉を機に、自分の中の“隠れた自分”を客観的に見ることができるようになったのではないかと思う。
言葉にする(客観視する)って、大事なこと。
「あなたはお父さんを殺した。でも、その前にたくさんの大人が、少しずつあなたの心を殺していたんだね」
父親からは“観察対象”に、初恋の人からは“性の道具”に、恋人からは“DV対象”にされてきた環菜。母親は彼女の心の傷に気づいていながら、見て見ぬふりをし続けていました。
心を殺されること=言葉を奪われることでもある。
心に刺さった環菜のセリフ
子どもの頃から歪な家庭環境で育ち、心を病んでいった環菜。
彼女が求め続けたものも、わかりすぎるほどわかる。
「ただ、母に助けてほしくて……怖くて。でも、間違いでした。母はかわいそうな人で、私は母に頼らず、もっと強くならなきゃいけなかったんです」
裁判で母親と戦うことを決意した環菜が、必死に語ったセリフ。このとき彼女がようやく前を向いたように思えて、心が震えた。
わたし自身も母親を「かわいそうな人」「弱い人」だと気づけたときが、ターニングポイントでした。それから、母に求めることをやめました。
ドラマでは、環菜の母・昭菜にも自傷行為を繰り返した過去があり、心に問題を抱えていることが明らかになります。
彼女は自分の弱い心を守ることで精一杯で、娘の環菜の問題まで引き受ける余裕がなかったのかもしれません。子どもにとっては不幸ですが、そういう母親がいることも事実。
「私は、ずっと誰かに私を好きになってもらいたかった。でも今は、私が私を好きになりたいと思っています」
両親からもらえなかった愛情を、初恋の人・小泉に求めていた環菜。人がはじめて愛されるとき、その相手は両親であることが理想だけど、現実はそうではないことも多い。
両親以外の誰かが、もっとはやく彼女を愛してくれていたら。温かいまなざしで彼女を見つめてくれていたら。そう思わずにはいられない。
でも、由紀が言っていたように、今からでも遅くないと思います。「人は、もう一度、生まれることができる」。
わたしは46歳で夫と出会い、まっすぐな愛情というものを知り、自分以外の誰かと一緒にいても安心できる場所があるのだと、はじめて知りました。
人生の半分以上が過ぎてしまったけれど、残りの時間で人生を楽しめればじゅうぶんです。
由紀が我門と出会ったように、環菜もいつか誰かと出会い、今度こそ本当の“ファーストラヴ”を経験できる日がくることを願います。
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