NHK正月時代劇「家康、江戸を建てる」ひとりの人生では描けない壮大なプロジェクト

正月時代劇「家康、江戸を建てる」

どうも、夏蜜柑です。
NHK正月時代劇「家康、江戸を建てる」の感想です。

面白かったし配役もよかったし映像もきれいだったけど……普通の時代劇でした。

原作は「日本史上最大のプロジェクト」を描いた小説で、読んでみて「斬新だなぁ!」と思ったんです。でもドラマを見ると、その斬新さがすっかり消えていました。

お正月ドラマとしては、こちらのほうが見やすかったのかな。わかりやすい敵がいて、応援してくれる家族がいて。年代問わず、みんなが楽しめる時代劇ではありました。

でもわたしは物足りなかったなぁ~。

あらすじ

  • 1590年。徳川家康(市村正親)は江戸を大坂以上の城下町にすると宣言。伊奈忠次(松重豊)に「川の流れを変える」ことを、大久保藤五郎(佐々木蔵之介)に「飲み水を得る」ことを命じる。
  • 藤五郎は戦場で負傷して以来足が不自由となり、家康のための菓子を作る「菓子司」を担ってきた。大役を任されたことに感激した藤五郎は意気揚々と江戸に乗り込むが、地元の漁師が差し出した川の水のまずさに驚く。
  • 3か月後、藤五郎は神田明神辺りと赤坂溜池にようやく満足のいく水を見い出し、家康に献上する。その水は江戸で初めての水道設備「小石川上水」として、江戸城周辺の人々の喉をうるおすことになる。
  • 15年後。関ヶ原の戦いに勝利にした家康は天下人となり、急激に人口が増加した江戸は飲み水の不足が深刻化し始めていた。藤五郎は武蔵野の名主・内田六次郎(生瀬勝久)に会いに行く。
  • 六次郎は家康から命を受け、「七井の池」から江戸市内へ水を引く上水普請を任されていた。衝突しつつも工事を進める2人の前に、今度は春日清兵衛(千葉雄大)と名乗る若者が現れる。清兵衛もまた家康から命を受け、江戸市内において暗渠の普請を進めようとしていた。
  • 清兵衛は木製の樋を地中に埋めて水を通すことを提案するが、慎重を要する工事には腕の立つ職人が必要だった。藤五郎は伊奈忠次に頼んで職人300人を借り受け、工事は急速に進む。
  • いよいよ七井の池から水路に水を流す試験を行う日がやってくる。井戸に水が届き喜んだのもつかの間、道の真ん中にいくつもの巨大な水柱が立つ。水圧で樋が爆ぜたのだった。藤五郎は清兵衛と六次郎に後を託し、上水工事から身を引く。
  • 上水工事が完成した時、藤五郎は既にこの世を去っていた。清兵衛と六次郎は江戸に届いた七井の池の水を藤五郎の墓にかけ、完成を報告する。
  • 京の名家・後藤家に奉公する橋本庄三郎(柄本佑)は、金貨作りにおいて随一の腕を誇る職人。しかし後藤家当主・徳乗(吉田鋼太郎)と長乗(吹越満)にいいように使われ、鬱屈を抱えていた。
  • ある日、庄三郎は徳乗の娘・早紀(広瀬アリス)との縁組の条件として、長乗と共に江戸へ行くよう命じられる。それは庄三郎を江戸へ捨てようとする徳乗らの企みでもあり、庄三郎の腕を見込んだ家康(市村正親)の狙いでもあった。
  • 約束の一年が過ぎた時、長乗は庄三郎に仕事を押しつけて京へ帰る。家康は庄三郎に小判作りを任せるが、弟分の与一郎(林遣都)の裏切りにより、後藤家に先を越されてしまう。
  • 後藤の名をもらうため、京へ向かう庄三郎。しかし徳乗は既に早紀を他の男に嫁がせていた。庄三郎は養子にしてほしいと訴える庄三郎に対し、徳乗は一代限りの猶子という条件で受け入れる。
  • 1600年。家康は関ヶ原において石田三成に勝利する。戦場に駆けつけた庄三郎に対し、家康は「京におぬしの旗を立てよ」と命じる。庄三郎は京へ行き、「金銀銭についての政はこれを改めはせぬ。皆これまでどおり案じて商いに励むべし 徳川家康」という高札を立てる。
  • 庄三郎は京から逃げようとする徳乗と早紀に会う。早紀は今でも庄三郎を想い、庄三郎からの文を捨てられずにいた。早紀は庄三郎に別れを告げて京を去る。江戸に戻った庄三郎に、家康は江戸の行く末を語る。

感想

原作は「プロジェクトに関わる人たち」に焦点を当てていましたが、ドラマは「個人」でした。前編では大久保藤五郎(佐々木蔵之介さん)、後編では橋本庄三郎(柄本佑さん)。

そのほうが感情移入しやすいのはわかるのですが、この作品に関しては微妙だなぁと思いました。

原作の面白さは、「誰かひとりの人生」の面白さではないんですよね。

都市建設という大プロジェクトの前では人間の一生なんて本当に短くて、どの話も「誰かひとり」が成し遂げるものではないんです。何十年もかけて、何代にもわたって引き継がれていく大工事なんです。

歴史の中の人生の短さ、人ひとりの存在のはかなさを思い知ると同時に、その短い人生が編み目のように交わり繋がることで壮大なプロジェクトが成し遂げられるところに感動したんです。

淡々とした筆致で描かれる登場人物たちは、ふらりと登場し、ふらりと退場します。
大久保藤五郎は、こんな感じで。

「おお、藤五郎」
大久保藤五郎は、馬上にあった。
ぎくりと家康へ首を向ける。家康はすたすたと歩み寄り、藤五郎をあおぎ見て、
「たのみがある。天下喫緊の大仕事じゃ」

橋本庄三郎は、こんな感じ。

長乗は、きゅうに目をかがやかした。
となりの従者の袖をつまんで引き寄せ、あらっぽく肩をたたきながら、
「この者を、ここに置き残そう」
従者は、じっと下を向いている。
その顔、翳(くら)い。

みなどこか滑稽なんだけれども、それぞれが自分の仕事と真摯に向き合い、何かを成し遂げても成し遂げなくても、後進に役目を繋いで人生を閉じる。

人生をかけてやり抜くほどの「何か」を持ったことがないわたしには、それがとても尊く潔く思えました。

ちなみにこの人たちは、原作には登場しません。

  • 安兵衛(マギーさん)
  • 伊可(優香さん)
  • 絹(藤野涼子さん)
  • 早紀(広瀬アリスさん)
  • 志村伝衛門(高橋和也さん)
  • 栗(伊原六花さん)

お正月ドラマなので仕方ないと思うんだけど、わたしは家族愛とか恋愛とかは要らなかったなぁ(個人的な好みです)。その分、上水工事や金貨鋳造の詳しい説明を原作同様たっぷり入れてほしかった。

原作を読んでいない人は、ドラマの説明だけでわかったんだろうか……?
石坂浩二さんがもっとべらべら喋ってくれてもよかったのに。

でも家族愛と恋愛を入れなかったら、女性が出る幕がなくなっちゃうんですよね。
歴史ものの女性の扱いは難しい。

以下、原作に登場する人物についてドラマの補足を少しだけ。

前編

伊奈忠次(松重豊さん)

原作の第1話の最初のほうにしか登場しません。あとは名前が出てくるくらい。
ドラマでは後半の藤五郎とのやりとりが見せ場になっていました(見応えがありました)が、原作にはありませんでした。

忠次は利根川東遷の大事業に手をつけながら、完成を見ることなく亡くなりました。完成させたのは、忠次の孫・半左衛門です。

春日清兵衛(千葉雄大さん)

原作では春日与右衛門。
上水工事の失敗のあと、問題を解決するのに十数年かかりました。

どうやって解決したかというと、目白の山の下に水量調節を可能にする人工の分流装置(洗堰)を作ったんですね。後年、この地は「関口」と呼ばれるようになり、今もこの地名が残っています。

江戸川公園(文京区関口)の中に、この洗堰の一部が遺されているそうです。

内田六次郎(生瀬勝久さん)

原作によると六次郎のその後はわからず、150年後の明和7年(1770年)までは、代々「水元役」として水源の管理を行っていたらしいです。

後編

橋本庄三郎(柄本佑さん)

寛永2年(1625年)に55歳で亡くなりました。

家康のもとで全国貨幣の支配者となり、小判に刻まれた「光次」の刻名は幕末にいたるまで200年以上変わらなかったとか。

原作には早紀は登場しません。庄三郎は家康に自分を売り込もうとして失敗します。そして1年半後、長乗が江戸へ行くと知って自ら手を上げ、従者として江戸へ向かいます。

この時点で庄三郎はもう後藤家に未練はなく、江戸の家康のもとで名を成すことをもくろんでいました。長乗が自分を置いて京へ帰ったときも「賭けに勝った」と思うほど、野心の強い人物でした。

庄三郎は長乗がいなくなるとすぐに家康に頼んで、埋め立てが終わったばかりの土地(のちの日本橋)をもらい、広大な役宅を建てています。現在、そこには「日本銀行本店」があります。

中越与一郎(林遣都さん)

原作では影が薄いです。ドラマのように金を盗んで追い出されたり、京に戻って庄三郎を裏切ったりするエピソードはありません。ずっと江戸の庄三郎のもとで真面目に働きました。

関ヶ原の戦いのときは、庄三郎と共に戦場へ駆けつけています。

後藤徳乗(吉田鋼太郎さん)

ドラマではかなりの存在感でしたが、原作では長乗に比べて控えめです。
娘の早紀との縁組みを持ち出したりもしません。

ドラマでは庄三郎が高札を立てるときに徳乗が現れましたが、原作では長乗でした。

後藤長乗(吹越満さん)

ドラマよりも原作のほうが存在感があります。そしてちょっと滑稽。
怠け者ではないけれど、文化人としての活動が忙しくなって本業が人任せになったらしい。

原作はこの人が江戸に到着したところから始まります。
「寒い寒い」ばかり言って、結局何もせずに京に帰るんですけどね。

高札のところで庄三郎と再会したときも、「光次。おぬしは根性悪じゃ」とすすり泣きをした哀れな人。

兄の徳乗が石田方について歴史の表舞台から消えたので、長乗が後藤家の当主となり、その後は江戸の庄三郎の管理下に置かれました。

大久保長安(高嶋政伸さん)

ドラマではめっちゃ悪役でしたけど、原作ではいたって普通です。
藤五郎の仕事を邪魔して横取りしようとしたり、庄三郎に切腹を迫ったりもしてません。

この人は慶長18年(1613年)に69歳で亡くなります。
が、亡くなったとたん家康から不正や密謀の嫌疑をかけられ、遺児7人が死罪になり、親しかった者も軒並み処分されました。

かなりの権力者になっていたようなので、家康の癇にさわったようです。

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