WOWOWドラマ「怪物」第6話~第10話(最終話)あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|“怪物”とは誰だったのか

WOWOWドラマ「怪物」あらすじキャスト

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感想(ネタバレ有)

韓国版との距離感

これまで、韓国ドラマのリメイク作品には、正直なところあまり期待を持てずにいました。

韓国ドラマには独特の濃密さがあります。複雑に絡み合う人間関係や、感情の揺れを丁寧に描く心理描写は、韓国という文化的背景の中でこそ自然に成立しているものだと感じていたからです。

さらに、日本のドラマは話数が少ない傾向があり、どうしても物語の厚みや人物描写の深さが削がれてしまいます。限られた尺の中で、韓国版のような緻密な構造を再現するのは難しいのでは――。そんな思いが、リメイク作品に対する期待値を下げていました。

今回の『怪物』も、原作である韓国版を先に観ていたこともあり、どうしても比較しながら観る形になりました。韓国版の持つ複雑さや多層的な人間模様に対して、日本版はそれらをある程度整理し、登場人物を絞り込んだ構成になっていたと思います。

そうした構成の違いには、制作陣の意図や文化的な背景が反映されているはずです。今回は韓国版との違いを踏まえながら、脚本や演出、キャストの演技など多角的に掘り下げていきたいと思います。

シンプル化された構造

日本版の物語構成は、韓国版と比べると明らかに整理されていて、視聴者が本筋を追いやすいようになっていると感じました。

韓国版では、登場人物それぞれが複雑な過去や思惑を抱えていて、物語が進むにつれて人間関係が絡み合い、常に「誰が敵で誰が味方なのか」と疑心暗鬼になるような構造になっていました。巧妙なミスリードも多く、緊張感が途切れることのない展開が続きます。

それに対して、日本版では事件に関わる人物を絞り込み、富樫と真人の関係性を物語の軸に据えることで、焦点がぶれないように工夫されていました。

中盤以降は、事件の真相に迫る捜査の流れが比較的ストレートに描かれていて、混乱を招くような展開は控えめ。これは、10話という限られた尺の中で物語を破綻させずに完結させるための、制作側の判断だったのだと思います。

ただその分、人間関係の濃度や心理戦の緊張感が薄まってしまったのも事実です。

たとえば、富樫と森平課長の関係性、同僚・粕谷の裏の顔、八代正義と五十嵐の心理戦など、韓国版で描かれた、後半にかけてじわじわと浮かび上がってくる“人間の闇”は、非常に見応えがありました。日本版では、そうした要素がかなり簡略化されていて、物語の厚みがやや抑えられていた印象です。

とはいえ、こうしたシンプル化は、視聴者が主要人物に集中できるという意味では効果的だったとも言えます。韓国版のような複雑さを期待していた私にとっては、多少の物足りなさもありましたが、日本版ならではの“整理された緊張感”もまた一つの魅力だったと思います。

善悪の狭間に立つ“怪物”たち

『怪物』というタイトルが示すように、この作品の核心は「怪物とは誰なのか?」という疑念にあります。その答えは、登場人物たちの揺れ動く内面にこそ潜んでいるように感じました。

まず、富樫浩之を演じた安田顕さんの演技は圧巻でした。彼の表情には、罪を抱えた人間の苦悩と、正義を貫こうとする意志が同居していて、「この人を信じていいのか?」という不安と期待を同時に抱かせます。

特に真人との対峙シーンでは、言葉にしない感情が画面越しに伝わってきて、善人にも悪人にも見えるその際どさが、物語全体の緊張感を支えていたと思います。

八代真人役の水上恒司さんも、父への憎しみと愛情が交錯する複雑な心理を丁寧に演じていました。最終話で、父・正義の非情さに打ちのめされながらも、自らが“怪物”になる覚悟を決める姿には、そばで富樫を見てきた影響が色濃く表れていたように思います。

ただ、韓国版と比べると、富樫と真人の絆が深まっていく過程がやや駆け足だった印象も否めません。話数の制限や構成の違いがあるとはいえ、もう少し時間をかけて感情の積み重ねを描いてほしかったという思いも残りました。

また、森平課長や粕谷といった脇役の描写も、日本版ではかなり控えめでした。韓国版では、森平が富樫に対して贖罪の気持ちを抱きながら、ひそかに彼を支える立場を取っていたことが、後半の衝撃的な展開(森平の死)につながる重要な伏線になっていました。

しかし日本版では、森平は殺されることなく、過去の誤認逮捕についてもすでに整理できているかのような描写にとどまり、富樫との関係性も淡白に映りました。

粕谷に関しても、日本版ではほとんど存在感がなく、物語の核心に関わる役割を担っていません。韓国版では、彼が秋山署長の手先として証拠隠ぺいに加担していたことが判明し、富樫たちが彼を調べることで事件の真相に近づいていくという展開がありました。

そうした複雑な人間模様が省かれてしまったことで、後半の見どころが減ってしまったのは否定できません。

リメイクとしての挑戦

WOWOWのプロデューサー・松本太一さんは、韓国版の複雑な構造をそのまま再現するのではなく、「日本のドラマとして成立させること」を最優先に考えたと語っています。

その言葉どおり、日本版では物語の焦点を絞り、主要人物の心理描写に力を入れる構成が採用されました。韓国版に見られる複雑な伏線や巧妙なミスリードは控えめにされ、視聴者が物語の本筋に集中できるよう配慮されていたのです。

演出面でも、リアリティを追求する工夫が随所に見られました。羽多野署のセットには実在の建物を改装して使用し、照明は自然光に近いトーンで統一。特に富樫と真人の対峙シーンでは、カメラの距離感や沈黙の使い方が絶妙で、緊張感を高める演出が印象的でした。

リメイクとは、原作の魅力を尊重しながらも、文化や表現の違いを踏まえて再構築する作業です。日本版「怪物」は、その挑戦を誠実に遂行した作品だったと感じます。

“怪物”とは誰だったのか

日本版『怪物』は、韓国版とは異なるアプローチを取りながらも、「罪と赦し」という普遍的なテーマを、日本ならではの静かな力強さで描いていたと思います。

観終えたあとに心に残ったのは、やはり「怪物とは誰だったのか?」という問いです。連続殺人犯の柳辰夫か、琴音をひいた田所幹男か、息子の罪を隠した田所加代か。中橋陽平か、八代正義か。

“怪物”は特定の誰かを指すものではなく、人間の中に潜む闇や、正義と罪の境界を揺るがす存在そのものを指しているように思います。それは、わたしたち自身の中にもあるかもしれない“影”の部分です。

誰の中にも潜む“怪物”を描いたこの物語は、静かな余韻を残して幕を閉じます。観終えたあとも、その影が残り続けるような作品でした。

〈疑問〉の答え合わせ

連続殺人鬼の柳辰夫です。2000年10月14日の夜、柳はたまたま道で出会った香織にバカにされ、その場で首を絞めて殺害しました(その現場を富樫の妹・琴音が目撃しました)。香織の遺体は葦原で発見されました。

香織が殺害された日、富樫は香織の店でギターを弾いていました。そのときにギターピックを使用し、その後、ピックをギターケースにしまって“アジト”の小屋に持ち込みました。そこで幹男がピックを使い、そのままポケットに入れて持っていました。

“アジト”からの帰り道、幹男は琴音をひいてしまい、その際にピックを現場に落としています。それを、後から来た柳辰夫が拾って、幹男に罪を着せる目的で、阿部香織を遺棄した葦原に故意に残したのです。

韓国版では、このギターピックが非常に重要な役割を担っています。ピックからは幹男の指紋が検出されますが、田所加代によって「指紋は一切検出されなかった」という偽の鑑定書にすり替えられました。このすり替え行為に秋山署長と粕谷が協力し、その対価として、彼らは加代から土地や金を受け取っていました。

連続殺人鬼の柳辰夫が、他人から“指をさされる”ことを極度に嫌っていたためです。

八代正義です。事件当夜、琴音は恋人の田所幹男に呼び出されて、彼がいる“アジト”の小屋を訪れました。その帰り道、たまたま柳辰夫が阿部香織を殺害する現場を目撃し、柳に捕まってしまいます。

柳が阿部香織の遺体を葦原に遺棄している間に、琴音は意識を取り戻し、指を切断された状態で逃亡しました。そして八代正義が飲酒運転する車に助けを求めようとして道に飛び出し、ひかれました。正義は中橋を呼んで後を任せ、通報せずに現場から立ち去りました。

その後、幹男が道に倒れている琴音をひいてしまい、母親の加代に連絡。加代は中橋を呼んで、遺体の処理を頼みました。
しかし、中橋が事故車を移動させている間に、その一部始終を目撃していた柳辰夫がひそかに琴音の遺体を持ち去り、富樫家の庭に彼女の切断した指を並べ、地下室の壁に遺体を埋めました。

25年前、田所幹男は富樫の妹・琴音と交際していましたが、そのことを親友の富樫にも、母親の加代にも話すことができず、秘密にしていました。

事件の夜、酒に酔った幹男は琴音にメールを送って“アジト”に呼び出し、留学することを伝えます。怒った琴音はひとりで帰ってしまい、幹男は酒と薬で朦朧とした状態で車を運転して、道に倒れていた琴音をひいてしまいました。

琴音はその時点ではすでに死んでいたのですが、自分が琴音を殺したと思い込んだ幹男はショックを受け、記憶を失ってしまったのです。

田所加代は、息子・幹男が25年前の事件の記憶を取り戻すことを恐れていました。富樫を息子に近づけさせなかったのは、幹男の記憶が戻ることを恐れたのと、富樫に罪をなすりつけて事件を収束させたかったためと思われます。

連続殺人鬼の柳辰夫です。10年前、柳は凛子の母・良江を殺害し、その遺体を中橋建設が所有する土地(もともとは田所加代の土地)に埋めました。また、そのとき良江が身につけていた髪飾りを“戦利品”として自宅に保存していました。

連続殺人鬼の柳辰夫です。美緒は柳の娘でしたが、血の繋がりはありませんでした。美緒はそのことにうすうす気づいていたようで、柳のことを気味悪がっていました。

柳は自分を捨てた妻・相馬晴美(美緒の母)を憎み、彼女を見つけ出して殺そうと思っていましたが、ようやく探し当てた彼女はすでに交通事故で亡くなっていました。その同じ日に、美緒から「本当に私の父親?」と聞かれ、頭に血が上って殺害しました。

富樫は柳の家で美緒の切断された指を発見し、その状況から、連続殺人犯が柳辰夫であることを確信しました。しかし美緒の遺体は見つからず、このまま通報しても柳を起訴できる可能性は低いと考え、柳を泳がせて証拠をつかもうとしたのです。

富樫が柳の店の前に美緒の指を並べたり、美緒のふりをして柳にメールを送ったりしたのは、彼を動揺させ、確実な証拠を得るためでした。

富樫が警察官になったのは、妹・琴音を見つけ、自分の容疑を晴らすためです。

韓国版では、富樫は父親の葬儀の日に、森平に泣きながらそのことを伝え、森平は「私に任せなさい。私の人生をかけて、叶えてやるから」と約束しました。以降、森平は富樫を支える“父親”のような存在になっています。

中橋陽平(実行犯)、秋山署長(協力者)、八代正義(黒幕)です。

八代正義は秋山に留置場の監視カメラを止めるよう依頼し、中橋を留置場に送り込みました。中橋は柳辰夫の失踪した妻・相馬晴美の死体検案書と釣り糸を留置場にいる彼に渡して、自殺に誘導しました。

中橋陽平(実行犯)と、八代正義(黒幕)です。

秋山は、柳辰夫が自殺した夜、留置場の監視カメラを止めるよう八代正義に頼まれていました。しかし実際にはカメラを止めず、中橋が留置場に忍び込んだ際の証拠映像を保存し、それをネタに正義を脅しました。そのため、中橋に呼び出されて殺害されました。

ちなみに韓国版では、このとき殺されたのは秋山ではなく森平課長でした。森平は、25年前に秋山と粕谷がグルになってギターピックの鑑定書(指紋とDNA)を偽物にすり替えていたことに気づき、2人を問い詰めて真相を聞き出そうとしていました。

日本版でははっきりと言及されませんでしたが、おそらく富樫か田所幹男でしょう。

韓国版では、森平課長が映像を削除しています。彼は富樫を全面的にバックアップする立場を取っていました。富樫は彼を巻き込むことを嫌がり、「これ以上関わらないで」と告げましたが、富樫を助けようとする森平の態度は最後まで変わりませんでした。

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