NHKドラマ「ストレンジャー~上海の芥川龍之介~」登場人物(キャスト)・あらすじ・感想

NHKドラマ「ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜」

どうも、夏蜜柑です。
NHKドラマ「ストレンジャー~上海の芥川龍之介~」についてまとめました。

1921(大正10)年。特派員・芥川龍之介、激動の上海へ―芥川が克明に活写した100年前の中国を8Kで映像化日本有数の知性と巨龍・中国、20世紀史に刻まれた知られざる魂の交流!

NHK公式サイトより

約100年前、新聞社の特派員として上海に渡った芥川龍之介の姿を、彼が帰国後に書いた紀行文『上海游記』などを基に描いたドラマ。

芥川龍之介を演じるのは松田龍平さん。撮影監督は映画『十三人の刺客』で第34回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞したカメラマン・北信康さん。

ほぼ全編が上海で撮影され、1920年代の中国を圧倒的映像美で再現。ストーリーは無きに等しいのですが、見応えのあるドラマになっています。

作品概要

  • 放送局:NHK総合/BS8K/BS4K
  • 放送時間:12月30日(月)夜9時〜【73分単発】
  • 原案:芥川龍之介『上海游記』ほか
  • 作:渡辺あや(「カーネーション」「合葬」)
  • 演出:加藤拓 (「眩〜北斎の娘〜」)
  • 音楽:稲本響

あらすじ

1921(大正10)年、芥川龍之介(当時29歳)は新聞社の特派員として上海に渡る。子どものころから「西遊記」などの古典に親しんだ芥川にとって、そこは憧れの理想郷のはずだった。だが、当時の中国は動乱のさなか。清朝を倒した革命は、やがて軍閥の割拠という混乱に至り、西欧諸国や日本が上海の租界をわがもの顔で支配し、民衆は壮絶な貧困にあえいでいた。理想と現実のギャップに絶望すら覚えながらも、芥川の知性は巨龍・中国の精神世界へと分け入っていく。そこで出会うのは、革命の世で政治と向き合う知識人たちと、裏路地で日々をしたたかに生き抜く妓楼のひとびとだった…。

NHK公式サイトより

原案について

このドラマは、芥川龍之介の中国紀行文『上海游記』などが原案になっています。

1921年に「大阪毎日新聞」の視察員として中国を訪れた29歳の芥川が、現実の中国の実情と対日観を冷静に見つめ、自身の思いを綴ったルポルタージュ。

登場人物(キャスト)

芥川龍之介(松田龍平)
『羅生門』『蜘蛛の糸』『杜子春』などの小説を手がけた作家。「大阪毎日新聞」の特派員として上海に渡る。幼い頃から漢文学に親しみ、『西遊記』『水滸伝』『三国志』などを愛読。憧れの理想郷だった中国の混乱を目の当たりにして動揺する。

村田孜郎(岡部たかし)
「大阪毎日新聞」上海支局長。上海に渡ってきた龍之介を迎え、通訳を兼ねて各地を案内する。

秀しげ子(中村ゆり)
龍之介の愛人。生まれたばかりの赤ん坊を抱いて、龍之介の家を何度も訪ねてくる。龍之介に上海行きを決断させた理由のひとつ。

芥川文(奈緒)
龍之介の妻。愛人・しげ子の訪問を受け、龍之介の代わりに応対する。海軍少佐・塚本善五郎の娘で、俳優・芥川比呂志(長男)と作曲家・芥川也寸志(三男)の母。

林黛玉(徐玉蘭)
上海の妓楼の女将。ここ20年の政局の秘密を全て知っているという噂。

玉蘭(胡子玫)
湖南出身の妓女。龍之介に気に入られる。かつて長年の愛人が斬首刑に処された際、血だまりにビスケットを浸して近しい人と分け合って食べたという話を龍之介に聞かせる。

ルールー(薛薛)
男娼。聞くことも話すこともできないが、美しい文字を書き、読書を好む。龍之介とは筆談で会話する。

章炳麟(任洛敏)
元革命家。かつて孫文らと共に清朝を倒した傑物。考証学者でもある。

鄭孝胥(邱必昌)
清朝時代の政治家。かつて清朝を改革しようとして西太后に追放された。のちの満州国国務院総理。

李人傑(金世佳)
のちの中国共産党設立メンバー。東京帝大に留学し、流ちょうな日本語を話す。龍之介の作品の愛読者でもある。

感想(ネタバレ有)

芥川龍之介の紀行文をもとにしたノンフィクションに近いフィクションドラマで、ストーリーらしいストーリーはありません。ですが、まったく飽きない73分でした。

実はちょっと寝不足で、これ見ながら寝落ちしちゃうかもなと思いながら見ていたのです。が、むしろだんだん目が冴えてきて眠気が吹き飛びました。

ただただ、美しい映像に圧倒されます。それは芥川龍之介という屈指の文豪の目を通して表現される世界でもあるのですが、その幻想的・神秘的な世界に酔いしれていると、突如目を背けたくなるような中国の政治的な現実が現れます。

人身売買が公然と行われ、追い剥ぎ、売淫、アヘンは常習化。人々は貧困にあえぎ、かつての有力者は絶望を口にする。街中では、労働者潰しと称する殺戮が行われる。

龍之介の目に映る上海は、すぐに理想郷から“悪の都会”へと転落します。


特に印象的だったのが、龍之介が妓楼で出会った妓女の玉蘭から「処刑された愛人の血をビスケットに浸して食べた」話を聞くくだり。

このエピソードは芥川龍之介が中国旅行後に書いた小説『湖南の扇』に出てきます(青空文庫で読めます)。

ストーリーは、日本人旅行者が案内役の中国人と出かけた先で、斬首された悪党の愛人“玉蘭”を見かけ、愛人の血を染み込ませたビスケットを食べさせるというもの。

「これか? これは唯のビスケットだがね。………そら、さっき黄六一と云う土匪の頭目の話をしたろう? あの黄の首の血をしみこませてあるんだ。これこそ日本じゃ見ることは出来ない。」
「そんなものを又何にするんだ?」
「何にするもんか? 食うだけだよ。この辺じゃ未だにこれを食えば、無病息災になると思っているんだ。」

芥川龍之介「湖南の扇」より

この作品では、湖南出身である案内役の中国人と玉蘭の“負けん気の強さ”が描かれていて、作者が中国旅行前に描いていた古典的世界ではなく、実際に目にした中国の現実が描かれています。

ちなみに湖南省は、黄興、蔡鍔、宋教仁、譚嗣同など多くの革命家を生んだ土地です。


ドラマに登場した男娼ルールーは、通りすがりの外国人(ストレンジャー)である龍之介の軽はずみな言葉に触発され、労働運動の集会に参加して殴り殺されました。

玉蘭はルールーの血を染み込ませたビスケットを妓楼に集まったみんなに分け与え、龍之介もひとかけらを手に取って食べます。

6年後の睡眠薬自殺を想像せずにはいられない、衝撃的なシーンでした。

浄土を思わせる穏やかな緑に包まれた美しいラストシーンも、心に深い余韻を刻みました。

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