どうも、夏蜜柑です。
NHK広島放送局開局90年ドラマ「夕凪の街 桜の国2018」。
現代パートが2018年になっていたことを除けば、ほぼ原作どおりでした。
過去パートもすごくよかった。
皆実のセリフが原作とほとんど一緒で、やっぱり同じところで泣いてしまう。
8月6日の放送、ずしんときます。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
この記事の目次
あらすじ
- 編集者の石川七波(常盤貴子)は、勤務先の出版社が編集部を縮小することになり、営業部への異動を余儀なくされる。家では79歳になる父親・旭(橋爪功)が頻繁に外出するようになり、七波は認知症を疑う。
- ある夜、七波は「桃を買いに行く」と言って出かけた旭の後を追って、広島へ向かうことに。駅で偶然出会った姪の風子(平祐奈)も、旅に同行することになる。
- 広島で、七波の知らない人たちを訪ね歩く旭。七波は旭が訪ねた打越(佐川満男)という老人に会い、原爆で亡くなった旭の姉・皆実(川栄李奈)の話を聞く。
- 皆実は13歳の時に広島で被爆。それから10年後の23歳まで広島で暮らしていた。皆実は被爆しながらも生き延びたことに負い目を感じ、その心の傷を誰にも話せずにいた。
- 職場で出会った打越(工藤阿須加)と恋に落ち、幸せになることを受け入れようとした直後、皆実は原爆症を発症し亡くなってしまう。
- 七波と風子は、皆実が暮らしていたバラック小屋があった場所を訪ねる。爆心地に近い本川沿いには、かつて「原爆スラム」と呼ばれた集落があったが、今は緑地帯になっていた。
- 2人のもとに旭が現れ、この場所で七波の今は亡き母・京花(小芝風花)と出会ったことを語る。旭(浅利陽介)は当時、親戚の養子になり茨城に住んでいたが、広島の大学に通うため実母フジミ(キムラ緑子)と共にバラックで暮らしていた。
- やがて旭は就職し、近所に住む京花との結婚を望むようになる。当初、被爆者と結婚することに反対していたフジミも、旭が東京へ転勤することが決まると、2人の結婚を承諾する。
- 七波は、自分が小学生の時にこの世を去った母・京花と祖母・フジミのことが気になっていた。2人が原爆のせいで死んだのなら、自分も長くは生きられないかもしれない。同僚の雄二(谷原章介)からのプロポーズに答えられずにいるのも、そのせいだった。
- 迷う七波に、旭は「幸せになれ」と言う。七波は雄二のプロポーズを受けることを決め、3人は帰路につく。
感想
小学生の頃、8月に登校日がありました。
その日は、平和教育の映画を見たり、戦争体験者の話を聞いたりしました。
それが、おそらくわたしが最初に出会った「広島」と「原爆」です。
体育館で三角座りをして見た「ひろしま」という映画は、子供だったわたしに、今でも忘れられないほどの衝撃を残しました。
リアルな映像は、しばらくショックで口がきけなくなるくらい、怖かった。
それから毎年夏休みに訪れる登校日は、嫌な行事になりました。
その頃のわたしには、「広島」も「原爆」も、ただひたすら「怖いもの」でした。
わたしは大阪で生まれ育ったので、広島も原爆も日常生活で身近に感じる機会はほとんどなく、原爆ドームにも平和記念公園にも、行ったことがありません。
大人になってからはそれなりに理解していたつもりだったけど、やっぱりどこか遠い場所の話で。
だけど、こうの史代さんの「夕凪の街 桜の国」を読んだとき、恐怖のイメージが強かった広島という場所に人の暮らしの温もりを感じ、今に繋がる笑顔と幸せを感じ、ある日突然命を奪われることの悲しさと怒りを感じ、心を大きく揺さぶられました。
恐怖ではない伝え方もあるんだなぁ、と衝撃を受けました。
と同時に、そんなのは当たり前のことなのに、目を背けていた自分を恥ずかしくも思いました。
原爆投下から10年後
過去パート(原作では「夕凪の街」)で描かれるのは、昭和30年。
原爆投下から10年後の広島です。
最初に感じたのは、たった10年でこんなに復興したんだ……という思い。
でも、皆実が実家に向かうシーンで、すぐさま打ち消される。
爆心地の近くには「原爆スラム」と呼ばれた集落があり、原爆やその後の復興計画で家や土地を失った人々がバラックを建てて暮らしていました。
皆実の家もそんなバラックのひとつだけど、悲壮感はあまりなくて。
鼻歌を口ずさみ、家の前で魚を焼き、雨漏りのする屋根をなおし、銭湯へ行く。
ショーウインドーの洋服を真似てワンピースを縫ったり、職場の同僚とカープの話をしたり(ドラマには出てこなかったけど)、恋をしたり。穏やかで平和な暮らしを送っています。
でも、心にはずっとあの日の記憶がある。
8月6日のことを、誰にも話せず苦しむ皆実。
ドラマでは触れられなかったけど、母のフジミは顔が腫れて目が開かず、ひと月近く広島の惨状を目にしていないんですね。
ドラマの中で、皆実がどろんこになって帰ってきたとき、母と目が合い、2人があの日の記憶を共有したようにも見えたけど、実は共有していない。
皆実はひとり、自分だけが目にした地獄を抱えて、眠りにつくのです。
翌朝、原爆ドームを見上げる皆実の目は前を見ていました。
打越に心を開き、幸せになってもいいんだと、ようやく思い始めた時。
彼女は原爆症を発症し、亡くなってしまう。
最後まで、誰も恨んだり責めたりすることなく……静かに息を引き取ります。
それなのに、皆実のセリフが焼けつくような激しさをもって、心に突き刺さる。
十年たったけど、原爆を落とした人は、「やった!また一人殺せた」ってちゃんと思うてくれとる?
一見、静かで穏やかな死に思えるけれど、そうじゃない。
皆実の無念が、「生きたい」と願う激しい思いが伝わってきて、泣かずにはいられません。
川栄さんのゆっくりとかみしめるように語るセリフも、死を受け入れると同時に生きたいと願う表情も、とてもよかったです。
平成30年を生きる皆実の姪
一方、2018年(平成30年)では、皆実の弟、旭を父に持つ七波が主人公。
原作の現代パート「桜の国(一)」「桜の国(二)」も七波が主人公なのですが、年齢が大きく異なります。
「桜の国(一)」では、七波は小学生。
弟の凪生はぜんそくで入院しており、隣に住む(おそらく裕福な)同級生の東子と、旭を見舞う話です。
「桜の国(二)」では、七実は28歳。
弟の凪生の恋人となっていた東子と共に、七波が父親を尾行して広島に行く話です。旅の中で、七波は東子の両親が、被爆二世である凪生との結婚に反対していることを知ります。
ドラマは2018年が舞台なので、七波に同行するのは凪生と東子の娘、風子になっていましたね。
この現代パート、常盤貴子さん演じる七波がわたしと近い年齢というのもあって、いろいろと、とても身近に感じられる内容でした。
幸せっていうのはどこか遠くにあるもので、自分がなるもんじゃないって。
わたしも46歳で結婚したので、このセリフとても染みました。
もちろん、彼女の理由とは、比べものにならないけど。
原作では、七波には彼氏がいないようだったので、ドラマで結婚できてよかったです。
ちなみに原作では、結婚話がこじれて気まずくなっていた凪生と東子を、七波が会わせるんですよね。
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原作は、柔らかな絵が語りかける独特の世界。
これを実写で表現するのは相当難しいと思いますが、雰囲気は原作に似ていたように思います。
原爆が投下された直後の悲惨な広島だけが広島じゃない、ということを知らされた作品。
わたしのように、子供の頃に怖い思いをして敬遠している人が、この作品に触れてくれたらと思う。
これからも、何年たっても、この物語を終わらせないでほしいと思う。
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