乱反射|ラストの意味は原作を読めばわかる

ドラマ「乱反射」あらすじ感想

「乱反射」

どうも、夏蜜柑です。
メ~テレ開局55周年記念ドラマ「乱反射」。

夏蜜柑

途中までいい感じだったんだけど、最後わかりにくいしなんかスッキリしない~~。
文庫600ページの長編小説を2時間におさめるのはムリ。

ふぐ丸

以下、ネタバレを含みます。

あらすじ

  • 新聞記者の加山聡(妻夫木聡)は、妻の光恵(井上真央)と2歳になる息子の翔太(小岸洸琉)と幸せな暮らしを送っていた。だが風の強いある日、翔太が倒れた街路樹の下敷きとなって死亡してしまう。
  • 翔太を殺したのは誰なのか。加山は事故を人災と見なし調査を始めるが、街路樹を管理する市の職員は、街路樹診断を怠った業者の責任だと言い張る。
  • 市から街路樹診断を委託された樹木医の足達(萩原聖人)は、極度の潔癖症であることを隠して仕事をしていたことを加山に告白する。事故当日、倒れた木の根元に犬のフンがあったため、その木にだけは近づけなかったと言う。
  • 加山は再び市役所を訪ね、クレームがあったにもかかわらず犬のフンを放置した職員の小林(芹澤興人)を責めるが、小林は「悪いのはフンをさせた犬の飼い主だ」と居直る。
  • 加山は事故現場の近くにある病院を訪ね、事故当日に翔太の受け入れを拒否した当直医の久米川(三浦貴大)を問い詰める。だが久米川もまた、内科医であることや風邪の患者で混み合っていたことを理由に責任逃れをし、謝罪の言葉を口にしようとしない。
  • 誰もが小さな罪を犯していたが、それは法で裁かれるものではなかった。加山は犯人探しをやめることを光恵に告げる。光恵と2人、翔太が生きていた頃に3人で旅行した場所を訪れた加山は、以前と同じように公園のゴミ箱に家から持ってきた家庭ゴミを捨て、自らが犯す小さな罪に気づく。

キャスト

加山聡……妻夫木聡
加山光恵……井上真央
加山翔太……小岸洸琉
加山路子……原日出子
加山彰……大鷹明良
海老沢一也……北村有起哉
大塚かなえ……相楽樹
足達道洋……萩原聖人
足達泰代……前田亜季
石橋忠行……鶴見辰吾
上村育夫……光石研
小林麟太郎……芹澤興人
粕谷静江……筒井真理子
田丸ハナ……梅沢昌代
三隅幸造……田山涼成
三隅菊江……田島令子
久米川治昭……三浦貴大
羽鳥恵美……堀内敬子
芦澤真人……大石吾朗
佐々倉研二……モロ師岡
斉木さん……竹内都子

原作について

このドラマの原作は、貫井徳郎さんの長編推理小説「乱反射」(2009年発行)です。
第63回日本推理作家協会賞長編及び連作短編部門受賞作。

文庫本600ページにも及ぶ長い作品です。

それぞれが犯す罪は、「まぁいいか」と思うような些細なこと。
誰もが心当たりのある小さな罪の連鎖が、ひとりの子供の命を奪ってしまう恐ろしさ。

600ページのうち半分以上が、事故にいたるまでの経緯です。
関係者ひとりひとりの視点から、緻密に、丁寧に描かれていきます。

そのため、わたしは事故に関わった人たちを「悪人」とは思えませんでした。

それぞれが抱える悩みや不満は、他人から見ればつまらないことです。
だけど、当人にとっては、自分の人生を認めるか否かに関わってくる重大なことでした。

些細なことが積み重なって「罪を犯してしまった」状況が、とてもよくわかるのです。

ひとつ間違えば、彼らは、自分だったかもしれない。
だからこそ、やりきれない。

法では裁けない殺人によって幼い子供を奪われた夫婦は、自分たちで気持ちの整理をつけるしかない。誰のせいにもできず、誰も恨むことができず、悲しみを抱えて生きていくしかない。

最後は救われない結末でしたが、貫井徳郎さんらしい重厚な作品でした。

感想

主人公夫婦を演じるのが妻夫木聡さんと井上真央さんと聞いて、めちゃくちゃ楽しみにしていました。ほかの出演者の顔ぶれを見ても、期待しかなくて。

映像や構成はすごくよかった。
思わず見入ってしまうほど、丁寧に作られていたと思います。

いきなり事故のシーンから見せるのも、インパクトがあってよかったです。
井上真央さんの演技がリアルで、いきなり引き込まれました。

夏蜜柑

やっぱり上手いよねぇ。もっとドラマ出てほしいわ。

内容的にも、重要な場面はきちんと見せてくれていたし、原作の設定を大幅に変えているわけでもない。

でも、原作が描いた「緻密に積み上げられていく偶然によって事故が引き起こされる」という部分が、やはり2時間では足りなかった。

夏蜜柑

この緻密さが大きなポイントなのよ。

原作には、ささやかながらも救われる場面があります。
ドラマではそういう場面が根こそぎカットされていたので、いっそう辛かった。

結末も、「主人公が自らの罪に気づく」ことと、「夫婦が前を向いて生きていく」という2つのメッセージを同時に見せてしまったため、ちょっと混乱してしまったかなぁ。

なんか惜しいなぁと思ってしまった。
2時間ドラマの限界。テレビ業界の皆さん、せめて前後編とかになりませんかね?

以下、原作小説からの補足です。

ラストシーンの意味

ドラマのラストは、当直医の久米川のもとに夜間診察を受けに来た、大学生らしき人物の不敵な笑顔のアップでした。

この人物は、原作に登場する安西寛を彷彿とさせます。
安西寛の詳細については後述しますが、彼もまた、翔太の死に関わる人物です。

加山が――あるいは視聴者が、知るよしもない〈小さな罪〉が、ほかにも存在するのだということを暗示しているように思えます。

裏返せば、わたしたちもまた、自分の知らないところで誰かを深く傷つけている可能性がある……ということ。

とても不気味で恐ろしいラストシーンでした。

加山聡と光恵

ドラマの聡はちょっと軽くて楽天家。
でもその明るさに救われる部分もあって、夫婦は仲睦まじく幸せそうでした。

原作の加山は、新聞記者らしい真面目で堅い人物です。
冗談を言ったりおちゃらけたりするシーンは皆無。

光恵との仲も、加山の父の介護をきっかけに険悪になり、かなり危ない状態でした。

原作の光恵は、事故の日からショックで寝たきりの状態になってしまい、加山ともずっと口をきいていません。
加山はひとりで事故の調査をして、光恵に一方的に報告するだけでした。

この夫婦に関しては、ドラマのほうがよかったです。

光恵がいつもと変わりなく日常を過ごし、翔太の靴下を洗濯したり、ご飯を作ったり、パートに出たりしているのが、かえって悲しみを引き立てていました。

潔癖症の造園業者

ドラマでは、潔癖症の足達を萩原聖人さんが演じ、社長の石橋を鶴見辰吾さんが演じていました。

加山に謝罪したのは、この2人だけ……というのは、原作と同じです。
原作のほうが、もっと真摯で誠実でした。

ドラマでは当初、社長の石橋は、会社を守るために真相を隠そうとしていました。

原作の石橋は、事故のニュースを知るとすぐに対応し、足達と一緒に警察に出頭しています。

子供が死んだことを知った足達は、「おれが殺してしまったんです。おれは人殺しです」と泣き崩れます。

加山に対しても、2人は最初から真摯に謝罪をしています。
「反対運動のおばちゃんたちに邪魔された」なんて言い訳もしていません。

足達はその後、業務上過失致死の容疑で逮捕されました。
足達の妻は子供を連れて実家に帰り、家庭は破綻してしまいます。

夏蜜柑

足達は事件の関係者で唯一人、罪を認めてくれた人でした。

市役所の職員

市の道路管理課の職員・小林。
ドラマでは、芹澤興人さんが演じていました。

いやーうまかったねぇ。

ふぐ丸

ほとんど原作と変わりないのですが、ドラマのほうがより嫌らしい感じが前面に出てました。

原作の小林は、20代半ばの青年です。
彼が加山に向かって浴びせた言葉は、ほぼ原作どおり。

原作では、じつは彼は一度、犬のフンを片付けているんです。
事故が起きるもっと前のことで、上村に命じられてイヤイヤですけど。

事故当日は、2度目だったんですよね。
それでよけいに「なんで俺ばっかり……」ってなってしまった。

気持ちはわからなくもないけど、事故で子供を亡くした加山に対してあの言い分はないんじゃないの……と思う。

トイプードルの飼い主

倒れた街路樹の根元に、犬のフンを放置していた飼い主・三隅。
ドラマでは、田山涼成さんが演じていました。

原作では、定年退職して居場所を失った頑固オヤジという設定。
もう典型的な昭和のサラリーマン。

「俺たちが家庭を顧みずに死に物狂いで働いてきたから、今の日本があるんだ」というプライドで凝り固まっていて、女性や若い人を平気で見下す。それが当たり前と思ってる。

でも、ふと気がつくと、妻は自分など関係のないところで楽しく過ごし、いっこうにかまってくれない。

今までの人生を否定したくない。でも素直に認められない。
淋しさやら妻への反発やらもあって、三隅はトイプードルを衝動買いします。

で、すっかり犬のとりこに。

この人も、最初はちゃんとフンを片付けていたのです。
でも、腰痛がひどくなって屈めなくなってしまい、フンを放置するようになって。

ドラマでは誰からも非難されなかったけど、原作では女子高生から注意されるシーンがあります。

この女子高生が、のちに加山に三隅の存在を教えることになります。
加山は光恵と一緒に三隅を厳しく糾弾しますが、三隅は「言いがかりだ」と罪を認めませんでした。

帰宅した三隅は、妻にすべてを打ち明け、同意を求めます。
妻は三隅の言葉に同意せず、「あなた、晩節を汚しましたね」と言い放ちます。

反対運動を起こす主婦

道路の拡幅工事で街路樹が伐採されると聞き、反対運動を起こした主婦・田丸ハナ。
ドラマでは、梅沢昌代さんが演じました。

彼女は、一流企業に勤める夫のおかげで何不自由なく暮らす世間知らずの主婦です。
自ら汗を流して働いたこともありません。

だから承認欲求が人一倍強く、常に「誰かに褒められたい」と思っています。

原作では、娘に「お母さんのようになりたくない」と言われて傷つき、娘を見返すために反対運動をします。

でも、自ら先頭に立って行う気はさらさらない。
そこで、英会話教室で出会った静江に話を持ちかけ、静江の行動力と人脈で大きな運動へと発展していきます。

ドラマでは、加山が彼女たちに接触するシーンはありませんでした。

原作では、加山は静江とハナの自宅を訪ねています。
2人とも、インターホン越しに「知りません」と繰り返すだけでした。

そのやりとりを聞いていたハナの娘は、「サイテー」と母親を非難します。

アルバイトの当直医

責任を負うのが嫌で救急要請を断った、やる気のない当直医・久米川。
ドラマでは三浦貴大さんが演じていました。

この人物も、ほぼ原作どおり。
ドラマでは、加山と久米川が雨の中で取っ組み合いになるシーンがありましたが、これは原作にはありませんでした。

原作の久米川は、夜間に診察を受けにくる大学生たちが悪い、と責任逃れをし、最初に夜間診療にやってきた学生の名前を加山に教えて逃げるのです。

この大学生・安西寛が、ドラマで割愛されていた重要人物のひとりです。

〈ドラマに登場しなかった人物・その1〉安西寛

虚弱体質の安西は、しょっちゅう風邪をひいて病院にかかっている大学生です。

彼はある日、夜間なら空いているから待たずに診察を受けられる、ということに気づきます。

それ以来、安西は風邪を引くと夜間に病院へ行くようになります。

しかもその病院には、やる気のない医師(久米川)がいる。
ほかの医師にあたると「風邪くらいで夜間に来るな」と注意されるけれど、久米川ならば何も言われない。

味をしめた安西は、そのことを大学で仲良くなった女の子に喋ってしまうのです。

そして、大学で「夜間診察時間帯なら空いている」という情報が出回り、大学生たちが夜間の病院に殺到することになります。

〈ドラマに登場しなかった人物・その2〉榎田克子

榎田克子は、車の運転が絶望的に下手な20代の女性です。

ドラマでは、翔太を乗せた救急車が、2時間もたらい回しにされるという場面がありました。
原作では、道路が渋滞していたために、救急車が前に進めなかったのです。

その渋滞の原因を作ったのが克子でした。
克子はとんでもなく車庫入れが下手で、すぐにパニックに陥ります。

克子には美人でスタイルのいい高校生の妹がいて、両親は妹の言いなり。

車を買い換える時も、運転免許を持っている克子の意見など聞かず、「SUVがいい」という妹の意見を取り入れて大きなSUVを購入してしまいます。

克子の家の前には交通量の多い道路があり、ガレージに車を入れるたびに車の流れを止めなければなりません。

事故当日も、克子は必死に車庫入れを試みますが、何度切り返しをしてもうまくいかず……。
パニックになった克子は、結局、道路に車を放置したまま家の中に逃げ込んでしまう。

道路を渋滞させたのは、克子が放置したSUVでした。

加山は克子を糾弾しますが、克子もまた言い逃れをして謝罪しません。
人の死の責任を負うことが、怖かったからです。

克子は加山と別れた後、すぐに花束を買って事故現場へ行き、「ごめんなさい」と加山に言えなかった謝罪を繰り返します。そしてその場で運転免許証を破り捨て、二度と車に乗らないことを誓います。

翔太を殺したのは誰?

事故について調べれば調べるほど、わからなくなる加山。

原作に、加山が光恵に語るこんなセリフがあります。

みんな少しずつ身勝手で、だから少しずつしか責任がなくて、それで自分は悪くないと言い張るんだよ。おれは誰を責めればいいのかわからなくなってきた。世界中の人全部が敵で、全員が責任逃れをしている気がする。おれたちの悲しみや苦しみをわかってくれる人は、世の中にいないのかもしれない。そんなふうに考えると、怖くて悲しくてしょうがないんだ。

ドラマは、犯人探しをやめた加山が、光恵と2人で旅行に出かけ、公園のゴミ箱に家庭ゴミを捨てようとしてハッとする場面で終わっていました。

原作では、加山は事故に関わった人々のことを記事にして、世間に訴えようとします。

しかし、上司の海老沢に「私情が絡んだ個人批判を新聞でするのは間違っている」と言われ、断念。その後ホームページを立ち上げますが、寄せられる意見の半分は、加山を批判するものでした。

ひとりひとりが自己主張をし続ければ、どこかで破綻するのは少し想像力を働かせればわかることだろう。にもかかわらず大半の人は、あえて想像力を殺して何も見えない振りをしているのか。手にしているわずかな権利が、世間の人はそれほどにいとしいのだろうか。

『乱反射』朝日文庫より引用

社会に失望し、巨大な絶望感に押しつぶされそうになる加山。
怒りの矛先を見失った加山は、無情な壁の前になすすべもなく立ち尽くします。

しかし、本物の絶望はそこからでした。

加山の罪

会社の上層部からホームページを閉鎖するよう命じられ、行き場を失う加山。
ふと、立ち寄ったコンビニでゴミ箱を見て、あることを思い出します。

高速道路のサービスエリアで、こっそり家庭ゴミを捨てたことを。
自分もまた、彼らと同じ罪を犯していたことを。

彼らが息子を死に追いやった殺人者ならば、自分もまた殺人者だと気づき、慟哭する加山。

息子の死をめぐる加山の戦いは、このときに終わりを迎えたのだと思います。

その後、加山と光恵は沖縄を旅行します。
2人が穏やかに健太の死を受け入れる場面で、物語は終わります。


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