NHKドラマ「浮世の画家」感想|記憶の中の“ものが焦げる匂い”

NHKドラマ「浮世の画家」

「浮世の画家」

どうも、夏蜜柑です。
NHKドラマ「浮き世の画家」の感想です。

原作よりサスペンス感が盛られていましたが、個人的には好きな雰囲気でした。
不安を煽る音楽や、渡辺謙さんの渋いモノローグにぞくぞくしました。

原作を読んでいたときに私の想像力では補えなかった細かい部分が鮮明に表現されていて、それだけでも「おぉ」と。

ひとつひとつの表現が芸術的で、鮮やかな色彩も陰影も絵のように美しかった。
目が喜んでましたね。

夏蜜柑

贅沢な90分でした。

あらすじ

  • 終戦から数年後。妻と息子を戦争で失った老画家・小野益次(渡辺謙)は、豪邸で隠居生活を送っていた。ある日、長女・節子(広末涼子)が孫の一郎(寺田心)を連れて小野家を訪れる。
  • 次女・紀子(前田亜季)は、昨年三宅家から縁談を断られており、節子は小野の過去のせいではないかと勘ぐっていた。節子は今度の縁談に向けて、慎重な手順を踏んだ方がいいと小野に忠告する。
  • 一郎を映画に連れて行った小野は、街で紀子の縁談相手の父親である斎藤博士(佐野史郎)に声をかけられる。斎藤が小野のかつての弟子・黒田(萩原聖人)と知り合いだと知った小野は、気まずさを覚える。
  • 小野のかつての弟子・信太郎(佐藤隆太)が訪ねてくる。信太郎は新設高校への採用が決まりかけていたが、過去のことが審議会で問題になっていると言う。信太郎は審議会宛に手紙を書いて欲しいと小野に頼む。
  • 小野は黒田のもとを訪ねるが、黒田は留守だった。代わりに応対した黒田の弟子・円地(渡辺大知)は、快くもてなすが、相手が小野だとわかると態度を豹変させる。小野は黒田に会うことなく家を後にする。
  • 紀子の見合いの日がやってくる。斎藤家の次男・満男(小日向星一)の視線に戸惑う小野。満男は黒田が教えている上町大学の学生だった。小野は黒田が自分のことをよく思っていないことを語り、自分が多くの過ちを犯してきたことを認める。
  • 紀子の縁談は無事にまとまるが、節子とは話が噛み合わない。小野は節子に「私の絵はどこにしまったのか」と訊ねる。節子は答えず、ますます不安に駆られる小野。
  • 若かりし頃の小野(中村蒼)は、父親の教えに背いて絵の道に進み、高名な画家・森山誠治(小日向文世)に見いだされ弟子となった。しかし松田知洲(大東駿介)との出会いが小野を変えた。小野は戦意高揚のためプロパガンダ絵画を描くようになり、森山のもとを離れた。
  • 黒田がかつての小野のように、師とは違う道を進もうとしていることを知った小野は、非国民活動統制委員会に黒田の情報を提供した。その結果、黒田の絵は焼かれ、黒田は警察に連行されて拷問を受けることとなった。
  • 小野は、庭で自分の絵を燃やしてしまったことを思い出す。節子はそれを見ていたのだった。松田は「自分たちのことを不当に非難する必要はない」と小野に語り、まもなくこの世を去る。
  • 信念に従い、全力を尽くしてきた人生を肯定しようと努める小野。街で笑い合う若い会社員たちの前途に祝福あれと祈るものの、ためらい橋で立ち止まる小野の目からは涙が溢れる。

感想

記憶の中の“ものが焦げる匂い”

全体的に原作よりもわかりやすい、メリハリの効いた作品になっていました。

小津安二郎を思わせる穏やかな縁側から、あの炎は想像できませんでしたね。
原作には小野が絵を燃やす場面はなかったので、衝撃的でした。

しかも本人は覚えていなかった……。

喪服を着ていたから、息子のお葬式の日だったのでしょうか。
節子の夫・素一の言葉がきっかけだったのかもしれません。

「勇敢な若者はバカげた目的のために命を奪われ、本物の犯罪人はまだのうのうと生きてる。自分の正体を見せることを恐れ、責任を認めることを恐れている。僕らに言わせればそれこそ、卑劣きわまる態度です」

わたしには、素一が小野に向けて言った言葉だとは思えないのですが、小野は自分に向けられた言葉として受け止めたのでしょう。

こういうことってよくありますよね。後ろめたいことがあったり、自意識過剰になっていると、何でも自分のこととして受け止めてしまうこと。

弟子の黒田の絵が燃やされてしまったことも、小野は心の底でずっと気に病んでいたのだと思います。子供の頃、自分の絵を父親に燃やされてしまったときと同じように。

原作の小野は、「ものが焦げる匂い」を「空襲と火災を連想した」と語っています。そこに「絵を燃やす」要素が加わったことで、ドラマならではの凄みのあるシーンになっていました。

ラストシーンの涙

過去の記憶を辿り、見合いの席で過去の過ちに言及し、堂々と受け入れたかのように見えた小野でしたが……。

少なくとも俺たちは信念に従って行動し、全力を尽くしてことにあたったと。たとえ後年に至って、自分の過去の業績をどう再評価することになろうとも。

ためらい橋にさしかかると、こらえようもなく涙があふれてきます。
原作は前向きな言葉で終わっているので、このラストシーンはドラマオリジナルでした。

言葉で言うようには、簡単に受け入れられなかったのかもしれません。
複雑な小野の胸中を想像することはできましたが……。

わたしには少し感傷的すぎるように思えたかな。
原作の前向きな終わり方のほうが好みでした。

揺れる過去とほんとうの満足感

ドラマにはありませんでしたが、原作には、成功を手にした小野が師・森山の別荘を再び訪ねる場面があります。

小野が栄誉ある賞を受賞し、弟子や何人もの画家仲間に祝福された直後です。
一方の森山は愛国心に反すると見なされ、雑誌の挿絵を手がけるまでに落ちぶれていました。

小野は、自分をクビにした森山に嫌味を言ってやろうと思っていたんですね。
ところが、別荘を見下ろしていた小野の胸に、予期せぬ思いがこみ上げてきます。

これまでの努力と苦労がようやく報われた、という思い。
本当に価値あるもの、名誉あるものを成し遂げた、という思い。

強い満足感と幸福感に満たされた小野は、森山に会うことなく、その場を去ります。
森山に復讐する必要を感じられなくなったのです。

小野にとって、「全力を尽くして」得たほんとうの満足感は、何にも代えがたい喜びでした。

この場面のあと、「松田とはよく喧嘩したけれども――」と語られ、ラストシーンに繋がります。

小野が戦時中に信じ「全力を尽くして」いたことは、間違っていました。
あのとき得た満足感も幸福感も、今となっては幻のようなもの。

わたしはこの主人公を最後まで好きになれなかったけれど、彼の人生を否定することはできませんでした。

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