WOWOWの連続ドラマ「完全無罪」(全5話)についてまとめました。
「テミスの求刑」「両刃の斧」などで知られる推理作家・大門剛明氏の同名小説をドラマ化。21年前に起こった少女誘拐殺人事件の冤罪再審裁判の行方を描いたリーガル・ミステリー。
別の誘拐事件の被害者である主人公が、同一犯である可能性が高い容疑者の担当弁護士となり、真相を暴くため、そして自分の過去と向き合うために事件に立ち向かいます。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2024年7月7日(日)22:00~ほか〈全5話〉
- 原作:大門剛明『完全無罪』
- 脚本・監督:大森立嗣(「星の子」「MOTHER マザー」「湖の女たち』)
- 音楽:江﨑文武
あらすじ
東京の大手法律事務所に所属する期待の弁護士・松岡千紗(広瀬アリス)は、同事務所のシニアパートナー・真山健一(鶴見辰吾)から、21年前に香川県で起きた少女誘拐殺人事件「綾川事件」の再審請求の担当に抜擢される。綾川事件と同時期に、立件されていない少女誘拐事件が他に2件あり、千紗はその被害者のひとりだった。およそ10年ぶりに故郷・香川に戻った千紗は、地元の弁護士・熊弘樹(風間俊介)の力を借りて事件を調べ直す。三つの事件は同一犯の可能性が高いとされ、千紗は自分を殺していたかもしれない容疑者・平山聡史(北村有起哉)と向き合う。一方、綾川事件を担当した元県警刑事で、今は被害者サポートセンターで働く有森義男(奥田瑛二)は、被害者遺族の池村敏恵(財前直見)に寄り添う中で、冤罪を主張する平山に疑念を抱く。そして、元相棒刑事の今井琢也(音尾琢真)とともに、再審請求審で千紗と対峙する。
WOWOW公式サイトより
予告動画
原作について
このドラマの原作は、大門剛明氏の推理小説『完全無罪』(2019年刊行)です。
冤罪を題材にしたミステリー。誘拐事件の被害者である主人公が、容疑者の無実を信じ、完全無罪を勝ち取るために奔走します。
まっすぐに人を信じようとする主人公が危なっかしく、読んでいてハラハラしました。
その証言はウソなのか、本当なのか、本当だとしても何か裏があるのか。登場人物の誰もが怪しく見えてきて、わからなくなります。
小説は淡々と進みますが、ドラマではスリラー要素がさらに盛り込まれ、いっそう不穏で不気味な雰囲気に仕上がっています。
登場人物
松岡千紗(広瀬アリス)
フェアトン法律事務所の弁護士。21年前に起こった連続誘拐事件の被害者のひとりで、今もトラウマに苦しんでいる。過去と向き合うため、冤罪を主張する容疑者・平山の担当弁護士を引き受ける。
平山聡史(北村有起哉)
21年前の誘拐殺人事件の容疑者。無期懲役刑で服役している。無実を主張するが事件時のアリバイはなく、車内から被害者の毛髪が発見されており、取り調べでは自供している。
有森義男(奥田瑛二)
被害者サポートセンターの支援員。元県警刑事。自身も娘を交通事故で亡くしている。21年前に綾川事件を担当しており、平山の有罪を主張する。綾川事件の被害者遺族である池村敏恵のことを気にかけている。
熊 弘樹(風間俊介)
香川第二法律事務所の弁護士。千紗の小学校の先輩。綾川事件と向き合う千紗に寄り添い、手助けする。
真山健一(鶴見辰吾)
フェアトン法律事務所のシニアパートナーであり、元最高裁判事。千紗を綾川事件の再審裁判の担当に抜擢する。
池村敏恵(財前直見)
21年前の綾川事件の被害者・池村明穂の母。娘を亡くし、自身も心に傷を負いながら、被害者サポートセンターで支援員として働いている。21年前から寄り添い続けてくれている有森に感謝している。
今井琢也(音尾琢真)
元県警刑事。有森の部下。21年前に綾川事件を担当し、平山から自白を引き出した。綾川事件の捜査に関する秘密を有森と共有している。
瀬戸口規夫(堀部圭亮)
フェアトン法律事務所の弁護士。21年前に綾川事件を担当した元検事。
中垣内(菅原大吉)
有森の昔なじみの記者。事件を追って、有森を取材する。
田村彪牙(夏生大湖)
千紗が担当した、幼児突き落とし事件の被告人。自宅のベランダから交際相手の2歳の娘を突き落とし、殺害した容疑で起訴されたが、無罪判決を勝ち取った。
松岡茂(おかやまはじめ)
千紗の父。うどん屋「長楽」の店主。平山の担当弁護士となった千紗を心配する。
松岡ゆう子(池谷のぶえ)
千紗の母。10年ぶりに千紗が香川に戻ってきたことを喜ぶ。弁護士として成長した千紗を誇りに思いつつ、常に身を案じている。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
フェアトン法律事務所の弁護士・松岡千紗(広瀬アリス)は、誰もが有罪を疑っていた幼児突き落とし事件の容疑者・田村彪牙(夏生大湖)の無罪判決を勝ち取り、一躍有名になる。
千紗はシニアパートナーの真山(鶴見辰吾)から、21年前に香川県で起こった「綾川事件」の再審裁判の担当を打診される。綾川事件は8歳の池村明穂が誘拐・殺害された事件で、犯人の平山聡史(北村有起哉)は無期懲役で服役中だった。
同時期に別の誘拐事件が2件発生しており、1人は行方不明、もう1人は逃げ出して生還していた。同一犯の可能性が高いと思われていたが、平山は明穂の事件のみで起訴され、ほかの2件については未だに犯人は捕まっていなかった。
千紗は平山と向き合う決意をし、10年ぶりに故郷・香川に帰省する。香川第二法律事務所の弁護士で、千紗の幼なじみでもある熊弘樹(風間俊介)のサポートを受け、再審に向けて動き出す千紗。
しかし、平山には事件時のアリバイがなく、車内からは被害者の毛髪が発見され、平山自身が取り調べで自供し、遺体の場所を指示するなど不利な点が多く、無実の証明は難しいと思われた。
さらに平山自身にやる気が感じられず、苛立った千紗は思わず「どうして本気で話してくれないんですか?」と問い詰める。すると平山は「あなたが本気じゃないからです」と反論する。
本心を見抜かれた千紗は、平山に自分がここへ来た本当の理由を語る。平山の冤罪を晴らしたいのではなく、自分を誘拐した犯人を見つけ出したいのだと。千紗は21年前に誘拐されて生還した事件の被害者のひとりだった。
平山は千紗が本音を語ってくれたことに感謝し、これまで誰も本気で自分と向き合ってくれなかったと吐露する。そして「自分は誰も殺してない。あなたを誘拐したのも私じゃない。無実です」と心から訴える。
一方、21年前に綾川事件を担当した元県警刑事の有森義男(奥田瑛二)は、被害者サポートセンターの支援員として活動していた。センターでは綾川事件の被害者である池村明穂の母・池村敏恵(財前直見)も働いており、有森は21年間ずっと彼女に寄り添い続けていた。
そんな有森のもとに、21年前に綾川事件を担当した元検事で、現在はフェアトン法律事務所の弁護士として働く瀬戸口規夫(堀部圭亮)から連絡が入る。綾川事件の再審請求があるかもしれないと聞かされた有森は、「心配無用です。平山聡史は池村明穂を殺してますから」と断言する。
平山の心からの訴えを聞いた千紗は、無実を信じて再審請求に向けて動き出す。科捜研の元職員・福家のもとを訪ねた千紗は、21年前に平山の車内から見つかった毛髪には毛根が残っていたこと、自然落下ではなく引っ張られて抜けたものだということを知らされる。
千紗の報告書を読んだ真山は、再審請求を行うことを決定。それを知った瀬戸口は、21年前に平山の取り調べを行った元刑事の有森と今井(音尾琢真)に連絡し、釘を刺す。平山の有罪を信じる有森は怒りをにじませ、被害者遺族の敏恵に謝罪とともに報告する。
千紗は平山と面会し、取り調べで何があったのか尋ねる。平山は取り調べの11日目まで犯行を否認していたが、12日目に突然自白していた。千紗は平山が妹の自殺を知って心神喪失状態にあったのではないかと考えていた。
平山は有森と今井から数え切れないほどの暴力を受けたこと、殺すぞと脅されたこと、知りもしない遺体のあった場所まで誘導されたことを涙ながらに打ち明ける。そして妹が自ら命を絶ったのは、有森らが彼女に「平山が自白した」と嘘をついたからだと話す。
再審請求審が行われ、有森と今井が証人として呼び出される。千紗に「私の目を見て本当のことを言ってください」と訴えかけられた有森は、千紗が21年前の誘拐事件の被害者であり、自分が取り調べを行ったことを思い出す。動揺する有森だったが、己の正義を信じ、平山に対する取り調べは適法だったと断言する。
その後、千紗のもとにDNA型の再鑑定結果を知らせる連絡が入る。毛髪のDNA型は池村明穂のもので間違いないという。それを聞いた千紗は、警察が証拠を捏造したのではないかと疑う。
有森の部下だった今井は、当初有森と同様に違法な取り調べを否定していた。しかし千紗が21年前の誘拐事件の被害者だと知ると、「すべては警察による捏造だった」と告白し、供述調書を有森と一緒に作成したことや、池村明穂の遺体から毛髪を引っこ抜いて平山の車の中に置いたことを打ち明ける。
今井が違法な取り調べと証拠捏造を証言したことで、綾川事件の再審開始が決定する。しかし平山に対する世間の目はなおも冷ややかで、平山自身も喜ぶ素振りを見せなかった。
そんな折、千紗が無罪判決を勝ち取った幼児突き落とし事件の容疑者・田村彪牙が傷害事件を起こす。田村は「あのガキ殺したのは俺なんだよ」と言い、今回の事件で実刑にしたらそのことをマスコミにバラしてやる、と千紗を脅す。千紗が弁護人を辞めると言うと冗談だと撤回するが、千紗は冷めた気持ちになる。
今井はテレビ番組に出演して「上からの圧力に屈した」「ベテラン刑事に背中を押された」などとコメントし、有森の家にはマスコミが殺到する。懇意にしていた記者にも裏切られ、隠し撮りした映像をテレビ番組で流される。誹謗中傷や嫌がらせなどが強くなり、有森は引っ越しを余儀なくされる。
綾川事件の元検事・瀬戸口は、今回の件はすべて真山が裏で糸を引いていると考え、やりすぎだと忠告する。
平山に対する刑の執行停止が言い渡され、平山は21年ぶりに釈放される。千紗は平山への疑惑を払拭しようと、改めて綾川事件の真相を追うことを決め、当時目撃証言をした川田清に会いに行く。
川田は21年前、平山が高木悠花を連れ去るところを見た、と証言していた。しかし現在の川田は寝たきりの状態で、千紗の問いかけにもまともに答えることができなくなっていた。
有森は、今井が罪悪感からではなく、借金返済のために警察を裏切って〝ヒーロー〟になることを選んだのではないかと疑う。有森は「一緒に真実を追いかけてくれ」と今井に懇願するが、足蹴にされてしまう。
敏恵に謝罪する有森だったが、「あなたは自分よりも人のことを思いすぎる。だから間違えたんじゃないですか」と指摘される。
再審により、平山の完全無罪が確定する。東京で平山の無罪を祝うパーティーが開催されるが、事件とは無関係の女性が入り込み、「人殺し!」と叫んで平山に掴みかかるという騒動が起きる。
パーティーの帰り、平山は千紗に「ありがとう。こんな人殺しを無罪にしてくれて」と告げる。
平山の言葉の真意が理解できず、不安に駆られた千紗は、平山の行動を監視する。尾行してたどり着いたのは、一軒の荒れ果てた空き家だった。
その場所こそ、21年前に誘拐されたとき監禁された家だったことを思い出す千紗。千紗は警察に通報するも、犯人の手がかりになるものは何も発見されなかった。
21年前に目撃証言をした川田清が死亡する。川田のもとに男が2度訪ねてきていたことを知った有森は、事件性を疑うが、警察に一蹴されてしまう。
千紗は平山の家を訪ね、空き家の件で平山を問い詰める。平山は差出人不明の手紙が届いたことを明かす。その手紙には、自分が21年前の一連の誘拐事件の真犯人であると書かれており、その空き家に証拠があるというので確かめに行った、と平山は語る。
パーティーの帰りに「こんな人殺しを無罪にしてくれて」と言ったのは、世間的には自分がまだ人殺しであることを思い知ったからだという。そして自分が刑務所で諦めきれなかったのは自殺した妹・佳澄のためであり、千紗が真犯人を見つけようと一生懸命になるのも、自分のためではなく死んでしまった2人の少女のためではないのか、と指摘する。
有森のもとに不審な人物から電話がかかってくる。電話の主は「平山聡史は人殺しだ」と告げ、平山が高木悠花を殺した証拠があると言う。
電話の主に誘導され、綾川町の神社に足を運んだ有森は、古井戸の中に白骨化した遺体を発見する。電話の主は、「その遺体に平山の毛髪を付着させて発見させればいい」と告げる。
古井戸から見つかったのは、21年前に誘拐されたもうひとりの少女・高木悠花の遺体だった。遺体に付着していた毛髪のDNA型が平山のものと一致したと聞かされ、激しく動揺する千紗。
警察は平山の身柄を確保すべく動き出すが、平山は講演中に姿をくらまし行方不明に。千紗は平山が自殺する可能性もあると考え、必死に平山を捜す。
その夜、千紗は有森から連絡を受け、彼と会う。有森は不審な人物からかかってきた電話の一部始終を話し、古井戸で遺体を発見したが、平山の毛髪を付着させたのは自分ではないと断言する。そして平山を犯人と決めつけた自分が間違っていたと認める。
千紗と熊は、東京で開催されたパーティーの出席者の中に犯人がいるのではないかと考え、リストを確認する。千紗は熊が何かを隠していることを知り、一瞬彼を疑う。
千紗と有森のもとに、それぞれ不審な人物から連絡が入る。夜遅く、2人は電話の主に呼び出され、例の空き家へと向かう。千紗が到着すると、今井が血を流して倒れており、その傍らに有森が立っていた。
そこへ平山が現れ、今井を刺したのは自分だと告げる。今井は21年間ずっと、有森と今井に復讐することだけを考えていた、再審請求をしたのも2人に復讐するためだった、と明かす。
平山のもとに届いた差出人不明の手紙は、川田清からのものだった。川田は死ぬ前に平山と会い、彼にだけ真実を打ち明けていた。平山はその告白を撮影した動画を千紗と有森に見せる。
21年前に池村明穂と高木悠花を殺し、千紗を誘拐した犯人の正体は川田だった。死を目前にした川田は千紗の訪問を受けて罪悪感に駆られ、罪を被せた平山に謝罪して真実を打ち明けることを決意したのだ。
なぜ警察に通報しなかったのかと問う千紗に、平山は自分も怪物になっていたと語る。有森と今井に電話をかけ、高木悠花の遺体に平山の毛髪を置いて犯人に仕立て上げろと誘導したのは、2人が本心から反省しているかどうか試すためだった。
だが今井は借金の肩代わりを条件にすんなりと取引に応じ、平山の毛髪を遺体に置いたという。すべては金のためで、反省などしていなかった。
平山が許せないのは冤罪に陥れられたことではなかった。復讐の根源にあるのは有森と今井が妹の佳澄に嘘をついて死に追いやったことへの怒り。そして佳澄が平山の無実を知らないまま、平山が殺人者だと思い込んだまま死んだことに対する絶望だった。
「佳澄を返してくれ」と有森に泣いて縋る平山。次の瞬間、平山は駆けつけた警官に撃たれてしまう。
平山と今井は一命を取り留める。東京に戻った千紗は、事務所を辞めることを真山に告げる。今井に警察を裏切って真実を話し、テレビ出演や本の出版で儲けるよう持ちかけたのは熊だった。そして熊にその戦術を教えたのは真山だった。
真山は今回の件で瀬戸口を失脚させたかったと言う。そして、正義では収まらない人間の〝狂気〟に触れることこそ、この仕事の醍醐味だと語る。
千紗は香川へ帰省し、入院中の平山を見舞う。平山は「ありがとうございました」と一言、千紗に告げる。有森と敏恵は被害者サポートセンターに復帰し、これまでと同様、支援員として働く。
千紗はこれからもフェアトン法律事務所で働くことを決める。香川で千紗と一緒に働けると思い込んでいた熊は落胆し、千紗への叶わない思いを打ち明ける。
その日、実家で眠っていた千紗は深夜に目を覚ます。いつも見えていた2人の少女は、どこにもいなくなっていた。
感想(ネタバレ無)
WOWOWオンデマンドで全話視聴しました。すごかった…。
原作を読んでいるのでストーリーは知っていました。ですが、映像になったことでひとつひとつのシーンがリアルに目の前に迫ってきて、圧倒されました。
一瞬も見逃せない独特のカメラワークと、緊張感の伝わる長回し、セリフらしくないセリフが、良い意味でテレビドラマっぽくなくて、リアリティを感じさせるんですよね。からだのどこか遠くのほうで、ざわざわする感じ。
広瀬アリスさん良かったです。大森監督との対談を見ると「演技しないで」と言われていたそうで、なるほどなと思いました。日常会話と同じような低めのトーンで淡々と話す感じ、香川の風景の中にぽつねんと立っている頼りなげな(でも芯の強さも感じる)ところがすごく好き。
一番心に残っているのは、第4話で平山の家から出てきた千紗が道に立ち尽くすシーン。目の前に2人の少女(幻影)がいて、そのときの彼女の表情が本当にすごくて。セリフは一言もないけれど、たしかに対話を感じるんです。このシーン、たぶんずっと忘れられない。
各話のタイトルは原作の各章のタイトルと同じになっていて、ストーリー展開はほぼ原作通りでした。キャラクターの設定に少し違うところもありましたが、大きく変わっているところはなかった印象です。
以下、原作とドラマの違いを交えて、印象に残った部分の感想を詳しく書いていきたいと思います。
ここから先は結末と原作のネタバレを含みます。ご注意ください。