ドイツ史上最大級の制作費が投入され、大ヒットとなったドイツ発の連続ドラマ「バビロン・ベルリン」。
2019年にBS12で放送されたときは何の予備知識もなく見始め、歴史的な背景がよくわからないまま(それでも充分面白かったのですが)シーズン1&2が終了。
シーズン3の放送が始まる前に、少しはドイツの歴史を知っておこうと思い立ち、遅ればせながら勉強しました。
この記事では、「ドイツの歴史をよく知らない」という方のために、ドラマを見るうえで知っておくと役に立つ事柄をできるだけわかりやすく解説しました。参考にしてもらえるとうれしいです。
時代背景
年代 | 出来事 |
---|---|
1910年 | フロイトが国際精神分析協会を設立 |
1914年 | 第一次世界大戦が始まる |
1917年 | ロシア革命 |
1918年 | ドイツ革命 |
1919年 | ヴェルサイユ条約 ワイマール共和国(ドイツ共和国)成立 |
1921年 | アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞 |
1922年 | ソヴィエト社会主義共和国連邦成立 |
1925年 | ソ連の政治家トロツキー失脚(1929年に国外追放) |
1926年 | ドイツが国際連盟に加入 |
1929年 | ベルリンで共産主義者の暴動 世界恐慌 |
1932年 | 総選挙でナチス第1党に躍進 |
1933年 | ヒトラーが首相に就任、国際連盟脱退 |
1934年 | ヒトラーが総統に就任 |
1939年 | 第二次世界大戦が始まる |
第一次世界大戦
主人公ゲレオン・ラートがPTSDを発症する原因となった第一次世界大戦。戦争に至った経緯や背景は複雑なので、ここでは概要だけを簡単に説明します。
1914年から1918年まで、ヨーロッパを主戦場に繰り広げられた人類最初の世界戦争が第一次世界大戦です。
ドイツ・オーストリアを中心とした同盟国と、イギリス・フランス・ロシアを中心とした協商国が、植民地をめぐる対立や民族的対立などを背景として対戦しました。
1917年にアメリカが参戦して協商側につき、1918年11月にドイツが降伏して同盟国側が敗北。翌年のパリ講和会議でヴェルサイユ条約が締結されました。
今では珍しくない戦闘機、潜水艦、戦車、毒ガスなどはこの戦争から出現した新兵器で、それまでの戦争とは比較にならないほど多くの兵士の命を奪いました。
約7000万の軍人が動員され、1000万人あまりの戦死者、その数倍もの負傷者・行方不明者を出したといわれています。また空襲などにより、一般国民の生活にも深刻な影響を与えました。
敗戦国ドイツは戦争責任を全面的に負わされ、ヴェルサイユ条約にいっさい抗弁せずに調印することを強いられます。
領土の縮小、海外植民地の放棄、軍備制限などに加え、1320億マルクという天文学的な賠償金を課せられたのです(ドイツがこの賠償金を払い終えたのは2010年です)。
ドイツ国民はヴェルサイユ条約の苛酷な内容に強い不満を抱き、やがてその感情はヒトラーの運動を育てる温床となっていきます。
ワイマール共和国
ドラマの設定は1929年なので、ワイマール共和国時代にあたります。
ワイマール共和国とは、第一次世界大戦後の1919年に成立したドイツ共和国の通称です(正式な国名はドイツ国)。
それ以前は皇帝ヴィルヘルム2世が統治する帝政ドイツ(ドイツ帝国)でしたが、1918年11月9日のドイツ革命(11月革命)によって倒され、ヴィルヘルム2世はオランダへ亡命しています。
ドイツ革命を指導した社会民主主義勢力がワイマールで国民議会を開いたため「ワイマール共和国」と呼ばれるようになりました。18の連邦からなり、当時もっとも民主的かつ理想的とされたワイマール憲法を制定しました。
しかし第一次世界大戦の賠償問題などでドイツ国内は混乱し、売春やドラッグが流行。その退廃的ムードはキャバレーやナイトクラブなどの大衆文化が栄える契機となり、首都ベルリンには数多くの芸術家や学者が集い、芸術文化が一気に花開きます。
そのため、ワイマール共和政下のドイツは「黄金の20年代」とも呼ばれました。
アメリカなどから資本を受け入れて経済の立て直しをはかり、ようやくドイツ社会に安定が訪れたのも束の間、今度は世界恐慌が襲います。
1929年10月にアメリカ・ウォール街の株価暴落から始まった世界恐慌は、ドイツ経済にも打撃を与えます。失業者数は300万人から倍の600万人に膨れ上がり、ハイパーインフレが深刻化。共和国政府に対する国民の不満が頂点に達していたところに、ナチスが台頭してきます。
ナチスは「賠償金の支払い停止」や「地代の廃止」を訴えかけて労働者層を中心に支持を拡大し、選挙で大勝。1933年、ナチス政権の樹立によってワイマール共和国は崩壊します。
ワイマール文化
ワイマール共和政時代に花開いた文化を「ワイマール文化」と言い、美術、演劇、文学、映画、建築、思想、社会科学の各分野で成果を残しています。
映画界では「カリガリ博士」や「メトロポリス」などの映画史に残る作品が誕生。当時はサイレント映画でしたが、末期には「嘆きの天使」などのトーキー映画も製作されました。
この頃ベルリンを訪れたイギリス人作家クリストファー・イシャーウッドは、短編小説「さらばベルリン」を書き、のちに「キャバレー」という題でミュージカル化・映画化され大ヒットしました。
ドラマの中に登場する「三文オペラ」はベルトルト・ブレヒトの戯曲で、1928年8月にシッフバウアーダム劇場で初演されました。ドラマでもこの劇場でしたね。
ワイマール文化は「華やかではあるけれど、矛盾に満ちた不協和の文化」とも言われています。伝統的なドイツ文化に比べると近代主義的・世界主義的であったため、当時のドイツの一般大衆にはなじめなかったとか。
この時代に活躍した人物を一部だけあげると、画家パウル・クレー、建築家ヴァルター・グロピウス、劇作家ベルトルト・ブレヒト、作曲家オットー・クレンペラー、パウル・ヒンデミット、指揮者ブルーノ・ワルター、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、映画監督フリッツ・ラング、ロベルト・ヴィーネ、女優マレーネ・ディートリッヒ、作家トーマス・マン、エーリッヒ・ケストナー、哲学者マルティン・ハイデガーなど。
共産主義
シーズン1の第4話で、ゲレオンとブルーノが共産主義者の暴動に巻き込まれる場面があります。これは実際にあった事件で、血のメーデー事件と呼ばれています。
「共産主義」とは、すべての財産を共有することで貧富の差のない平等な社会を実現しようとする思想や運動のこと。この考え自体は古くからあるものですが、現代では主に〈マルクス主義〉を指します。
マルクス主義は、マルクスとエンゲルスによって説かれた社会主義思想の一つです。『資本論』や『共産党宣言』などにまとめられました。
社会が進化を続け、資本主義社会が矛盾を来して崩壊すると、最終的には「共産主義社会」に移行すると彼らは考えたのです(この結論に至る根拠は一言では説明できないので省きます)。
労働者をこき使う資本家から富を奪い、社会全体の共有財産にすれば、階級のない協同社会が実現すると主張したのですね。
ちなみに社会主義は、共産主義(完全に平等な社会)を実現する前段階の状態。市民に平等に富を行きわたらせるために、政府による資産の所有や管理、分配などが行われます。
ソビエト連邦は、歴史上初めて誕生した社会主義国家でした。創設者のレーニンは、マルクス主義を帝国主義の条件にあてはめて、創造的に発展させたと言われています。
当時は多くの人が社会主義国家こそ理想の国家だと信じていました。
トロツキスト
ドラマでは、カルダコフ率いるトロツキスト集団〈赤の砦〉が登場します。彼らはトロツキーがいるイスタンブールに金塊を運ぼうとしていました。
ロシア革命の指導者のひとり、レフ・トロツキー(1879~1940)の思想やそれを実践する運動のことを「トロツキズム」と言い、トロツキズムを主張する人を「トロツキスト」と呼びました。
トロツキーはスターリンと対立して敗北、1929年にソ連から追放されることとなり、その後スターリンは政権の座につきました。そのため、「トロツキズム」「トロツキスト」というのは当時のスターリンらが批判的に与えた呼称です。
ドラマでも、カルダコフ率いるトロツキスト集団が、ソ連大使館の職員に命を狙われる…というストーリーになっていましたね。
ちなみにトロツキーが目指したのは世界革命による世界社会主義の達成で、ざっくり言うと、諸外国で革命を起こして社会主義の国を増やし、全世界的規模での社会主義の勝利を望んでいました。
それに対し、スターリンは一国社会主義を掲げ、ソ連だけでも社会主義は建設できるとし、国内体制の維持を優先しました。
黒い国防軍
ドラマの中盤、行政長官のベンダは「黒い国防軍」によるクーデターを阻止するため、ゲレオンに捜査の協力を求めます。
共和政となった後も、ドイツ国内には帝国主義の精神を受け継いだ軍人や官僚たちがたくさん残っていました。
彼らは第一次世界大戦における敗戦を「ドイツ軍の敗北」ではなく、国内の社会主義者や共産主義者が革命騒ぎを起こしたせいだと考え、ワイマール憲法や共和政に否定的でした。
政府はヴェルサイユ条約における軍備制限を受け入れましたが、将校らは民兵や義勇軍という形で戦力の維持を図り、これらの非合法の戦力は「黒い国防軍」と呼ばれました。
1925年に元軍人で軍部に強い影響力を持つヒンデンブルグが大統領に就任すると、内閣は徐々にファシズムの色を強めていきます。そして1933年にはヒトラーを首相に任命し、第三帝国への道を開くこととなります。
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