WOWOWの連続ドラマ「だから殺せなかった」(全5話)についてまとめました。
連続殺人犯と新聞記者の前代未聞の“紙上戦”を描いたミステリードラマ。原作は一本木透氏の同名小説。新たな殺人を予告する凶悪犯に対して、言葉の力で立ち向かう報道記者を玉木宏さんが演じます。
巧妙に仕組まれたミステリーであり、人間ドラマ。タイトルの意味は最終話で明かされます。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOWプライム
- 放送時間:2021年1月9日(日)から毎週日曜22:00~ほか
- 原作:一本木透『だから殺せなかった』
- 脚本:前川洋一
- 監督:権野元
- 音楽:木村秀彬
あらすじ
「俺の殺人を言葉で止めてみろ」。太陽新聞社会部遊軍記者の一本木透(玉木宏)に宛てて届いた一通の手紙。そこには首都圏を震撼させる無差別連続殺人の犯行が詳述されていた。犯人は一本木を指名し、新聞紙上での公開討論を要求。新たな殺人を予告する犯人に対し、一本木は報道記者として言葉の力で立ち向かう。やがて、連続殺人犯と新聞記者の前代未聞の対話は、劇場型犯罪として世間を揺るがしていく。
WOWOW公式サイトより
原作について
このドラマの原作は、一本木透氏の推理小説『だから殺せなかった』(2019年刊行)です。第27回鮎川哲也賞優秀賞。
登場人物(キャスト)
太陽新聞
一本木透(玉木宏)
太陽新聞社会部の遊軍記者。20年前、恋人だった白石琴美の父・健次郎の汚職を紙面で暴き、彼を自殺に追い込んだ過去を持つ。その体験を綴った「記者の慟哭」は大きな反響を呼び、連続殺人犯に対戦相手として選ばれる。紙上討論を要求し、新たな殺人を予告する犯人に対して言葉の力で立ち向かう。
吉村隆一(渡部篤郎)
太陽新聞の編集担当取締役。かつて一本木とともに前橋支局に勤務しており、20年前の出来事を知っている。経営危機で記者がリストラ対象になることを危惧し、一本木に過去の体験談を書かせて「記者の慟哭」として掲載した。会社を立て直すため、一本木と連続殺人犯の紙面対決を利用しようとする。
黛真司(長谷川朝晴)
太陽新聞社会部デスク。他紙を出し抜いてスクープすることを重視している。
大熊良太(金井勇太)
太陽新聞社会部記者。一本木の後輩。連続殺人事件の取材を担当する。リストラ対象になることを心配している。
若山綾子(結城モエ)
太陽新聞社会部記者。一本木を報道記者として尊敬し、犯人との紙上討論を応援する。
長谷寺実(八十田勇一)
太陽新聞社会部・部長。上司の吉村取締役に付き従っている。
警察
牛島正之(甲本雅裕)
警察庁のキャリア。20年前、群馬県警の捜査二課時代に汚職事件をめぐって一本木と対峙している。以降、一本木とは懇意にしており、今も付き合いがある。
望月公平(高橋努)
警視庁刑事部捜査一課・警部補。一本木とは持ちつ持たれつの仲。犯人が太陽新聞にこだわることに疑問を抱き、太陽新聞内での自作自演を疑う。
宮本勇吾(白石隼也)
警視庁刑事部捜査一課・巡査部長。首都圏連続殺人事件を追う。マスコミ嫌い。
名峰学院大学
江原陽一郎(松田元太)
名峰学院大学の学生。母親を亡くし、父・茂と二人暮らし。なぜか新聞記事をスクラップしている。首都圏連続殺人事件の現場周辺で怪しい行動を取り、一本木に疑われる。
小川万里子(高岡早紀)
名峰学院大学の心理カウンセラー。一本木の大学時代の先輩で、もとは政治部記者だった。何度も相談室の前で見かけた陽一郎を心配し、話を聞くようになる。
毛賀沢達也(酒向芳)
名峰学院大学教授で、太陽新聞社外論説委員。不倫隠し子騒動で世間をにぎわせている。
被害者
村田正敏
最初の被害者。川崎市の職員。帰宅途中に刺殺された。酒乱で女癖が悪く、家族から疎まれていた。
本郷正樹
2人目の被害者。IT会社勤務。昼休みに屋上で刺され転落死。社内で不倫を公言し、妻子に暴力を振るっていた。
小林洋次郎
3人目の被害者。運送会社勤務。出勤途中に人混みの中で刺殺された。
沢田則夫
4人目の被害者。早朝、ジョギング中に刺殺された。
そのほか
江原茂(萩原聖人)
陽一郎の父。陽一郎の出生に関する重大な秘密を抱えている。母親を亡くして落ち込む陽一郎を心配し、息子を疑う一本木に対して強く抗議する。
江原むつみ(安藤裕子)
陽一郎の母。すい臓がんで亡くなった。心優しく、夫の茂と陽一郎を深く愛していた。日記に家族の秘密を記していた。
石橋光男(古田新太)
群馬にある産婦人科病院の医師。江原茂と亡くなった妻むつみとは旧知の仲で、江原家の秘密を知っている。
白石琴美(松本若菜)
保育士。20年前、一本木が群馬・前橋支局に勤務していたとき同棲していた恋人。絶縁状態だった父・健次郎と和解した直後に一本木の記事によって父が自殺し、姿を消す。その1年後、心臓突然死で26歳の若さで亡くなった。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
経営危機を迎えた太陽新聞は、300人規模のリストラを行うと発表。記者がリストラ対象になることを懸念した取締役・吉村隆一(渡部篤郎)は、新聞記者の心の叫びを読者に見せるため、社会部遊軍記者の一本木透(玉木宏)に過去の体験を書いてほしいと頼む。
20年前、一本木は前橋支局に勤務していた。支局長だった吉村は、県庁ぐるみで汚職が行われているというタレコミを受け、そのネタを一本木に任せる。内偵を進めていた県警捜査二課の課長・牛島正之(甲本雅裕)は、逮捕する段になるまで記事を出すのを待って欲しいと頼むが、他紙に抜かれることを恐れた一本木はその申し出を断る。
牛島は一本木が掴んでいなかった白石出納長の関与を匂わせ、その名前を聞いた一本木は動揺する。白石健次郎は一本木の恋人・琴美(松本若菜)の父親だった。一本木の書いた記事は一面で掲載されることが決まり、それを知った琴美は一本木を責める。
父・健次郎と琴美は長い間絶縁状態だったが、最近になって関係を修復し、琴美と一本木の結婚を許してくれたという。だが新聞が出たその朝、白石健次郎は首を吊って自殺する。
その後、健次郎が受け取ったのは金ではなく、50万円相当の反物だったことが判明。結婚する娘のために晴れ着を用意しようとしたのだ。琴美は一本木の前から姿を消し、1年後、26歳の若さで亡くなった。
一本木の原稿を読んだ吉村は、「記者の慟哭」というタイトルで掲載。読者から多くの反響が寄せられる。
そんな中、首都圏で起きた3件の殺人事件が同一犯とわかり、連続殺人事件に発展する。一人目の村田正敏は背後から何度も刺され、二人目の本郷正樹は刺された後ビルの屋上から突き落とされ、三人目の小林洋次郎は通勤途中に背中を刺されていた。
その連続殺人犯から、一本木宛てに手紙が届く。「記者の慟哭」を読み、対戦相手として一本木を指定してきたのだった。人間をウイルスと定義し、それを裁いて増殖を防ぐのが自分だと言い、“Vaccine(ワクチン)”と名乗る犯人。手紙には「俺の殺人を言葉で止めてみろ」と書かれていた。
“ワクチン”と名乗る者から届いた手紙には、声明文に対する反論を載せなければまた新たな殺人を犯す、と書かれていた。最初の事件の詳細も綴られており、警察は“ワクチン”が首都圏連続殺人事件に関わっているとみて捜査を進める。
吉村は声明文を新聞に掲載することを決め、一本木は“ワクチン”への反論記事を書きつつ、ほかの記者たちとともに独自の取材を続けることに。
被害者3人の共通点を探ると、いずれも離婚寸前か別居中で家庭に問題を抱えていたことが判明。さらに一人目の村田、二人目の本郷はともに浮気癖のある暴力的な男で、事件前に「これ以上俺の女に手を出したら命はないぞ」という脅迫電話がかかってきていたことがわかる。
紙面対決は大きな反響を呼び、太陽新聞の販売部数はV字回復する。社内が活気づく一方で、警察は太陽新聞内部の自作自演を疑い始める。手紙の内容に違和感を覚える牛島は、送り主が20年前の汚職事件の関係者である可能性を考えていた。
一本木は3件目の殺人事件現場で、名峰学院大学に通う江原陽一郎(松田元太)を見かける。陽一郎は母親を亡くした後、彼女の日記を読んで自分が両親と血が繋がっていないことを知り、思い悩んでいることをカウンセラーの万里子(高岡早紀)に相談していた。
陽一郎を怪しんだ一本木は彼の家を訪ねて話を聞こうとするが、父親の茂(萩原聖人)に追い返される。
陽一郎は母親の日記を読んだことを明かし、事実を隠し続けてきた父・茂を責める。茂は夫婦の間に子供ができず、悩んでいたときに産婦人科医の石橋(古田新太)から連絡をもらい、病院の前に捨てられていた赤ん坊を引き取ることにした、と経緯を語る。
陽一郎はカウンセラーの万里子を介して一本木と面会し、身の潔白を訴える。自分が両親の子供ではないと知ってから、新聞紙上で“他人の不幸”を探して自分を慰めていたという。そして世の中を憎む“ワクチン”に共感し、事件に興味を持ったと話す。
ワクチンから3人目の被害者について書かれた手紙が届く。被害者宅にはこれまでと同様に脅迫電話がかかってきていた。そのことは警察も掴んでいたが、発信源は調べている最中だという。牛島は群馬県警と連携して20年前の関係者をあたっていると話す。
一本木は捜査一課の刑事・望月(高橋努)からの指摘で、ワクチンとの対話が太陽新聞の有料サイトへの誘導に利用されていることを知る。吉村から紙面対決を引き延ばすよう命じられた一本木は、殺人事件を売り物にすべきではないと反論するが、吉村は「犯人のおかげで太陽新聞は黒字になった」と開き直る。
ワクチンは一本木との対話に苛立ち、「新たに誰かを抹殺する」と殺人を予告。一本木は犯人を思いとどまらせるべく反論を載せるが、やがて予告どおりに4人目の被害者が出る。
4人目の殺人事件が起きてしまったことで、一本木は犯人を煽ったとしてマスコミから非難を浴びせられる。世間の声もたちまち太陽新聞に対して厳しくなり、一本木の責任を問う手紙やメール、クレームの電話が殺到する。
警察は一本木の反論を事前に確認したいと言ってくるが、一本木と吉村は断固として拒否する。そんな中、“ワクチン”から新たな殺人予告が届く。それは「因果応報」と書かれた殺人予告状を、無作為に新聞読者へ送るというゲームだった。
警察は掲載をやめるよう太陽新聞に申し入れるが、吉村は毅然とした態度で紙上討論を継続させる。やがて江原家と一本木の自宅に殺人予告状が届く。
4人目の殺人事件現場で聞き込みをした一本木は、事件当日に言い争う声と「タカシ」という名前を聞いたという情報を得る。被害者・沢田の自宅にはこれまでと同様に脅迫電話がかかってきており、息子の名前が「タカシ」だと判明する。
一本木は陽一郎の父・江原茂に呼び出され、“ワクチン”に心当たりがあると打ち明けられる。茂は以前からワクチンと同じ封筒で脅迫状を受け取っていた。送り主は陽一郎の実の父親で、子供を返せと脅してきたが、無視していたという。
陽一郎の身に危害が及ぶ可能性があり、警察に届けることも送り主の名前を明かすこともできないという茂。一本木は吉村に相談したうえで、独自に調査すべく群馬の産婦人科医・石橋を訪ねる。だが石橋は頑なに協力を拒み、陽一郎の実の両親について何も話そうとしなかった。
ワクチンから突然「終結宣言」が届く。手紙には「毛賀沢達也」と名前が記され、すべては生物学的な実験であり、最後は自分が死ぬことによってレジェンドになると書かれていた。
まもなく毛賀沢の遺体が山中で発見され、警察は一連の事件を毛賀沢の犯行と考える。だが違和感を覚えた一本木は、調査を続行する。
事件の真相を突き止めるべく、一本木は〈くぬぎ園〉を訪れる。そこには4人目の被害者である沢田の息子・隆志が預けられていた。父親から暴力を受けていた隆志は、今もPTSDに苦しんでいるという。
施設でイベント時の写真を見た一本木は真犯人の正体を確信し、彼と会うために約束の場所へ向かう。そこにいたのは陽一郎の父・江原茂だった。
被害者4人の子供はいずれも父親から日常的に暴力を受け、児童養護施設に入っていた。江原自身も幼少時に父親から虐待を受け、〈くぬぎ園〉で育った身だった。江原は自分と同じように父親の暴力を受けていた子供たちに代わって、復讐を果たしていたのだ。
最終的には毛賀沢を犯人に仕立て上げ、女性を奪い合った末の連続殺人に見せかける計画だったが、途中で不測の事態が起きた。息子の陽一郎が母親の部屋に入ったことで、“ワクチン”の封筒を見られたかもしれないと焦った江原は、それを犯人から届いた“殺人予告状”にすることで偽装工作を図ったのだった。
そしてそれが一本木に疑念を抱かせるきっかけとなった。江原の家を訪問した際、一本木は彼の腕に虐待の痕跡があるのを目にしていた。
江原は自分と同じ境遇で育った妻むつみを愛することで救われ、陽一郎を得て幸せな日々を送っていたが、むつみの病死によってその幸せも奪われてしまったと語る。その怒りは理不尽な世の中と父・清(田村泰二郎)に向かったが、40年ぶりに会った父は認知症で江原を覚えていなかった。
子供を虐待する父親を殺すのは、因果応報だと語る江原。最後に毛賀沢を殺したのは、彼が陽一郎の実父だったからだと話す。罪を認めた江原は警察に逮捕され、一本木は彼と話した一部始終を太陽新聞に掲載する。
陽一郎はマスコミに追われるようになり、自責の念に駆られる一本木。吉村はそんな彼に群馬の産婦人科医・石橋を訪ねるよう促す。石橋に会った一本木は、彼から手紙を差し出される。それは江原が息子の陽一郎に宛てた手紙だった。
手紙の中で、江原は陽一郎の本当の父親は毛賀沢ではなく、一本木だと打ち明けていた。20年前、一本木の前から姿を消した白石琴美は、石橋に堕胎を止められて出産。その後、石橋に子供を託して亡くなったのだった。
江原は一本木が書いた「記者の慟哭」を呼んで気づき、復讐の最後の標的を一本木にしようと決めたのだった。だが彼を殺そうとしたその瞬間、陽一郎の顔が浮かんで殺せなかったという。最も憎んだはずの人間の中に、自分が最も愛した陽一郎を見た。だから殺せなかったと。
再び選択を迫られた一本木は、「今度は彼を守る」と石橋に告げ、養護施設でボランティアをしている陽一郎に会いに行く。
感想(ネタバレ有)
巧妙に仕掛けられた伏線と、重厚な人間ドラマ。ストーリーはとても面白かったんだけど、いくつかの点が気になって深く入り込めませんでした。
ひとつは、最後のどんでん返し(一本木が陽一郎の実父であること)が、第1話の時点でやすやすとわかってしまったこと。原作は未読なのでわかりませんが、映像表現の弱点がもろに出てしまっている感じ。
配役と演出で江原親子と石橋医師が重要な役どころであることは一目瞭然で、そこから陽一郎の出生にまつわる秘密だと推測でき、年齢や20年前の状況などから一本木が実父であることが容易に想像できてしまう。
そうなると芋づる式に、犯人は江原か石橋のどちらかだろうということもわかってしまいます。
配役で犯人がわかってしまうっていうパターン、国内ドラマでは本当に多いんですよね。いちばん配慮してほしいところなのに、なぜかしてくれない。ミステリーとしては致命的。
あと個人的には、映像ならではの余韻を感じさせるシーンがもっと見たかった。一本木や江原の悲しみがじんわり伝わってくるような、印象に残るシーンがあったら、彼らに感情移入できたのかも…と思う。
とはいえ、江原の犯行の動機はまったく想像できなかったし、ワクチンとの紙面対決にはドキドキさせられました。終わってみると、毛賀沢教授がちょっと気の毒。何の関係もないのに犯人にされて殺されたってことよね。
タイトルの意味が明かされたときにはハッとし、一本木が20年前に守れなかった陽一郎を選んだラストシーンには胸が温かくなりました。
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