フジテレビSPドラマ「黒井戸殺し」のあらすじと感想です。
最高に面白かったです!
先に原作を読んだのですが、かなり原作に忠実に作られていて、満足度120%のドラマでした。ところどころ三谷節が炸裂していたのも楽しかったです。大泉洋さんは適役でしたね~。
原作についてはこちら↓の記事で詳しく書いています。
原作「アクロイド殺し」ネタバレ解説|波紋を投じた驚愕のトリックContents
作品概要
- 放送局:フジテレビ系
- 放送時間:2018年4月14日(土)夜8時~
- 原作:アガサ・クリスティー「アクロイド殺し」
- 脚本:三谷幸喜
- 演出:城宝秀則
あらすじ
昭和27年3月。富豪の未亡人・唐津佐奈子(吉田羊)が寝室で死亡。村で唯一の医師である柴平祐(大泉洋)は、佐奈子の婚約者・黒井戸禄助(遠藤憲一)から相談があると屋敷に招かれる。
黒井戸の屋敷を訪ねた柴は、黒井戸から「佐奈子が夫殺しの件で脅迫されていた」と聞かされる。黒井戸に届いた佐奈子の遺書には脅迫者の名前が記されていたが、黒井戸はそれを柴に告げず、柴は帰宅する。
その夜遅く、柴は黒井戸家の執事・袴田(藤井隆)から黒井戸が殺された、という電話を受ける。だが急いで屋敷に駆けつけると、袴田は電話していないと言う。柴は書斎の扉を蹴破り、部屋の中で黒井戸が殺されているのを発見する。
警察の捜査が始まり、東京から戻ってきているはずの春夫(向井理)が姿を消したことから、春夫に疑いがかかる。春夫の婚約者・花子(松岡茉優)は、名探偵・勝呂武尊(野村萬斎)に調査を依頼する。
勝呂に頼まれ、渋々助手を務める柴。しかし柴には勝呂の行動が全く理解できない。勝呂が柴の姉・カナ(斉藤由貴)まで調査に巻き込んでいることを知り、柴は文句をつける。
関係者全員が勝呂の家に集められる。春夫は勝呂によって近くの洞窟に潜んでいたところを発見された。勝呂は事件について語るが、犯人の名前を明かそうとはせず、その場にいる犯人に自白するよう求める。
皆が帰った後、柴は勝呂から事件の真相を聞き出す。事件の夜、柴の自宅にかかってきた電話は犯人の偽装工作によるものだった。犯人はあなただと告げる勝呂。余命半年の姉・カナのために、勝呂は柴に睡眠薬自殺を薦める。
家に帰った柴は、事件のすべてを綴った手記を書き上げ、バルビタールを飲む決意をする。それは佐奈子が自殺を図ったときに飲んだ睡眠薬でもあった。
登場人物/キャスト
※( )は原作における名前
- 勝呂武尊(エルキュール・ポアロ)/野村萬斎
- 柴平祐(ジェイムズ・シェパード)/大泉洋
- 柴カナ(キャロライン・シェパード)/斉藤由貴
- 唐津佐奈子(フェラーズ夫人)/吉田羊
- 黒井戸禄助(ロジャー・アクロイド)/遠藤憲一
- 兵藤春夫(ラルフ・ペイトン)/向井理
- 黒井戸花子(フローラ・アクロイド)/松岡茉優
- 黒井戸満つる(セシル・アクロイド)/草刈民代
- 冷泉茂一(ジェフリー・レイモンド)/寺脇康文
- 袴田次郎(ジョン・パーカー)/藤井隆
- 来仙恒子(エリザベス・ラッセル)/余貴美子
- 本多明日香(アーシュラ・ボーン)/秋元才加
- 蘭堂吾郎(ヘクター・ブラント)/今井朋彦
- 茶川建造(チャールズ・ケント)/和田正人
感想(ネタバレあり)
あぁー、ほんとに面白かったです。
俳優の皆さんも素晴らしかったし、脚本も素晴らしかった。
SPドラマでここまで満足感を味わうのは、ちょっと久々かもしれない。
時代設定と大泉洋がドンピシャ
昭和27年という時代設定が、絶妙でしたよね。
横溝正史や松本清張の作品でミステリの舞台としては馴染みがあるし、登場人物の言葉遣いも不自然に感じない。大富豪とか執事とか遺産とか出てきても、すんなり受け入れられる。現実と非現実の割合が、ちょうどいい感じでした。
そして、大泉洋さんをワトソン役に起用したことが、最も重要なポイントだったと思います。
大泉さんはシリアスもできる役者さんだけど、どっちかというとコミカルな役のイメージが強い。大泉さんがワトソン役を演じて勝呂とコミカルな掛け合いをすれば、そりゃもう誰だって騙されますよ。
原作の語り手はいたって真面目で、花子(原作ではフローラ)に想いを寄せるような場面もありません。そこは三谷風のアレンジでしたね。 大泉さんの二面性が生かされた脚本で、本当に素晴らしかったです。
3時間のうち、ほとんどがユニークな狂言回し的存在だった柴医師。ラストで正体が明かされてからの大泉さんの演技は、胸に迫るものがありました。
原作の叙述トリックは、完璧だった
わたしがいちばん気になっていたのは、原作の「叙述トリック」です。
原作では、小説の文章そのものが手記になっているということが、物語の途中で明かされるんですね。後で読み返してみると、そこには確かに、犯人ならではの視点や心情が書かれていたんです。
たとえば、冒頭。佐奈子(原作ではフェラーズ夫人)が亡くなって、検死を終えて帰ってきたときの描写。
実をいうと、気がひどく動転して、不安を覚えていたのだ。
事件の夜、(犯行を終えて)書斎を出る際の描写。
わたしはドアのノブに手をかけたままためらい、振り返って、やり残したことがないだろうかと考えた。何も思いつかなかった。首を振ると、部屋の外に出てドアを閉めた。
遺体が発見され、執事に警察に電話するよう命じた直後の(ディクタホンを隠す)描写。
やるべきことはほとんどなかったが、わたしはそれをすませた。
こういう描写の数々に、わたしは本を読んだとき1ミリも疑いを抱かなかったのですよ。手記は、完璧でした。犯行を示す具体的な言葉は書かれていないけれど、嘘も書かれていない。
作者・アガサ・クリスティは、間違いなく読者に事実を提示していたのです。
※引用はすべて、ハヤカワ文庫「アクロイド殺し」(翻訳:羽田詩津子)より
叙述トリックを、どう映像化するのか
これを、どう映像化するのか。
これらの文章を、そのままドラマの語り手に喋らせたら、いかにも不自然です。かといって、映像でそんなシーンを追加したら、モロバレです。
どう考えても、これらの描写は省略するしかないんですよね。でもそれは、視聴者に対してフェアではない、ということにもなります。
そこで三谷さんは、冒頭でいきなり、このドラマが柴の手記であることを堂々と提示しました。これ以上のヒントないよ、っていうくらい、ハッキリと。
わたし、大泉さんが「手記を書いてるんです」って言い出した瞬間、「うわわわ!大丈夫かぁぁ!?」って思いました。こんなことしたらすぐバレるんじゃないかと、ヒヤヒヤしました。
でも、一緒にテレビを見ていた原作未読の夫は、最後まで全く犯人に気づきませんでした。大成功だったと思います。
そして原作を知るわたしは、ところどころ大泉さんが犯人ならではの演技をしていたことに気づき、かなり嬉しかったです。気づかなかった方は、ぜひぜひ、もう一度見てみてください。
やっぱり三谷幸喜さんはすごい、としか言いようがないです。
工夫された結末があっぱれだった
些細なことを除けば、ストーリーや設定はほぼ原作どおりでした。ただ、最後に語られた犯人の動機と、姉が病気という設定だけが大きく違っていましたね。
原作では、犯人に「欲」以外の動機はありません。しかも夫人を脅して手に入れた大金を、投機で失っています。同情の余地もないです。
ドラマでは、姉のカナが脳腫瘍で、彼女を救うために金が必要だったということになっていて、少し救われました。伏線が周到に貼られていたから、違和感もなかったですし。
勝呂が柴に自殺を薦め、姉に真相を知られないようにしてはどうか、と提案するのも、原作に比べるとかなり共感を得やすくなっていました。
彼女がこの世を去るまでの間だけ時間稼ぎをする、というのなら、納得できます。
原作だと、ポアロは真相を明らかにするために手記を書かせ、自殺を薦めておきながら、姉には真相を知らせないように内密に処理する、と言っていて、「ちょっとよくわからない」感じだったんですよね。
ドラマでは、自殺を薦めた勝呂がひとり苦悩の表情を浮かべる場面もあって。
ラストシーンの哀切を伴う緊張感は、やばかったです。
最後の柴の語りは、ほとんど原作どおり。エンドクレジットが流れ始めた瞬間、心の中で拍手を贈りました。
登場人物が抱えていた秘密
最後に、登場人物が抱えていた秘密をネタバレしたいと思います。
柴平祐(大泉洋)
脳腫瘍の姉をアメリカの医者に診せるため、金が必要だった。1年前、佐奈子の夫を検死した際に毒殺だと見抜き、佐奈子を脅迫するようになる。
佐奈子が自殺を図り、脅迫者の名前を書いた遺書を黒井戸に送っていたことから、黒井戸を刺殺して手紙を隠蔽。ディクタホン(録音機)を使って黒井戸の声を流し、死亡推定時刻を偽装する。
春夫に罪を被せるため、あらかじめ盗んでおいた春夫の靴を履いて窓の下に足跡をつけた。春夫には殺人容疑がかかっていると言って、寺に身を隠すことを薦めていた。
その後、患者に駅から電話をかけさせ、執事の袴田からの電話であるように装い、黒井戸の屋敷に急行して死体の第一発見者となる(ディクタホンを隠すため)。
勝呂に犯行を見破られた後は、余命わずかな姉のために自殺することを決意。姉がこの世を去った後に手記が発見され事件の真相が発覚するよう、勝呂(と警察)に計らってもらう。
黒井戸禄助(遠藤憲一)
3か月前、佐奈子に結婚を申し込むが、その時彼女から夫殺しの件で脅迫されていることを告白される。その後、佐奈子は脅迫者の名前を言わずに自殺を図る。
友人の柴を屋敷に招き、相談を持ちかけている最中に佐奈子から遺書が届く。そこには脅迫者の名前が書かれており、「ひとりで読みたい」と柴を追い返すが、その直後、柴によって刺殺される。
唐津佐奈子(吉田羊)
1年前、乱暴な夫への憎しみと禄助への想いに悩んだ末、夫を毒殺。それを検死した柴に見抜かれ、合計200万もの金をゆすられる。
禄助から結婚を申し込まれるが、罪を告白して自殺してしまう。自殺する直前、脅迫者の名前を記した遺書を禄助に送っていた。
兵藤春夫(向井理)
禄助の義理の息子。実は1年前に小間使いの明日香と結婚していたが、禄助の反対を恐れて隠していた。
その後、禄助に言われるまま花子との婚約を承諾(後で解消すればいいと考えていた)。
禄助に認めてもらうため東京で働いていたが、事件の夜、お堂で明日香と待ち合わせしているところを来仙に目撃され、殺人容疑をかけられる。
柴には幼少のころから世話になっており、今回も柴の助言で寺に身を隠していたことがわかる。
葬儀の日、明日香に会うため屋敷のそばをうろついていてカナに見つかり、洞窟に身を隠そうとしたところを待ち構えていた勝呂に発見される。
黒井戸花子(松岡茉優)
禄助の希望で、義理のいとこである春夫との婚約を承諾するが、幼なじみ以上の愛はなかった。
春夫の容疑を晴らすため、勝呂に調査を依頼する。
事件の夜、母親に命じられて禄助の寝室から10万円を盗み、袴田の目をごまかすために「伯父におやすみの挨拶をした」と嘘をついていた(実はこの時、禄助はすでに殺されていた)。
春夫が明日香と結婚していたことを知った後、2人を祝福し、自身はかねてから想いを寄せていた蘭堂と結婚することを決める。
黒井戸満つる(草刈民代)
夫の死後、義兄の禄助に養われている。花子の幸せと遺産を手に入れることしか頭にない強欲な女性。
事件当日、禄助の書斎に忍び込んで遺言を盗み見、遺産のほとんどが春夫に渡ることを知ってショックを受ける。その後、花子に命じて禄助の寝室にある10万円を盗ませる。
冷泉茂一(寺脇康文)
禄助の秘書。禄助の死から3日後、寝室の現金10万円が盗まれていることに気づき報告。
実は冷泉自身が10万円を盗もうとしていたが、既に花子に盗まれた後だった。
袴田次郎(藤井隆)
黒井戸家の執事でありながら、常に盗み聞きしているゆすりのプロでもある。以前雇われていた屋敷でも、主の秘密を盗み聞きしてゆすっていたことがわかる。
のちに春夫と明日香が結婚していたとわかった時、2人の秘密に気づけなかったことを悔しがっていた。
来仙恒子(余貴美子)
黒井戸家の家政婦。事件当日の昼間、柴の病院を訪れ「麻薬中毒を治す方法」を聞いていた。
恒子には戦争帰りで麻薬中毒の息子・茶川建造がいて、事件の夜、金を無心にきた建造と屋敷の近くのお堂で会っていた。その時、同じくお堂で明日香と会う約束をしていた春夫を見かけていた。
本多明日香(秋元才加)
黒井戸家の小間使い。1年前、春夫と結婚していた。
禄助の怒りを買うことを恐れた春夫は、結婚を隠して花子と婚約。不安になった明日香は、事件当日、禄助に結婚の事実を打ち明ける。
怒った禄助は、明日香にすぐ屋敷から出ていくよう命じる。事件の夜、春夫が姿を消してからは、明日香も行方を知らされていなかった。
蘭堂吾郎(今井朋彦)
禄助の旧友で、作家。花子と仲が良く、柴からたびたび嫉妬される。
花子が春夫に愛情を抱いていないとわかり、結婚することを決める。
茶川建造(和田正人)
事件の夜、柴が黒井戸の屋敷から帰る際に擦れ違った復員服の男。
実は来仙恒子の息子。戦争帰りで麻薬中毒に。薬が切れると人が変わったように乱暴になる。
事件の夜、お堂で来仙と会い、金を無心していた。その後、警察に捕まる。
柴カナ(斉藤由貴)
柴の姉。明るく好奇心旺盛で、噂好き。勝呂の調査にも積極的に協力する。
実は脳腫瘍を患っており、余命半年であることがラストで明かされる。勝呂に犯行を見破られた柴は、姉のために睡眠薬自殺の道を選ぶ。
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