「アクロイド殺し」原作あらすじ解説|意外な犯人と賛否両論のトリック

アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」原作ネタバレ解説

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アガサ・クリスティの長編小説「アクロイド殺し」を読みました。

三谷幸喜さん脚本のSPドラマを見る前に原作を読んでみようと、軽い気持ちで読み始めたのですが、ラストの仕掛けに大興奮しました。面白かった!

これから原作を読む方は、この記事を読まずに、ぜひアガサが仕掛けたトリックに挑戦してみてください。

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登場人物

エルキュール・ポアロ
ベルギー人の私立探偵。小男で、黒髪、卵型の頭、大きな口髭をたくわえている。引退して「からまつ荘」でカボチャ作りにいそしんでいたところ、フローラに依頼され、アクロイド氏の死の真相に迫る。

ジェイムズ・シェパード
地元の医師で、アクロイド氏の友人。機械いじりが好き。ポアロに見込まれて助手役を務める。本作品の語り手。

ロジャー・アクロイド
ファンリー・パーク屋敷に住む大富豪の地主。私生活ではかなりの倹約家。フェラーズ夫人に結婚を申し込むが、彼女から重大な秘密を告白される。その直後に彼女が自殺を図ったため、罪の意識に苛まれる。

セシル・アクロイド夫人
アクロイド氏の義妹。夫(アクロイド氏の弟)と死別後、娘とともにアクロイド氏を頼りファンリー・パーク屋敷で暮らしている。強欲で金に目がない。

フローラ・アクロイド
セシルの娘。若く美しい女性。母親のセシルと共にファンリー・パーク屋敷で暮らしている。アクロイド氏の希望で1か月前にラルフと婚約した。

ラルフ・ペイトン
アクロイド氏の義子。皆に好かれているが、金銭にだらしがない。フローラと婚約している。事件後、なぜか行方不明になる。

ジェフリー・レイモンド
アクロイド氏の秘書。明るく快活な青年。

ジョン・パーカー
アクロイド氏の執事。事件後、なぜか警察の捜査にひどく動揺する。

エリザベス・ラッセル
アクロイド家の家政婦。一時期、ロジャーの再婚相手と噂されていた。

アーシュラ・ボーン
アクロイド家の小間使い。仕事ぶりは優秀だが、一部の人間からは嫌われている。事件当日にアクロイド氏を怒らせたことで、暇を願い出ていた。

ヘクター・ブラント少佐
アクロイド氏の旧友。有名な狩猟家。人付き合いは苦手で、寡黙。フローラを心配し、何かと庇う。

フェラーズ夫人
キングズ・バドック屋敷の未亡人。1年前に夫を亡くした後、アクロイド氏と懇意になる。結婚間近とも噂されたが、ある日突然謎の死を遂げる。実は何者かに脅迫されていた。

キャロライン・シェパード
シェパード医師の姉。想像力豊かでおしゃべりで噂好き。情報収集に長けている。

ガネット
キャロラインと仲のいい噂好きな老女。

チャールズ・ケント
事件当日、ファンリー・パーク屋敷を訪ねてきた正体不明の男。アメリカ訛りがある。

ハモンド
弁護士。ロジャーの遺言書を預かっていた。

ラグラン
地元警察の警部。ポアロの手腕を信用していない。

あらすじ解説と感想(ネタバレ有)

実はアガサ・クリスティの本を読むのは今回が初めてです。以前から読みたいと思ってはいたのですが、海外の小説は翻訳文の読みづらさが苦手で、敬遠しがちでした。

今回読んだハヤカワ文庫の翻訳(羽田詩津子さん)は読みやすかったです。正味3日で読めました。

ミステリ界に波紋を投じた名作

この作品は、1926年に発表されました。アガサ・クリスティ6作目の長編で、ポアロ・シリーズの3作目にあたります。

この作品で使われたトリックが、少し特殊なものでして。

発表当時、読者に対してフェアではないという論争(フェア・アンフェア論争)を巻き起こし、ミステリ界に大きな波紋を投じたそうです。

クリスティはこの作品でベストセラー作家の仲間入りを果たし、ポアロ・シリーズでは「オリエント急行殺人事件」「ABC殺人事件」と並ぶほど有名な作品らしいのですが、わたしは今まで全く知らなかったです。

たぶん、この特殊なトリックのせいで映像化の頻度が少なく、目に触れることがなかったせいではないかと思われます。

確かにこのトリックは、文字という表現方法だからこそ通用するものだと思うのですが…。三谷幸喜さんがドラマ「黒井戸殺し」で、このトリックをどうアレンジするのか、とても楽しみです。

シンプル&王道ストーリー

ストーリーは、いたってシンプル。

殺人事件が起き、たまたま居合わせたポアロが捜査に乗り出し、次々と浮かび上がる謎を解決して容疑者をひとりずつ消していき、最後に犯人に辿り着くという、探偵ものの王道スタイルです。

ポアロが最後に容疑者全員をひとつの部屋に集めて、事件の真相を語るクライマックスも、いつものパターン。しかし今回は予想を裏切る展開だったので、ものすごく興奮したし、圧巻でした。

登場人物が多いので(そして外国名なので)、途中で「誰だっけ、この人?」となるのもお約束。こんがらがってしまう人は、前述の登場人物リストを参考にしてください。

余談ですが、この作品に登場するキャロライン・シェパードという少し癖の強い女性は、クリスティのお気に入りで、彼女が生み出したもうひとりの名探偵「ミス・マープル」の原型にもなっているそうです。

事件の真相(ネタバレ)

ここから先は、犯人とトリックのネタばらしをしています

今回、ポアロの助手役を務めたのが、地元で信頼されている温厚な医師ジェイムズ・シェパードでした。

物語は彼によって語られ、途中、この語りが彼の手記そのものであることが判明します。察しのいい人は、遅くともこの段階で気づくのではないでしょうか。

シェパード医師は、物語の語り手であり、事件をまとめた手記の著者であり、犯人でもありました。

シェパード医師は、フェラーズ夫人が夫を毒殺したことを見破り、彼女を脅して大金を巻き上げていました。彼にとって想定外だったのは、フェラーズ夫人がそのことを苦に自殺を図ってしまったこと。

彼女は死ぬ直前、恋人であるロジャー・アクロイドにすべてを打ち明け、脅迫者の名前を書いた手紙を送っていました。

アクロイド氏は、シェパード医師が彼女を自殺に追いやった脅迫者だとは思いもせず、彼に相談しようと屋敷に招き、殺されてしまったのです。

犯行に使われたのは、アクロイド氏の応接室にあった短剣。シェパード医師は、あらかじめ録音機に録音しておいたアクロイド氏の声を、時間がきたら流れるようセット。彼が死亡後も生きているように見せかけ、死亡推定時刻を遅らせてアリバイ工作をしていました。

翌朝、アメリカに発つという患者に頼んで駅から電話をかけさせ、その電話があたかもアクロイド氏の執事からかかってきたかのように装いました。

前夜セットした録音機を隠すため、屋敷に急行して真っ先に書斎に入る必要があったのです。

作者が仕掛けたトリック

語り手=犯人というのは「叙述トリック」と呼ばれ、現代ではそう珍しくないトリックです。でもこの作品が発表された頃はイレギュラーだったようで(クリスティが初めてではない)、大論争を巻き起こしました。

推理作家のヴァン・ダインは「叙述トリックは読者にとってフェアではない」と否定しています。

わたしはこういう反則めいたトリックが大大大好きなので、心から楽しめました。フェアとかアンフェアとか、正直どうでもいいんです。だって騙されても騙されなくても面白いじゃないですか。

最後まで読み終えた後、思わずまた最初から読み直してしまいました。

ポアロの言うとおり、シェパード医師はものすごく巧みに自分の犯行を隠してこの手記を書いています。真相を知ってから読むと、なるほどと唸らされます。それでいて、嘘は書いていない。さすがです。

ちなみにわたしは、終盤にさしかかるまで犯人に気づきませんでした。気づいた後も、「いやいや、まさかな」「いくらなんでもそんな」と思ってました。

読者はどうしても語り手に感情移入してしまうから、語り手=犯人だなんて信じたくない、という気持ちになるんですよね。

ラストで、ポアロが犯人(語り手)を追い詰める場面は、まるで自分が追い詰められるような気分になり、最高にドキドキハラハラしてしまいました。

この結末をどう受け止める?

トリックは面白かったのですが、結末については少しモヤモヤしたところもあります。

ポアロはシェパード医師にだけ事件の真相を語り、睡眠薬を飲むこと(自殺)を薦めるんです。姉のキャロラインのためにも、そうしたほうがいいと。

これには驚きました。ポアロはこういうこともしちゃうんですね。昔の日本人が切腹を薦めるようなものかしら?

姉のキャロラインには、真相を知らせたくない。でもラルフ・ペイトンの容疑を晴らすために、事件の真相は明らかにしなければいけない。

そのため、ポアロはシェパード医師に、真相を包み隠さず書いて手記を完成させるよう命じます。そうすれば、手記とポアロの推理で犯人を確定することができる。

でも、事件の真相を姉・キャロラインに悟らせないようにするなんて、可能なんでしょうか?

警察が内密に処理したとしても、ラルフ・ペイトンの容疑が晴れ、シェパード医師が睡眠薬の飲み過ぎで死んだら、勘のいいキャロラインはすぐ気づくんじゃないかなー?

この結末が、日本版ドラマでどう描かれるのかも気になるところです。

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