「予告殺人」原作あらすじと感想|マープルが残したヒントの意味は?伏線の妙と意外な犯人

アガサ・クリスティ「予告殺人」

どうも、夏蜜柑です。
アガサ・クリスティの「予告殺人」を読みました。

ファンの間で評価の高い作品だけあって、面白かったです。

ミス・マープルのほのぼのとした〝探偵らしくない〟魅力とユーモアで、作品全体に穏やかな雰囲気が漂うのと同時に、本格的なミステリとしても楽しめる〝仕掛け〟が隠されています。

実は序盤にかなり大胆なヒントを与えてくれているのですが、わたしは「ん?」と引っかかりを覚えつつも、スルーしてしまいました。

後で「そ、そういうことか…」と。
ちょっと悔しかったです。

動機は「砂の器」と同じですね。
そういうところもわたし好みでした。

 

登場人物

ジェーン・マープル
セント・メアリ・ミードに住むおしゃべりと編み物が好きな独身の老婦人。本職の探偵顔負けの観察眼と洞察力を持ち、持ち前の好奇心と詮索好きで数々の難事件を解決に導いている。
事件当時はロイヤル・スパ・ホテルに滞在していたが、幼友達の娘であるダイアナを頼って牧師館へやってくる。

レティシア・ブラックロック
リトル・パドックスの女主人。新聞の広告欄に「殺人予告」が掲載され、戸惑いつつも客人たちを迎える。若い頃、大資本家ランダル・ゲドラーの秘書をしていたことがあり、ランダルの遺産相続人のひとりとなっている。

ドラ・バンナー
レティシアの学生時代の友人。体を壊して働けなくなり、レティシアの好意で同居することになった。陽気な性格だがドジで失敗が多く、レティシアをイライラさせることも。レティシアのことを心から慕っている。

パトリック・シモンズ
レティシアの従弟。ジュリアの兄。戦争中は海軍にいた。ミルチェスター大学で工学士の資格を取るため、2か月前からレティシアの家に居候している。

ジュリア・シモンズ
レティシアの従妹。パトリックの妹。ミルチェスターの病院で薬剤師として実習中。2か月前から兄・パトリックと共にレティシアの家に居候している。

フィリッパ・ヘイムズ
レティシアの家の美貌の下宿人。ルーカス夫人の地所にあるデイヤス・ホールで庭師の助手をしている。夫は戦死し、8歳の一人息子がいる。

ミッチー
レティシアの家のメイド。外国からの避難民で、被害妄想に取り憑かれている。

ダイアナ・ハーモン
ジュリアンの妻。「バンチ」という愛称で通っている。マープルの幼友達の娘。

ジュリアン・ハーモン
牧師。ダイアナの夫。

ローラ・イースターブルック
イースターブルック大佐の妻。新聞の広告欄で「殺人予告」を見つけ、夫と共にリトル・パドックスを訪ねる。

アーチー・イースターブルック大佐
心理学者。事件当日、妻・ローラと共にリトル・パドックスを訪ねている。事件後、「自棄を起こした外国人が強盗を企てたものの失敗し、自責の念に駆られて自殺を図った」と心理学的見解を述べる。

スウェッテナム夫人
エドマンドの母。新聞の広告欄で「殺人予告」を見つけ、息子のエドマンドと共にリトル・パドックスを訪ねる。

エドマンド・スウェッテナム
小説を書いている青年。スウェッテナム夫人の息子。

マーガトロイド
養鶏業者。ヒンチリフと一緒に住んでいる。新聞の広告欄で「殺人予告」を見つけ、リトル・パドックスを訪ねる。強盗が現れた際、ひとりだけドアの陰にいて部屋の中を見ている。

ヒンチリフ
養鶏業者。事件当日、マーガトロイドと共にリトル・パドックスを訪ねる。後日、マーガトロイドに事件発生時に見たことを思い出させようとする。

ダーモット・クラドック
捜査課の警部。今回の事件を担当する。最初はマープルを邪魔者扱いしていたが、マープルによって事件のヒントを与えられ、独自に捜査を進めていく。

フレッチャー巡査部長
クラドックの忠実な部下。共に事件の捜査にあたる。

ジョージ・ライデスデール
ミドルシャーの警察署長。クラドックの才能を高く買っている。マープルから事件についての意見が書かれた手紙を受け取り、会いに行く。

ヘンリー・クリザリング卿
前ロンドン警視庁警視総監。マープルの探偵としての才能を高く評価している。

ルディー・シャーツ
リトル・パドックスに現れた強盗。「手をあげろ!」と叫んだ後、銃弾を受けて死亡する。ロイヤル・スパ・ホテルで働いており、レティシアと面識があった。

ランダル・ゲドラー
レティシアが20年間秘書をしていた大資産家。故人。生前、妻の生存中は妻に、妻の死後はレティシアに全財産を譲渡するという遺言を残している。

ベル・ゲドラー
ランダルの妻。病弱で余命わずかと言われている。レティシアが遺産を相続することを望んでいる。

ソニア
ランダルの妹。ランダルの反対を押し切って結婚し、それ以来ランダルとは仲違いしている。ピップとエンマという双子を産んでいる。

シャーロット・ブラックロック
レティシアの妹。故人。幼い頃から病を患い、闘病生活を強いられていた。

あらすじと解説(ネタバレ有)

「予告殺人」は、1950年に刊行されたマープルシリーズの長編第4作目にあたります。

文庫の末尾に掲載されている三橋暁氏による解説文によると、〈日本クリスティ・ファンクラブ〉の会員が選んだベストテンでは「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」に次いで第4位。

読んでみて納得しました。
最後まで犯人が誰なのかまったく予想がつきませんでしたね……。

物語の始まりは「殺人予告」

ある朝、ローカル紙〈ギャゼット〉の広告欄に、殺人予告が掲載されます。

殺人お知らせ申し上げます、十月二十九日金曜日、午後六時三十分より、リトル・パドックスにて、お知り合いの方のお越しをお待ちします。右ご通知まで。

殺人予告を見た村人たちは「殺人ごっこ」だと思い込み、好奇心に駆られてリトル・パドックスを訪ねます。

リトル・パドックスの女主人・レティシア・ブラックロックは、身に覚えがない「殺人予告」に戸惑いを見せつつも、やってきた客人たちをもてなすのですが……。

突然部屋の灯りが消え、銃声が鳴り響き、本当に人が殺されてしまいます。
しかも殺されたのは、よく知らない男。

警察は状況証拠から、強盗がレティシアを殺そうとして失敗し、自殺を図ったか、銃が暴発したのだろうと考えます。

その見解に「待った」をかけたのがマープルでした。

大富豪の遺産

マープルは強盗の背後に黒幕がいると考えました。

「誰って、いったい何のことなんです?」
「まあ、うまくいえなくてご免なさいね、彼にあんなことをやらせたのは誰なのかしらという意味ですの」
「じゃあ、あなたは誰かがあいつをそそのかしたんだと考えているんですね?」

犯人はなぜ新聞に予告を出し、男を強盗に見せかけてレティシアを殺させようとしたのか?

クラドック警部は、〝事件発生時に現場にいた誰か〟だと推測するのですが、レティシアに恨みを持つ人間が見当たりません。

しかしここで、意外な事実が明らかになります。

レティシアはかつて大資産家のランダル・ゲドラーの秘書をしていました。ランダルは、「妻の生存中は妻に、妻の死後はレティシアに全財産を譲渡する」という遺言を残していたのです。

そしてレティシアが死んだ場合は、ランダルの妹の子供たちに財産が渡ることになっていました。

第2、第3の殺人

レティシアが死ねば、ランダルの財産はすべて兄妹のものとなる。
犯人は、ランダルの妹の子供たち――双子の兄妹ピップとエンマではないか。

クラドック警部はそう考えました。

クラドック警部が目を付けたのは、レティシアの家に居候しているシモンズ兄妹でした。彼らはちょうどピップとエンマと同じ年頃だったのです。

そうこうしている間に、第2、第3の殺人が起こります。

レティシアの親友ドラが殺され、さらにマーガトロイドも殺されます。
ミス・マープルまでもが、謎のメモを残して消えてしまいます。

「スタンド。スミレ。アスピリンの瓶はどこにある? 甘美なる死。身上調書をつくる。はげしき苦痛を心強くも耐えにき。ヨーチン。真珠。レティー。ベルン。養老年金」

そして再び殺人予告の日と同じように、人々がリトル・パドックスに集められます。

〝彼女はそこにいなかった〟

マーガトロイドは殺される直前、「彼女はそこにいなかった」という言葉を残していました。

「殺人予告」の日、マーガトロイドだけはドアの陰に立っていて、強盗が照らす懐中電灯から逃れることができたのです。そのため、彼女には部屋の中にいた人たちが見えていました。

犯人は、暗闇の中こっそりと部屋を抜けだした人物。

誰にも知られぬように強盗役の男の背後に回り、レティシアに向かって2発の銃弾を放ち、その後、男を撃ったのです。だから、〝部屋の中にいない人物が犯人〟というわけです。

記憶をたぐり寄せるうちに、マーガトロイドは思い出しました。
そこに〝壁〟があったことを。

ある人物がいなくてはならない場所……その〝壁〟の前に、誰もいなかったことを。

 

ここから先はネタバレになります。

 

犯人の正体

マーガトロイドが見たのは、壁でした。
それは弾痕が残っていた壁で、本当なら、そこにはレティシアが立っていなくてはならなかったのです。

マープルはひそかにフレッチャー巡査部長やミッチーに協力を頼み、レティシアを罠にはめます。一同が揃っている前で、ミッチーに「レティシアがピストルを持って立っているのを見た」と嘘の証言をさせたのです。

焦ったレティシアはミッチーを殺そうとして、現行犯で逮捕されました。

その後、マープルとクラドック警部によって事件の詳細が語られます。
レティシア・ブラックロックと名乗っていた女性は、実はシャーロット・ブラックロックでした。

本物のレティシアはとうの昔に亡くなっていて、妹のシャーロットが入れ替わっていたのです。

病を克服したシャーロットは、レティシアが受け取る遺産で人生を謳歌するつもりでした。ところがレティシアはインフルエンザで急死。このままでは遺産を受け取れなくなってしまいます。

そこで、死んだのはシャーロットということにして、自分は姉になりすまし、見知らぬ土地で〝レティシア〟を名乗って暮らし始めたのです。ランダルの遺産を受け取るために。

犯人の誤算

シャーロットは、昔なじみのドラにだけは、真実を打ち明けていました。

ドラはシャーロットに同情し、この計画に乗ってくれていたのです。
しかし、嘘が下手なドラは、たびたび失敗を犯します。

「レティー」と呼ばなくてはいけないのに、時々「ロティー」と呼んでしまうのです。

これはわたしも読んでいて気になったところでした。
ただドラという人物がドジな設定になっているので、「言い間違いかな」とスルーしていました。

「ロティー」はシャーロットの愛称だったんですね。
こういう伏線の敷き方、絶妙に巧いですよねぇ。

シャーロットはドラを家族のように愛していました。
そして同時に、ドラの失敗を許せなくなっていくのです。

予告殺人の真相

新聞に殺人予告を出し、強盗のふりをしてリトル・パドックスを訪れたルディー・シャーツは、レティシアに頼まれて「殺人ごっこ」の強盗役を引き受けただけでした。

実はルディーはシャーロットと面識があり、彼女がレティシアではないことを知る数少ない人物だったのです。

ルディーはちょっとお金を借りたかっただけで、そのことでシャーロットを脅すつもりはなかった。でも、シャーロットのほうは、そう受け止めてしまったんですね。

ルディーを殺すしかないと考えたシャーロットは、ルディーに強盗役をやらせ、自分を狙ったように見せかけて彼を殺したのです。

マープルが残したヒント

マープルが残したメモには、事件の謎を解く〝鍵〟が記されていました。

スタンド

レティシアが停電を起こすために使ったもの。あらかじめ裸線が出るように細工をしました。事件のあと、別のものとすり替えていました。

スミレ

これも停電を起こすために使ったもの。レティシアはスミレを生けた花瓶の水をスタンドの裸線にこぼし、故意にヒューズを飛ばせたのです。

アスピリンの瓶はどこにある?

ドラは自分のアスピリンの瓶が見当たらず、レティシアの部屋にあるアスピリンを飲んで死にました。レティシアがドラのアスピリンの瓶を隠し、自分のを飲むよう仕向けたのです。

甘美なる死

ドラが死んだ日は、ドラの誕生日でした。ミッチーはドラのために〝甘美なる死〟と呼ばれるケーキを作りました。レティシアはドラの最後となる日を、幸福な一日になるよう計らっていたのです。

身上調書をつくる

英語では「Making enquiries」。レティシアが「enquiries」を使っていたのに対して、シャーロットは「inquiries」を使っていました。このことから別人であることに気づいたんですね。ちなみにどちらも同じ「問い合わせ」という意味で、「enquiries」はイギリス英語、「inquiries」はアメリカ英語で使われることが多いそうです。

はげしき苦痛を心強くも耐えにき

ドラがレティシアのことを話しているときに使った言葉。このときのドラは、レティシアとシャーロットを混同していました。長年苦痛に耐えていたのはシャーロットのほうで、レティシアではありませんでした。

ヨーチン

ヨードチンキ(消毒薬)のこと。レティシアはシャーロットに「ヨード療法」を勧めていました。ここからマープルはシャーロットの病気が甲状腺腫だと推測しました。

真珠

レティシアが常に身につけていた〝真珠の首飾り〟のこと。見るからに偽物で似合っていませんでした。レティシア(シャーロット)は甲状腺の手術を受けていたため首に傷痕があり、それを隠すためにつけていました。

ロティー

シャーロットの愛称。ドラは時々間違えてレティシアのことを「ロティー」と呼んでいました。※マープルのメモには「ロティー」と書かれていましたが、クラドック警部たちは「レティー」の間違いだろうと思い込んでいました

ベルン

強盗役のルディー・シャーツは、かつてベルンの病院で看護人をしていました。そのときに患者だったシャーロットと知り合ったんですね。

養老年金

マープルが思い出した知人女性の話。彼女は自分とよく似た老婦人の分も養老年金を受け取っていました。

そのほかの真相

犯人のレティシア以外にも、正体が明らかになった人物がいます。

ジュリア・シモンズ

彼女は大資産家ランダルの妹ソニアの娘・エンマでした。

レティシアの従妹・パトリックと偶然知り合い、ジュリアのふりをして居候していたのです。生活に困っていて、レティシアが同情して遺産を少し分けてくれるのでは……と考えたんですね。

フィリッパ・ヘイムズ

彼女は大資産家ランダルの妹ソニアの娘・ピップでした(ピップという名前から、みんな勝手に男の子だと思い込んでいた)。レティシアに遺産が入ることを知り、息子の養育費を払ってくれるだろうと考えていました。

レティシア(シャーロット)は彼女の正体に気づいていて、遺産を相続したら彼女と息子の面倒を見ようと思っていたようです。

遺産の行方と結末

結局、ランダルの遺産を相続したのは、双子の姉妹ピップとエンマ(ジュリアとフィリッパ)ということになりました。

ジュリアは、パトリックの結婚の誘いを断って役者になる決意をしました。
フィリッパは、エドマンド・スウェッテナムと結婚しました。

最後は、フィリッパとエドマンドがハネムーンを終えてチッピング・グレグホーンに帰り、新聞屋を訪ねる場面で終わります。

2人は複数の新聞を頼むのですが、殺人予告が掲載されたローカル紙〈ギャゼット〉だけは頑として断ります。

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