ネタバレ有「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」原作あらすじ解説|謎の言葉の意味を追う冒険ミステリー

小説「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」ネタバレ解説

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

アガサ・クリスティの長編小説「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」を読みました。

アクロイド殺し」「予告殺人」「ABC殺人事件」「蒼ざめた馬」「ねじれた家」「オリエント急行の殺人」「死との約束」に続く8冊目になります。

人のいい牧師の息子ボビイと、快活な伯爵令嬢フランキーが、謎めいた事件に挑む冒険ミステリー。ポアロやマープルなど、おなじみの名探偵は登場しませんが、2人の軽妙なやりとりが楽しいコミカルな雰囲気の作品でした。

タイトルの「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」は、被害者が死ぬ間際に遺した言葉。その謎は、終盤に解き明かされます。

ドラマ版の解説はこちら▼

BBCドラマ「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」あらすじキャスト NHK放送「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」全話あらすじ解説・感想・登場人物(キャスト)

登場人物(ネタバレなし)

主要人物

ロバート(ボビイ)・ジョーンズ
牧師の四男坊。元海軍軍人。トーマス医師とゴルフをしている最中に、崖の下で倒れている男を発見。その男が死に際に遺した言葉「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」を聞いたことから、不可解な事件に巻き込まれる。幼なじみのフランキーとともに事件の調査に乗り出す。

フランシスフランキー)・ダーウェント
ダーウェント伯爵の令嬢。ボビイの幼なじみ。好奇心旺盛で勇猛果敢。ロンドンでの生活に退屈し、ウェールズに帰ってきてボビイと再会する。ボビイが遭遇した事件に興味を持ち、調査を始める。

事件の被害者と関係者

アレックス・プリチャード
崖から落ちて死んだ男。ボビイに「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」という言葉を残して息絶える。10年にわたる海外生活を切り上げ、最近タイから帰国したばかりだった。

アメリヤ・ケイマン
アレックスの妹。パディントン在住。あつかましくて品のない女性。アレックスが彼女の写真を所持していたことから身元が判明した。兄の遺体を確認するため、夫のレオとともにマーチボルトを訪れる。

レオ・ケイマン
アメリヤの夫。血色のいい大柄の男。アメリヤとともにマーチボルトを訪れ、牧師館に立ち寄りボビイと面会する。

ボビイの周辺人物

バジャー・ビードン
ボビイの幼なじみで親友。元士官候補生。伯母の遺産のガレージを引き継ぎ、ボビイと共同経営で中古車店を開く準備をしている。

トーマス・ジョーンズ
ボビイの父。牧師。神経質で怒りっぽい性格。ボビイを愛しているが、教育のため厳しく接する。退役後、仕事にあぶれているボビイの将来を心配している。

ロバーツ夫人
ジョーンズ家の家政婦。

トーマス医師
村で診療所を営む医師。ゴルフ場でボビイと一緒に遺体を発見した。

フランキーの周辺人物

マーチントン卿
フランキーの父。伯爵。ウェールズのダーウェント城に住んでいる。

ジョージ・アーバスノット
医者。フランキーの友人。フランキーの計画に協力する。

フレデリック・スプラッゲ
ジェンキンソン&スプラッゲ法律事務所の老弁護士。マーチントン卿の顧問弁護士。

メロウェイ・コートの住人と周辺人物

ロジャー・バッシントンフレンチ
ボビイが崖の下で男の最期を見取った直後に現れた男性。ハンプシャーにあるステイヴァリイ村のメロウェイ・コートに住んでいる。人柄がよく周囲から好かれているが、放浪癖があり世界中を旅している。事件の日は家を探しにマーチボルトを訪れていた。

ヘンリイ・バッシントンフレンチ
ロジャーの兄。メロウェイ・コートの当主。情緒不安定で、書斎にこもっていることが多い。のちに薬物依存症であることがわかる。

シルヴィア・バッシントン-フレンチ
ヘンリイの妻。アメリカ人。フランキーを気に入り、友人のように接する。夫のヘンリイと息子トミイを愛しているが、夫が変わってしまったことに不安を感じている。

ジャスパー・ニコルソン博士
精神科医。精神疾患や依存症専門の療養所「グレインジ」を営んでいる。治療のためにヘンリイを入院させようとする。

モイラ・ニコルソン
ニコルソン博士の妻。27歳前後。1年前にニコルソンと結婚し、グレインジに住んでいる。偶然出会ったボビイに助けを求める。

リヴィントン夫妻
シルヴィアの友人。以前、探検家のアラン・カーステアーズを連れてメロウェイ・コートを訪ねている。

そのほか

ジョン・サヴィッジ
億万長者。がんを患っていると思い込み、薬を飲んで自殺した。

アラン・カーステアーズ
カナダ人。博物学者で、探検家。昨年、友人のジョン・サヴィッジと一緒にアフリカを旅行した。

トーマス・アスキュー
ステイヴァリイ村の旅館アングラーズ・アームズ館の主人。

あらすじと解説(途中からネタバレ有)

夫婦でも恋人でもない2人の探偵ごっこ

『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』は1934年に発表されたノンシリーズの長編小説です。日本では1936年に初めて翻訳されました。

探偵役のボビイとフランキーは幼なじみというだけで、夫婦でも恋人でもありません。物語の序盤では、ボビイが「身分の違い」を気にしてフランキーとの距離を縮めることにためらい、フランキーを怒らせてしまう場面も。

物語の舞台は、2人の故郷であるウェールズと、容疑者が住むハンプシャー。最初の事件は、ウェールズの小さな海辺の町マーチボルトで起こります。

謎めいた言葉と、女性の写真

ボビイはゴルフ中に悲鳴を聞き、崖下に倒れている瀕死の男を発見します。意識を取り戻した男は、「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」とだけ言って、息を引き取りました。

男が死んだ後、ボビイは彼のポケットに入っていた美しい女性の写真に心を奪われます。その後、教会へ行く予定があったボビイは、その場に通りかかったロジャー・バッシントン-フレンチと名乗る男に遺体を任せて、現場を離れました。

後日、女性の写真から、遺体の身元が判明します。写真の女性はアメリヤ・ケイマン夫人で、被害者は彼女の兄アレックス・プリチャードでした。検死審問でアメリヤを見たボビイは、写真の面影がどこにも見当たらないことに驚きます。

ボビイは女性のあまりの変貌ぶりにショックを受けるのですが、幼なじみのフランキーは「写真とそっくり」だと言います。

アメリヤは夫のレオ・ケイマンとともに牧師館を訪ねてきて、兄の最期の言葉を教えてほしいとボビイに言います。そのときは「何もない」と答えたボビイでしたが、のちに最期の言葉を思い出し、手紙でそのことを伝えます。

命を狙われたボビイ

その後、ボビイのもとに、ブエノス・アイレスの会社から仕事の誘いの手紙が届きます。破格の年俸に父親は喜びますが、ボビイは親友のバジャーとガレージを共同経営する約束をしていたため、この誘いを断ってしまいます。

さらに数日後、ボビイが飲んだビールにモルヒネが入っていて、あやうく命を落としかけます。奇跡的に一命を取り留めたボビイに、フランキーは、崖から落ちた男は誰かに突き落とされたのではないか、そしてその犯人が口封じのためにボビイを殺そうとしたのではないか、と言います。

しかし、ボビイは犯人を目撃しておらず、命を狙われる理由に心当たりがありません。

写真はすり替えられた?

入院先の病院で新聞を見たボビイは、驚きます。

新聞に載っていた女性の写真は、ボビイが現場で見た写真とは別物でした。ボビイとフランキーは、あとから現場に来たロジャー・バッシントン-フレンチが写真をすり替えたのではないか、と考えます。

つまり、死んだ男は計画的に崖から突き落とされた。そして彼の身元がバレないように、ロジャーが遺体のポケットから女性の写真を抜き取り、代わりにケイマン夫人の写真を入れたのではないか、と。

ボビイとフランキーは、男の最期の言葉「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」が鍵を握ると考え、ボビイが命を狙われたのも、この言葉を聞いたからではないかと推測します。

フランキーの計画

フランキーは不動産業者からロジャーの住所を聞き出し、ある計画を企てます。

ロジャーの住む家は、ハンプシャーにあるステイヴァリイ村の「メロウェイ・コート」でした。フランキーはボビイの店で中古車を買い、その車をメロウェイ・コートの壁にわざと突っ込ませて事故を装います。

フランキーの友人で医者のジョージが協力し、怪我をした(ふり)のフランキーをメロウェイ・コートに運び込むことに成功。まんまとメロウェイ・コートに潜入したフランキーは、館の当主ヘンリイ、その妻シルヴィア、夫妻の息子トミイ、そしてヘンリイの弟であるロジャーと対面します。

ところが館に滞在するうちに、フランキーはロジャーの魅力にとりつかれ、彼は犯人ではないと思うようになります。

アラン・カーステアーズ

メロウェイ・コートに滞在中、フランキーは当主のヘンリイが麻薬常習者だと気づきます。

妻のシルヴィアはそのことに気づいていませんでしたが、ロジャーは知っていました。そして、どうにか兄を説得して「グレインジ」と呼ばれる専門の病院に入院させたいと考えていました。

ある日、そのグレインジの経営者であるニコルソン博士と妻のモイラが、メロウェイ・コートを訪ねてきます。

ニコルソン博士はフランキーが起こした事故の矛盾点を鋭く突き、フランキーを追い詰めます。フランキーは彼こそが真犯人なのではないか、と疑い始めます。

フランキーは、ロジャーとシルヴィアにマーチボルトで起きた転落事故について話します。すると、新聞で死んだ男の写真を見たシルヴィアが、「アラン・カーステアーズにそっくりだ」と言います。

アラン・カーステアーズは、以前シルヴィアの友人のリヴィントン夫妻がメロウェイ・コートを訪ねてきたときに、一緒に連れてきた探検家でした。

億万長者ジョン・サヴィッジ

ボビイはフランキーの運転手になりすましてステイヴァリイ村を訪ね、アングラーズ・アームズ館に宿泊します。そして夜闇に乗じてグレインジの敷地内に侵入し、あの写真の女性とばったり遭遇します。

翌朝、フランキーから話を聞いたボビイは、崖から落ちて死んだ男がアラン・カーステアーズだと確信し、リヴィントン夫妻の家を訪ねます。リヴィントン夫人は、カーステアーズがイギリスに来たのは自殺した億万長者ジョン・サヴィッジと関係があるのではないか、と言います。

カーステアーズはメロウェイ・コート訪問時に、ニコルソンの妻モイラの写真を見ていました。そして帰ってくると、ニコルソン夫妻について詳しく知りたがりました。

モイラの告白

ボビイがアングラーズ・アームズ館に戻ると、モイラが待っていました。ボビイはそこで初めて、彼女がニコルソンの妻だと知ります。モイラは夫のニコルソンに殺されるのではないかと怯えていました。

ニコルソンはシルヴィアに夢中で、自分とヘンリイを殺して彼女と結婚しようとしている、と言うのです。

さらに、アラン・カーステアーズとは結婚前からの知り合いで、彼に写真を渡したことがある、とモイラは打ち明けます。1か月前、カーステアーズが自分に会いにグレインジを訪ねてきたことも…。

モイラの話を聞いたボビイとフランキーは、カーステアーズがモイラを助けようとして、ニコルソン博士に殺されたのではないか、と考えるようになります。

1 2