中国ドラマ「ロング・シーズン 長く遠い殺人」第9話~第12話(最終話)についてまとめました。
いよいよ過去と現在の事件が繋がり始め、目が離せない展開になってきました。
1997年に何が起きていたのか、王陽、沈墨、傅衛軍の3人がどういう状況にあったのかが、少しずつ見えてきます。
本来ならば頼るべき大人たち、自分を助けてくれるはずの親たちに裏切られ、孤立していく若者たち。
非情な世の中に抗おうとする姿が痛々しい。
▼第5話~第8話はこちら
「ロング・シーズン 長く遠い殺人」第5話~第8話ネタバレ感想|沈墨の抱える深刻な問題作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2023年12月27日(水)から毎週水曜20:00~
- 製作国:中国(2023年)
- 原題:漫長的季節(The Long Season)
- 原作・脚本:ユー・シアオチエン
- 脚本:パン・イーラン/チェン・ジー
- 監督:シン・シュアン
あらすじ
ひき逃げ事件の捜査を続ける馬徳勝は、思いがけない人物と出くわす。それは沈棟梁――かつて樺林市を騒がせたバラバラ殺人事件の関係者である。しかも、ひき逃げ犯はその息子・沈輝だという。彼は二つの事件になんらかの関係があるとにらみ、かつての部下で今は局長となっている李群を呼び出して、過去の調書を確認したいと持ちかけるのだった。当然断わられたものの、馬徳勝はいつもの王響・ゴン彪コンビとともに捜査を続行。
WOWOW公式サイトより
登場人物(キャスト)
※第8話までのネタバレを含みます
2016年の人々
王響(ワン・シアン)/范偉(ファン・ウェイ)
高齢のタクシー運転手。かつては樺林鋼鉄の機関車運転士だったが、リストラに遭い、ひとり息子の王陽を亡くし、心身ともに疲れ果てている。義弟の龔彪とともにナンバープレート偽造事件の捜査に乗り出し、やがてその事件が20年前の王陽の死と繋がっているのではないかと疑い始める。
龔彪(ゴン・ビアオ)/秦昊(チン・ハオ)
王響の義弟。愛称は彪子(ビアオズ)。かつて王響と同じ樺林鋼鉄で働いていた。タクシー運転手になるため中古車を購入するが、同じナンバーの車が人身事故を起こしたことがわかり、車を警察に押収されてしまう。車を取り戻すため、王響とともに偽造犯を捜すことに。
馬徳勝(マー・ドーション)/陳明昊(チェン・ミンハオ)
元刑事課長。現在は退職し、ラテンダンスにのめり込んでいる。王響とは20年前に起きたバラバラ殺人事件の捜査で知り合った。王響と龔彪に協力してナンバープレート偽造事件を追う。20年前の王陽の死については自殺と判断しており、他殺を疑う王響とは見解が異なる。昨年妻を病気で亡くし、〝小李〟という犬と暮らしている。
王北(ワン・ベイ)/史彭元(シー・ポンユエン)
王響の現在の息子。血は繋がっていないが王響を慕い、父子2人で暮らしている。事件の捜査にのめり込む王響を心配しながら、北京の美大を受験する。
黄麗茹(ホワン・リール―)/王佳佳(ワン・ジアジア)
龔彪の妻。王響の妻のいとこ。元看護師で、現在は自宅でエステを経営している。エステサロン開店のために貯めていた金を龔彪に無断で使われてしまい、苦しい生活に嫌気がさして離婚を言い渡す。
李巧雲(リー・チアオユン)/劉琳(リウ・リン)
王響の元同僚。現在はマッサージ店を経営し、王響と懇意にしている。
李群(リー・チュン)/唐曾(タン・ツェン)
樺林市の公安局局長。馬徳勝の元部下。馬徳勝たちが警察を頼らず、自分たちで捜査を進めていることに激怒する。
1997~1998年の人々
王響(ワン・シアン)/范偉(ファン・ウェイ)
樺林鋼鉄の機関車運転士。勤続年数30年以上の模範的な労働者で、仕事に誇りを持っている。一時帰休(リストラ)名簿に名前が載っていることを龔彪から知らされ、バラバラ殺人事件の犯人を見つけて表彰されることで、リストラを回避しようと思いつく。だが息子の王陽が事件に関わっていると知り…。
羅美素/林曉傑(リン・シャオジエ)
王響の妻。心臓の手術を受けたが会社から手術費用の払い戻しがないことに腹を立てている。バラバラ遺体が発見された日から部屋にこもってまったく話さなくなった息子・王陽を心配する。
王陽(ワン・ヤン)/劉奕鉄(リウ・イーティエ)
王響の息子。高校卒業後、進学も就職もせずにブラブラしていたが、親友の曲波から〈ビクトリア・クラブ〉を紹介され、ボーイとして働いていた。1997年に医大生の沈墨と出会い、一目惚れ。積極的にアプローチし、仲良くなる。1998年ではバラバラ殺人事件の参考人として警察に事情聴取されている。
馬徳勝(マー・ドーション)/陳明昊(チェン・ミンハオ)
市公安局の刑事課長。正義感が強く捜査能力は高いが、世渡り下手で組織の中では浮いた存在。樺林鋼鉄の社宅区域で切断された遺体が発見され、捜査に乗り出す。王響とはたまたま遺体発見現場で出会い、樺林鋼鉄の社内事情に詳しい彼に協力を求める。
龔彪(ゴン・ビアオ)/秦昊(チン・ハオ)
樺林鋼鉄の新入社員。樺林工業大学卒業後、樺林鋼鉄に新卒入社した。看護師の麗茹に一目惚れし、彼女と親密になりたいがために親戚の王響に近づき、事件の捜査を手伝う。
黄麗茹(ホワン・リール―)/王佳佳(ワン・ジアジア)
王響の妻のいとこ。病院で働く看護師。
邢建春(シン・ジエンチュン)/楊一威(ヤン・イーウェイ)
樺林鋼鉄の警備課長。廃棄処分となった機器を密かに横流ししている。王響に不正を阻止され、報復のために王陽を騙して窃盗罪に陥れる。
宋玉坤(ソン・ユークン)/張帆(チャン・ファン)
樺林鋼鉄の工場長。不倫現場を王響に見られてしまう。
劉全力(リウ・チュエンリー)
樺林鋼鉄の機関士。王響の同僚。金を得るために邢建春の不正に手を貸している。
李巧雲(リー・チアオユン)/劉琳(リウ・リン)
劉全力の妻。樺林鋼鉄のの計量室に勤務している。父母と義父母、さらに白血病を患う子供を抱え、生活は苦しい。工場での仕事の後、高級クラブ〈ビクトリア・クラブ〉のホステスとして働いている。
沈墨(シェン・モー)/李庚希(リー・ゴンシ―)
女子大生。医大に入ったばかりの1997年に王陽と出会い、猛アプローチを受けて恋仲になる。大学の女子寮に住み、夜は〈ビクトリア・クラブ〉でピアノ演奏のバイトしていた。1998年では行方不明になっている。
傅衛軍(フー・ウェイジュン)/蒋奇明(ジアン・チーミン)
沈墨の実弟。樺林でビデオ館を経営している。沈墨とともに伯父夫婦に引き取られたが、耳が不自由なことから傅家に養子に出され、その後、施設に預けられた。暴力的だが沈墨には優しい。
隋東(スイ・ドン)/王嘯宇(ワン・シャオユー)
傅衛軍の弟分。傅衛軍と一緒にビデオ館を経営し、常に行動をともにしている。沈墨とも仲が良い。
沈棟梁(シェン・ドンリアン)/侯岩松(ホウ・ヤンソン)
松河で暮らす沈墨の伯父。育ての親。沈墨に性的虐待を繰り返してきた。関係を断ち切ろうとする沈墨に激怒し、大学の掲示板に彼女の裸の写真と告発状を貼り出して嫌がらせをする。
沈輝(シェン・フイ)
沈棟梁の息子。両親と松河で暮らしている。傅衛軍に腕を折られる。
盧文仲/彭梓桁(ペン・ズーヘン)
〈ビクトリア・クラブ〉の常連客。樺林鋼鉄の工場長・宋玉坤と結託して金儲けを企んでいる。ホステスの殷紅を利用して沈墨を強姦する。
殷紅(イン・ホン)/林曉傑(リン・シャオジエ)
〈ビクトリア・クラブ〉のホステス。家は貧しく、母親は入院費が払えないことを理由に自殺。盧文仲と深い関係になり、彼の求めに応じて沈墨を罠にはめる。
第9話~第12話のあらすじ(ネタバレ有)
2016年。王響はかつて〈ビクトリア・クラブ〉でホステスをしていた李巧雲に、沈墨と傅衛軍について尋ねるが、巧雲は「記憶にない」と主張して不機嫌になる。
一方、馬徳勝は公安局で沈墨の伯父・沈棟梁を見かけて驚く。偽造ナンバー車でひき逃げ事故を起こした男は、沈棟梁の息子・沈輝だった。馬徳勝は公安局局長に出世した元部下の李群を呼び出し、1998年の調書を見せてほしいと頼み込むが、規律違反だと断られる。
馬徳勝と王響、龔彪の3人は、先月刑務所内で亡くなった沈墨の弟・傅衛軍の火葬が行われた葬儀場を訪れる。遺骨は既に引き取られており、引取人は沈棟梁だった。
3人は沈棟梁に会うため彼の自宅を訪ね、沈棟梁の遺体を発見する。公安局で聴取を受けることになり、馬徳勝は李群から「捜査の妨害をするな」と叱責される。
警察が調べたところ、沈棟梁は背後から何者かに刺されたと見られ、寝たきりの妻も酸素吸入器が外された状態だった。自宅から見つかった傅衛軍宛の私信は、すべて内モンゴル自治区の殷紅から送られたものだった。李群は殷紅を捜し出すよう部下に命じる。
1997年。傅衛軍と隋東が営むビデオ館に、かつて彼らにバイクを盗まれた地元の若者たちが報復に現れる。隋東は拷問を受け、傅衛軍も叩きのめされて怪我を負う。
殷紅にだまされて盧文仲に手籠めにされた沈墨は、これまでのバイト代を受け取って〈ビクトリア・クラブ〉を辞める。殷紅は盧文仲から受け取った金で店を出す計画を立てていた。沈墨は殷紅をなじるが、殷紅は悪びれる様子もなく「チャンスをあげたの」とうそぶく。
王陽はホステスたちの会話を聞いて、沈墨が盧文仲と関係を持ったことを知る。激怒した王陽は盧文仲に「何をした?」と詰め寄り、店内で暴れて支配人からクビを宣告される。
王陽がビデオ館を訪れると、沈墨が怪我をした傅衛軍を手当していた。荒らされた店内を片付けながら、「俺たち3人、世界で一番不運だな」とつぶやく王陽。それに対して沈墨は、意を決したように「不運なのは奴らよ」と言う。
ビクトリア・クラブで飲んでいた盧文仲のもとに、沈墨から電話が入る。再び彼女と一夜を過ごせると思い込んだ彼は、嬉々として沈墨に会いに行く。それを見た殷紅は嫉妬を隠せない。
盧文仲と落ち合った沈墨は、教科書を取りに友達の所に寄りたいと言い、ビデオ館に誘い込む。盧文仲は2人きりになると沈墨をベッドに押し倒し、強引に体を奪おうとする。隠れていた王陽が背後から彼を殴り、傅衛軍と2人で逃げようとする盧文仲を押さえつけ、沈墨が注射を打って眠らせる。
拘束された盧文仲は、慰謝料として80万元の手形を渡すことで許しを乞おうとする。翌朝、王陽と傅衛軍は手形を換金しようとするが、支払期日の17日以降でないとできないと言われてしまう。
王陽と傅衛軍がビデオ館に戻ると、盧文仲は亡くなっていた。沈墨は自分が殺したと打ち明ける。王陽は防護服を着て、傅衛軍とともに工場に盧文仲の遺体を運び込み、溶鉱炉の中に投げ入れる。沈墨は傅衛軍とともに身を隠す決意を固め、王陽に別れを告げて家に帰らせる。
沈墨が荷造りをしていると、殷紅がビデオ館を訪ねてくる。沈墨が盧文仲から80万元もの大金を受け取ったと知った殷紅は、沈墨を脅迫して金を手に入れようとする。沈墨は「持っていけばいい。望みどおり私になれる」と彼女に告げて手形を渡し、帰ろうと背を向けた殷紅を襲って殺害する。
ビデオ館に戻った傅衛軍は、袋詰めにされた遺体を見て沈墨が殷紅を殺したことに気づく。沈墨は王陽には黙っててと頼み、殷紅を身代わりにするため自分の指を切断する。傅衛軍は工場の用水路に、殷紅の遺体が入った複数の袋を投げ込む。
1998年。王響は息子の王陽が殺人事件に関っているという疑いを強め、王陽を自宅に監禁してビデオ館を訪れる。無人のビデオ館に侵入した王響は、棚の中から遺体が入っていたのと同じ袋を見つける。袋を持って公安局へ行く王響だったが、馬徳勝は不在だった。
その頃、馬徳勝は単身、沈墨の伯父・沈棟梁の家を訪ねていた。沈墨について質問する馬徳勝に対し、警戒感を隠しきれない沈棟梁。馬徳勝は沈の家に「紡織第二工場」と書かれたポットが置いてあるのを見つけ、彼が沈墨の通う大学の掲示板に告発状と写真を貼った犯人だと確信する。そのポットは、張り出された写真にも写り込んでいたからだ。
馬徳勝は沈棟梁を車に乗せ、樺林へ向かう。途中、いかに自分が沈墨を大切にしてきたか、自分以上によくしてやった男はいないと開き直り、「俺が殺したかった」と言い放つ沈棟梁。怒りを抑えきれなくなった馬徳勝は沈を車から引きずり降ろし、暴行を加える。
一方、沈墨は身元を隠すため男装し、弟の傅衛軍と行動をともにしていた。だが傅衛軍は「王陽と逃げて。全部俺が引き受ける」というメッセージを残して銀行へ行き、盧文仲の手形を換金しようとしたところを警察に逮捕される。
自室に閉じ込められていた王陽は、母親の羅美素をだまして逃げ出す。それを知った王響は王陽を連れ戻すため、龔彪に加勢を頼む。だが龔彪は麗茹の突然の訪問を受け、彼女と深い関係に。
王響は武器を手にひとり夜の線路へ向かい、そこで不審な人物を発見する。それは男装した沈墨だったが、王響は王陽の不良仲間だと思い込んでしまう。「王陽を返してくれ」と懇願する王響に罪悪感を抱きながらも、沈墨は彼を襲って失神させ、王陽のもとへ向かう。
沈墨と王陽は橋の上で再会する。王陽と2人で逃げようと考えていた沈墨だったが、王陽は「俺が罪を背負って自首する」と言い出す。何も知らない王陽に、殷紅を殺したことを打ち明ける沈墨。バラバラ遺体には自分の切断した小指が紛れ込ませてあり、遺体は自分だと思われていることを王陽に説明する。
「一緒に逃げて。あなたしかいないの」と訴える沈墨に、王陽は何も答えることができない。沈墨は王陽の反応を見て、「やっぱり私とは違う」とつぶやく。
翌日、樺林鋼鉄の従業員総会が開かれ、一時帰休(リストラ)対象者が発表される。麗茹と一夜をともにした龔彪は彼女と結婚することを決めるが、麗茹が工場長の宋玉坤と不倫関係にあり、彼の子供を妊娠していることを偶然知ってしまう。
総会の最中に宋につかみかかった龔彪は、その場でリストラ対象者に認定される。王響はリストラ対象から外されていたが、龔彪から話を聞いて憤り、宋に殴りかかって騒動を起こす。騒動に巻き込まれた麗茹は、突き飛ばされて流産してしまう。
王響のもとに馬徳勝が現れ、「王陽が見つかった」と告げる。王陽は河原で遺体となって発見されたのだった。息子の死を受け入れられない王響は、王陽の遺体にすがりついて「目を覚ましてくれ」と繰り返す。
2016年。王響は李巧雲と仲直りするため、彼女に贈る花を買う。その花屋で偶然、巧雲に想いを寄せる元教員の男性と出会う。王響はなりゆきで彼と巧雲をタクシーに乗せ、2人のデートをお膳立てすることに。
巧雲にふさわしいのは彼だと判断した王響は、身を引くことを決め、2人の幸せを願って花束を贈る。
龔彪は麗茹との仲を取り戻そうと、開店準備中の彼女の店を訪れる。だが麗茹に「もうあんたと一緒にいたくない。復縁なんてまっぴら」と言われ、離婚に応じる決意をする。その夜、龔彪は離婚合意書に署名し、麗茹に別れを告げる。
王響と馬徳勝、龔彪の3人はそれぞれの思いを抱え、カラオケ店で夜を明かす。絶対に真相を解き明かす、と決意を新たにする馬徳勝だったが、体調が悪化し意識を失う。朝食を買いに出かけた龔彪も、交通事故を起こして車ごと川に転落してしまう。
1998年。龔彪は流産した麗茹を見舞う。麗茹は子供が産めなくなったかもしれないと言い、「私なんて嫌いでしょ」と泣きじゃくる。龔彪は気にしていないと告げ、麗茹を抱きしめる。
1998年。王陽を弔うため、王響の家には樺鋼の人々が集まっていた。皆が沈痛な面持ちで食卓を囲む中、妙に明るく振る舞う羅美素。そこへ、馬徳勝が現れる。王陽の死因を自殺だと説明する馬徳勝に、「俺は信じない。息子を返してくれ」と怒りをぶつける王響。人々が帰った後、王響はバスルームで首を吊った状態の羅美素の遺体を見つける。
傅衛軍を逮捕したことで殺人事件を解決した李群は、同僚たちから称賛される。一方、馬徳勝は沈墨の伯父・沈棟梁に暴力を振るったことで捜査から外され、謹慎を命じられる。抗議する馬徳勝に対し、「それでも刑事か」と怒鳴りつける朱局長。馬徳勝はその場で制服を脱ぎ、公安局を辞める。
2016年。龔彪は交通事故で命を落とす。脳梗塞で倒れた馬徳勝は一命を取り留めるが、20年間の記憶がなくなっていた。事件の真相に気づいた馬徳勝は王響を伴い、公安局へ向かう。
公安局では、局長となった李群と部下たちが沈棟梁の事件を追っていた。DNA鑑定の結果、沈棟梁を殺害した犯人は沈墨だと判明する。偽造ナンバー車の運転手は沈輝ではなく、沈棟梁だったことも明らかに。
傅衛軍の手紙で沈墨の居場所を知った沈棟梁は、彼女を樺林に呼び出し、偽造ナンバー車で轢き殺そうとした。軽傷で済んだ沈墨は傅衛軍の遺骨を奪うために沈棟梁の家を訪れ、彼を殺害したのだ。わからないのは、沈墨が犯行に及んだ動機だった。
そこへ馬徳勝が現れ、沈墨が沈棟梁から性的虐待を受けていたこと、養母の趙静が見てみぬふりをしていたことを告げる。バラバラ遺体を確認した際、沈棟梁は沈墨が生きていると確信した。そして彼女を捜索し、行方を突き止めた。だが逆に沈墨が沈棟梁を殺し、復讐を果たしたのだ。
次の狙いは養母の趙静だと知り、李群は彼女が入院している病院へ警官たちを向かわせる。だが警官たちが病院に到着したときには、趙静はすでに沈墨によって殺害されていた。
病院を出た沈墨は、警官たちを避けるように1台のタクシーに乗り込む。運転手は王響だった。王響は沈墨に「あんたの後ろ姿は片時も忘れたことがない」と告げ、あのとき王陽に何があったのか、どうして死なせたのか問う。小涼河にタクシーを走らせ、沈墨を川に沈めて復讐しようとする王響だったが、沈墨から「彼は私を助けて死んだの」と聞き、急ブレーキをかける。
あの夜、沈墨は橋の上から川に身を投げて自殺を図った。だが王陽が川に飛び込んで彼女を助け、代わりに命を落としたのだった。
タクシーは河原で横転し、炎上する。王響は必死の思いで脱出し、後部座席の沈墨を助け出す。沈墨は駆けつけた警官たちに逮捕され、一連の事件は彼女の自供により解決を迎える。
1998年。妻と息子を失った王響は、線路に横たわって命を絶とうとする。だが機関車が通過する直前、赤ん坊の泣き声が耳に届き、線路を離れる。泣き声をたどると、赤ん坊が捨てられていた。王響は赤ん坊を抱き上げ、生きる希望を取り戻す。
2017年。王響と李巧雲は、美大入学のため北京へ旅立つ王北をタクシーで駅まで送る。途中、トウモロコシ畑で用を足した王響は、かつてあった線路の上を機関車が走り去るのを見る。王響は運転席にいる過去の自分に向かって、「前を見ろ。振り返るな。前を向くんだ」と叫ぶ。
第9話~第12話(最終話)感想
出会えてよかったと思える作品でした。
たぶんわたしの年齢が王響たちと近いからだと思うけど、いろいろあって疲れ果てている感じとか、ただなんとなく生きている感じとか、後悔とか、未練とか、おじさんたちの心情がぐさぐさ刺さりました。
どの登場人物にもドラマがあり、愛おしかったです。
終盤、とくに長尺だった第11話では絶望的な展開になり、どうなることかと思いましたが…。
決して幸せな結末にはならなかったけど、それでも仄かに希望を感じさせるラストで、見終わった後は優しい気持ちになれたかな。
過去と現在をみごとに演じわけた俳優さんたちが素晴らしかったことは言うまでもなく、ストーリーが本当に秀逸でした。
エピソードのひとつひとつがすべて完璧にはまっていて、ラストに向けてパズルが完成されていくような感覚。
謎が明らかになっていく過程が気持ちよかったです。
語りたいことは山ほどあるのですが、その中でも特にわたしの印象に強く残った部分について書きたいと思います。
王響の赤いセーター
2016年の王響がいつも着ているぼろぼろの赤いセーター。これは、1997年に息子の王陽からプレゼントされたものであることが、第6話で明かされます。
でも当時の王響は、王陽のバイト(高級クラブでのボーイ)に猛反対していたこともあって、素直に喜ぶことができなかったんですよね。
意地を張って、すぐにセーターを着なかった。
この第6話では、王響と邢建春のいざこざに王陽が巻き込まれてしまい、泥棒の罪を着せられるという不幸な事件が起こっています。
王響はこのとき、自分が謝罪することで事を荒立てないという選択をしてしまう。
それは警察沙汰を避けて王陽を守ろうとした結果だったけど、王陽からしてみれば父親に裏切られたという思いだったはず。
親子の信頼関係が崩れたその場面で、王響が赤いセーターを着ていたのが皮肉でした。
それから20年後の2016年では、何も知らない王北が、王響のためにこっそり新しい赤いセーターを買うのですが、手渡すことができずにいます。
第6話は、現在→過去→現在という流れの中で、この赤いセーターが、すれ違う父子を描く重要なアイテムになっていました。
そして最終話。王響の赤いセーターは、タクシーとともに燃えてしまいます。
赤いセーターは王響がこだわり続けた(手放せなかった)〝過去〟であり、セーターが燃えたことは、過去との決別を意味しているように思います。
王響は「今年の秋はやけに長い。まるで人生みたいだ」と言い、その直後、まるで時間が動き出したかのように、雪が降り出します。
「ロング・シーズン」というタイトルは、彼らの「長い秋」、止まっていた時間を表していたんですね。
ラストシーンでは、王響は王北から贈られた新しい赤いセーターを着ていました。
沈墨の孤独と傷
過去の物語が進むにつれ、沈墨が抱えている深刻な問題が明らかになっていきます。
彼女は幼い頃から養父である伯父の沈棟梁から性的虐待を受けて育ち、その秘密を抱えて苦しんでいました。
さらに、医大進学を機に樺林にやってきても、伯父の支配からは逃がれられないとわかります。
何も知らない王陽は、大学に張り出された告発文と裸の写真が沈棟梁による嫌がらせだとは思いもせず、沈墨に「自分を安売りするのはやめろ」と言ってしまう。
大学にも、恋人の王陽にも信じてもらえず、本当のことも言えず、どこにも居場所のない孤独な沈墨の前に、殷紅が現れる。
殷紅は沈墨の抱える事情なんて知らなかっただろうけど、このタイミングで沈墨に声をかけたのが殷紅だったことが、偶然とはいえ悲しくてやりきれない。
殷紅に騙され、盧文仲に強姦されてしまう沈墨。のちに王陽は「俺たち3人、世界で一番不運だな」とこぼしているけど、不運などという言葉では片付けられないほど、沈墨の孤独と長年にわたる傷が深すぎた。
沈墨は自分の過去を誰にも語ることができない。弟の傅衛軍は耳が不自由で、好きになった殷紅にも想いをうまく伝えられない。王陽は価値観の違いから、家族に自分のことを何も話せない。
誰にも相談できず、孤立していく若者たち。自分たちで解決しようとした結果、陰惨な事件へと発展していく。
不運な偶然も重なって、あらゆることが悪い方に向かってしまう。
生き残った沈墨にとっても辛かっただろうと思う。
身代わりになって逮捕された傅衛軍のために、自分を助けて死んでしまった王陽のために、生きて逃げ続けなければならない。死ぬことは許されない。
養父母への復讐を遂げた彼女を見ると、この20年間もずっと孤独だったんじゃないかと思う。
王北の存在
事件の真相を知らない王響にとって、この20年間は地獄だったかもしれない。
警察は王陽の死を自殺と判断。王響は王陽を信じたい気持ちから、線路で会った人物に殺されたと思い込む一方で、事件への関与も疑っている。苦しすぎます。
さらに、妻の羅美素が王陽のあとを追って自殺。彼女は最後まで王響を許しませんでした。
どれほどの後悔と自責の念が王響を苦しめたか、想像すると辛くなる。
第4話で、王響たちに捕まった邢建春が「お前の家族がどんな不始末を起こしたと思ってる?」と言い放つシーンがあります。
たぶん樺林の人々は、王陽が殺人事件を起こしたことを悔いて自殺し、羅美素がその事実を受け入れられずに命を絶った、という認識なのでしょう。
それを「不始末」と表現する邢建春。今になって思うと、王響が激怒して掴みかかるのも無理はない。
息子と妻を一度に失い、生きる希望を失った王響を救ったのは、線路に捨てられていた赤ん坊でした。王響が赤ん坊を抱き上げるシーンはもう…。
第6話で王響が王北に告げた「お前がいたから今まで生きてこられた」という言葉がフラッシュバックして、涙が止まりませんでした。
王響にとってこの20年間は地獄だったかもしれないけど、王北と一緒に育んだ時間はきっと幸せだったに違いないと思う。