ネタバレ有「大地の傷跡」全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧・ロケ地|大自然に隠された罪と祈り

Netflix「大地の傷跡」あらすじキャスト一覧

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Netflixで配信中のドラマ「大地の傷跡」(全6話)についてまとめました。

ヨセミテ国立公園を舞台にした静かで重厚なミステリー。圧倒的な自然を舞台に、人間の喪失と罪、そして揺れる正義を描いています。IMDbの評価は7.3。

自然の美しさと人間の痛みが交錯する映像美が印象的。登場人物たちの心の傷と再生が丁寧に描かれ、“事件”よりも“人間”に焦点を当てた作品です。

この記事では、物語の構造と登場人物の関係、社会的な背景、そして喪失から生まれる暴力の連鎖について、丁寧に読み解いていきたいと思います。

作品概要

  • 配信:Netflix
  • 配信開始日:2025年7月17日
  • 製作国:アメリカ(2025年)
  • 原題:Untamed
  • 脚本:マーク・L・スミスほか
  • 監督:トーマス・ベズーチャ/ニーサ・ハーディマンほか

あらすじ

ある死亡事件の調査でヨセミテ国立公園の奥深くへと足を踏み入れた連邦捜査官。そこで待ち受けていたのは、野生動物よりもはるかに危険な存在。不法に住み着いた人間たちだった…。

Netflix公式サイトより

予告動画

登場人物(キャスト)一覧

カイル・ターナー(エリック・バナ)
国立公園局の特別捜査官。ヨセミテ国立公園内の小屋に一人で暮らしている。6年前に幼い息子ケイレブを亡くし、妻ジルと離婚。今も心に深い傷を抱えている。

ナヤ・ヴァスケス(リリー・サンティアゴ)
国立公園局の新人レンジャー。ロス市警の警察官だったが、ある事情からヨセミテに引っ越してきた。カイルと協力して女性の転落事故の捜査を行う。4歳の息子ガエルと2人暮らし。

ポール・サウター(サム・ニール)
国立公園局の主任管理官。カイルの友人で、ケイレブの名付け親。心を閉ざすカイルを心配し、ジルにも寄り添っている。トラブルが絶えない娘ケイトに手を焼いている。

ブルース・ミルチ(ウィリアム・スマイリー)
国立公園局のベテランレンジャー。不平不満が多く、上司であるカイルのこともよく思っていない。

ローレンス・ハミルトン(ジョー・ホルト)
公園責任者。事件の真相よりも世間の評判を気にしており、カイルたちに早期解決を求める。

シェーン・マグワイア(ウィルソン・べセル)
野生動物管理官。元軍人。公園内でキャンプをしながら生活している。

ジル・ボッドウィン(ローズマリー・デウィット)
カイルの元妻。ケイレブの母。現在は歯科医のスコットと再婚し、不動産の仕事をしている。一見幸せそうに見えるが、カイルと同様、過去の悲しみから立ち直れていない。

スコット・ボッドウィン(ジョシュ・ランドール)
ジルの再婚相手。歯科医。ジルとカイルが悲しみを共有していることに理解を示しつつも、2人の絆に嫉妬する。

ジェイ・スチュワート(ラオール・トゥルヒージョ)
先住民。カイルの友人。公園内で働いている。釣りが趣味。

ビゲイ(Trevor Carroll)
先住民。ジェイの友人。マギーとルーシー親子が住んでいた家の現在の住人。

テディ・レッドワイン(ジョナサン・ホワイトセル)
釣具店で働く少年。麻薬常習者。カイルに脅されて「X」のタトゥーについて調べる。

エスター・アヴァロス(ニコラ・コレイア=ダミュード)
法律事務所の調査員。5年前に失踪したショーン・サンダーソンについて調べている。

ショーン・サンダーソン(マーク・ランキン)
6年前に公園内で失踪した男性。カイルが捜索の指揮を執ったが発見できず、現在に至る。

グローリー(マリリン・ノリー)
不法占拠者。自分たちが公園内で平和に暮らす権利を主張する。霊能者のアブエロと付き合っていたことがある。

サマー(テイラー・ヒクソン)
公園内のテントで暮らしている少女。不法占拠者のひとり。転落した女性について、ナヤに話す。

マギー・クック(サラ・ドーン・プレッジ)
かつて公園内に住んでいた先住民の女性。管理事務所で働いていた。病気で亡くなっている。

ルーシー・クック(エズラ・フランキー)
マギーの娘。当時7歳。母親が病死した3週間後の2010年7月19日に失踪した。

マイケル(J・D・パルド)
ナヤの元恋人で、ガエルの父親。ロス市警の麻薬捜査官だったが、麻薬の押収時に現金を盗んだ容疑で停職になった。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

ヨセミテ国立公園のエル・キャピタンから若い女性が転落し、死亡する。遺体には転落によるものとは異なる傷が多数あり、足には動物の噛み跡、腕には金粉入りの「X」のタトゥーが刻まれていた。特別捜査官のカイル・ターナーは、彼女が遠方から逃げてきた可能性があると考え、捜査を開始する。
元ロス市警の巡回警官で、新人レンジャーのナヤ・ヴァスケスは、国立公園局の主任管理官ポール・サウターからカイルの捜査を手伝うよう指示を受ける。
カイルは現場周辺で血痕や裸足の足跡を発見し、彼女が長距離を走ってきたことを確信する。ナヤとともに足跡を辿ると、古びた狩猟小屋にたどり着く。そこには、彼女が使用した止血用のロープと、壁に刻まれた謎の記号が残されていた。
その後、カイルは木の幹に埋まった銃弾を発見。検視の結果、女性は左足を撃たれていたことが判明する。つまり、彼女は撃たれ、野生動物に襲われながらも逃げ続け、最後に崖から落ちたのだ。
カイルは彼女が身につけていたブレスレットに注目する。それはかつてヨセミテで開催されていた子ども向け自然キャンプの参加者に配られていたもので、「TAKE A HIKE(ハイキングに行こう)」という文字が並んでいた。カイルは彼女がそのキャンプに関係していた可能性を見出し、ナヤに過去の参加者名簿を調べるよう指示する。
カイルは深夜、別れた妻ジルに湖から電話をかける。カイルとジルの息子ケイレブは6年前に亡くなっていたが、カイルは息子の幻影とともに公園内の山小屋で暮らしていた。カイルの精神状態を心配したジルは、共通の友人であるサウターに相談する。
夜、流星群を眺めるカイルのもとに、先住民の友人ジェイが現れ、「星が落ちる夜は死が戻ってくる」という不吉な言葉を告げる。

転落死した女性の足跡を辿っていたカイルは、森の中で薬のボトルを発見。その蓋には、彼女のタトゥーと同じ金色の「X」が刻まれていた。カイルはこの手がかりをもとに、釣具店で働くドラッグ常習者のテディに情報収集を依頼する。
テディはタトゥーショップの店主に“金のタトゥー”について尋ねるが、「関わるな」と追い返されてしまう。その直後、テディは車内で何者かに絞殺され、遺体は川で発見される。
カイルとナヤは、ヨセミテの奥地にある不法占拠者のキャンプを訪れる。住民たちは警戒心が強く、協力的ではなかったが、シャーマン(霊能者)と呼ばれる“アブエロ”の存在が浮上する。彼は現在“精神的な旅”に出ているというが、別の人物も彼を捜していたことが判明する。
カイルは野生動物管理官のシェーン・マグワイアを訪ね、彼の猟銃を使って弾道検査を行う。転落死した女性の脚に残っていた銃弾との一致を確認するためだ。シェーンはアブエロを捜していた理由を明かさず、カイルとの間には緊張感が漂う。
一方、過去のキャンプ参加者名簿を調べていたナヤは、転落死した女性の正体が過去に失踪した少女「ルーシー・クック」であることに気づく。ルーシーは2010年に公園内にある父親の家で行方不明になっていた。
カイルはテディの遺体発見現場に駆けつけ、罪悪感に苛まれる。

過去。幼いルーシーに、母マギーは「エロウィン」という先住民の死後の世界について語り、自らの死を穏やかに伝えようとする。マギーが家に戻った後、ルーシーの前に“誰か”が現れる。
現在。カイルはルーシーの失踪事件を捜査したのが自分だったことを思い出す。当時7歳だったルーシーは、母マギーが病死した3週間後に行方不明になっていた。当時、父親のローリーが容疑者とされていたが証拠不十分で不起訴となり、後に暴行死していた。
そんな折、カイルは元妻ジルと再会。彼女は歯科医のスコットと再婚して新たな生活を始めていたが、今も息子ケイレブの死から立ち直れず、日常の些細な記憶に苦しんでいた。
ナヤはロス市警の元同僚で、恋人だったマイケルについてカイルに話す。マイケルは4歳の息子ガエルの父親でもあったが、不正容疑で停職になっていた。彼との決別がヨセミテへの転居のきっかけになったという。
カイルは先住民の友人ジェイとともに、ルーシーの母マギーの旧宅を訪ねる。現在の住人ビゲイは「数か月前に尾根で若い女性を見た」と告げ、マギーの遺品を渡す。ジェイはルーシーが小屋に刻んだ記号を見て、「悪霊を追い払うミウォク族の魔法だ」と告げる。
6年前に公園内で失踪したショーン・サンダーソンの件で、調査員のエスター・アヴァロスがジルのもとを訪問する。動揺したジルは彼女の質問に答えず、怒って追い返す。
ナヤはカイルの馬を借りて森へと向かう。ルーシーについて何か知っていると思われる少女サマーを追って廃坑に入り、酸素マスクを発見するが、床が崩れて地下に転落。雨で水が溜まり始め、狭い隙間に挟まれてパニックに陥る。カイルは馬がいないことからナヤの行動を察し、現場に駆けつけて彼女を救出する。

カイルとナヤは再び廃坑を調査し、坑道の奥深くへと進む。洞窟を抜けたところで発見したのは、アブエロの下顎骨だった。その後、半分埋まった状態のアブエロの遺体が見つかり、至近距離からの銃撃による処刑であることが判明する。
カイルは不法占拠者のキャンプを訪ね、アブエロの元恋人グローリーに死を伝える。彼女は驚くこともなく、「彼は裏切り者だった」と語る。レンジャーたちはキャンプを強制捜索し、薬物や不審物を押収。グローリーは協力を拒み、他の住人たちは拘束される。
ナヤは隠れていた少女サマーを見つけ、話を聞く。ルーシーには「テレシーズ(Terces=“secret”の逆)」と呼ばれる恋人がいたことや、彼の影響で薬物取引に関わるようになったこと、そして時折暴力を受けていたことが明かされる。ルーシーはアブエロと定期的に“交換場所”で薬と現金をやり取りしていたという。
DNA鑑定の結果、ルーシーの父ローリーは実父ではなかったことが判明。カイルは、ルーシーが「グレース・マクレイ」という名前でネバダ州の牧師一家と暮らしていたことを知る。情報提供者の青年は、教会で撮影された写真を提示し、報奨金を求める。
ナヤとガエルのもとに元恋人のマイケルが突然現れ、彼女にロサンゼルスへ戻って虚偽の証言をするよう迫る。ナヤは息子ガエルを連れてカイルの家へ逃げ込み、彼に事情を打ち明ける。カイルはガエルを歓迎するが、亡き息子ケイレブの玩具には触れさせない。
翌朝、カイルとナヤは拘束中の不法占拠者パクナを無条件で解放し、彼の行動を追跡することに。パクナは廃坑の奥にある薬物ラボへ向かい、サイモンと接触。薬物と現金を受け取って外に出た直後、カイルとナヤが現れ、彼を拘束する。

カイルたちは洞窟の薬物ラボを急襲する。銃撃戦の末、爆発が起こり、数名の捜査官が負傷。カイルは頭部に裂傷を負いながらも、リーダー格の男・サイモンを拘束する。
現場では腕に金色の「X」のタトゥーを刻んだ複数の女性の遺体が発見される。ルーシーのバッグも見つかり、彼女がこの組織に関与していた可能性が濃厚となる。
カイルはサイモンを尋問するが、彼はルーシーの死に驚いた様子を見せ、関与を否定。カイルは組織の犯行ではない可能性に気づく。
一方、ナヤの息子ガエルを預かっていたジルのもとに、ナヤの元恋人マイケルが現れ、ガエルを連れ去ろうとする。ジルは必死に抵抗するが、首を絞められ意識を失いかける。カイルとナヤが駆けつけ、マイケルは逮捕される。ジルは「ナヤが息子を抱きしめる姿に嫉妬した」と告白し、亡き息子ケイレブへの想いに苦しむ。
その夜、ジルは自殺未遂を起こし、病院へ搬送される。激しく動揺したカイルは、野生動物管理官のシェーンを殴り、銃を突きつける。これが原因でカイルは停職処分となり、捜査はFBIのディクソン捜査官に引き継がれる。
カイルはルーシーのバッグからスマートフォンを発見。顔認証でロックがかかっていたため、検視官の協力で遺体の顔を温めて解除。中にはルーシーが撮影した複数の動画があり、その中にシェーンの姿が映っていた。彼こそがルーシーの秘密の恋人“テレシーズ”だった。
カイルはナヤに「もし24時間以内に戻らなければ、何かあったと思ってほしい」と告げ、単独でシェーンのキャンプへ向かう。そこには薬物の入ったバッグがあり、シェーンの関与が決定的となる。だがその瞬間、カイルは腹部を撃たれ、地面に倒れる。

カイルは銃撃を受けて腹部を負傷するも、必死にヨセミテの森を逃げ回る。彼を追うのは、野生動物管理官でルーシーの元恋人でもあったシェーン・マグワイアだった。
夜が更け、シェーンはカイルを追い詰める。銃口を向けられた瞬間、ナヤが現れ、シェーンを射殺。カイルは病院へ搬送され、一命を取り留める。
ジルは現在の夫スコットに、過去の罪を告白をする。6年前、息子のケイレブが失踪した際、シェーンの設置した野生動物用の監視カメラに、ショーン・サンダーソンがケイレブを森へ連れ込む映像が映っていた。カイルは法的手続きを望んだが、ジルは耐えられず、シェーンに報酬を渡してショーンを殺させた。
この“復讐”こそが、夫婦の破綻の原因だった。ジルは「もう大丈夫」とカイルに伝え、彼にも「生きていてほしい」と願うが、カイルはまだケイレブの幻影とともに生きており、別れを告げることができない。
カイルは停職処分を受けながらも、ルーシーの過去を追い続ける。ネバダ州の牧師一家ギブス家を訪れたカイルは、ギブスの娘のフェイスから、父親が「里親詐欺」を行っていた事実を知らされる。ルーシーは地下室に閉じ込められ、虐待を受けていたのだ。フェイスによると、彼女は「父は警察官」と語っていたという。
カイルはDNA鑑定を再確認し、主任管理官ポール・サウターの娘ケイトの記録が意図的に削除されていたことに気づく。ポールを呼び出して問い詰めると、彼はついに真実を語る。
ルーシーはポールとマギーの間に生まれた娘だった。マギーの死後、ポールはルーシーをギブス家に預けたが、彼女は虐待を受けて逃亡。ヨセミテに戻ったルーシーは、ポールを脅迫し、金を要求するようになった。事件の日、ルーシーはポールの孫セイディを誘拐。ポールはセイディを保護した後、ルーシーを止めようと脚を撃ったという。死を覚悟したルーシーは崖へ逃げ、自ら身を投げたのだった。カイルは彼を逮捕しようとするが、ポールは銃を自分に向け、自殺する。
ルーシーの遺灰は先住民の儀式により風に還され、「エロフィン」に送られる。カイルはケイレブの幻影と最後の対話を交わし、「まだ行けない」と語る。ケイレブは微笑み、静かに消える。
ナヤがカイルの家を訪れると、そこには馬とケイレブの玩具が残されていた。カイルはすべてを彼女に託し、ヨセミテを去る。ナヤは馬に乗って草原を進み、鹿たちは彼女を避けることなく、静かにその場にとどまる。

感想と解説(ネタバレ有)

大自然が、罪を隠す場所になる

ヨセミテ国立公園と聞いて思い浮かべるのは、雄大な岩山や広がる森林、透明な川の水など、美しい大自然の風景。ところがこのドラマでは、そうした美しさの裏にひっそりと潜む“もうひとつの顔”を突きつけられます。

「人々は散策に訪れ、公園の10%くらいを見る。残りは見られない」

主人公カイルの言葉が象徴するように、人間は広大な自然のすべてを把握することはできません。

地図にも載らない秘密の場所や、捜査の手が届かない断崖の奥深くに、麻薬の密売や失踪、殺人といった恐ろしい犯罪が潜んでいる。自然が罪を隠す場所になりうるという視点は、これまでのクライムドラマにはあまり見られなかったものです。

作品全体に“絶望”を美しさで包み込むような構造があり、自然に対して多くの人が抱いてきた安心感が一瞬で崩れ去ってしまう恐ろしさが描かれています。

複雑にからみ合う複数の事件

物語の始まりは、ヨセミテ国立公園で発生した女性の墜落死事件。

特別捜査官のカイル・ターナーは、この不可解な死の背景を追ううちに、組織的な麻薬密売や謎めいた失踪、そして自身の過去に直結する殺人事件へと巻き込まれていきます。

複雑にからみ合った展開には少し混乱する部分もありましたが、それがかえって「自然の中に入り込んだ人間の混沌」というテーマを浮き彫りにしていました。

また、全6話という構成も無駄がなく、テンポよく進むストーリーの中に、静かな余韻を残すシーンが散りばめられていたのも印象的です。ときに暗くて重く、ときに美しく、自然の風景が物語の背景以上の意味を持っていたように感じました。

ここから先はネタバレを含みます。ご注意ください。

喪失と愛情が招いた選択

この作品の魅力のひとつは、登場人物同士の複雑な関係と、それぞれが抱える過去や罪が交錯している点にあると思います。誰かひとりの悲劇が、次の人の行動に影響を与え、さらに新たな罪を生んでいく…という流れがとても印象的でした。

まずは主人公のカイル・ターナー。彼は国立公園の捜査官として冷静な判断力を持ちながら、内面では息子ケイレブを殺された痛みを抱えています。そして別れた妻ジルと過去の罪を共有しています。正義を貫く立場にいながら、自分自身の倫理が揺らいでいるという設定が、とても人間的でした。

ジルは、幼い息子ケイレブを殺した男(サンダーソン)を許せず、シェーンを雇って殺害させます。シェーンは麻薬密売組織に関わる人物で、金さえ受け取れば殺人もいとわない冷酷な男。ルーシー(転落死した女性)を犯罪へと巻き込んだ張本人でもありました。

さらに驚かされたのが、カイルの友人であり、周囲からの信頼も厚い隊長ポール・サウター。彼は自身の隠し子であるルーシーに強請られ、彼女を殺害してしまいます。カイルによって罪が暴かれると、自ら命を絶つという選択をします。

こうして見ていくと、それぞれの人物が「家族を守る」「喪失に耐えきれない」といった強い感情から、倫理や理性を超える行動を取ってしまっているんですね。

罪の連鎖は、誰かひとりの悪意というよりも、複数の人の絶望と愛情が重なった結果、生まれてしまったもののように思えます。

個人の痛みが“暴力”を生む瞬間

本作を語るうえで、もっとも重要なテーマのひとつが「喪失の痛みが、倫理や理性の境界線を超えてしまう瞬間」ではないでしょうか。

登場人物の多くが、愛する者を失った喪失感を抱えています。主人公のカイルは、ジルの報復を知りながら黙認することを選びます。サウターは、自分の家庭の安定を守るために隠し子であるルーシーを殺害します。

自然が舞台となっているこの作品では、「誰にも見られていない場所だからこそ、人は本性をさらけ出してしまう」という危うさも描かれていました。人間の心の闇が、ヨセミテの静けさに溶け込むように広がっていく描写は、不気味でありながらもとても詩的でした。

本作は、「個人の痛みは、社会と無関係ではいられない」という現実を突きつけてきます。そしてその痛みが“暴力”というかたちで誰かの命や正義を奪ってしまうことがあるのだという事実も、静かに語りかけてくるのです。

背景にある社会の影

美しい自然を舞台にしながら、そこに広がる社会的な問題についても描かれていました。特に印象的だったのは、国立公園という公共空間が、犯罪の温床になっているという点です。

物語の中で登場する不法占拠者や失踪事件、麻薬の密売などは、観光地としては信じがたい状況かもしれません。でも、実際にアメリカの国立公園では、広大すぎるがゆえに監視の目が届かず、こうした問題が現実に起きているのだそうです。

人の手が入らない場所だからこそ、罪が隠されてしまう。この設定が、作品に独特の緊張感をもたらしていました。

また、先住民の土地問題に触れられていた点も見逃せません。観光開発によって追いやられた人々の存在や、歴史的な土地に対する権利が軽視される現状など、社会の構造的な歪みがさりげなく織り込まれていました。

とくに先住民のジェイ・スチュワートを通して、「この場所は誰のものなのか?」という問いが投げかけられていたように感じます。

静けさのなかに残る希望

「大地の傷跡」は、雄大な自然を舞台にしながら、人間の心にひそむ痛みや罪を繊細に描いた作品でした。

ヨセミテという場所は、観光客にとっては非日常の世界かもしれません。本作ではその風景が、登場人物たちの心情や社会のひずみを映し出す鏡のような存在として描かれていました。

自然がただの背景ではなく、人間の罪を黙って飲み込み、あるいはその影を浮かび上がらせる語り手のように、物語の一部として力強く機能していたように感じます。

最後に少し切ない後味を残しながらも、わずかな希望が差し込むラストには、「すべてを失っても、人は赦しと再生を望むものなのかもしれない」という願いのようなものが感じられました。

ロケ地について

制作者のマーク・L・スミスは、「ヨセミテの美しさの奥に潜む危険性を描きたかった」と語っています。

しかし実際のヨセミテ国立公園は保護区域であり、撮影に多くの制約があるため、カナダのブリティッシュコロンビア州が選ばれました。

実際のヨセミテの空撮映像も一部使用されていますが、主要なシーンはすべてカナダで撮影されています。

  • シーモア山
    ヨセミテの断崖「エル・キャピタン」の代替として、冒頭の墜落シーンで使用されました。
  • イーグルス・ホール(メープルリッジ)
    木造の温かみある建物。レンジャーの本部として使用されました。
  • マード・フレイザー・パークのキャビン
    カイルの自宅として使用。森に囲まれた静かな空間が、彼の孤独と内面の葛藤を映し出していました。
  • グレース湖(オンタリオ州)
    グラウス湖の代替として。主人公にとって特別な場所。陰鬱なストーリー展開となるドラマ全体のトーンを反映。
  • ニタ・レイク・ロッジ(ウィスラー)
    架空の高級リゾートホテル「Yan-O-Pah Hotel」として登場。先住民の土地問題と観光開発の対立を視覚化。
  • ウィスラー・オリンピック・パーク
    広大な自然の中での捜査シーンに使用されました。
  • チーカマス川
    捜査や追跡シーンに使用。急流と険しい地形が、自然の危険性と緊張感を演出しました。

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