映画「愚行録」ネタバレあらすじ解説・感想|3度の衝撃とバスシーンの意味

映画「愚行録」ネタバレ解説・感想

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映画「愚行録」のあらすじと感想です。

見終わった後もスッキリしない「イヤミス」の傑作。後半のどんでん返しは衝撃的で、まったく予想外でした。

暗い色調の映像も独特で、じわじわと迫ってくるような不気味さ、気持ち悪さがあります。妻夫木聡さんと満島ひかりさんの演技も凄かった。夜中にひとりで見るとちょっと怖いかも。

後味は悪い作品ですが、よくできていて見応えがありました。

作品情報

  • 製作国:日本
  • 上映時間:120分
  • 公開日:2017年2月18日
  • 監督:石川慶
  • 脚本:向井康介
  • 原作:貫井徳郎『愚行録』
  • 音楽:大間々昂

あらすじ

エリートサラリーマンの夫、美人で完璧な妻、そして可愛い一人娘の田向一家。絵に描いたように幸せな家族を襲った一家惨殺事件は迷宮入りしたまま一年が過ぎた。週刊誌の記者である田中(妻夫木聡)は、改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始する。
殺害された夫・田向浩樹(小出恵介)の会社同僚の渡辺正人(眞島秀和)。 妻・友希恵(松本若菜)の大学同期であった宮村淳子(臼田あさ美)。 その淳子の恋人であった尾形孝之(中村倫也)。そして、大学時代の浩樹と付き合っていた稲村恵美(市川由衣)。

ところが、関係者たちの証言から浮かび上がってきたのは、理想的と思われた夫婦の見た目からはかけ離れた実像、そして、証言者たち自らの思いもよらない姿であった。
その一方で、田中も問題を抱えている。
妹の光子(満島ひかり)が育児放棄の疑いで逮捕されていたのだ――。

公式サイトより

キャスト

田中武志……妻夫木聡
田中光子……満島ひかり
田向浩樹……小出恵介
宮村淳子……臼田あさ美
稲村恵美……市川由衣
夏原(田向)友希恵……松本若菜
尾形孝之……中村倫也
山本礼子……松本まりか
渡辺正人……眞島秀和
橘美紗子……濱田マリ
杉田茂夫……平田満
武志と光子の母……山下容莉枝
村本……小松勇司
武志の上司……髙橋洋

原作について

この映画の原作は、貫井徳郎氏のミステリー小説「愚行録」(2006年刊行)です。第135回直木賞候補作。

感想(ネタバレ有)

映像も音楽も全編通して暗く、重い雰囲気が満ち満ちてます。オープニングのバスのシーンから早くもモヤモヤし始め、もう嫌な予感しかしない。

物語の軸は、この2つ。

  • 田向一家惨殺事件の真相
  • 育児放棄で逮捕された主人公の妹・光子の秘密

主人公・田中武志は、週刊誌の記者。

田中は妹の弁護士である橘美紗子と連絡を取り合う一方で、事件発生から1年経った今も真相が解明していない「田向一家惨殺事件」について記事を書くため、取材を進めます。

淡々と取材を進める主人公

取材を進める田中の表情や態度はほとんど変わらず、淡々としています。
「この事件の記事を書きたい」と自ら上司に進言した割には、イマイチやる気が感じられない。

武志が取材した人物は、以下の4人。

  • 渡辺正人…殺された田向浩樹と同じ大学出身の同僚。
  • 宮村淳子…殺された田向友希恵の大学時代の同級生。
  • 尾形孝之…殺された田向友希恵の大学時代の恋人で、淳子の元彼。
  • 稲村恵美…殺された田向浩樹の大学時代の恋人で、愛人。

前半は、彼らの回想シーンによる被害者の過去(主に大学時代)が描かれます。

わたし、この段階でちょっと引っかかったんですよね。なんで大学時代なんだろう? と。こういう場合、だいたい事件の直前に会っていた人の話を聞くもんでは? 仕事関係の人とか、ママ友とか、親族とか。

もっと近い人がいくらでもいるだろうに、今さら大学時代の話なんか、聞く?

しかし!
実はこの“大学時代”が重要な伏線でした!

(ここから先はネタバレを含みます。ご注意ください)

愚かな人びと

4人の証言者が語ることによって浮かび上がったのは、田向浩樹と田向友希恵の醜悪な裏の顔でした。

自分が勝ち組になるためなら、人の心を傷つけても何とも思わない。望んだものを手に入れるために、平気で友人や恋人を利用する。だれもが憧れる華やかなエリート家族の、愚かな一面。

被害者の愚行を嬉々として語っている証言者たちもまた、愚かに見えます。本人たちに自覚がないのも、画面を通して客観的に見ると、すごく浅はかに見えてしまう。

「愚行録」って、そういうことなのか……と、思っていたら。
とんでもない“どんでん返し”が待っていました。

 光子の過去

同時進行で描かれていた、主人公の妹・光子。育児放棄した一人娘は痩せ衰えて緊急入院、その後、回復することなく死亡してしまいます。

逮捕された光子は精神鑑定を受けるため、精神科医の杉田にこれまでの壮絶な人生を語ります。

若い母親に望まれずに産まれ、育児放棄されたこと。実の父親から性的虐待を受けていたこと。その父親を殴って追い出してくれた兄のこと。人生を変えようと、必死に勉強して大学を受験したこと。

ここでついに、2つの物語が繋がります。
光子が通っていた大学は、田向友希恵が通っていた大学でした。

その頃、田中のもとに、宮村淳子から電話がかかってきます。友希恵に恨みを抱いていそうな人間を思い出した、と。その人間こそ、光子でした。

光子は、友希恵の男友達らにオモチャにされていました。友希恵はエリートの仲間入りをするために、光子を騙して彼らに提供したのです。

衝撃①田中が取材を始めた理由

淳子の話を淡々と聞いている田中。田中は話を聞き終わると、その場で淳子を殴り殺します。

田向一家を殺したのは田中だったのか!
と、一瞬思ってしまったわたし。妹のために復讐したのかと。

でも、違うんですね。田中は、最初から田向一家を殺した犯人を知っていた。彼は、犯人に気づいた人間がいないか探し出し、口封じをするために取材を始めたのです。

衝撃②光子の告白

田向一家を殺したのは、光子でした。

あんなに酷いことをされたのに、それでも友希恵に憧れていたという光子。友希恵のようになりたかったけれど、やっぱりなれなかった。

町で偶然友希恵を見かけ、微笑みかけて声をかけようとしたら無視されてしまう。友希恵の後をつけて、幸せそうな生活ぶりを見てしまう。

光子は誰もいない部屋で、犯行の一部始終を語ります。

きっと光子は、心の中にいる兄の田中に語りかけていたのでしょう。犯行直後も、そんなふうに、田中に語ったのかもしれません。

衝撃③田中と光子の秘密

田中と光子は、重大な秘密(罪)を共有していました。

田向一家惨殺事件の犯人が光子であること。もうひとつは、光子の娘・千尋の父親が田中だということでした。

映画でははっきりと明言していませんでしたが、間違いないと思います。悲惨な子ども時代を共に過ごした兄妹は、兄妹愛を超えた愛情で結ばれていたんですね。

田中は、光子が育児放棄で逮捕されたことで、1年前の事件についても捜査の手が及ぶかもしれない…と危惧したのかもしれません。

だから事件の取材だと言って、関係者に話を聞きに行った。光子が犯人だと気づいた人物がいないかどうか、確かめるために。その人物を殺すために。

ラストシーンの意味

光子の娘・千尋が死んだとき、田中は何を思って立ち尽くしたのでしょう。娘が死んだと聞いて、光子はなぜ笑ったのでしょう。

悲しみや怒り、絶望もあったと思います。でも、心のどこかで、ホッとしたのでは?

2人は、自分たちが犯した罪(愚行)がこの世から消えてくれたことに、安堵したのではないでしょうか。

バスに乗った田中が、妊婦に席を譲るラストシーン。オープニングでは足をひきずるフリをして、席を譲ることを強要した相手に罪悪感を植え付けた田中。田中が素直に席を譲る気になったのは、心を埋めていた不安が消え去ったからかもしれません。

もしかしたら。
田中が行った最大の善行とも思えるこの行為が、最大の愚行なのかもしれない。

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