中国ドラマ「摩天楼のモンタージュ~Horizon Tower~」第15話・第16話(最終話)のあらすじと感想です。
若く美しく謎めいた女性メイバオ。関係者の供述によって彼女の壮絶な人生が浮かび上がり、その素顔が見えてくる一方で、彼らが語る物語はどこか嘘くさく、まるで「おとぎばなし」のよう。
その中に織り込まれたわずかな「真実」をモンタージュのように繋ぎ合わせ、事件を解明していく手法が見事でした。衝撃と深い余韻が残る作品。
第15話・第16話のあらすじ(ネタバレ有)
継父を刺した少女時代のメイバオは、親戚に厄介払いされ、寄宿学校に入れられる。そこで出会ったのがディン・シアオリンとリー・モーリーだった。
親友となった3人だったが、校長室からルイス・ラグランジュのレコードを盗んだことが発覚し、メイバオをかばったモーリーが教師に突き飛ばされて怪我をする事件が起きる。学校は閉鎖され、メイバオの前には再び継父が現れる。逃亡生活を送る中で、メイバオは弟ジュンがピアニストとして活躍するのを密かに見守っていた。
モーリーの結婚式の後、メイバオは彼女のマンションを訪れて1階の空き店舗を見つける。運命を感じたメイバオは自分のしたいことをしようと決め、マンションに引っ越してカフェを開くことを決意。ジュンとも再会する。
現在。生放送でヨンユエンを刺したジュンはジョン刑事に取り押さえられ、パニックを起こして病院に運ばれる。ヨンユエンは死なず、ジュンは傷害罪で刑事責任に問われることに。
ジョンとヤンはヨンユエンを署に呼び出し、事件までの空白の1年間について問う。ヨンユエンはメイバオの部屋に監禁されていたことを明かし、モーリーとシアオリンが共犯だと明かす。
監禁を認めた2人は、犯行に至った経緯を供述。ヨンユエンはメイバオが手切れ金を渡した後も脅迫を続け、ついには警察に通報してメイリーを誘拐罪で逮捕させたという。
激怒したメイバオはヨンユエンを消火器で殴って気絶させ、弟のために監禁することを決意。その場にいたモーリーとシアオリンが協力し、モーリーはメイバオとおそろいの服に着替えて防犯カメラに映り、アリバイ工作をしたのだった。
ヨンユエンを自室へ運ぶのを手伝ったのは、何も知らないバオルオだった。バッグの中身を怪しむバオルオに、メイバオはすべてを打ち明けた。
仲介業者のリン・モンユーは、シアオリンからメイバオの隣室と上下階の部屋を売り止めるよう頼まれたと明かす。さらにダーセンがメイバオと幼なじみで不倫関係にあったというのも、彼がダーセンの部屋を覗いたというのも嘘だった。
ダーセンは妻を助けるためだったと言い、事件当日の真相を供述する。モーリーとシアオリンとダーセンの3人はジュンのコンサート会場に出かけるが、メイバオが来ないことを心配してマンションに戻り、彼女の部屋で遺体を発見した。
産気づいたモーリーのため救急車を呼び、そこで初めて妻から事情を打ち明けられたという。産まれてくる子供のために自分が悪者になると決めたダーセンは、メイバオの部屋に戻って指紋を拭き取り、妻が関与したことを隠蔽しようとしたのだった。
遺体発見現場にはリン・モンユーもいた。シアオリンを愛する彼は、彼女のために協力することを誓った。
モーリーはヤン刑事に「メイバオの死は無理心中だった」と打ち明けるが、真相を語ればこの事件に犯人がいなくなり、ヨンユエンが無罪放免になってしまうと涙ながらに訴える。
ヤン刑事は極悪非道なヨンユエンが無罪になり、モーリーやシアオリンたちが罪に問われるという残酷な事実を突き付けられ、刑事を辞めたいと考える。ジョン刑事はかつて捜査中に殺人犯の命を助けようとして、相棒を殺されてしまった過去を打ち明ける。彼が面倒を見ているシアオシアオは相棒の娘だった。
2人は入院中のジュンに、メイバオの事件は自殺として処理される見込みだと報告。メイバオが白いドレス姿で死んだことを聞かされたジュンは激しく動揺する。
メイバオの服装については公表されていなかったが、なぜかモンユーの元妻シェン・メイチーが知っていたことを思い出すジョン刑事。ヤンが確認するとメイチーは推測だと言い張るが、メイバオの悲惨な過去を聞かされて考えを改め、事件を目撃したことを明らかにする。
事件当日、メイチーは連絡が取れない夫モンユーを探すため、通風孔に入ってメイバオの部屋を覗き見ていたという。メイバオは練炭を焚いて継父ヨンユエンを殺そうとしていたが、ジュンからの電話で思い直し、彼の拘束を解いたのだった。
「考えなおしたの。あなたのために自殺したり、殺人犯になる価値などない。あんな写真、もう怖くないわ」メイバオは自首することを決意し、ヨンユエンを逃がした。だがヨンユエンは部屋を出ていくフリをして背後からメイバオの頭を殴り、気絶させて練炭自殺を偽装。その後モーリーとシアオリンが訪ねてきたため、逃走したのだった。
メイチーはその一部始終を撮影した動画を警察に提出。ヨンユエンは殺人罪で逮捕され、余罪多数で死刑判決を受ける。モーリーやシアオリンは懲役刑に処され、ほかの者も障害、偽証などで処罰される。
モーリーとシアオリンは服役を終えて愛する者のもとへ戻り、バオルオとミンユエはカフェで働き始めていた。ヤン刑事はジュンのコンサートを聴きに行き、幼いジュンとメイバオ、母ジエ、メイリーの4人が再会を喜ぶ幻を見る。
第15話・第16話の感想(ネタバレ有)
メイバオ、モーリー、シアオリンの関係
第8話あたりから衝撃の連続で、毎回「えっ、どういうこと!?」と翻弄されっぱなしでした。
ミステリーとしての面白さだけでなく、人間ドラマとしても心を揺さぶられ、深くはまり込んだドラマ。正直なところ、ここまでとは思ってなかったです。ヤン刑事の涙にもらい泣きし、メイバオの強さに胸を打たれました。
見終わったばかりでまだ少し感情が揺れているのですが、できるだけ冷静に振り返ってみたいと思います(できるかな)。
まずはメイバオ、モーリー、シアオリンの関係について。彼女たちは3人は、寄宿学校以来の親友でした。
モーリーが妊娠しにくい体になったのは、この寄宿学校時代の体罰に起因していました。ルイス・ラグランジュのレコードは、3人がジュンのために校長室から盗んだもの。
まさかそんな昔からの付き合いだったとは。びっくりです。第7話のミンユエの小説に登場する主人公を助ける狐と鶴は、モーリーとシアオリンだったんですね。
年越しパーティーの夜に…
ことの発端は、昨年の年越しパーティーの夜。
この日、実はパーティーの裏で、ある犯罪が行われていました。
- メイバオの継父ヨンユエンが警察に通報し、メイリーを誘拐罪で逮捕させた
- ヨンユエンはメイリーを助ける証言をする代わりに、1000万元をメイバオに要求
- 怒ったメイバオとモーリー、シアオリンがヨンユエンと取っ組み合いになり、メイバオが消火器で殴ってヨンユエンを気絶させた
- 停電になり、メイバオがヨンユエンを旅行鞄に入れて自室に運ぶのをバオルオが手伝う(このときメイバオは彼に事情を打ち明けている)
- モーリーはメイバオとお揃いの服(以前一緒に買い物に行った)に着替え、メイバオを装って防犯カメラに映り、アリバイ工作をした
- メイバオが屋上に戻ってきてモーリーと鉢合わせてしまい、とっさにモーリーが怒って殴るフリをした(傍目には妻と愛人の喧嘩に見えた)
あの屋上での喧嘩は「やらせ」だったんですね。
メイバオとモーリーは「妻と愛人」という関係ではなく、昔からの友達。ダーセンとメイバオが幼なじみというのも、不倫関係にあったというのも、事件後に(ダーセンがモーリーを守るために)でっちあげた作り話だったことが判明します。
メイバオの最後の選択
ヨンユエンを監禁したものの、精神的に追い込まれていくメイバオ。地下室や倉庫ならともかく、自分が生活している家に監禁するというのは…相当キツいんじゃないかと思います。1年もよく我慢したなぁ。
耐えられなくなったメイバオは、この状況を「終わらせる」ことを決意。事件の日、ヨンユエンを殺して自殺しようと考えていましたが、ジュンからの電話で救われます。
「過去のことは僕らの過ちではない。それに僕はもう大人になった。強くなってる。姉さんに守られなくても、自分で対処できる。あんな写真で僕は何も変わらない」
ジュンの頼もしい言葉と、電話から聞こえてくるピアノの音色に勇気をもらい、犯行を思いとどまるメイバオ。自首することを決めてヨンユエンの拘束を解き、自由にします。
「あなたのために自殺したり、殺人犯になる価値などない。あんな写真、もう怖くないわ。公表してもそれは私たちではなく、あなたの恥よ」
彼女が最後に選んだのは、大切な人たちと生きることでした。
メイバオの死の真相
自殺と思われたメイバオの死は、仲介業者リン・モンユーの妻メイチーの証言によって覆されました。事件当日、彼女は例の通風孔に潜んでいて、一部始終をスマホで撮影していたのです。
メイバオを殺したのはヨンユエン。監禁から解放された彼は、背後からメイバオを襲って気絶させ、練炭自殺を偽装。遺体を発見したモーリーとシアオリンも完全に騙され、「メイバオは無理心中した」と思い込んでいました。
2人がその事実を隠したのは、ヨンユエンを犯人にするため。
そしてモーリーを愛する夫ダーセンと、シアオリンを愛する恋人モンユーは、彼女たちのために協力することを決めたのです。
ヤン刑事の苦悩とジョン刑事の過去
メイバオが自殺ならヨンユエンは無罪。逆にメイバオを助けようとしたモーリーたちが罪に問われます。悪人を断罪できないなら意味がない、と刑事を辞めることまで考えていたヤン刑事。
彼女の恋人がすこぶるいい人で、「刑事の君は嫌だった」と本音を漏らしつつも「刑事になるのは長年の夢だったはず。小さな事で軽々しく辞めるなんて言うな」と励まします。デートすっぽかされたり、けっこう酷い目に遭ってるのにねぇ。いい人すぎる。
一方のジョン刑事は、「警察官には公平さが必要だ。正義より大事なことだ」とヤンを諭しますが、彼にはかつて相棒を死なせてしまったという辛い過去があり、今もその傷と向き合えずにいることが明らかになります。
相棒が犯人と格闘中、ジョンは流れ弾を受けた犯人の妻(彼女も殺人犯)を介抱していて、その間に相棒は犯人に撃たれて死んでしまったのです。ジョンが面倒を見ている女の子は、相棒の娘でした。
ジョンが犯人を助けなければ、相棒は助かっていた。
今でも同じ選択をしますか、と問うヤン刑事。
ジョンは「警察官は人命救助が最優先だ。善人でも悪人でも法の下では平等」と当然のように言いますが、ヤンはそれが嘘であることを見抜きます。
「一緒に捜査して感じていました。どの事件でもどこか他人事でしたよね。なぜかわかりませんでしたが、やっとわかりました。苦しむのが怖いから、再び選びたくないのです。長年自分の心に向き合えなかったから。でも私は違います。自分と向き合い、別の道を探ります。正義を貫きます」
真面目で正義感が強くてまっすぐなヤン刑事と、いいかげんで人生の機微に通じたジョン刑事の組み合わせも絶妙でした。
終わってみると、犯人以外、みんないい人だった。
誰も彼もが嘘をついているのに、人を信じたくなる。そんな物語でした。