Netflix「地面師たち」原作では生きているあの人!原作との違い・ネタバレ解説・全話あらすじ・感想

Netflix「地面師たち」原作では生きているあの人 全話ネタバレ 解説 感想 原作との違い

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Netflixのドラマ「地面師たち」全7話のあらすじと解説です(ネタバレ有)。

2017年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」を下敷きにした小説『地面師たち』が原作のクライムサスペンス。

原作は面白くて一気読み。ドラマもすごかった。

原作とはキャラクターの設定が大幅に変えられていたり、ドラマオリジナルのキャラクターが登場したり、いろいろ違いはあるのだけど、文句なしの面白さで興奮しました。

今回は全7話のあらすじ(ネタバレ有)と、原作とドラマの違い、印象に残ったシーンなどの解説・感想を詳しく書いていきたいと思います。

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各話のあらすじ(ネタバレ有)

2017年6月。新橋の雑居ビルでオーナーの女性が遺体で発見される。そのビルは不動産詐欺に使用された疑いがあった。警視庁捜査二課のベテラン刑事・下村辰夫(リリー・フランキー)は、有名な地面師・ハリソン山中(豊川悦司)の関与を疑う。
ハリソン山中に誘われて地面師になった辻本拓海(綾野剛)は、仲間の竹下(北村一輝)や後藤(ピエール瀧)、麗子(小池栄子)らと渋谷区恵比寿の土地をめぐる詐欺計画を進めていた。
情報屋の竹下が土地の情報を持ち込み、リーダーのハリソン山中が計画を立て、法律屋の後藤が仲介業者として取引相手に接触、キャスティング担当の麗子が地主の偽者を用意し、交渉の場に同席させるという流れだった。
交渉役の拓海と後藤は、地主の島崎健一になりすます役を与えられた佐々木(五頭岳夫)に不安を感じつつ、彼を連れて最終決済に臨む。恵比寿の土地を10億で購入すると申し出たのは、マイクホームズという新進の不動産企業だった。不安は的中し、佐々木は本人確認の質問にうまく答えられず、相手方に不信感を与えてしまう。
拓海はとっさにお茶をかけて佐々木が失禁したように見せかけ、トイレに連れて行くふりをしてハリソンから事前に渡されていたワイヤレスイヤホンを佐々木の耳に装着する。佐々木はイヤホンから聞こえるハリソンの指示に従い、質問に答えて危機を乗り切る。
本人確認のための運転免許証や保険証、契約に必要な土地関連の公的証書は、すべて偽造を生業にするニンベン師・長井(染谷将太)が作成していた。マイクホームズの社長・真木(駿河太郎)をはじめ、司法書士でさえも書類を本物と信じて疑わず、売買契約は無事に締結される。
一週間後、ハリソン、拓海、竹下、後藤、麗子の5人は集まって祝宴を開く。詐欺で得た金は海外で資金洗浄され、それぞれに分配されることになっていた。
竹下は次の計画に向けて、候補となる土地の資料を提示する。だがハリソンは「もっと大きなヤマを狙いませんか?」と言い、「誰もが怖気づいて二の足を踏むような難攻不落のヤマを落としてこそ、エクスタシーとスリルが味わえる」と豪語する。
竹下は4人を高輪台に連れていき、とっておきの土地を見せる。光庵寺という寺に隣接する駐車場と建物で、合わせて3200平米。市場価格は百億だという。
しかし土地の所有者である光庵寺の住職・川井菜摘(松岡依都美)は、絶対に売らないと主張していた。ハリソンは何か付け入る隙があるかもしれないと、竹下に準備金1000万円を渡して調査を続けるよう命じる。
その頃、国内屈指の不動産デベロッパーである石洋ハウスでは、開発本部長の青柳隆史(山本耕史)が窮地に陥っていた。数十億規模のプロジェクトを予定していた土地が売買契約直前にキャンセルになったのだ。
島崎健一役を全うして大金を手に入れた佐々木は、長崎の知人宅を訪ねようとしていた矢先、トラックにはねられて死亡する。ハリソン山中はその一部始終を撮影した映像を見つめる。

マイクホームズの社長・真木のもとに、恵比寿の土地の所有権移転登記申請が却下されたという知らせが届く。地面師詐欺だと気づき、愕然とする真木。
捜査二課の下村は、着任したばかりの倉持(池田エライザ)とともにマイクホームズの聞き取りに同席する。2007年に逮捕するも不起訴となった地面師たちの写真を見せると、真木は後藤の写真を指して「こいつが仲介業者です」と言う。10億の金が戻らないとわかり、真木は途方にくれる。
その頃、拓海はハリソン山中の趣味に付き合い、東京を離れてハンティングをしていた。撃った鹿を解体しながら、「ハンティングは命を感じるものだ」と語るハリソン。だが拓海の脳裏をかすめるのは、8年前に実家の火事で失った母親と妻、幼い息子の命だった。火事の原因は父親の放火だった。
捜査二課の下村と倉持は、マイクホームズを騙した地面師たちを追い、名刺に記載されていた住所を訪ねる。そして「辻本拓海」宛に送られた千葉刑務所からの手紙を発見する。
東京に戻った地面師たちは、新たなターゲットに向けて動き始める。拓海は竹下の子分オロチ(アントニー)とともに、港区高輪の土地を所有する川井菜摘を監視する。オロチに地面師になる前の職業を聞かれ、デリヘル嬢の送迎をしていた頃のことを思い出す拓海。
2011年。何もかも失った拓海はデリヘル嬢の送迎をして金を稼ぎ、無為な日々を送っていた。ある日、客に呼ばれてホテルの部屋へ行くと、デリヘル嬢が心肺停止状態でベッドの上に倒れていた。客は拓海に札束を渡して見なかったことにしてくれと告げるが、拓海は無視して心肺蘇生を行い、デリヘル嬢は奇跡的に息を吹き返す。その客こそ、ハリソン山中だった。
その夜、川井菜摘はかつらをかぶり、別人のような服装で外出する。拓海とオロチは彼女を尾行し、ホテルに辿り着く。川井はホテルの一室に若い男を連れ込んで複数プレイを楽しんでいたのだった。
一方、石洋ハウスの青柳は、代替の土地を探して奔走していた。切羽詰まった青柳は、過去に付き合いのあった地上げ屋・林(マキタスポーツ)を訪ねるが、けんもほろろに追い返されてしまう。
出世争いをしている同期の須永(松尾諭)にも馬鹿にされ、やけ酒を煽って泥酔した青柳は、ふらふらと高輪の駐車場にたどり着く。

石洋ハウスの青柳は、社長の安倍川(谷川昭一朗)から代わりの土地を絶対に探し出すよう命じられる。港区高輪の光庵寺に隣接する駐車場に目をつけた青柳は、部下たちにリサーチを命じる。
川井菜摘を調査していた拓海は、彼女がホストクラブ「CRAZY LOVE」のナンバーワンホスト・楓(吉村界人)の太客だという情報を掴む。後藤は地上げ屋の林から、石洋ハウスが代替の土地を探しているという情報を得る。
捜査二課の下村と倉持は、入手した手紙から地面師のひとりが「辻本拓海」だと突き止める。さらに手紙の送り主「辻本正海」が拓海の父であり、8年前に不動産詐欺に遭って数億の損失を出したことを苦に焼身自殺を図り、自分の妻と拓海の妻子を巻き添えにしたことを知る。正海は大やけどを負うも一命をとりとめ、千葉刑務所に収監されていた。
下村と倉持は千葉刑務所を訪れ、辻本正海と面会する。当時、正海は小さな不動産会社を経営していたという。ある日、営業を担当していた息子の拓海が西谷(赤堀雅秋)という仲介業者を連れてきた。正海は西谷から紹介された土地を購入したが、それが詐欺だったという。
拓海が地面師になったのは、自分たちを騙した西谷という地面師を見つけ出して復讐するためではないか、と想像する倉持。
拓海はホストの楓に近づくため、特殊メイクを施して「CRAZY LOVE」に潜入する。そして楓が斡旋業者を使って未成年の少女を買春している事実を突き止める。
後藤は林に会い、高輪の土地が売りに出ているという情報を流す。後藤が地面師であることに気づいていた林は、石洋ハウスの派閥争いを利用して社長案件に持っていけば、社内決済を早めることができるかもしれないと助言する。そして石洋に怪しまれないために、中間業者としてアビルホールディングスという会社を間に入れることを提案する。
ハリソンはその提案を受け入れ、アビルホールディングスを紹介した林に紹介料3000万円を支払う。だがその直後、ハリソンは業者を使って林を抹殺する。
拓海とオロチは楓が買春している現場をおさえ、楓を脅迫する。

石洋ハウスの青柳は、自分が目を付けていた高輪の土地が売りに出ていると知り、急いでアビルホールディングスに連絡。社長の阿比留(安井順平)と面会の約束を取り付ける。
麗子は川井菜摘のなりすまし役を捜すため、熱海の旅館に潜入する。そこで病気の息子を持つシングルマザーの谷口淑恵(小林麻子)と出会う。彼女は長年の苦労から脱毛症を患っており、息子の治療費を必要としていた。麗子は巧みに谷口に近づき、なりすまし役を持ちかける。
地上げ屋の林が遺体で発見される。下村は殺害現場を訪れ、事務所のカレンダーに「G・アヒル」という記述を見つける。「G」が後藤、「アヒル」がアビルホールディングスのことだと気づいた下村は、アビルホールディングスのビルの前で連日張り込みをする。
倉持は拓海が妻子の命日に墓参りをするのではないかと考え、妻子の墓を探す。正海から拓海ら親子の思い出の地を聞き出し、伊豆に当たりをつける倉持。
11月8日。下村が張り込んでいた店に拓海と後藤が現れる。2人の会話を聞いた下村は、彼らがハリソンの仲間であり、新たな詐欺を仕掛けようとしていることを知る。だが2人がアビルホールディングスに入っていくのを見届けた直後、下村はハリソンの手の者に拉致されてしまう。
拓海と後藤はアビルホールディングスの阿比留とともに、石洋ハウスの青柳らと面会する。土地の売値を聞かれた拓海は、140億円と解答。渋る青柳の様子をうかがいながら、112億で手を打つ。
拓海は条件として、2週間以内に契約と支払いを同時に行うこと、売り主である川井菜摘との面会は、石洋ハウスの社内決済を済ませてからにしてほしい、と付け加える。
拉致された下村はハリソン山中のもとに連れて行かれ、「家族を殺されたくなければここから飛び降りろ」と脅される。ハリソンに下村の情報を流していたのは、理事官の羽場(岩谷健司)だった。
恐怖のあまり自分で飛び降りることができない下村を、ハリソンは容赦なく突き落とす。

下村の死は自殺と判断される。納得がいかない倉持は捜査させてほしいと羽場に訴えるが、聞き入れられない。
青柳は一刻も早く高輪の土地を手に入れるため、社長決裁案件に持ち込もうとする。須永は地面師詐欺の可能性を疑い、地主と面会もせずに100億の土地を購入するのはリスクが大きすぎると忠告するが、青柳は「地面師詐欺などありえない」と一蹴する。青柳は社長の安倍川を巻き込み、強引に社内稟議を通す。
拓海とオロチは、石洋ハウスによる本人確認が行われる11月20日に本物の川井菜摘を現場から遠ざけるため、ホストの楓に命じて川井を沖縄旅行に誘わせる。
倉持は下村の妻・佐恵子(川上麻衣子)に会い、下村が「自分が死んだときに連絡してほしい」と預けていた久保田昌志(オクイシュージ)の連絡先を手に入れる。
久保田はかつて下村に助けられたことがあるという情報屋だった。下村が死んだことを知った久保田は「自殺ではない」と断言し、その真相を突き止めるために協力することを誓う。倉持は下村がハリソン山中を追っていたことを話す。
久保田は8年前に辻本親子を騙した西谷という男を追い、彼の本名が佐伯一真であることや、揉め事を起こしてマニラに逃亡したことを突き止める。
11月19日。妻子の命日に墓参りをする拓海。そこへ倉持が現れ、「あなたは地面師です」と告げる。

いきなり現れた刑事の倉持に、ハリソン山中と組んで地面師をやっていることや、新たな詐欺を仕掛けようとしていること、地面師詐欺が原因で家族を亡くしたことなどを次々と指摘され、動揺する拓海。
父親のことに触れられてカッとなった拓海は、倉持を突き飛ばしてその場を離れる。倉持はその際、拓海の車にGPSを取り付ける。
麗子が準備していたなりすまし役の谷口が、急遽キャンセルになってしまう。病気の息子が亡くなったのだ。焦る拓海たちの横で、ハリソンは麗子に「あなたが川井菜摘のなりすましになってください」と告げる。嫌がる麗子だったが、ハリソンに脅されて引き受けざるを得なくなる。
11月20日。本物の川井菜摘はホストの楓とともに沖縄へ旅立つ。だが沖縄の空港で2人を待ち受けていたのは竹下だった。竹下は楓をトイレで惨殺し、川井を脅して東京に引き返させる。
想定外の事態が起こり、ハリソンから連絡を受けた拓海たちは動揺する。本物の川井菜摘が戻ってくる前に、石洋ハウスとの本人確認、物件下見立ち合いを済ませなくてはならなくなった。
麗子は剃髪して川井菜摘になりすまし、後藤、拓海とともに石洋ハウスの青柳らと面会する。本人確認の質問で窮する場面があったものの、拓海の機転でどうにかやりすごす。
拓海はオロチに命じて本物の川井菜摘を羽田空港で足止めさせようとするが、失敗。タクシーに乗り込んだ川井を追っていたオロチは、交通事故に遭ってしまう。
沖縄にいた竹下は、ハリソンに拘束される。竹下は今回の計画が終わった段階でハリソンに殺されると予期し、その前に計画を潰してハリソンを殺そうと企んだのだった。
だがハリソンはそれを見越して竹下を監視していた。ハリソンは残虐な方法で竹下を殺害し、その様子を自ら撮影する。

本人確認を乗り切った拓海、後藤、麗子の3人は、早々に物件の下見を切り上げさせようとするが、青柳は光庵寺の本堂を見たいと食い下がる。さらに、青柳は自分宛に届いたという手紙を麗子に見せる。そこには「この土地を売るつもりはない。この取引は事実無根だ」と書かれており、送り主は「川井菜摘」になっていた。
麗子は青柳を本堂の裏の部屋に案内する。そこには重要文化財に指定された五智如来像が安置されていた。手紙を書いたのは私ではない、と涙ながらに訴える麗子。青柳らは麗子の演技に圧倒され、その言葉を信じてしまう。
本物の川井菜摘が帰宅する寸前に、青柳らは寺を出ていく。拓海と後藤は石洋ハウス本社でアビルホールディングスの阿比留と合流し、決済手続きを行う。アビルホールディングスには仲介手数料の10億円が、売り主の代理人である拓海らには諸経費1億600万円と、残りの売買代金100億9000万円が石洋ハウスから支払われる。
仕事を終えて帰宅した拓海は、倉持の訪問を受ける。倉持は情報屋の久保田から得た情報を拓海に伝える。かつて拓海と父をだました詐欺師・佐伯一真は、ハリソン山中の仲間だった。佐伯はハリソンと組んで辻本親子をだまし、その取り分で揉めてハリソンに殺されそうになったため、フィリピンに逃亡したのだ。
ハリソンは初めから拓海のことを知っていて、地面師になることを誘ったのではないかという倉持。拓海は佐伯とハリソンが一緒に写っている写真を見て、倉持の話が真実であることを知る。
光庵寺の駐車場で測量が始まり、身に覚えのない川井菜摘は警察に通報する。連絡を受けた青柳は現場に駆けつけ、本物の川井菜摘を見て愕然とする。瞬時にだまされたことを悟った青柳は平静さを失い、道に飛び出して車にひかれてしまう。
後藤と麗子は今回を最後にハリソンのもとから離れようとするが、ハリソンは裏切りを許さなかった。麗子はなりすまし候補だった谷口に金を届けた帰り、ハリソンが雇った者たちに襲われる。後藤は家族と外食中にトイレで殺害される。
拓海は長井に作らせた銃を持ってハリソンのもとを訪ね、殺された家族の復讐をしようとする。ハリソンが拓海と出会ったのも、地面師に誘ったのも偶然だった。拓海の素性を知ったハリソンは運命を感じたという。
地面師の仕事を続けるうちに、人をだます行為自体に魅力を感じるようになったのではないか? と拓海に問いかけるハリソン。拓海はそれを否定し、ここでハリソンを殺して自首すると言う。
そこへオロチが現れ、背後から拓海を刺す。オロチは地面師になるためにハリソンに従ったが、ハリソンはそんなオロチを容赦なく銃殺する。
ハリソンが拓海を殺そうとしたとき、倉持が現れる。ハリソンは爆弾を投げつけ、倉持と拓海は爆発に巻き込まれて意識を失う。ハリソンはその隙に逃亡を図る。
一命をとりとめた拓海の供述により、石洋ハウス地面師詐欺事件の全容が明らかになる。石洋ハウスでは社内調査チームが組まれたが、取引の責任者だった青柳が死亡していることもあり、みな曖昧な証言を繰り返すばかりだった。その後、警察も含めた第三者による調査チームが再編成され、現在も調査は進められていた。
被害金額112億円のうち中間業者アビルホールディングスに支払われた10億円は回収できたものの、地面師グループに流れた残り100億円はその行方がわからず、未回収のままとなっていた。
倉持は警察病院に入院中の拓海を見舞い、地面師をやっていた5年間どんな気持ちだったのかと尋ねる。拓海は地面師にのめりこんでいったことを否定せず、自分の現実から逃げてウソの世界を生きたかったのかもしれない、と答える。
その頃、逃亡したハリソンは山でハンティングに高じていた。

解説と感想(ネタバレ有)

バイオレンスに振り切ったドラマ

原作との大きな違いは、バイオレンスに振り切っている点です。

原作で描かれるヒューマニズムは極力省かれ、詐欺計画をメインに暴力とエロチシズムがふんだんに盛り込まれ、ハラハラドキドキする最高級のエンタメに仕上がっていました。

キャスト陣のみごとなハマりっぷりを見ると、大成功だと思います。

一方で、原作でわたしが心を打たれたシーンがまるまる省略されていたり改変されていたりしたのも事実。

全体のバランスを見ると今回の作品にはそぐわないエピソードだというのはわかるので、納得はできるんですけどね。

長井の孤独と拓海との友情

いちばん大きな改変は、長井のキャラクター設定。ドラマでは軽めのキャラでたが、原作で描かれる長井は心に深い傷を抱える孤独な青年です。

彼は学生時代から国内外で将来を嘱望される優秀な人物でしたが、20歳のとき交通事故で顔に大やけどを負い、それを機に表舞台から姿を消し、心を閉ざして家に引きこもる生活を続けていました。

そうとは知らずに長井の家を訪ねた拓海は、彼の顔を見て父親のことを思い出し、自分の過去を初めて人に話します。

それをきっかけに拓海と長井は友人になり、互いに心を開いて何でも話し合える関係になりました。

人生を諦めていた長井がひとりの女性と出会って仲良くなり、終盤、結婚する運びになったと拓海に報告するシーンがあります。

そのときの拓海はすでに自首することを決めていたのですが、長井に「結婚式に来てもらえる?」と聞かれて「行くよ。俺が行かなかったら、新郎側の友人がゼロになるだろ」と答えるのがとても切なくて、嬉しくて、悲しい。

原作における拓海と長井のシーンはとても重要だと思っていて、殺伐とした犯罪の世界を生きる拓海が唯一人間らしい部分を取り戻す時間でもあり、まっとうな生き方をしていた過去の彼と今もまだ繋がっていることを確認できる瞬間でもあったんです。

拓海自身は、過去の自分を「会ったばかりの素性もわからない相手を信頼し、無警戒に自己をさらしていく」無知で弱い人間だと見下しているんですけどね…。

拓海の潜入捜査に感じる疑問

拓海が特殊メイクをしてホストクラブに潜入するシーン。これは原作にはないオリジナルエピソードで、ドラマとしては面白かったけど、やや強引な感じもしました。

そもそも川井菜摘の設定が原作とは違っていて、ドラマでは「ホストクラブに通って若い男たちと複数プレイを楽しむ」という過激なものに変更されています。

原作では劇作家との不倫で、彼の劇団にかかる公演費用などを川井が支援しているという設定でした。

拓海がホストクラブに潜入した理由は、川井菜摘のお気に入りの楓に近づき、彼の弱み(脅迫するネタ)を探ることだったのでしょうが、潜入する必要ありますかねぇ。

川井菜摘のときと同じように、監視と尾行で見つけられたんじゃない?

やけどの特殊メイクは、楓のクズっぷりを見せるためでもあるのでしょうけど、長井のキャラ変更で失われた「父親を思い出す」シーンを別途作るため…というのが大きいかもしれません。でもやっぱり無理やりな感じはしますね。

わたし的にはこの潜入捜査はちょっと疑問でした。拓海と川井菜摘のアレなシーンも必要なかったと思う。

ちなみに原作では脅迫は一切せず、劇作家に沖縄での講義を依頼して、スマートに2人を沖縄旅行へ誘導しています。

青柳が隠している劣等感

今回の配役はみんなハマってるんですけど、個人的には山本耕史さんの青柳役が本当にイメージ通りでした。

実は、原作では青柳がひそかに抱える「劣等感」が詳細に描かれていて、これがけっこう面白い。

あんなに偉そうに部下を怒鳴りつけてるパワハラ部長が、実は「劣等感」でモヤモヤしてるっていう。しかも同期のライバル・須永に対してじゃなく、旧友たちに対してなんですよね。

青柳は法学部出身で、当初は法曹界を志していたんです。でも大学生活をダラダラ遊んで過ごして2年留年し、その志はあとかたもなく消えてしまい、どうにか石洋ハウスに入社した…という流れ。

初志貫徹した「旧友たち」は法曹の世界で活躍しているらしく、青柳はそんな彼らに引け目を感じ、開発本部長の地位に就いた今でも彼らに対する劣等感が消えずにいます。

そんな屈折した思いが、社長の座を巡る出世争いに青柳を駆り立て、結果的に「地面師詐欺」に巻き込まれる遠因となったのかもしれません。

青柳の必死な感じ。切羽詰まった表情。イライラして部下に当たり散らすところも、山本耕史さんの演技がめちゃくちゃ上手かった。

もしかしてちょっと笑いの要素も入れてくるのかなぁ、なんて思ってたけど、ゼロでしたね。

石洋ハウスの派閥争い(社長派VS会長派)については原作にはなくて、下敷きになっている「積水ハウス地面師詐欺事件」からもってきたのだと思います。当時の積水ハウスの社長と会長(阿部と和田)をもじった名前になってますしね。

原作では描かれなかった青柳の最期も衝撃的でした。ドラマでは「まさか」という人がつぎつぎ亡くなります。

原作では生きているあの人

ドラマで死んでいった登場人物の中で、いちばん驚いたのは辰さんこと下村刑事でした。

原作では死なないし、最後に拓海を助けるという重要な役割を担っている人物だったので、辰さんがハリソンに突き落とされたときは衝撃でした。

この第4話の冒頭で、ハリソンが映画「ダイ・ハード」に登場する悪役ハンス・グルーバー(アラン・リックマン)の素晴らしさについて語るシーンがありました。

「映画の最後、強盗グループのリーダー、ハンスがビルから落ちるシーン。あれはもちろん合成ですが、実際に13メートルの高さから落とされていて、スタッフが“スリー、ツー、ワン、ゴー”で手を離すと説明していたのに、実際は“スリー、ツー、ワン”で手を離した。だからあの驚嘆と恐怖がミックスしたリアルで素晴らしい表情が撮れたそうですよ」

ハリソンの背後の巨大モニターには、一時停止された楓の恐怖の表情がアップで映し出されていて。なんだか意味深だなと思ったんですけど、これが前フリになってたんですね。

辰さんは自ら飛び降りることができず、ハリソンに「スリー」で突き落とされました。このシーンのリリー・フランキーさんの演技がもうずっとすごくて、自分が突き落とされたように怖かった。

まさか辰さんが死ぬとは思わなかったので、本当にショックでした。倉持が宣言どおり助けに来てくれることを最後まで期待したんですけどね…みごとに裏切られました。

原作では、辰さんは割と早い段階で定年退職しています。

その退職後に「情報屋」から連絡があり、辻本親子をだました詐欺師がハリソンの仲間だとわかって、いてもたってもいられずに墓地で張り込みをして、拓海にそのことを伝えています。

ドラマでは、新任刑事の倉持が辰さんの遺志を継いで捜査を続け、墓地で拓海に会うという流れになっていて、これはこれでとても良かったです。

倉持は原作には登場しないオリジナルキャラクターなのですが、わたしは好きでした。池田エライザさんはバイクがよく似合いますね。

ちなみに原作の辰さんは拓海の命を救った後、夫婦で日本一周の船旅に出かけています。夫婦仲はドラマと違って良好で、とても幸せそうでした。

拓海が地面師になった理由

ドラマでは、拓海がなぜ地面師になったのかという謎がフックになっていました。

やがて拓海の過去が明らかになっていき、家族を死に追いやった地面師を見つけ出して復讐しようとしていることが、徐々にわかってきます。

ここは原作とは少し違っています。原作では、拓海の父親は不動産会社の経営者ではなく、親族が経営する医療機器の会社の専務でした。

辻本親子をだました男がハリソンの共犯者だったという点は同じですが、不動産の仲介業者ではなく、フリーランスの医師になりすまして商談を持ちかけてきました。つまり地面師詐欺ではなかったんです。

原作の拓海は、過去の自分を許せずにいます。自分が男の正体を見抜いていれば家族は破滅しなかった。

その激しい後悔が、過去の自分(=簡単にだまされる人)への憎しみに変化していったのだと思う。

したたかなものが笑い、弱きものが泣く。それ以上でもそれ以下でもなかった。かつて自分が食いつくされたように、弱きものはとことん食われてしまえばいい。

新庄耕「地面師たち」より

拓海の心の傷がとても深いことがわかります。この歪んだ心理も「復讐」と言えるのかもしれない。

ただドラマとしては「地面師への復讐」にしたほうが直接的でわかりやすいし、最終的に拓海の復讐相手はハリソン山中だったわけだから、その展開も盛り上がって面白かったと思う。

闇落ちした綾野剛さん良かったなー。

地面師たちの最期

最後に登場人物たちの末路について、原作と比較しつつ触れていきたいと思います。

拓海

ドラマではオロチに背後から刺され、ハリソンが投げた爆弾によって負傷。一命はとりとめ、その後、自供しました。

原作ではハリソンをナイフで刺そうとして失敗、逆に撃たれて重傷を負いました。駆けつけた辰さんによって命を救われています。

ハリソン山中

ドラマではまんまと逃走して、最後は山でハンティング。

原作では防刃ベストを着込んで拓海の襲撃を阻止し、スマホに偽装した拳銃(どういうの?)で拓海を撃ちました。

その後シンガポールに逃げていて、また新たなターゲットに近づいています。

原作でいちばんゾッとしたのは、拓海に言い放ったこのセリフ。

「家族なんか、またつくればいいじゃないですか。もっといいのができますよ」

新庄耕「地面師たち」より

後藤

ドラマでは最後の計画が終わった後、ハリソンが雇った業者に殺されました。

原作では明確な描写はありませんでした。ハリソンが「何らかのペナルティーは必要かもしれません」と言っていたので、殺された可能性も。

麗子

ドラマではなりすまし役の谷口さんにお金を届けた後、ハリソンが雇った業者に殺されたと思われます。原作では明確な描写はありませんでした。

竹下

ドラマでは、沖縄でハリソンに顔を踏み潰されて殺されました。竹下が沖縄で楓を殺し、川井菜摘を東京に帰すという裏切りのくだりは、原作にはないオリジナル。

北村一輝さんがねぇ、やっぱいいですよね。

原作ではハリソンに大量の薬物を打たれ、オーバードーズに見せかけて殺されました。

拓海は彼の遺品の中から、竹下とハリソンとかつて自分をだました詐欺師が一緒に写っている写真を見つけています。

オロチ

アントニーさんが演じたこともあり、原作よりもポンコツで存在感があったドラマのオロチ。

最後は拓海を裏切って、ハリソンの命令で拓海を刺し、その直後にハリソンに撃たれて死にました。

原作では死んでません。病院で拓海から金を受け取ったところで退場。

長井

ドラマでは警察の捜査から逃げるために引っ越し準備をしていました。逃げられたのかどうかはわかりません。ハリソンが長井だけ見逃したのも謎。

原作では、長井は最後に拓海と電話で話したとき、好きな女性と結婚することになったと報告しています。

拓海は警察には長井のことを話さないんじゃないかと思うけど、だとしても、いずれは捜査の手が及びそうな気がする。

佐々木

ドラマでは恵比寿の土地の所有者〝島崎健一〟になりすました後、長崎でトラックにひかれて死にました。

原作では、同じく長崎へ行った後、ハリソンが雇った業者に自殺に見せかけて殺されました。

金に困った佐々木がハリソンをゆすっていて、そのために殺されたという事実は、終盤、ハリソン自身の告白によって明らかになります。

谷口

麗子にスカウトされて川井菜摘のなりすまし役を引き受けましたが、直前に息子が亡くなりキャンセル。

麗子に似ていたことが幸いし、当日は麗子がなりすまし役を遂行。

ほんと、言われてみれば目鼻立ちが小池栄子さんによく似てるんだよね。雰囲気は違うんだけど。

麗子は殺される前に彼女のアパートをこっそり訪ねて、お金を入れた香典袋を玄関前に置いていました。

ギリギリのところで詐欺計画に参加しなかったので、死は免れた…と、思いたい。

原作にも谷口さんは登場しますが、キャラ設定が全く違います。投資に失敗して借金を抱える主婦という設定。

直前に家族にバレて、両親が借金を肩代わりすることになったため、キャンセルになりました。

ドラマではハリソンの雇った業者に殺されました。彼の死は、辰さんが「アビルホールディングス」にたどり着くきっかけにもなりました(ここ面白かった)。

原作では、林は後藤と会っていません。会ったのは青柳だけ。たぶん地面師チームとは関わってないと思います。なので殺されていません。

ドラマでは沖縄の空港で待ち伏せていた竹下に殺されました。吉村界人さん、クズっぷりが見事でした。

楓は原作には登場しないキャラ。原作では、川井菜摘と不倫相手は商談の3日前に沖縄に行ってます。

ところが商談の当日になって、なぜか川井だけが東京に戻ってくる…という流れ。不倫相手は殺されてません。

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