NHKドラマ「風よあらしよ」全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|言葉で闘った女・伊藤野枝とその時代

NHKドラマ「風よあらしよ」あらすじキャスト

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2022年に放送されたNHKドラマ「風よあらしよ」(全3話)についてまとめました。

大正時代を舞台に、女性の自由と尊厳を求めて闘った伊藤野枝の生涯を描いた作品です。

封建的な価値観が色濃く残る社会の中で、野枝は結婚制度や貧困、性差別といった問題に真正面から向き合い、自分の言葉と行動で時代を切り拓いていきます。

原作は、吉川英治文学賞を受賞した村山由佳さんの評伝小説『風よ あらしよ』。主演は吉高由里子さん。伊藤野枝という、激しくも繊細な人物を力強く演じています。

作品概要

  • 放送局:NHK BS/BSプレミアム4K
  • 放送時間:2025年8月31日(日)から毎週日曜22:00~ 【再放送】
  • 原作:村山由佳『風よ あらしよ』
  • 脚本:矢島弘一
  • 演出:柳川強
  • 音楽:梶浦由記

あらすじ

今から100年前。女性の地位は低く、良妻賢母が求められた時代。福岡の片田舎で育った伊藤野枝(吉高由里子)は、東京の女学校へ入学し、教師の辻(稲垣吾郎)から「青鞜」の存在を教わり心を掴まれる。貧しい家を支える為の結婚を蹴り、自由を求め再び上京した野枝に才能を感じ取った辻は、彼女に知識を与え、導く。溢れんばかりの情熱を持った野枝はらいてう(松下奈緒)の青鞜社の門をたたき、時代の若きアイコンとなる。

NHK公式サイトより

原作について

このドラマの原作は、村山由佳さんの評伝小説『風よ あらしよ』(2020年刊行)です。

大正時代に活躍した女性解放運動家・伊藤野枝の激動の人生を描いた評伝小説です。筆一本で社会の常識に挑み続けた彼女の姿が、村山さんの力強く繊細な筆致によって鮮やかに描かれています。

主人公・野枝は、三度の結婚と七人の出産を経験しながらも、自らの思想を貫き、わずか28年という短い生涯の中で濃密な足跡を残しました。関東大震災後、彼女は憲兵隊の甘粕正彦によって命を奪われます。

その間には、平塚らいてうとの交流、「青鞜」など女性文学運動への参加、思想家・大杉栄との自由恋愛など、時代を揺るがすような出来事が次々と展開されます。

社会の枠に抗いながら、自分らしく生きた一人の女性の姿に、勇気をもらえる作品です。

登場人物(キャスト)一覧

伊藤野枝(吉高由里子)
福岡の貧しい家庭に育ち、叔父の支援を受けて東京・上野高等女学校に進学するが、在学中に望まぬ結婚を強いられる。束縛から逃れ、教師・辻潤のもとに身を寄せた後、平塚らいてうの青鞜社に参加。結婚制度や貧困など、社会の根深い問題に真正面から立ち向かい、既成の価値観に縛られることなく、自らの思想と感情に忠実に生きた女性解放運動の先駆者。

大杉栄(永山瑛太)
日本を代表するアナキストとして知られ、体制に抗う思想と行動を貫いた人物。自由恋愛を実践し、野枝との関係を深め、思想と情熱を共有するかけがえのないパートナーとなっていく。

辻潤(稲垣吾郎)
翻訳家・思想家。野枝が通う女学校の教師として彼女の才能にいち早く気づき、文学と思想の世界へ導いた最初のパートナー。知的刺激と自由な精神をもって、野枝の表現の可能性を開いた存在。

平塚らいてう(松下奈緒)
日本初の女性による女性のための文芸誌『青鞜』を創刊し、女性の自己表現と社会的自立を力強く訴えた先駆者。「原始、女性は実に太陽であった」という言葉は、彼女の思想を象徴するとともに、日本の女性解放運動の幕開けを告げる象徴的なフレーズとして広く知られることとなった。

渡辺政太郎(石橋蓮司)
山梨県の貧しい家庭に生まれ、孤児院での勤務を通じて社会の不条理に目を開いた社会主義者。大杉栄らと行動を共にしながら、同志の育成と支援に尽力し、理想の実現に向けて地道な活動を続ける。

村木源次郎(玉置玲央)
大杉栄の「近代思想」に深く共鳴し、その最期まで常に傍らにいた忠実な同志。掃除や洗濯、炊事、子どもの世話まであらゆる家事をこなし、周囲からは「源にぃ」と親しまれた。大杉一家に欠かせない存在。

神近市子(美波)
津田英学塾で学んだ後、青鞜社に参加。のちに東京日日新聞の記者として社会の現場に身を置きながら、大杉栄らとともに「仏蘭西文学研究会」に加わり、思想的・感情的なつながりを深めていく。やがて大杉との関係が公私にわたって交錯し、「日陰茶屋事件」を引き起こす。

堀保子(山田真歩)
婚家を離れて親戚宅に身を寄せていた時期に大杉栄と出会い、後に結婚。定収入のない大杉に代わり、自ら「家庭雑誌」の編集に携わりながら、彼の思想活動を支え続けた。

甘粕正彦(音尾 琢真)
関東大震災当時に憲兵大尉として在任していた人物。震災直後、大杉栄、伊藤野枝らを憲兵隊本部に連行し、密室で殺害した「甘粕事件」を引き起こし、戦前の日本社会に深い衝撃を与えた。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

東京・上野高等女学校に通う伊藤ノエ(吉高由里子)は、郷里・福岡で豪農の末松福太郎(池田倫太朗)との仮祝言を強いられる。家族の都合による結婚に疑問を抱いたノエは、女学校で培った知識と思想を武器に、自らの人生を切り拓こうと決意する。
東京に戻った彼女は、教師・辻潤(稲垣吾郎)の授業で紹介された雑誌『青鞜』に心を打たれ、平塚らいてうの「元始、女性は実に太陽であった」という言葉に深く共鳴する。辻に仮祝言の事実を打ち明けたノエは、福岡へ戻り、縁談を断る覚悟を固める。
しかし福太郎は彼女の意思を認めず、暴力を振るい、無理やり関係を迫る。ノエはその夜、彼のもとから逃げ出し、再び東京へ戻る。
辻の家に身を寄せたノエは、平塚らいてうに手紙を送り、自らの過去と思想を綴る。その誠実な言葉がらいてうの心を動かし、ノエは青鞜社に招かれる。筆名を「伊藤野枝」と定め、女性の地位向上を目指す同志たちとともに活動を開始する。
福太郎は女学校に手紙を送り、姦通罪をちらつかせて野枝を取り戻そうとするが、辻は教師を辞めて彼女を支える覚悟を示す。2人は思想と情熱を共有し、深い絆を築いていく。
青鞜社では、野枝は尾竹紅吉(高畑こと美)や神近市子(美波)らと出会い、女性たちの多様な価値観に触れる。らいてうが青年画家・奥村博史(成田瑛基)と親密になる姿に紅吉が傷つくなど、社内には複雑な人間模様が広がっていた。
辻から紹介されたアメリカの思想家エマ・ゴールドマンの言葉に触れた野枝は、自らの信念をさらに深めていく。やがて青鞜社の講演会で初めて演説を行い、「新しい女」としての道を力強く語る。その姿に観客は拍手を送り、アナキストの大杉栄(永山瑛太)も「本物が出てきた」と称賛する。
野枝は辻の子を産み、母となりながらも青鞜社での活動を続け、らいてうとともに雑誌発行に奔走する。しかし文部省からの圧力や世間の風当たりが強まり、社員は次々と離脱。ついには野枝とらいてうの2人だけが残ることとなる。
一方、教師を辞めた辻は働こうとせず、放浪願望を語るなど、野枝との価値観の違いが浮き彫りになる。らいてうとの対話でも、辻は自我の貫徹を主張し、野枝との関係は揺らぎ始める。
そんな中、辻の知人・渡辺政太郎(石橋蓮司)が大杉栄を連れて辻家を訪れる。

野枝は「青鞜」を通じて性差別や不平等を訴え続けるが、世間の激しい批判にさらされ、創設者・平塚らいてうは活動の第一線から退くことを余儀なくされる。野枝はその志を受け継ぎ、青鞜社の運営を引き継ぐこととなる。
編集業務に奔走する中、野枝は渡辺政太郎から足尾銅山鉱毒事件と谷中村の強制廃村について聞かされ、社会の理不尽さに深く心を揺さぶられる。しかし、夫・辻潤はその話題に冷淡な態度を示し、野枝との価値観の違いが明らかになる。
辻との関係に限界を感じた野枝は、大杉栄との思想的な共鳴を強く意識し始め、ついに辻との別れを決意。息子を残して家を出る。
渡辺夫妻のもとに身を寄せた野枝は、大杉からの手紙を受け取り、彼の下宿先へ向かう。再会を喜ぶ2人のもとに、大杉の妻・保子と、元青鞜社員で新聞記者となった神近市子が現れ、複雑な四角関係が浮き彫りになる。大杉は自由恋愛の理念を語るが、野枝はその理想が女性にとっていかに過酷であるかを率直に訴える。
その後、野枝は海辺の宿で静養しながらも執筆を続ける決意を新たにし、大杉との関係を再確認。互いの理想と信頼を確かめ合い、再び共に歩むことを誓う。
しかし、2人が葉山の「日陰茶屋」に滞在中、神近市子が現れ、三者の関係はさらに緊張を深める。大杉の心が野枝に傾いていることを察した市子は、これまで自らが行ってきた金銭的支援について語り、「あなたを支えてきたのは私です」と訴える。
野枝はその場を静かに離れ、大杉から教えられた別の宿へと向かう。

大正5年、大杉は日陰茶屋で神近市子に短刀で刺され、病院に運び込まれる。大杉は一命をとりとめるが、同志たちは大杉の思想の堕落を非難し、野枝を罵倒する。渡辺政太郎もまた、大杉のもとから去っていく。
退院後、大杉と野枝は足尾銅山鉱毒事件で水の底に沈められた谷中村を訪れ、「同志」として過去を背負いながら共に生きることを誓い合う。その後、野枝は大杉の子・魔子を出産。貧しい生活の中でも、野枝は女性労働者への取材を続け、大杉とともに雑誌『文明批評』を創刊する。
大正12年9月1日、関東大震災が発生。震災後の混乱の中で朝鮮人や社会主義者への流言が広まり、自警団による暴力が横行する。同志の一人が「革命の好機」と煽るが、大杉はそれを否定し、「どさくさに紛れた行動は革命ではない」と一喝する。
野枝は炊き出しを行い、手持ちの着物をすべて困窮者に渡す。着るものがなくなった2人は白い洋服を身にまとい、大杉の弟が住む横浜を訪ね、6歳になる甥・宗一を預かる。
大杉と野枝は宗一を連れて東京へ戻るが、帰り道で憲兵大尉・甘粕正彦(音尾琢真)に連行される。憲兵司令部での尋問では、甘粕が震災の混乱を無政府主義者の陰謀と決めつけ、野枝と大杉を激しく罵倒する。野枝は毅然と反論し、民衆の幸福を顧みない権力の横暴を糾弾するが、甘粕は暴力で黙らせようとし、ついには野枝を雨の中へ引きずり出す。そこで彼女が目にしたのは、すでに殺されていた大杉の遺体だった。
その夜、甘粕らは野枝と大杉の遺体を古井戸に遺棄する。数日後、新聞の号外が2人の死を報じ、村木源次郎ら同志たちは怒りに震える。
事件から1年後、村木は野枝の故郷・今宿を訪れ、大杉と野枝の遺児・魔子と再会する。「もう少しママとパパと遊びたかったな」と語る魔子に、村木は「人はいつかお空に行くんだよ」と静かに答える。

感想(ネタバレ有)

衝撃的な最期で幕を閉じた、わずか28年という短くも濃密な人生に圧倒される。

意に添わない結婚から逃れ、英語教師・辻潤との同居生活を始めた野枝は、やがて社会主義者・大杉栄との運命的な出会いを果たします。貧困、ジェンダー格差、言論の自由といった、現代にも通じるテーマに満ちていて、彼女の生き方そのものが問いかけの連続でした。

脚本は史実とフィクションを巧みに織り交ぜながら、重厚な映像美とともに、野枝の内面を丁寧に描いていました。吉高由里子さんは野枝の信念と情熱を繊細かつ力強く表現していて、圧倒的な存在感に引き込まれました。

ドラマでは割愛されていましたが、野枝は辻との間に2人の子どもを、大杉との間には5人の子どもをもうけています。第2話で、大杉が「女の人はあっという間に変わっちまう。もうすっかりお母さんだ」と何気なく言ったひとこと(おそらく本人は褒めたつもり)に、野枝が「無礼だ」と激しく怒りをあらわす場面が印象的でした。

あなたには、望まずして変わっていく女の気持ちがわかりませんか? 家事や子育てに追われ、知らず知らずのうちに変わっていく女の気持ちがわかりませんか? 男の人の影響を受けて変わっていく女の気持ちがわかりませんか?

女性が望まずして変化を強いられる現実への痛烈な批判が込められていて、今の時代にも響く問いだと思います。

大杉との自由恋愛の末の「日陰茶屋事件」以降、野枝は世間からの激しいバッシングにさらされ、親しかった女友達からも絶縁されてしまいます。生活は常に困窮し、警察の監視下に置かれ、大杉との生活に安らぎはなかったかもしれません。それでも野枝は信念をつらぬき、理想を追い続けました。

大杉が信奉したアナキズムは、国家や権力の否定を含む過激な思想でしたが、野枝の中にはもっと自然で穏やかな社会像がありました。第3話で語られた「組合」の話がそれを象徴しています。

私の生まれた村ではね、古くから組合があったの。規約もなければ役員もいない。あるのは困ったときだけ助け合うという精神のみ。集まりのときは金勘定も葬式も、道から外れた者を諭すのも、どれもこれもみんなでする。まあ基本的には、おのおのがほかに迷惑をかけまいという良心に従って動いてるの。(中略)小さい頃はその良さがわからなかったけど、今になって、ああ、よかったなって思ってね。それにもしかしたら、私たちが掲げる無政府主義って、そういうとこから実現できるんじゃないかなって思って。

この故郷の記憶が彼女の無政府主義の根底にあったのだと思うと、思想というものの根っこは、案外身近なところにあるのだなぁ……と思ったりします。庭で焼いた芋を食べながら、野枝、大杉、村木が肩を寄せ合って語り合う縁側のシーンは、そんな理想が一瞬だけ形になったようで、心に残りました。

関東大震災後の混乱のなか、「朝鮮人が攻めてくる」という流言が広まり、社会主義者がその背後にいると疑われたことで、野枝と大杉は憲兵に連行されます。

野枝はそのとき、5人めの大杉の子を出産して、まだひと月しか経っていませんでした。2人の死後、遺された子どもたちは、野枝の実家や親せきに引き取られています。

原作は上下巻にわたる長編で、ドラマでは描ききれなかった部分も多くありますが、「日陰茶屋事件」や「後藤新平への直訴状」など、重要な出来事はしっかり押さえられていて、濃密な150分でした。

原作では野枝だけでなく、彼女を取り巻く多くの人物の視点で描かれています。母・ムメ、叔父・代準介、辻潤、平塚らいてう、大杉栄、神近市子、後藤新平……。当時の日本を多様な視点で見つめることができるし、それぞれの立場や思想が交錯することで、野枝の生き方がより立体的に浮かび上がってきます。

この物語をもっと深く知りたいと思った方は、ぜひ原作にも触れてみてください。きっと、野枝の声がより鮮明に聞こえてくるはずです。

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