NHKドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|令和版が紡ぐ新たな物語

NHKドラマ「舟を編む」あらすじキャスト

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NHKドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(全10話)についてまとめました。

三浦しをん氏のベストセラー小説『舟を編む』を連続ドラマ化。辞書作りに情熱を注ぐ人々の奮闘を描いた物語。

2024年2月18日から4月21日までNHK BSプレミアム4K・BSで放送され、ギャラクシー賞 第62回テレビ部門入賞、東京ドラマアウォード 2024連続ドラマ部門優秀賞を受賞した作品です。

原作のストーリーをメインに置きつつ、主人公を新入り社員・岸辺みどりに変え、新たにオリジナルの登場人物やエピソードを加えた新しい物語になっています。

原作や映画を知っていても新鮮な気持ちで楽しめるし、はじめてこの物語に触れる人も奥深い“言葉の世界”に魅了されると思います。面白くて元気が出るドラマです!

作品概要

  • 放送局:NHK総合
  • 放送時間:2025年6月17日(火)から毎週火曜22:00~
  • 原作:三浦しをん『舟を編む』
  • 脚本:蛭田直美(全話) 塩塚夢(第5話共同執筆)
  • 演出:塚本連平/麻生学/安食大輔
  • 音楽:Face 2 fAKE

あらすじ

大人気ファッション誌の編集部員・岸辺みどり。雑誌の廃刊が決まり、突如異動になった先は辞書編集部!そこは、ぼさぼさ頭で超がつくほどの生真面目上司・馬締光也を筆頭に、くせ者ぞろい。みどりは、彼らに翻弄されながらも、一冊の辞書を作るために十数年間に及ぶ時間と手間をかける根気と熱意に触発され、次第に自らも言葉の魅力を発見、辞書編さんの仕事にのめり込んでいく。辞書「大渡海」を完成させるまでの、辞書編集部員たちの奮闘物語。

NHK公式サイトより

予告動画

原作について

このドラマの原作は、三浦しをん氏の長編小説『舟を編む』(2011年刊行)です。

辞書作りを題材に、言葉の奥深さと編纂者たちの情熱を映し出した、心温まる物語。

2012年に本屋大賞を受賞し、2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化。2016年10月から12月までテレビアニメが放送されました。

原作あらすじ

出版社「玄武書房」の営業部員・馬締光也は、言葉への卓越した感性を見込まれ、辞書編集部へ異動する。そこで待ち受けていたのは、新しい日本語辞書『大渡海』の編纂という壮大なプロジェクト。膨大な言葉の収集、定義の精査、仲間との議論を重ねながら、辞書という「舟」を完成させるべく奮闘する。

物語は、主人公の馬締が辞書編集部に引き抜かれ、荒木や西岡らと『大渡海』の編纂を始める「前半」と、それから13年以上が経った「後半」の2部構成になっています。

今回のドラマの主人公・岸辺みどりは、原作では後半に登場します。

登場人物(キャスト)一覧

玄武書房

岸辺みどり(池田エライザ)
玄武書房の編集社員。人気ファッション誌「VIVIAN」の読者モデルから編集者になった。「VIVIAN」の廃刊により辞書編集部に異動となり、玄武書房初の中型辞書「大渡海」の編纂に加わることになるが、わからないことだらけで困惑する。「上から目線」「バカにしてる」と言われることが多く、ひそかに気にしていたが、松本の指摘である“口癖”が原因だと気づく。

馬締光也(野田洋次郎)
辞書編集部主任。生真面目な性格で、無類の本好き。周りからは“変人”扱いされている。天然パーマのぼさぼさ頭で、作業中は常に黒い腕カバーをつけている。言葉への卓越した感性を見込まれ、13年前に営業部から辞書編集部へ引抜かれた。以降、人生のすべてを辞書にささげている。

佐々木薫(渡辺真起子)
辞書編集部の事務担当。契約社員。長年、辞書編集部のありとあらゆる事務作業を取りまとめている。冷静かつ客観的な視点を失わず、いつも一歩引いたところから馬締たちを見ている。

天童充(前田旺志郎)
辞書編集部の学生アルバイト。大学生で、国文科を専攻。辞書を引くのが達人レベルで早い。気に入らないことがあると舌打ちする癖がある。無愛想で口が悪く、自分より年上のみどりを“新参者”として扱う。繁忙時は大学の仲間を駆り出し、体育会系のノリでみんなを引っ張っていく。

荒木公平(岩松了)
元・辞書編集部員。13年前、自身の後継者として馬締を辞書編集部へ引き入れた。定年退職後は社外編集者として「大渡海」の編纂に加わっている。根っからの辞書好きで、松本とともに企画を立ち上げた「大渡海」を完成させるべく奮闘する。「月イチカツカレーの会」の名誉会長。

松本朋佑(柴田恭兵)
日本語学者。「大渡海」の発起人であり、監修者。常に用例採集カードを持ち歩き、耳慣れない言葉を聞くと記録する。穏やかなたたずまいではあるが、“辞書の鬼”と呼ばれるほど言葉への探求心が強い。小学1年生を対象とする「辞書引き学習会」というイベントを30年近く続けている。

西岡正志(向井理)
宣伝部に所属する社員で、「大渡海」の宣伝担当。口が達者でコミュニケーション能力が高い。元辞書編集部員で、馬締の唯一の友達でもある。チャラそうに見えるが、「大渡海」を作る一員としての誇りを隠し持ち、発売に向けて様々な宣伝企画を推し進める。

渡瀬凛子(伊藤歩)
ファッション誌「VIVIAN」編集長。みどりが読者モデルをしていた頃からの付き合いで、モデルを辞めて玄武書房に入社したみどりを「VIVIAN」の編集部に引き入れた。「VIVIAN」の廃刊が決定し、みどりを辞書編集部に送り出す。

五十嵐十三(堤真一)
玄武書房の新社長。経営立て直しのため書籍の企画をどんどん中止に追い込み、“死神”と呼ばれている。「大渡海」に関しても、紙での出版を中止してデジタルのみでの販売を提案する。

辞書に関わる人々

宮本慎一郎(矢本悠馬)
製紙会社「あけぼの製紙」の営業担当 。「大渡海」用の紙の開発に取り組んでいる。自身の仕事に対する情熱はさほどなかったが、みどりと切磋琢磨しながら“究極の紙”を目指すうちに変わり始める。みどりとは、次第に心を許し合える関係になっていく。

秋野蘭太郎(勝村政信)
明峰文化大学の教授。漫画文化論を専門とし、「大渡海」の漫画に関する項目のほとんどを担当している。幼いころ水木しげる作品に救われたことから、水木しげるに対して並々ならぬ思いを抱いており、辞書の執筆要領を無視した長文原稿を送りつけてくる。

夏川実(肥後克広)
挿絵画家。「大渡海」の図版を担当していたが、2年前に亡くなっていたことが判明する。

夏川颯太(戸塚純貴)
夏川実の息子。イラストレーター。馬締からの依頼を受け、父・実が描いた絵の修正を引き継ぐ。自分の仕事になんの“こだわり”も持たなかった父に対して屈折した思いを抱いている。

ハルガスミツバサ(柄本時生)
著名なブックデザイナー。装丁デザインアワードを連続受賞している。「大渡海」の装丁オファーを受けるが…。

山目満治(松田龍平)
株式会社サイバーブレスのシステム開発部チーフエンジニア。「大渡海」デジタル版の開発者。

みどりの周辺人物

中村昇平(鈴木伸之)
みどりの彼氏。カメラマンを目指すフリーター。みどりの家に居候している。朝日を撮ることに“こだわり”を持っているが、みどりに否定されて傷つき、出て行ってしまう。

林香具矢(三村里江)
馬締の配偶者。神楽坂で「月の裏」という小料理店を営む板前。馬締が下宿していた「早雲荘」の大家だったタケおばさんの孫娘で、馬締が一目ぼれして長文の恋文を送った相手。タケおばさんの死後「早雲荘」を受け継ぎ、馬締と2人で暮らしている。みどりを下宿に受け入れ、よき相談相手となる。

岸辺慎吾(二階堂智)
みどりの父。東京で仕事を続けたいという理由から妻・若葉と離婚し、みどりを引き取った。

岸辺真帆(野呂佳代)
慎吾の再婚相手。明るい性格で、みどりとも仲がいい。

若葉(森口瑤子)
みどりの母。みどりが幼い頃に離婚し、故郷の山梨で実家の美容室を継ぐことを選択した。みどりのことを応援している。

萩原さつき(金澤美穂)
みどりの姉。両親が離婚した際、母・若葉に引き取られた。現在は山梨在住。結婚して2人の娘がいる。

そのほか

松本千鶴子(鷲尾真知子)
松本の妻。

小林愛斗(阿久津将真)
辞書引き学習会に参加した小学一年生。母親が言った「うむん」という言葉を探している。

小林恵美(村川絵梨)
愛斗の母。おとなしい愛斗を心配している。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

2017年。玄武書房のファッション誌「VIVIAN」の廃刊が決まり、編集者の岸辺みどり(池田エライザ)は、編集長の渡瀬凛子(伊藤歩)から辞書編集部への異動を告げられる。
辞書編集部には、主任の馬締光也(野田洋次郎)、契約社員の佐々木薫(渡辺真起子)、学生アルバイトの天童充(前田旺志郎)がいて、玄武書房初の中型辞書「大渡海」の編集作業が行われていた。
「大渡海」の編集作業が13年も続いていると聞かされ、毎月発行されるファッション誌との違いに戸惑い、愕然とするみどり。生真面目な馬締はそんなみどりに辞書の素晴らしさを熱く語るが、辞書に興味が持てないみどりは自信をなくす。
同棲中の恋人・昇平(鈴木伸之)に愚痴をこぼすみどりだったが、カメラマンを目指す昇平の“朝日”に対する特別な思いに理解を示すことができず、口論になってしまう。
小料理店「月の裏」でみどりの歓迎会が開かれる。「大渡海」の監修者で日本語学者の松本朋佑(柴田恭兵)と、元・辞書編集部員で社外編集者の荒木公平(岩松了)も参加する。
みどりは一同から期待を寄せられていることに困惑し、「辞書なんて何も知らない。作りたいと思ったこともない」と口走り、天童を激怒させてしまう。バカにしているつもりはないのに、なぜかそう思われてしまう。みどりの言葉を聞いた松本は、【なんて】という言葉を辞書で引いてみてください、と告げる。
馬締はみどりに「辞書作りに向いている」と言い、みどりが【右】を説明するとき「→」を書いたことを新しい視点だとほめる。
帰宅したみどりは、辞書で【なんて】という言葉を調べる。自分が無自覚に濫用していた言葉に「軽視する気持ち」が込められていたことを知り、激しく落ち込むみどり。昇平は「距離を置きたい」と、家を出ていってしまう。
昇平が好きだと言っていた、なぐも崎の高台へ向かうみどり。だが昇平の姿はなく、みどりはひとり号泣する。水平線から朝日が昇るの見て、「先に涙が乾く側のほっぺた」が右だと気づくみどり。
出社したみどりは、自分が見つけた【右】の語釈を馬締に伝える。そして自分のデスクに辞書を並べる。

製紙会社「あけぼの製紙」の宮本(矢本悠馬)が、「大渡海」専用用紙のサンプルを持ってやってくる。紙を触った馬締は「ぬめり感がなくなった」と指摘し、作り直しを依頼。
みどりは宮本から、「星の王子様」に登場するセリフにならい、「大渡海」が完成するまでの3年間という時間をそれぞれ辞書と紙に使って、好きになれるかどうか試してみませんか、と提案される。
失恋に落ち込むみどりに、馬締は「あきらめて、あきらめて、あきらめてほしいです」と告げる。意味がわからず、辞書で【恋愛】の項目を調べるみどり。すると、どの辞書も「異性」「男女」と書かれており、「大渡海」も例外ではなかった。
違和感をおぼえたみどりは「恋愛は異性同士だけのものじゃない」と意見するが、松本らは時期尚早だと考えていた。松本は「感情論ではない根拠」と「異性を外しても成り立つ語釈」が必要だと話し、みどりに【恋愛】の語釈を考えてみないかと言う。
帰宅したみどりは【あきらめる】という言葉を辞書で調べる。馬締の意図を知ったみどりは昇平と会い、自分の気持ちを伝えることに。昇平の夢を応援できなかったのは、現状維持を望む自分の都合を優先したからだと。昇平もみどりに甘えていたことを打ち明け、2人は別れることを決める。
【あきらめる】には、「諦める」のほかに「明らめる」という言葉があった。その言葉には「物事の事情・理由をあきらかにする」ことと、「心を明るくする。心を晴らす」という2つの意味があった。
みどりは編集会議で【恋愛】の語釈を発表する。松本は「大渡海」が刊行される2020年までみんなで話し合い、そのときに結論を出そうと提案する。天童は同性愛者であることをみどりに打ち明け、礼を言う。
みどりは昇平と暮らした部屋を出て、馬締が暮らす元下宿屋「早雲荘」に引っ越す。馬締の妻・林香具矢(三村里江)は、小料理店「月の裏」の板前だった。

「早雲荘」の一室に引っ越したみどりは、馬締の妻・香具矢と意気投合する。そんな折、原稿執筆者の秋野教授(勝村政信)から【水木しげる】の項目の原稿が届く。
あまりにも長すぎる原稿に辟易した馬締とみどりは、適度な長さに修正したものを秋野に送り返す。馬締は、かつて同じように“長すぎる原稿”である教授と揉めたことを思い出す。
翌日。馬締は出張、佐々木は休み、天童は試験で、みどりだけが出勤することに。そこへ修正原稿を受け取った秋野教授から怒りの連絡が入る。秋野はみどりの謝罪を受け入れず、「そのまま掲載しなければ手を引く」と主張して譲らない。
困り果てたみどりのもとへ、元辞書編集部員の西岡(向井理)がやってくる。西岡はかつて“長すぎる原稿”で揉めた際、担当教授を脅してことをおさめた経験を語る。そして秋野がほかの原稿ではきちんと執筆要領を守ってくれていたことから、「水木しげる」に特別な思い入れがあることに気づく。
西岡とみどりは秋野が勤務する大学を訪れ、彼の水木しげるに対する並々ならぬ思いを知る。秋野は苦しかった子供の頃、水木しげるの本に出会って救われたのだった。
西岡は「辞書は入口にすぎない」と伝え、秋野と同じ思いを抱える少年たちのためにも、入口にふさわしい言葉を選んでほしいと頼む。納得した秋野は、原稿の修正を受け入れる。
連絡を受けた馬締は急いで出張から戻ってくるが、西岡とみどりが解決したと知って安堵する。そして、かつて馬締が【西行】の語釈で悩んだ際、西岡が語ったことを思い出す。
あけぼの製紙の宮本は「ぬめり感」がなくなった原因を突き止め、再挑戦させてほしいと馬締に訴える。馬締はみどりに紙の担当を任せたいと言い、みどりは悩んだ末に引き受ける。

「大渡海」の紙を担当することになったみどり。馬締は現在発売されている中型辞書の中で、最も軽い辞書にしたいと考えていた。みどりは「用がなくても開きたい辞書」になるよう、あけぼの製紙の宮本とともに“究極の紙”の完成を目指す。
「大渡海」の編纂作業は、図版の再検討に入る。【河童】の図版では「徳利を持っているのがおかしい」、【丑の刻参り】の図版では「頭のろうそくは何本なのか?」、【グリーンイグアナ】の図版では「尻尾が長すぎて場所を取りすぎる」など、さまざまな意見が飛び交う。
図版はいずれも10年前に描かれたもので、【河童】と【丑の刻参り】の図版を描いた画家・夏川実(肥後克広)は2年前に亡くなっていた。馬締らは、実の息子でイラストレーターの夏川颯太(戸塚純貴)に修正を依頼することに。
颯太は「父は自分の絵になんのこだわりもなく、ただ言われたとおりに金のために描いていただけ」と、苦々しく話す。仕事に追われて多忙だった実は、颯太と遊んだこともなく、家族の時間はほぼなかったという。
だが夏川実が赤ん坊の颯太を抱いている写真を見たみどりと馬締は、彼が1つだけこだわっていたことに気づく。赤ん坊の颯太の髪は天然パーマで、実が描いた赤ん坊の絵は、どれもみな天然パーマだったのだ。
編集部に戻ったみどりは実が描いた赤ん坊の絵を颯太に送る。それを見た颯太は亡き父の思いを知り、涙を流す。

山梨で暮らすみどりの母・若葉(森口瑤子)の誕生日が近づき、姉のさつき(金澤美穂)から「誕生日にはそっちへ行く」という連絡が入る。
母に対して過去のわだかまりが消えないみどりは、その複雑な思いを宮本に打ち明ける。幼い頃に両親が離婚し、みどりは東京の父に、姉のさつきは母に引き取られ、山梨で暮らすことになった。みどりは山梨を訪れるたびに、母の気を引こうと“いたずら”をしていた。
ある日、みどりは母の誕生日を祝おうと、内緒で母が経営する美容室に飾りつけをした。だが母は喜ばず、いつものようにみどりを抱きしめることもしなかった。母が客に「あの子、いっつもからかって」と話しているのを聞いたみどりは、母に嫌われたと思い込み、それ以来、母に会うのが怖くなったと話す。
宮本は「素直に聞いてみたらいい」とみどりを励ます。母の誕生日当日、みどりは上京した母と姉を「月の裏」に招いて食事をするが、どうしても素直になれず、仕事についても話せない。親子は気まずい空気のまま別れることに。
松本が30年近く続けているという「辞書引き学習会」のイベントに、みどりも馬締たちと一緒に参加する。イベントに参加した小学1年生の小林愛斗(阿久津将真)は、ほかの女の子の辞書を奪おうとして騒ぎを起こす。
後日、愛斗はみどりの名刺を持ってひとりで辞書編集部にやってくる。彼は「うむん」という言葉の意味を知りたいと打ち明ける。みどりと松本たちは必死に「うむん」という言葉を辞書で探すが見つからない。
その言葉は、愛斗の母・恵美(村川絵梨)が泣きながら漏らした言葉だった。愛斗を迎えに辞書編集部に来た恵美は、愛斗が自分に似ておとなしい性格であることを夫に非難され、思わず「産むんじゃなかった」と言ってしまったことを後悔とともに打ち明ける。
みどりたちは愛斗に「うむん」の本当の意味を悟られないよう、別の意味を与えることに。みどりが描いた【グリーンイグアナ】の絵を愛斗に見せ、「ウムン」は子どもたちに人気の作品「ソケット・ブースター」に登場する新種のキャラクターだと説明する。
みどりは山梨に帰る直前の母・若葉に電話し、「どうしてあのとき抱きしめてくれなかったの?」と聞く。若葉は、みどりが可愛くてたまらず、抱きしめたら帰したくなくなってしまうと思い、できなかったと打ち明ける。
なぜ、あのときの母の言葉を疑わなかったのか。そう思ったみどりは辞書で【からかう】という言葉を調べ、山梨の方言で「手を尽くす」という意味だと知る。自分が勘違いしていたことに気づき、急いで母のもとへ向かうみどり。「VIVIAN」を毎月楽しみにしてくれていた母に、今は辞書を作っていると話す。

みどりたちが参加した「辞書引き学習会」のSNS投稿が拡散され、コメント欄の書き込みで、みどりがかつて「VIVIAN」の読者モデルをしていたことが発覚してしまう。
みどりは馬締や松本たちに、読者モデルをしていたときにSNSの“匂わせ投稿”で炎上したことを打ち明ける。“匂わせ投稿”はまったくの誤解だったが、否定すると余計に炎上し、手が付けられなくなったという。
馬締と西岡は役員会に呼び出され、新社長の五十嵐(堤真一)から「『大渡海』の紙での出版をやめ、デジタル一本にしてはどうか」と提案される。
西岡は時間を稼ぐため、「大渡海」の装丁はハルガスミツバサ(柄本時生)に頼んでいると嘘をつく。ハルガスミツバサは、「彼が装丁すると白紙でも売れる」とまで言われるほどの著名なブックデザイナーだった。
みどりたちは五十嵐を説得する材料を見つけようと、「紙の辞書を作る意義と利点」を考え始める。
天童は、子どものころに市民センターで松本と初めて会ったときの思い出をみどりに語る。同性愛者でマイノリティだった天童は、両腕がない女性が主演の映画を見て、主題歌の歌詞にある「互いに手を差し延べ」とという言葉選びに怒りを覚えた、と語る。
そのとき松本が現れ、「手がなくても、その人は誰かに手を差し伸べることができる」と教えてくれたという。辞書を引くと、【手】には「その局面において有効な働き」という意味があり、【差し延べる】には「持てる力を効果的にいかす」という意味があった。
みどりは紙の辞書を、デジタルの付録にしてはどうか、と提案する。馬締や天童が賛同するのに対し、荒木は「紙の辞書にはその時代の記録が詰まってる」と猛反対し、「それなら『大渡海】を降りる」と告げて編集部を出ていってしまう。
荒木は若かりし日に松本と「玄武書房初の中型辞書を作る」という夢を語り合った日のことを思い出す。「大渡海」の企画が正式に通ったとき、2人は手を取り合って飛び跳ね、喜び合ったのだった。
みどりは【付録】の意味を辞書で調べ、「おまけ」という意味だと知って自分を責める。そして河川敷にいた荒木を見つけ出し、「付録じゃなくて、豪華特典です」と訂正する。荒木はやはり紙をメインにしたいと言い、説得材料を見つけることに前向きになる。

役員会でのプレゼンの日が迫る中、みどりはトラウマになっていたSNSで「玄武書房 辞書編集部」のアカウントを作り、新人辞書編集部員として投稿を始める。
すると、当初は微増だったフォロワーの数が、ある日とつぜん5000人に激増する。10万人のフォロワーを持つアニメ界隈のインフルエンサー「ヲタムちゃん」にリポストされたことが原因だった。
馬締は五十嵐社長が「玄武書房」という社名の名付け親だという噂を聞く。当時10歳の五十嵐が社名の公募に応募し、採用されたのだという。五十嵐は青森の豪雪地帯の出身で、冬は外に出られず、家の中でずっと本を読んでいたらしい。「玄武」は冬の守り神だった。
西岡はブックデザイナーのハルガスミツバサに接触を試みるも、連絡が取れずにいた。ハルガスミのSNSアカウントを見つけた西岡は、彼が「ヲタムちゃん」経由で辞書編集部のアカウントをフォローしていることに気づく。
役員会当日。馬締と西岡は、紙とデジタルのセット販売を提案する。そして、紙の辞書を作り続けていれば、いつか「大渡海」が世界で最後の紙の中型辞書になるかもしれない、と五十嵐に告げる。そのときこそ、玄武書房の独り勝ちだと。
辞書編集部にハルガスミツバサが現れる。彼は「ヲタムちゃん」の友人で、ヲタムちゃんから辞書編集部のことを聞いたという。「ヲタムちゃん」の正体は、秋野教授だった。
そのうえで、辞書の装丁オファーを断りたいというハルガスミ。本が大好きな彼にとって、「ハルガスミが装丁すると白紙でも売れる」という評判は大迷惑だったという。中身のある本を作っている人たちはハルガスミを敬遠するようになり、中身で勝負できない本の仕事ばかり来るようになった、と。
もう装丁の仕事は辞める、というハルガスミに、みどりは「その先に行ってみませんか」と誘う。「大渡海」はそんなやわな舟ではない、一緒に私たちの舟に乗ってほしい、と。
役員会に出席中の西岡のスマホに、ハルガスミが「大渡海」の装丁を引き受けたというメッセージが届く。五十嵐は紙とデジタルのセット販売を承諾し、正式に決定する。

2017年11月。「大渡海」の三校チェックが終わり、いよいよ四校に突入。みどりは資料室に保管されている100万枚の用例採集カードを目の当たりにする。それは松本と歴代の辞書編集部員たちが53年間かけて集めたものだった。
荒木は、「もしこの段階で見出し語の抜けが見つかった場合、ほかの見出し語もすべて確認しなおさなければならない」と語る。それは100万枚の用例採集カードの中から「大渡海」約25万2000語の見出し語を選び出し、それらがすべて載っているか人力で確認するという地獄のような作業だという。
2018年1月。「広辞苑」第七版が発売される。紙は「大渡海」と同じ重さと厚みでありながら、「大渡海」よりもぬめり感があり、透明度も色も素晴らしいものだった。宮本は「日本で一番軽い中型辞書にしたい」というみどりたちの夢をかなえるため、さらなる紙の軽量化を実現させようと奔走する。
2019年4月1日、新元号「令和」が発表される。「ら」行ならスペースがある、と祈るように発表を見守っていた面々は、大喜びする。
2019年10月。ついに「大渡海」の専用紙が完成する。現在発売されている中型辞書の中で、一番軽い紙だった。完成した紙を手に取ったみどりは感動し、涙を流す。それを見た宮本も泣きだす。
みどりと宮本は、3年前に約束した日のことを思い出し、ここまで来れたのはあの日の約束のおかげだと互いに礼を言う。宮本はみどりに「話したいことがある」と言い、食事の約束をする。
みどりは宮本との会話の流れで【血潮】の項目が気になり、ゲラを確認する。だが【血潮】は載っていなかった。自分がチェックしたはずの見出し語リストにも入っていないとわかり、愕然とするみどり。用例採集カードには、確かに「大渡海」の印が押されていた。
一瞬、「このまま私が黙っていれば」という思いが頭をよぎるが、馬締に声をかけられ、みどりは【血潮】の項目が抜けていることを報告する。

2019年10月。「大渡海」に【血潮】が入っていないことが判明。責任を感じたみどりは謝罪するが、松本は「見つけてくれてありがとう」と礼を言う。
馬締は「大渡海を穴のあいた舟にはしない」と言い切り、全員で100万枚の用例採集カードをすべて見直すことに。天童の友人たちも協力を買って出る。
デジタルの作業が同時進行で進んでおり、スケジュールはギリギリの状態だった。紙の辞書を刊行するために五十嵐が出した条件は、「紙とデジタルのセット販売を刊行日の2020年7月15日に必ず間に合わせること」。
西岡は口外禁止を言い渡し、2020年1月10日に行われる刊行発表会の準備を進める。みどりは食事の約束をしていた宮本に行けなくなったことを伝え、「しばらく先が読めない」とメッセージを送る。
みどりたちは一心不乱に確認作業を進め、ついにすべてのチェック作業が完了する。結局抜けている言葉は【血潮】だけで、ほかは見つからなかった。そこへ、ハルガスミが出来上がった装丁デザインを持って現れる。それは言葉の海を渡る舟と、水平線からのぼる朝日を描いた素晴らしいデザインだった。
みどりはようやく宮本と会い、食事をする。帰り際、宮本に告白されたみどりは、恋愛に臆病になっていることを打ち明ける。宮本は言葉を尽くして想いを語り、これからもいろんな感情を言葉にして伝えたい、と告げる。
宮本の言葉と幼い自分自身に背中を押されたみどりは、「私もあなたが大好きです」と告白する。
2020年1月10日、「大渡海」の刊行発表会が予定どおりに開かれる。だがその数日後、辞書編集部を訪れた松本は、検査で食道にがんが見つかったことを告白。明日から入院するという。
病院で仕事を続けるという松本に、馬締は「何事も必ず先生のご指示を仰ぐようにします」と約束する。松本を「大渡海」から締め出すのではなく、負担を減らす方法を考えようと提案する馬締。
みどりたちは松本が帰ってくることを信じ、校了に向けて作業を進める。だが、新型コロナウイルスが流行し始め…。

2020年2月。新型コロナウイルスの感染拡大により世界は一変。松本が入院する病院も面会が禁止となり、荒木は松本に会えなくなってしまう。
「大渡海」の校了日前日。馬締が新型コロナ関連の言葉を辞書に加えるべきではないか、と言い出し、編集部は騒然となる。もはや総ページ数は変更できず、印刷所も製本所もぎりぎりのスケジュールだった。
荒木は闘病中の松本に一日も早く「大渡海」を届けたいと言い、刊行日を遅らせることに反対する。そこへ松本の妻・千鶴子(鷲尾真知子)がやってくる。千鶴子は松本から預かった【恋愛】の項目の原稿と、新型コロナ関連の用例採集カードを届けに来たのだった。
松本が書いた【恋愛】の語釈には、かつてみどりが疑問を呈した「異性」や「男女」という言葉は使われず、代わりに「特定の二人」が採用されていた。3年間の観察・検証の結果、松本は「異性」「男女」の表記を不要と判断したのだ。
松本が病室で集めた大量の用例採集カードを見た馬締たちは、“辞書の鬼”である松本の意志を受け取り、新型コロナ関連の言葉を「大渡海」に入れることを決意する。
宮本が印刷機の空きがある印刷所を見つけてくれたおかげで、印刷期間を大幅に短縮できることになり、そのぶん校了を遅らせることが可能に。2020年3月31日、「大渡海」は無事に校了を迎える。
香具矢の料理店「月の裏」は、コロナ禍で客足が遠のき、休業を余儀なくされる。香具矢は修業時代に世話になった京都の店へ行くことを決める。4、5年は帰ってこられないという香具矢に、馬締は「行ってほしくない」と反対する。
香具矢が京都へ旅立つ日、馬締は見送りを拒否して出社する。みどりは説得を試みるが、馬締は頑なに拒む。そこへ病室の松本からメールが届く。「言葉」を信じる彼の強い思いに触れた馬締は、編集部を飛び出して香具矢のもとへ向かい、彼女を送り出す。
2020年7月15日。「大渡海」刊行祝賀会が開かれる。スクリーンには退院した松本の元気な姿が映し出され、辞書編集部のひとりひとりに温かい言葉が贈られる。
2024年4月。一段落ついて安堵する荒木に、松本は次の辞書を作る意欲を見せたうえ、「大渡海」第2版への準備に取り掛かろうと意気込む。馬締は東京駅で、帰ってきた香具矢を出迎える。
みどりは出勤途中、通りすがりの女子高生が話していた言葉を用例採集カードに書き込む。

感想(ネタバレ有)

原作・映画版の精神を受け継ぎながらも、新たな視点を加えた令和ドラマ版。言葉の持つ力を再認識させてくれる、とても魅力的な作品でした。

言葉への新たな視点

作品を見終えた後、言葉に対する思いが確実に変わりました。日本語を日常的に使っていると、「知っていて当たり前」と思いがちだけれど、実は深く理解していないことも多いんだな…と。

辞書を引くのはたいてい「わからない言葉」のときで、「知っている言葉」を調べることはほとんどない。けれど、本作を通じて「知っているつもり」の言葉がいかに多いかを痛感した。

みどりに限らず、きっとわたしも間違って(あるいは無自覚に)使っている言葉がたくさんあるんだろうな。これからは、むしろ「知っている言葉」こそまめに辞書を引こう、と思った。

主人公・岸辺みどりの視点

映画版ではあまり詳しく描かれなかった岸辺みどりが、令和版では主人公として物語を牽引します。

ファッション誌の編集部員だった彼女が、突然辞書編集部へ異動し、言葉の世界にのめり込んでいく過程が丁寧に描かれていました。池田エライザさんの繊細な演技に何度も泣かされた。

みどりが登場しない原作の前半部分も、回想シーンなどで描かれる。映画を見てからドラマ版を見ると、続編ではないのに続編を見ているような、不思議な感覚に陥るのも魅力のひとつ。

たとえば、西岡が「大渡海」を続行させるために辞書編集部を去ったという話は、原作ではなく映画のほうのエピソード。絶妙に繋がってるんですよね。

「生きることは変わること」というテーマ

本作では、原作や映画版をリスペクトしつつ、その先へ踏み出した新しい物語が展開されています。

特に印象的だったのは、松本先生の運命の変化。原作や映画版では、松本先生は「大渡海」の刊行前に亡くなってしまう。「間に合わなかったよ」と馬締が涙するシーンは象徴的だった。

令和版では、がんを克服した松本先生が、辞書編集部に戻ってくるという展開が描かれる。正直ちょっと驚いたけど、うれしかった。

時代が変わり、医療も進歩する。物語も変わっていい。この改変は「生きることは変わること」というテーマに見事に合致していて、作品のメッセージをより強く印象づけていました。

また、原作にはないコロナ禍の描写が加えられたことも、令和ドラマ版ならではのリアリティを感じさせます。

* * *

私は原作も、映画版も、どちらも大好きです。なので「新たな物語を描く」というドラマ化には少し不安を感じていたのですが、杞憂でした。毎回、とても楽しく、興味深く、泣いたり笑ったりしながら、新しい物語に没頭しました。

まだ映画版を見ていない人はぜひ。アマプラで見られます。松田龍平さんの馬締も、オダギリジョーさんの西岡も、いいですよ。ちなみに私は西岡推しです。

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