ネタバレ有WOWOW「殺した夫が帰ってきました」全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|夫の正体をめぐるミステリーかと思いきや

WOWOW「殺した夫が帰ってきました」あらすじキャスト

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WOWOWの連続ドラマ「殺した夫が帰ってきました」(1話30分/全6話)についてまとめました。

桜井美奈氏の同名小説をドラマ化。DV夫を殺して平穏な日常を過ごす妻の前に、殺したはずの夫が現われるという衝撃的な場面から始まるサスペンスミステリー。

原作を読みましたが、「なぜ彼は戻ってきたのか?」「茉菜の過去を知る者は誰なのか?」次々と巻き起こる謎と緊張感あふれる展開に、ページをめくる手が止まりませんでした。

ドラマは小説の不穏さを見事に映像化。重苦しい空気が画面全体に満ち、何が起こるかわからないという“ゾクゾクする”展開に引き込まれました(結末を知っていても)。

山下美月さんと萩原利久さんの抑えた演技も、物語の緊張感をじわじわと際立たせています。

作品概要

  • 放送局:WOWOW
  • 放送時間:2025年7月11日(金)から毎週23:00ほか
  • 原作:桜井美奈『殺した夫が帰ってきました』
  • 脚本:浜田秀哉、一戸慶乃
  • 音楽:西村大介/DUNK
  • 監督:加藤綾佳

あらすじ

アパレル会社でデザイナーを志す茉菜(山下美月)は、入社して1年半、アシスタントとして真面目に努力を重ね、念願のデザイナーデビューも射程圏内に収めて希望に胸を躍らせる若手社員。しかしその裏で茉菜は、誰にも言えない秘密を抱えていた。日常的に暴力を振るうDV夫の和希(萩原利久)をある出来事を機に殺害し、過去を隠して平穏な暮らしを手に入れていたのだ。そんな茉菜の目の前に突然、殺したはずの夫が記憶をなくした状態で現われる。困惑する茉菜だが、和希は2人の暮らしを一切覚えておらず、まるで別人のように柔和で思いやりのある人物になっていた。“殺した夫”はなぜ生きていたのか、そして本当に何も覚えていないのか?深まる疑惑の中、茉菜と和希の奇妙な共同生活がスタートすることになるが……。

WOWOW公式サイトより

予告動画

原作について

このドラマの原作は、桜井美奈氏の小説『殺した夫が帰ってきました』(2021年刊行)です。

衝撃的なタイトルと、巧妙なストーリー展開で話題を集めたサスペンスミステリー。

物語は、DV夫を崖から突き落とした主人公・鈴倉茉菜が、数年後に記憶喪失の夫と再会するところから始まります。彼の正体や茉菜の過去に隠された秘密が次第に明らかになり、読者を引き込む展開が続きます。

予想を覆すストーリーで、後半は一気読みしました。ドラマ向きの作品だと思います。映像化が難しいと思われる“トリック”を、どのように演出するのか楽しみです。

登場人物(キャスト)一覧

※第3話までのネタバレを含みます

鈴倉茉菜(山下美月)
アパレル会社に勤務する独り暮らしの女性。アシスタント職を務めながら、デザイナーを目指している。誰にも言えない辛い過去を背負って生きている。ある日とつぜん現れた夫に不信感を抱きつつ、同居を始める。

鈴倉和希(萩原利久)
茉菜の夫。5年前に茉菜によって殺された。記憶を失くした状態でとつぜん茉菜の前に現れ、「やり直したい」と懇願する。茉菜の知っている和希とはまるで別人で、茉菜に対して優しくふるまう。

茉菜の親友(田鍋梨々花)
個性的な服を好むが、不器用で裁縫が苦手だった。代わりに茉菜が彼女のリクエストに応じて服を縫うようになった。茉菜に自信を与え、デザイナーを志すきっかけを作った人物。

松木幸子(大塚寧々)
茉菜が幼い頃、隣に住んでいた女性。母親から虐待を受けていた茉菜に寄り添い、いろいろなことを教えた。

羽瀬修斗(櫻井佑樹)
警察官。和希の友人。4か月前に仙台で和希と知り合い、仲良くなった。

高城由美子(望海風斗)
茉菜の勤務先の上司。谷村からの推薦を受け入れ、茉菜にデザイン案を出すよう指示する。茉菜の努力を認め、温かく見守る。

谷村美穂(土居志央梨)
茉菜の勤務先のやさしい先輩。茉菜にデザイン案を提出させてはどうかと上司の高城に提案する。

穂高一臣(笠原秀幸)
茉菜の取引先の担当者。茉菜にしつこく付きまとう。

西垣秀雄(菅原大吉)
宮城県警・大山署の刑事。山中で発見された白骨遺体について捜査する。

岩本高次(川西賢志郎)
宮城県警・大山署の刑事。西垣の部下。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

5年前。日常的に暴力を振るうDV夫を殺害した鈴倉茉菜(山下美月)は、逃げるように仙台から東京へ向かう。
5年後。茉菜はアパレル会社でアシスタント職を務めながらデザイナーを志していた。東京で夜間の専門学校に通って服飾を学び、1年半前に就職したのだ。
そんな中、茉菜につきまとう取引先の担当者・穂高一臣(笠原秀幸)がマンションの前まで押しかけてくる。穂高ともみ合いになっているところを助けてくれたのは、死んだはずの夫・鈴倉和希(萩原利久)だった。
驚く茉菜に、和希は記憶を失っていることを打ち明ける。最近になってようやく茉菜の名前を思い出し、戸籍や住民票を調べて茉菜の住所を突き止めたと言う。
和希は自分が茉菜に暴力をふるっていたことを知ると、茉菜に謝罪し「もう一度だけチャンスがほしい」と懇願。茉菜は動揺しつつも拒絶しきれず、和希と一緒に暮らし始める。
和希は別人のように優しく穏やかだったが、茉菜はどうしても彼を信用することができない。そんなある日、茉菜のもとに怪しい手紙が届く。消印は仙台になっていたが、一度使った封筒で偽装したものだった。
封筒の中には、「鈴倉茉菜の過去を知っている」と書かれた紙が1枚入っていた。

和希は警備員のバイトを始める。茉菜は和希が脅迫状の送り主なのではないかと疑い、和希を尾行。彼が警察官と密会している姿を目撃し、ますます疑念を深める。
茉菜は幼い頃、母から虐待を受け、学校にも通っていなかった。隣人の松木(大塚寧々)はそんな茉菜に寄り添い、いろんなことを教えてくれたのだった。
風邪を引いて寝込んだ茉菜を、和希は献身的に看病する。翌日、回復した茉菜は和希と一緒に外出し、洋服を好きになるきっかけを作ってくれた親友のことを話す。
不器用な彼女のリクエストに応えて服を縫うようになったこと。彼女が自信を与えてくれたこと…。和希は「またひとつ、茉菜のことを知ることができた」と喜ぶ。
2人は、和希の友人だという羽瀬修斗(櫻井佑樹)と偶然出くわす。修斗は和希が以前会っていた警察官だった。4か月前に仙台で出会い、仲良くなったという和希。
夜、茉菜は和希が寝ている間に彼のスマホを確認する。だが連絡先に登録されているのは茉菜と修斗、バイト先、喫茶店Largoの4件だけだった。スマホには、いつの間に撮ったのか、茉菜の日常の写真がたくさん保存されていた。
目を覚ました和希はうろたえ、「顔を覚えていられるように写真を撮った」と慌てて説明する。茉菜は疑念を抱きながらも、和希の優しさに惹かれていく。

茉菜と和希が一緒に暮らし始めて3か月。茉菜はついに念願のデザイナーデビューを果たす。和希との同居生活にも慣れ、幸せを感じはじめる茉菜だったが、ふと10代の頃に出会った初恋の相手・間瀬のことを思い出す。
12年前、茉菜は3回目の結婚をした母と盛岡に住み、義理の父の仕事を手伝っていた。初めてできた恋人・間瀬との穏やかな時間はかけがえのないものだったが、その幸せな時間が長く続くことはなかった。茉菜が家庭内で性的虐待を受けていることを知った間瀬は、茉菜から離れていった。
和希に「茉菜の過去を知りたい」と言われた茉菜は、辛い過去を打ち明ける。最悪な環境で育ち、16歳のときに家出したこと。仙台で年齢を偽って水商売をしていたこと。そして22歳のときに和希と出会い、結婚して仕事を辞めたことを話す。
このまま和希と一緒に暮らしていきたい。心からそう思った茉菜は、和希の提案を受け入れ、2人で暮らすために部屋を引っ越すことを決意する。
そんな折、茉菜のもとに宮城県警の刑事・西垣(菅原大吉)から連絡が入る。山中で白骨化した遺体が発見され、検視の結果、和希であることが確認されたというのだ。
では、一緒に暮らしている“和希”はいったい誰なのか? 彼の言葉がすべてウソだったと知って傷ついた茉菜は、夜行バスで仙台へ向かい、大山署を訪れる。
西垣から、6年前に失踪したにもかかわらず和希の捜索願が出されていなかったことや、4年前に和希が茉菜に生命保険をかけていることなどを問い詰められた茉菜は、「すべてをお話しします。私が夫を殺しました」と告げる。

茉菜は、4年前の嵐の夜に起きた出来事を刑事の西垣に語り始める。和希による暴力で流産し、怯えながら過ごしていた日々。ある雨の夜、和希と車で出かけた茉菜は、「今から殺されるのではないか」という疑念に襲われる。少し前、和希が自分に生命保険をかけていたことを知ったからだ。
恐怖に駆られた茉菜は、車から自分を引きずり下ろそうとする和希をその場に置き去りにし、車で逃走。そのまま家を出たという。警察は、大雨による転落事故との見解を示し、茉菜は釈放される。
その後、茉菜は盛岡へ向かい、松木が住んでいたアパートを訪ねるが、彼女はすでに引っ越していた。途方に暮れる茉菜の前に現れたのは、穂高だった。彼は今も茉菜への執着を捨てきれず、ストーキングを続けていたのだ。
穂高に殺されかけた茉菜を救ったのは、またしても“和希”を名乗る男だった。「あなたは誰?」と問い詰める茉菜に、彼は「和田佑馬」と名乗り、休職中の警察官であることを明かす。茉菜を調べていたのは捜査のためではなく、個人的な理由によるものだった。
あの日、佑馬は穂高から茉菜を守るため、とっさに夫のふりをした。だが茉菜が彼を“鈴倉和希”だと思い込んでしまったため、佑馬はそのまま夫のふりを続けることになった。脅迫状を送ったのも佑馬であり、茉菜から“真実”を聞き出すためだったという。
何も語ろうとしない茉菜を、佑馬は松木のもとへ連れていく。松木は薬物使用で逮捕され、出所したばかりだった。再会を喜ぶ松木に、茉菜は静かに告げる。「私は茉菜じゃない。愛なの。」

松木との再会を果たした茉菜は、自分の本当の名前が「愛」であることを明かす。幼い頃、自分の名前を嫌っていた愛に、松木は「マナ」という呼び名を与えていたのだった。
佑馬は、彼女が“鈴倉茉菜”ではなく、“上坂愛”であることをすでに知っていた。「鈴倉茉菜」とは、愛にデザイナーへの道を示してくれた親友の名前だったのだ。
なぜ愛は茉菜になりすましているのか。本物の茉菜はどこにいるのか。問い詰める佑馬に、愛は彼女と出会った日から、事件が起きた雨の夜までの出来事を語り始める。
盛岡を離れた愛は、仙台で風俗店に勤めていた。そこで茉菜(田鍋梨々花)と出会い、親しくなった。愛は不器用な茉菜のために服を作ることに喜びを感じ、穏やかな日々が続くことを願っていた。
しかし、茉菜は鈴倉和希の子どもを妊娠し、結婚して新居へ移る。子どもの誕生を心待ちにしていた茉菜だったが、和希の暴力によって流産してしまう。さらに、和希は茉菜に多額の生命保険をかけていた。
その事実を知った愛は、茉菜を家に連れ戻し、離婚を勧める。そして雨の夜、事件が起きた。人気のない道で和希に襲われた茉菜は、必死に抵抗し、和希を崖下に突き落とす。恐怖に駆られた茉菜はその場から逃げ、愛に助けを求めた。
茉菜は自首を決意し、「結婚したいと思った人」だと言って、愛に和田佑馬の写真を見せる。愛はその写真の人物を、鈴倉和希だと勘違いしてしまったのだ。
佑馬は、茉菜の血のつながらない兄であることを愛に打ち明ける。茉菜の気持ちに気づきながら、両親の離婚を機に彼女と縁を切ったことを後悔した佑馬は、彼女を捜していた。
「茉菜が自首した記録はどこにもない。いったい何があった?」と問い詰める佑馬に、愛は「今から茉菜のところへ行きましょう」と静かに告げる。

4年前の豪雨の夜。車を走らせる愛と茉菜。茉菜は「人生をやり直し、今度こそ母になりたい」と夢を語っていた。しかし、警察へ向かう途中、2人の乗った車は土石流に巻き込まれ、土砂に流されてしまう。
それは2020年6月26日、宮城県西部を襲った集中豪雨の日だった。車のドアは土砂に埋まり開かず、愛は窓から脱出。茉菜を引き上げようとするが、彼女は土石流にのまれ、車ごと流されてしまう。茉菜の遺体は今も見つかっていなかった。
佑馬は、茉菜と愛が写った写真を持っていた。愛の勤務する会社がテレビで紹介された際、画面に映り込んだ彼女を見て、捜査を始めたという。義理の妹・茉菜の行方を知るために。
なぜ“鈴倉茉菜”を名乗って生きているのか。佑馬に問われた愛は、自分には戸籍がないことを打ち明ける。茉菜が土砂に流されたとき、愛の手元には彼女のバッグだけが残されていた。中には茉菜の免許証が入っていた。
あの夜、自分が茉菜を殺したのではないか——何度も思い返そうとしたが、記憶は曖昧なままだという。佑馬は「真実は君しかわからない。わかるまで考え続けてほしい」と告げ、大山署の西垣に連絡を入れる。これで愛は、戸籍を手に入れることができる。犯罪を確定するために。
愛は、佑馬との3か月間の偽りの結婚生活を振り返り、「これまでの人生の中でいちばん楽しかった。夢のような時間を味わえた」と感謝を伝える。
佑馬は「幸せな時間だと思ったのは、君だけじゃない。ここから始まるんだ。君の人生が」と静かに応える。

感想(ネタバレ有)

夫の正体をめぐるミステリーかと思いきや

原作を先に読んでいたので、物語の展開は知っていました。

登場人物たちの過去や関係性が複雑に絡み合い、誰が誰なのか、何が本当なのかがわからなくなっていく展開は、サスペンスとしてとてもスリリングでした。

過去に自分が殺したはずの夫が、ある日突然、帰ってくる。しかも、以前とはまるで別人のように優しく、穏やかで、記憶を失っている。夫は本物なのか、偽物なのか——。

帰ってきた“夫”の正体をめぐる物語かと思いきや、実は、主人公もまた、本来の自分ではない“鈴倉茉菜”という名前を名乗って生きている別人だったことがわかります。

主演の山下美月さんは、複雑な過去を背負う“訳アリ”の主人公を、繊細に演じていました。“記憶喪失の夫”を演じる萩原利久さんも、優しさと不気味さが同居していて、どこか信用できないような、でも惹かれてしまうような不思議な存在感がありました。

演出面でも、派手な音楽や過剰な演技に頼らず、静かな怖さをじわじわと積み重ねていくスタイルが良かったと思います。日常の風景の中に潜む違和感や、何気ない会話の中に漂う緊張感が、サスペンスとしての魅力を高めていました。

「普通」の重さと物語のほころび

一方で、原作にも共通することですが、ドラマ終盤の展開にはいくつかの違和感が残りました。偶然が重なりすぎていて、物語が核心に近づくほどに「現実味」が薄れてしまった印象です。

登場人物が視聴者に嘘をつくことで真相を隠す、という構造が繰り返されることで、ミステリーとしての納得感が徐々に弱まっていきました。真実にたどり着くまでの道筋が、感情ではなく仕掛けによって動かされているように感じられたのです。

さらに、無戸籍やネグレクト、性的虐待、DV、災害といった重い社会的テーマが物語に織り込まれているにもかかわらず、それらが展開の都合に合わせて消化されてしまっているような印象も否めませんでした。

本来ならば丁寧に向き合うべき問題が、ドラマの構成上、背景として処理されてしまったことで、テーマの重みや現実との接点がやや希薄になってしまったように思います。

主人公の過去についても、ドラマではあまり深く描かれていませんでした。彼女がどれほど過酷な人生を送ってきたのか、なぜ“普通”に憧れたのか、その背景がさらっと触れられる程度だったので、鈴倉茉菜の戸籍を使ってまで「普通の人生」を手に入れようとした動機に説得力が欠けてしまったように思います。

原作でわたしが最も心に残ったのは、「普通が怖い。私は普通に憧れるのに、普通になれない」という主人公の言葉でした。

それは、彼女が人生で初めて恋をして、“普通”の恋人関係を築こうとしたときに、相手から何気なく「そんなの普通でしょ」と繰り返し言われて、深く傷ついた場面で語られたものです。

その一言には、彼女の人生の悲しみや孤独が凝縮されていて、その切実さが胸に刺さりました。ドラマでは、その痛みが十分に伝わってこなかったように思います。

映像の明快さによって失われたもの

原作小説は、主人公・茉菜(=愛)の視点から描かれています。特に印象的なのは、現代パートが三人称で綴られている一方で、過去の記憶は「私」という一人称で語られている点です。

この「私」は誰なのか? という疑問が、物語にさらなる深みと謎を与えていました。読者は語り手の正体を探りながら、女性たちの過去と現在を行き来することになります。

しかし、ドラマでは山下美月さんが主人公を演じることで、視覚的に人物が固定され、こうした叙述トリックは成立しません。映像としてはわかりやすくなった反面、ミステリーとしての緊張感や構造の妙はやや薄れてしまった印象です。

また、原作では主人公の人生に母親の存在が大きく影を落としていて、彼女の“生きづらさ”の根源となっていました。ところが、ドラマではその描写が控えめで、彼女の選択や行動の背景が少し見えにくくなっていたように思います。

母との関係が彼女にどんな影響を与えたのか、そこにもう少し踏み込んで描かれていたら、彼女が“普通”を求めた理由や、鈴倉茉菜として生きようとした動機に、より深い説得力が生まれていたかもしれません。

社会の中で自分を証明するということ

今回のドラマ化は、原作が孕んでいた静かな狂気と、女性たちの切実な願いを、映像という別の言語で再構築しようとする試みだったように思います。

とりわけ、“名前”や“戸籍”といったアイデンティティの象徴が物語の核として据えられていたことで、社会の中で自分を証明するということの意味を、あらためて考えるきっかけになりました。

それは、自分が誰であるかを社会の中で証明するための手段であり、同時に、社会に受け入れられるかどうかを左右する「通行証」のようなもの。

名前がなければ、戸籍がなければ、人はこの社会で「存在している」と認めてもらえません。つまり、制度の外側にいる人たちは、そこにいてはいけない存在として扱われてしまう。

主人公が親友・鈴倉茉菜の戸籍を使って“普通の人生”を手に入れようとしたのは、「社会の中で認められたい」「まともな人間として扱われたい」という切実な願いからだったのだと思います。

でも、その「普通」とは、誰かが勝手に決めた価値観——たとえば〈安定〉とか〈世間体〉とか〈正しさ〉といった、社会が作り上げた枠組みの中にあるものです。

その枠に入らなければ生きづらい。だからこそ、名前を偽り、過去を隠し、嘘をついてでも「普通」になろうとする。

それは、社会が「本当のあなたでは生きていけない」と言っているようなものです。“名前”や“戸籍”は、私たちが思っている以上に、人の尊厳や生き方に深く関わっています。

この物語は、そうした制度の中で生きることの痛みや不条理を、静かに描いていました。そしてそれは、個人の問題ではなく、社会の構造そのものに根ざした問題なのだと思います。

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