海外ドラマ「ザ・ラウデスト・ボイス―アメリカを分断した男―」(全7話)についてまとめました。
アメリカの一大メディア「FOXニュース」の初代CEOで、セクハラ問題で辞任したロジャー・エイルズの栄光から末路までを描いた衝撃の実録ドラマ。IMDbの評価は7.9。
ラッセル・クロウが演技だけでなく外見もエイルズになりきり、迫真の演技で第77回ゴールデン・グローブ賞TVの部・ミニシリーズ/TVムービー主演男優賞を受賞しました。
映画「スキャンダル」で描かれた、エイルズによる女性キャスターへのセクハラ事件も登場します。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOWプライム
- 放送時間:2020年4月11日(土)・12日(日)13:00~
- 製作国:アメリカ(2019年)
- 原題:The Loudest Voice
- 原作:ガブリエル・シャーマン『The Loudest Voice in the Room』
- 脚本:ガブリエル・シャーマンほか
- 製作総指揮:トム・マッカーシー/ガブリエル・シャーマンほか
あらすじ
1995年。差別的暴言のせいでCNBC局(後のMSNBC局)を解雇されたエイルズは翌年、ルパート・マードックが立ち上げる“FOXニュース”で初代CEOとなる。だがエイルズは、ニュースはジャーナリズムではなくショーだと考え、全米各地で暮らす保守的視聴者たちを、時にはフェイクニュースを使ってまで扇動していく。
そして2001年9月、アメリカ同時多発テロ事件発生を受け、エイルズはその姿勢をさらに徹底させることで、“FOXニュース”を老舗“CNN”より人気が高いニュース専門局にすることに成功。エイルズは経済界の大物ドナルド・トランプをも動かし政治的影響力を強め、セクハラ・パワハラを繰り返し……。
WOWOW公式サイトより
登場人物(キャスト)
ロジャー・エイルズ(ラッセル・クロウ/声:山路和弘)
FOXニュース初代CEO。メディア王ルパート・マードックに雇われ、1996年10月にFOXニュースを開局させた。際立った個性と戦略でFOXニュースをアメリカの代表的なメディアの一つにまで育て上げ、共和党の事実上のリーダーへとのし上がる。
べス・エイルズ(シエナ・ミラー/声:山口協佳)
ロジャーの3人目の妻。CNBCの社員だったが、ロジャーの辞任後に解雇され、FOXニュースに転職する。1998年にロジャーと結婚し、息子ザックをもうける。
ルパート・マードック(サイモン・マクバーニー/声:伊藤和晃)
世界的なメディア王として知られる実業家。1979年に大手メディア企業「ニューズ・コーポレーション」を設立した。ロジャーを雇い、FOXニュースを開局させる。
ブライアン・ルイス(セス・マクファーレン/声:豊田茂)
広報責任者。ロジャーが信頼する重役のひとり。FOXニュース開局時、ロジャーに声を掛けられてNBCから転職した。
ローリー・ルーン(アナベル・ウォーリス/声:金香里)
ロジャーの愛人。ワシントンの情報収集担当。ロジャーに関係を強要され、精神的に追い込まれていく。
グレッチェン・カールソン(ナオミ・ワッツ/声:藤貴子)
「FOX&フレンズ」の共同司会者。ミスアメリカ優勝者で、ロジャーがCBSから引き抜いた。キャリアを広げようと他局の番組に出演するが、ロジャーに妨害される。
ジュディ・ラテルザ(アレクサ・パラディノ/声:村田遥)
ロジャーの個人秘書。30年間にわたってロジャーに忠実に仕える。
チェット・コリアー(ガイ・ボイド)
ロジャーが信頼する重役のひとり。FOXニュース開局時、ロジャーに声を掛けられて転職した。2001年9月11日の同時多発テロ以降、対イラク強硬政策を強引に後押しするロジャーに危機感を覚え、忠告する。
ビル・シャイン(ジョシュ・スタンバーグ)
FOXニュースの重役のひとり。ローリーを監視するよう命じられる。
ジョン・ムーディ(マッケンジー・アスティン)
FOXニュースの重役のひとり。
ピーター・ジョンソンJr(ジョン・ハリントン・ブランド)
ロジャーの弁護士。
ガブリエル・シャーマン(フラン・クランツ)
ジャーナリスト。FOXとロジャーに関する本を執筆するため、ロジャーに取材を申し込むが断られる。ロジャーの妨害を受けながらも「The Loudest Voice in the Room」を出版する。
ラクラン・マードック(バリー・ワトソン)
ルパートの長男。ニューズ・コーポレーション副COO。2015年には21世紀FOXの共同会長になる。ロジャーと対立している。
ジェームズ・マードック(ジョシュ・ヘルマン)
ルパートの次男。2015年に21世紀FOXのCEOとなる。
ケーシー・クロース(ジョシュ・チャールズ)
グレッチェンの夫。スポーツ代理人。
ナンシー・E・スミス(ジェシカ・ヘクト)
スミス・マリン法律事務所に勤める雇用問題専門の弁護士。グレッチェンの依頼を受け、ロジャーをセクハラで訴える。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
1995年。保守派の大物プロデューサー、ロジャー・エイルズは、トラブルによりCNBC辞任を余儀なくされる。ロジャーは非競争条項の隙間を突いて、ルパート・マードックが1年後の開局を目指す「FOXニュース」のCEOに就任する。
ロジャーは旧知のブライアン・ルイスやチェット・コリアー、恋人のベスをFOXに呼び寄せる。準備に奔走する中、ディズニーがFOXより3カ月早くニュース局を開局すると発表。ロジャーはそれに対抗して開局を10月に早めようと提案する。
準備期間が半年に縮まったことで、現場は混乱。ロジャーは保守派の人間をターゲットにした番組作りを目指し、過激な発言で知られる素人同然のジャーナリストや、性的魅力に溢れる女性を採用する。ロジャーのやり方に不満を抱き、有能な政治記者やベテラン社員が次々と辞めていく。
1996年10月7日、ついにFOXニュースが開局する。
開局から5年後の2001年9月11日。旅客機がニューヨークの世界貿易センター北棟に激突したという連絡が入り、放送現場は大きく混乱する。ロジャーはすぐさまイスラム勢力アルカイダのテロだと推測し、リアルな映像を繰り返し放映する。
大統領上級顧問のカール・ローヴから協力依頼を受けたロジャーは、政治的なアドバイスを与えるとともに、ブッシュ政権が進める対イラク強硬政策を積極的にバックアップしていく。
FOXニュースはイラクの大量破壊兵器の報道を前面に打ち出していたが、社内の重役からは「根拠がない」と反対の声も上がる。
ロジャーは反対意見や否定的な噂を聞いたらすぐに知らせろとジュディに命じ、社内や自宅のいたるところにカメラを設置して社員や家族の行動を監視するようになる。
2008年。ロジャーは家族のために購入したギャリソンの土地に豪邸を建て、妻ベスと息子ザックとともに暮らしていた。アメリカ大統領選挙では民主党のオバマ候補が優勢となり、対立候補のマケインを支持するロジャーはFOXニュースでオバマ批判を強め、保守側の立場を貫く。
ある日、ロジャーはオバマの選挙対策本部に呼び出されるが、そこにいたのはルパートだった。ルパートはオバマ側ともう批判はしないと約束し、「今後FOXは公正に敬意を持って彼の選挙運動を報じる」と宣言する。
激怒したロジャーはルパートと妻ウェンディのスキャンダルネタを入手しゴシップサイト「ゴーカー」に提供するが、記事にはしないと断られてしまう。
2008年11月4日。オバマが勝利し、次期大統領となる。ロジャーは編集方針に口を出すルパートを非難し、FOXニュースの完全な編集権限を要求。ルパートは承諾する。
ローリーはロジャーとの不倫関係に悩み、精神的に追い込まれていく。ロジャーはビルにローリーの監視を命じ、ダラスの実家に帰ろうとした彼女を引き留める。
2009年。ローリーは不倫関係を終わらせる条件として、代わりを見つけてくるようロジャーに命じられる。
ロジャーと妻ベスはギャリソンの新聞社を買い取り、保守系雑誌の編集助手だったジョー・キンズリーを編集長に据える。町長のシェイは土地利用規制法を導入しようとしており、自分の所有地への規制を嫌がったロジャーはこれに反対。土地規制は私有財産の侵害だという記事をジョーに書かせる。
グレン・ベックは放送中に「オバマは人種差別主義者だ」と発言し、ホワイトハウスの怒りを買ったFOXニュースはインタビューから除外される。ロジャーは報復としてオバマが違法な団体と繋がりがあるというニュースを流すが、それはフェイクニュースだった。
ロジャーは町民集会に出席して徹底的にシェイを非難する。だがその後、自宅が規制の対象地域から外れたとたん、あっさりとこの問題から手を引く。ロジャーに翻弄されるジョー。
ローリーは新しいアシスタントとして、キャリーを紹介する。休みを取って実家に戻ろうとするローリーだったが、空港で錯乱状態に陥りロジャーに保護される。ローリーの精神状態を危惧したロジャーは、彼女をマンションの部屋に監禁する。
2012年。グレッチェンは「ザ・ビュー」のゲスト司会者に呼ばれ、キャリアを広げるため出演を決める。ロジャーはグレッチェンの悪評を流し、出演のオファーが来ないよう画策。グレッチェンを午後の番組に降格させ、セクハラ行為を繰り返す。
ガブリエル・シャーマンというジャーナリストが現れ、FOXとロジャーに関する本を執筆したいとFOXの広報責任者ブライアンに取材を申し入れる。ロジャーは取材を断り、ひそかに中傷サイトを作らせてシャーマンを攻撃する。暴走するロジャーと決裂したブライアンは、大金を受け取ってFOXニュースを去る。
ジョーは新聞社の社員全員からボイコットを受け、落胆する。また妹のキャットにロジャーとの関係を指摘されたことで自身の行く末について悩み、休暇を願い出る。
大統領選挙では共和党指名候補のロムニーを支持し、オバマ再選を阻止しようとしたロジャーだったが、オバマの当選が決定。ロジャーは「次の候補者は俺が決める」と宣言する。
2014年。グレッチェンは国際ガールズ・デーを祝うためノーメイクで番組に出演。ロジャーはグレッチェンを罵倒する。グレッチェンはロジャーとの会話を録音し始める。
2015年。前立腺がんの手術を受けたロジャーは職場に復帰するが、ニューズ・コーポレーションが新体制を発表。ルパートがCEOを退き、長男ラクランと次男ジェームズがトップに就く。
グレッチェンはロジャーのセクハラに耐えかね、訴えることを決意。ロジャーとの会話を1年以上も録り溜めた音声を持って、弁護士のナンシーを訪ねる。
大統領選挙を翌年に控え、ロジャーは「どの候補にも肩入れするな」と命じられるが、不動産王ドナルド・トランプに出馬宣言のアドバイスをし、番組内でも多く取り上げるようになる。
2016年5月、グレッチェンは番組の放送終了後にいきなり解雇通達される。ナンシーとグレッチェンは期限の72時間以内に提訴することを決断。ロジャーを個人的に訴える。
2016年。大統領候補を指名する共和党全国大会の2週間前、ロジャーはグレッチェンにセクハラで提訴される。ルパートは会社としてロジャーを支持する声明を出そうとするが、ルパートの息子ラクランは個人の訴訟だと反対する。
弁護士ナンシーのもとには多数の女性から「エイルズからセクハラや性的暴行を受けた」という内容のメッセージが届き、グレッチェンの家にはマスコミが殺到する。
ラクランは調査団を立ち上げて内部調査を行うが、女性社員はみなロジャーを賞賛し、感謝を口にする。キャリーは会社の外で弁護士を待ち受け「会社の中では監視されているので何も言えなかった」と明かし、ほかの被害者たちも社外で声を上げ始める。
調査報告を受けて事態を重く受け止めたルパートたちは、FOXの取締役会でロジャーの辞任を決定。ベスともにルパートの自宅に赴き無実を訴えるロジャーだったが、グレッチェンが残した音声データの存在を聞かされ辞任を受け入れる。
解任から10か月後、ロジャーは浴室で倒れ脳損傷を負い、その8日後、病院で死亡する。グレッチェンとは2000万ドルで和解が成立。秘密保持契約を締結し、グレッチェンは謝罪を受け取っている。
感想
ロジャー・エイルズの栄光と転落
第1話を見た段階ではあまり引き込まれず、同じくメディア業界の裏側を描いたリチャード・ギア主演のドラマ「マザー・ファーザー・サン」(モデルはルパート・マードック)があまり好きになれなかったので期待せずに見たのですが、意外と面白かったです。第2話以降は一気見しました。
TV業界の帝王と称されるロジャー・エイルズがどのようにFOXニュースを作り上げ、視聴者を獲得していったか。果てしない欲望に突き動かされ、政治に介入し、やがてセクハラで告発されて失脚するまでの流れが時系列で描かれているため、とてもわかりやすい。
その「わかりやすさ」が問題を含む場合もあるし、これはドラマなので実際はもっと複雑かと思う。
劇中にも登場した原作者のガブリエル・シャーマンは、本の執筆にあたって600人にインタビューしているけれど、結局ロジャー本人にインタビューすることはかなわなかった。残念だったに違いない。
メディアに扇動される人々
ロジャー・エイルズの在職中、FOXニュースが14年連続で視聴率1位だったというのがすごい。ビジネスセンスはピカイチだったんだろうな。
彼にとっては視聴者の心を読むことも、喜ばせることも、簡単なことだったのだろう。「わかった気になりたいだけ」「彼らが見たいものを与えればいい」というセリフがグサッと刺さる。
TVに限らず、感情を揺さぶられるものや、声に出せない言葉を代弁してくれる人になびいてしまう傾向はあると思う。わたしも否定できない。
自分もこうやって誰かに印象操作され、知らず知らず扇動されているのかもしれないなと思うと、怖くもあり、あらためてメディアリテラシーについて深く考えさせられる作品でもありました。
ロジャーを愛した女性たち
興味深かったのは、ロジャーが多くの女性社員にセクハラ行為や性的暴行を行う一方で、妻のベスや秘書のジュディのように何があっても彼を信じ、献身的に支える女性もいたということです。
ベスはロジャーの暴走を止めるどころか一緒になって突き進み、セクハラを訴えられても夫を信じ続ける妻。夫妻が地方新聞社を買い取り、平凡な編集者のジョーを編集長に仕立て上げ、自分たちにとって都合のいい記事を書かせていくシーンは不気味だった。
ジュディは言葉少なく控えめだけど、ロジャーに対する信頼は終始1ミリも揺るがず。数々のセクハラ行為に気づいていながら、黙認しています。社内ではロジャーの世話を焼きすぎて、妻のベスにそれとなく牽制されてしまう。
常に視聴者の感情をとらえてコントロールしていたロジャーが、ベスとジュディの水面下の攻防にまったく気づかない「鈍感さ」を見せているのも面白かった。
グレッチェンのセクハラ告発
後半は選挙とセクハラ問題がメインになり、上映中の映画「スキャンダル 」でも取り上げられているグレッチェンの告発が描かれました。
ロジャーを演じるラッセル・クロウはもちろんなんですけど、グレッチェン役のナオミ・ワッツも本人そっくり。特殊メイクがとんでもないことになってますね。もう実際の顔や体型が似てなくても関係ない時代なのね。
ちなみに映画版では、
グレッチェン/ニコール・キッドマン
メーガン/シャーリーズ・セロン
ロジャー/ジョン・リスゴー
という配役。こちらも特殊メイクすごいです(第92回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞)。
グレッチェンに対するロジャーの仕打ちが本当に酷くて、性差別発言を聞いているだけで(ドラマのセリフだとわかっていても)不快になりました。
セクハラについて弁護団に説明するとき、グレッチェンは「やけどの痛みの記憶が肌にずっと残る感じ」と例えていて、ほんとその通りだと。わたしも何十年も前に経験した若い頃の記憶が未だに消えず、ときどき思い出してゾッとします。
グレッチェンが最初に訴えたことで、ほかの被害女性たちも声を上げるようになり、結果的にロジャーを辞任に追い込むことに。
グレッチェンは2000万ドルの和解金を受け取り、示談が成立しています。その際、秘密保持契約を締結したため、FOX時代のことについては現在も口外できません。
登場人物たちのその後
ロジャーは77歳で死去。妻ベスはロジャーの潔白を訴えているそう。秘書のジュディはFOXニュースを退職し、現在も口をつぐんでいるとか。
ローリーは秘密保持契約を破って「精神的な拷問だった」と言及。ジョーは報道から身を引き、小説を自費出版。
ブライアンはフロリダで不動産投資家になり、今も秘密保持契約を遵守。スザンヌはFOXニュースの現CEOに。
ビルはロジャーの解任後共同社長になるも、セクハラ危機対応の責任を問われ1年で辞任。2020年の再選を目指すトランプ陣営に加わっています。
後半のロジャーは疑心暗鬼に捕らわれ、常に怯えているように見えました。自分の行為が返ってきた結果なのですが、哀れでしたね。
ドラマが面白かったので、映画「スキャンダル」もWOWOWで放送されたら見てみようと思います。