英国ドラマ「マルプラクティス~陰謀の処方箋~」(全5話)についてまとめました。
医療の闇を暴くダークなサスペンスドラマ。ある患者の死によって医療過誤を疑われた救命医が、危険な陰謀に巻き込まれていくというストーリー。IMDbの評価は7.1。
コロナ禍における医療現場での葛藤、近年の欧米の医学界で問題になった化合物“オピオイド”など、タイムリーな問題が取り上げられています。
Contents
作品概要
- 放送局:WOWOW
- 放送時間:2024年7月14日(日)13:00~ ※全5話一挙放送
- 製作国:英国
- 原題:Malpractice
- 監督:フィリップ・バランティーニ
- 製作:ソフィー・レイノルズ
あらすじ
英国のとある病院の救急外来で働き、周囲から完璧と思われるほど有能な医師ルシンダ。しかし、次から次へと急患が運ばれてくる職場で、絶えず人間の生死に向き合うプレッシャーにさらされながら忙しい日々を送り、ある薬に頼らざるを得ないほど、ストレスを感じていた。やがてオピオイドのオーバードーズの患者が死亡し、その責任を問われたルシンダは医療調査ユニット(MIU)の調査を受けるが、調査が進むにつれ、次第にルシンダの行動にいくつも不可解な点が浮上。彼女には“ローズ”という人物と関係があって、真実を話せない事情があった。MIUの追及で追い詰められたルシンダは真実を話そうとするが、“ローズ”に止められ……。
WOWOW公式サイトより
予告動画
登場人物(キャスト/吹替)
ルシンダ・エドワーズ(ニアフ・アルガー/声:鹿野真央)
ウエスト・ヨークシャー・ロイヤル病院の救急外来で働く有能な医師。オーバードーズの患者イーディスが死亡し、責任を問われて医療調査ユニット(MIU)の調査を受ける。ある秘密を抱えており、今回の調査で危うい立場に追い込まれてしまう。
ノーマ・キャラハン(ヘレン・ビーハン/声:本田貴子)
医療調査ユニット(MIU)のトップ。死亡した患者イーディスの父親からの申立を受け、責任者であるルシンダを調査する。ルシンダの行動を観察させるために部下のジョージを派遣する。
ジョージ・アジェイ(ジョーダン・クアメ/声:清水優譲)
医療調査ユニット(MIU)の調査担当医師。ルシンダの昔の同僚で、過去に患者を死なせたことがある。ルシンダを観察するため救急外来に張り付き、ルシンダの行動に違和感を抱く。
ラムヤ・モーガン(プリヤンカ・パテル/声:松井暁波)
救急外来の研修医。イーディスが死亡した夜、ルシンダからイーディスの付き添いを頼まれるが、知識不足により判断を誤ってしまう。ルシンダに責められて腹を立て、ひそかにMIUに協力する。
オスカー・ビーティ(スコット・チェンバース/声:ケンコー)
救急外来の研修医。ルシンダを慕っており、ルシンダがいるときだけシフトの後も残って勤務している。病院が廃棄している薬の量を調べるために、率先して監査を行っている。
レオ・ハリス(ジェームズ・ピュアフォイ/声:田中美央)
救急外来の部長。ルシンダの指導医で、彼女を後継者にしたいと考えている。イーディスが死亡した夜は、子どもを迎えに行くため30分早く帰っており、現場にいなかった。
ベス・レルフ(ハンナ・ウォルターズ/声:井上明子)
看護師長。イーディスが死亡した夜、ルシンダとともに対応にあたった。オーバードーズのイーディスよりも撃たれた少年を優先するようルシンダに進言した。
マイク・ウィレット(トリスタン・スターロック/声:吉富英治)
診療部長。何よりも病院の評判と財政確保を最優先し、問題を起こしたルシンダを厄介者扱いして解雇しようとする。
トム・エドワーズ(ローン・マクファディエン/声:田中宏樹)
ルシンダの夫。幼い娘アビを一緒に育てている。ルシンダが抱える秘密には気づいていない。
アントニー・オウス(ブライアン・ボーヴェル)
死亡したイーディスの父親。元弁護士。死因審問で自ら家族側の代理人を務める。
ロブ・ソーンベリー(ダグラス・ハンセル)
地元の医師。ルシンダが密かに連絡を取り合っている相手。ルシンダの医学部時代の指導教官だった。
エヴァ・テイト(ジョージナ・リッチ)
ロブの妻。ゲルダー・クリニックの医師。
ジュベア・シン(アッシュ・タンドン)
ウェルスプリング薬局チェーンのオーナー。ロイヤル病院の理事でもある。
ユスフ(Twana Omer)
銃で撃たれた少年。イーディスが死亡した夜にルシンダが助けた。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
ルシンダ・エドワーズは救急外来で働く医師。ある晩、オピオイドのオーバードーズで意識不明になったイーディスという女性が運ばれてくる。その直後、銃で撃たれた少年が運び込まれ、ルシンダは救命室のベッドを空けるためにイーディスを別室へ移し、研修医のラムヤに指示を出して付き添わせる。
だがイーディスが改善したと勘違いしたラムヤはその場を離れ、その間にイーディスの呼吸が止まり、亡くなってしまう。動揺したルシンダは「あなたのせいよ」とラムヤを罵り、突き飛ばす。
イーディスの父親アントニーが治療に関する申し立てを行い、ルシンダは現場にいた最上位の医師として責任を問われることに。
イーディスが死亡した晩の出来事を調べた医療調査ユニット(MIU)のノーマは、ルシンダの医師としての適格性を正式に調査することを決め、調査担当医師のジョージを派遣して現場でのルシンダの様子を観察させる。ジョージはルシンダの元同僚で友人でもあった。
ルシンダは“ローズ”という人物と頻繁に連絡を取り合っていた。“ローズ”の正体はイーディスのかかりつけ医であるロブ・ソーンベリーで、ルシンダの医学部時代の指導教官だった。
ロブは依存症であるイーディスが街で薬を買わないように、依存症治療薬メサドンを処方していた。そしてルシンダは彼に頼まれて、イーディスのカルテを「故意によるオーバードーズ」と書き換えていた。
ロブと会ったルシンダは「MIUに本当のことを言って」と訴えるが、ロブは頑なに拒む。そしてもし自分が調査されれば、ルシンダに薬を処方していることも露呈すると言う。ルシンダはストレスの多い救急外来で働くうち、薬に頼るようになっていた。
ジョージはラムヤから聞き取りを行い、イーディスが死んだ夜、ルシンダは救急隊から連絡を受ける前にオーバードーズの患者が来ることを把握していたのではないか、と疑い始める。
そしてルシンダの携帯の通話記録を取り寄せ、イーディスのオーバードーズを知らせた匿名の電話と、ルシンダが何度も電話を受けている番号が同じであることを突き止める。
再びMIUから呼び出しを受けたルシンダは、ロブに会って「本当のことを話す」と告げる。必死に止めようとするロブを、思わず突き飛ばすルシンダ。ロブは走ってきた車にはねられ、重傷を負う。パニックに陥ったルシンダはその場から逃げ出す。
交通事故で重傷を負ったロブは、ルシンダの病院に運ばれる。連絡を受けて病院へ向かい、懸命にロブを治療するルシンダ。ロブはなんとか一命を取り留めるが、危篤状態が続く。
MIUの聞き取りに応じたルシンダは、パンデミック期間中に長期休暇を取った理由を尋ねられる。パンデミックが始まった時、ルシンダは産休中だったが、人手が足りないと言われて早めに復帰していた。
仕事と育児の多忙が重なり、自分がコロナに感染していることに気づけず、結果的に大勢の患者や付い添いの家族を死なせることになった。ルシンダは自分が原因になってしまったことに悩み、休養をもらったと語る。
ノーマとジョージは、ルシンダがイーディスの件で何かを隠していると考え、ラムヤに情報提供者になってほしいと頼む。
ルシンダは過去にロブから頼まれて治療したオーバードーズ患者たちの記録を調べ、彼らのかかりつけ医がロブではないことに気づく。死亡したイーディスをはじめ、患者たちはみなゲルダー・クリニックで治療を受けており、その病院はロブの妻エヴァの勤務先でもあった。
ルシンダは集中治療室に忍び込み、ロブの荷物の中から携帯を盗み出す。携帯には「薬がほしい」という患者からのメッセージが大量に届いており、ロブは「J・S」という人物から「彼女は説得できたのか?ぐずぐずするな。解決しろ」と脅されていたことがわかる。
MIUのノーマとジョージはルシンダの携帯の通話記録を調べ、過去にオーバードーズで運ばれてきた患者カミラ・ウッドハムとアレクサンダー・テイラーについても、ルシンダが謎の人物から事前に連絡を受けていたことを知る。
ルシンダがカルテに「故意によるオーバードーズ」と書き込んだのは、事故ということになればその原因を調べられるからではないか、と推測するノーマ。
さらに、オーバードーズの患者たちがみなゲルダー・クリニックで治療を受けていたことがわかり、2人はクリニックとの繋がりを疑い始める。
そんな中、イーディスの死因審問が始まる。家族側の代理人は、イーディスの父親で元弁護士のアントニーだった。イーディスの母親は自殺などありえないと主張し、医療過誤の可能性を訴える。
ルシンダは監察医の証言を聞き、イーディスのオーバードーズは依存症治療薬メサドンではなく、強力なオピオイドであるフェンタニルによるものだと知って愕然とする。ロブは依存症患者にフェンタニルを違法に処方し、ルシンダは隠蔽に加担させられていたのだ。
イーディスを治療したゲルダー・クリニックの医師で、ロブの妻でもあるエヴァを問い詰めるルシンダだったが、エヴァは「私は何も知らない」と言い張るばかり。逆に「これ以上私たちを責めるなら、あなたが薬物依存症だとMIUに言う」と脅される。
死因審問では病院側の医療過誤は認められず、イーディスの死因は大量のフェンタニルを自ら投与したことによる心停止だと結論付けられる。同時に救急外来の研修プログラムが問題視され、見直しを求められる。
ノーマとジョージはオーバードーズに使われた麻薬の入手先を追ってイーディスのアパートを調べ、そこでルシンダの署名が入った処方箋を発見する。
ルシンダはロブの携帯を使って患者のカミラに接触する。カミラを尾行し、ウェルスプリング薬局にたどり着くルシンダ。責任者を呼び出そうとしたとき、夫のトムから娘のアビがジアゼパムを誤飲してオーバードーズになったと連絡が入る。
アビは一命を取り留める。トムはルシンダが薬物依存症を克服していないことを知り、アビを連れて家を出ていく。
病院の理事会では、イーディスの死因審問の結果とルシンダの娘アビの誤飲が議題になる。診療部長のウィレットはルシンダを解雇すべきと意見するが、反対する理事たちが多数を占め、解雇は免れる。
ルシンダはウェルスプリング薬局のオーナーであり、ロイヤル病院の理事でもあるジュベア・シンが依存症患者たちに医療用麻薬を違法に売っていることをMIUに通報しようとするが、ジュベアから取引を持ちかけられ、互いに黙ることで合意する。
MIUのノーマとジョージはルシンダを呼び出し、イーディスのアパートからルシンダの署名が入ったフェンタニルの処方箋が見つかったと伝える。ルシンダは処方箋を書いたのはロブで、彼に頼まれてオーバードーズの患者を治療し、カルテを書き換えたと明かす。
だがノーマは信じようとせず、ルシンダに薬物依存の疑いがあることや、救急外来からジアゼパムを盗んだ疑いがあることを指摘し、薬物検査を受けるよう命じる。さらに調査が終わるまで停職にすると言われ、ルシンダは窮地に陥る。
ラムヤが告げ口したと勘違いしたルシンダはラムヤを責めるが、MIUにジアゼパムのことを言ったのはオスカーだった。オスカーはルシンダのためを思ってしたことだと話す。
ルシンダはウェルスプリング薬局を訪れ、ロブの代わりに仕事をさせてほしいとジュベアに交渉する。そして犯罪行為を黙認する見返りとしてジアゼパムを要求する。
ルシンダは疑いを晴らすため、ジュベアとの会話の録音データをMIUに持ち込む。ジュベアが自分の薬局チェーンを使って依存症患者に違法に麻薬を売りさばいている事実を告発するも、ノーマは信じようとしない。
危篤状態だったロブが死んだと知らされ、ショックを受けるルシンダ。罪悪感に苛まれたルシンダは、ジョージに事故の真実を打ち明ける。
ルシンダはエヴァのもとを訪ね、MIUに本当のことを話すべきだと訴える。エヴァは、ロブがジュベアに脅されて裕福な依存症患者に麻薬を処方していたことを明かし、最近になって立て続けにオーバードーズする患者が現れたために、ルシンダを引き込んで隠蔽を図ったのだと話す。
ルシンダはロブの患者からフェンタニルの容器を入手し、製薬会社に問い合わせる。すると、そのロットはロイヤル病院向けで薬局には納入しておらず、強すぎてリコール対象になっていたことが判明する。
オスカーの調べで、ロイヤル病院では大量の薬が廃棄処分されており、それらはみな「途上国エイド」というチャリティーに回されていることがわかる。ルシンダはウィレットのオフィスに乗り込んで問い詰めるが、異常者扱いされて追い出されてしまう。
ルシンダは患者のカミラに呼び出され、オーバードーズを起こした友人を診るために彼女の家へ向かう。だがそれはジュベアが仕込んだ罠だった。強力な麻薬を打たれ、生死の境をさまようルシンダ。
救急外来に運び込まれたルシンダを救ったのは、研修医のラムヤだった。一命をとりとめ、回復したルシンダのもとにノーマとジョージが現れる。エヴァが真実を告白したことで、ルシンダの疑いが晴れたという。
ノーマとジョージは「途上国エイド」について調べ、救急外来の部長レオ・ハリスが設立者の1人であることを突き止める。そして途上国エイドがウェルスプリング薬局チェーンを通じて、薬を不正に転売していた証拠を掴む。
ハリスはロイヤル病院に薬を過剰に発注させ、廃棄される薬の量を粉飾し、途上国エイドに回収させて裕福な依存症患者に売りさばき儲けていたのだった。
ハリスはチャリティー詐欺と国民保健の不正、違法な薬物販売の疑いで逮捕される。ジュベアはルシンダが助けた少年ユスフに刺殺される。
裁定委員会当日。ルシンダは依存症であることを裁定委員会で認めるようノーマに助言される。自分ひとりでは乗り切れないことに気づいたルシンダは、トムに「助けてほしい」と告げて裁定委員会へ向かう。
感想(ネタバレ有)
処方薬の薬物依存問題を、医療従事者の視点で描いているところが面白かったです。ずっと緊張感があり、予想外な展開もあり、最後まで何が起こるかわからずハラハラしました。
主人公のルシンダは優秀な医師ですが、薬物依存症です。彼女の問題はただその一点のみで、「薬物依存を隠す」ために友人医師の隠蔽に加担せざるをえなくなり、周囲に嘘をつき続け、家族を危険な目に遭わせ、自身も恐ろしい陰謀に巻き込まれてしまいます。
第1話の冒頭、救急外来にオーバードーズの患者と銃で撃たれた少年が同時に運び込まれ、ルシンダが難しい選択を迫られる緊迫したシーン。この10分ほどの間に、多くの情報が詰め込まれていました。
- 救急外来の過酷な日常
- 研修医ラムヤの頼りなさ
- 指導医ハリスの早退(後に常習的だったことがわかる)
- ローズ(=ロブ)とルシンダの秘密のやりとり
- ルシンダの隠蔽工作(カルテの改ざん)
最初はなにげなく見ていたけれど、ルシンダが「薬物依存」と「隠蔽に協力」という2つの秘密を抱えていることを知ってからもう一度見ると、まったく違った印象を受けます。
後にMIUの聞き取り調査でも問い詰められていますが、ほんの数秒であっても判断を迷うことが許されないなんて。そしてその判断が、人の生死を分けてしまうなんて。現場の医療従事者たちの心身への負担はどれほどだろうか…と。
薬物依存は決して肯定できませんが、薬に頼らなければならないほどルシンダが追い詰められていただろうことは、この冒頭シーンを見て想像することができます。
* * *
いくつかの問題が絡み合っているのでストーリーはやや複雑ですが、終盤の伏線回収は見事でした。
研修医のラムヤとオスカーが最終的にいい仕事をして、ルシンダを助けたところも良かったです。特にラムヤがルシンダの命を救う場面はちょっと泣けた。イーディスを死なせてしまった後、オーバードーズについて必死に勉強したんだろうな…。
ただこれほど大きな犯罪に発展しても警察が一切介入せず、医療調査ユニット(MIU)が通話記録を取り寄せたり防犯カメラの映像を入手したり、まるで警察のような捜査をしているところは少し疑問に感じました(そんな権限ないよね?)。
ロブの交通事故も、あんな人目につく場所で目撃者がひとりもいないってことはないと思うんですよね。なぜ警察が捜査しないのか不思議です。
すでにシーズン2の制作が決定しているらしいですが、ここからどう続くんだろう。エヴァの言葉を借りれば「依存症治療は入退院を繰り返すだけ」。ルシンダは克服できるのでしょうか。
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