海外ドラマ「刑事リバー 死者と共に生きる」(全6話)についてまとめました。
2015年にイギリスBBC Oneで放送された、大人の味わいのクライムサスペンス。IMDbの評価は8.0。
「ブロードチャーチ ~殺意の町~」の制作陣が手がけ、スウェーデン出身の実力派俳優ステラン・スカルスガルドが哀愁漂う主人公・刑事リバーを好演しています。
リバーの相棒スティービーを演じるのは、「埋もれる殺意」のニコラ・ウォーカー。
冒頭の10分がかなり衝撃的。その後はスローペースで、登場人物たちの心の襞とイギリスの現代の社会問題を丁寧に描きながら、静かに進んでいきます。
暗くて地味で繊細で、スカッとするドラマではありませんが、情感に訴える英国ドラマらしい秀作。孤独を抱えてさまよう主人公がラストシーンで口にしたセリフに、すべて持っていかれました。
Contents
作品概要
- 製作国:英国(2015年)
- 原題:RIVER
- 企画・脚本:アビ・モーガン
- 演出:リチャード・ラクストンほか
- 制作総指揮:ジェーン・フェザーストーンほか
あらすじ
ロンドン警視庁のリバー警部補は検挙率80%を誇る敏腕刑事。しかし周囲からは、奇行を繰り返す変わり者として敬遠されている。ある夜、リバーは殺害された相棒の事件を独自に追い、マスコミの注目を浴びることに…。体面を重んじる上層部は彼に精神科の受診を命じる。そんな折、リバーは記者会見で失言、自らの立場を更に危うくしてしまう。それでも淡々と担当事件に向き合い…。
AXNミステリー公式サイトより
登場人物(キャスト)
主要人物
ジョン・リバー(ステラン・スカルスガルド)
検挙率80%を誇るロンドンの敏腕刑事。14歳の時にスウェーデンからロンドンに移住している。幼い頃から死者の姿が見え、会話ができるという秘密を持つ。相棒のスティービーを殺した犯人を探しているが、追跡中に容疑者が転落死したことでマスコミや遺族から糾弾される。
ジャッキー・“スティービー”・スティーブンソン(ニコラ・ウォーカー )
リバーの元相棒。リバーの目の前で〝青いフォード車〟に射殺され、犯人はまだ捕まっていない。死んでからもリバーにつきまとい、何かと口を出す。死の直前まで独自に捜査を行っていたらしい。家族は元ギャングで、自らの証言で兄のジミーを殺人罪で刑務所に送った過去がある。
アイラ・キング(アディール・アクタル)
リバーの新しい相棒。独り言や奇妙な言動を繰り返すリバーを不審に思いながらも、根気よく付き合い、理解しようと努める。
クリッシー・リード(レスリー・マンヴィル)
リバーの上司。相棒を失ったリバーを心配し、カウンセリングを勧める。事件の前、スティービーから「話がある」と相談を持ちかけられていた。夫の浮気を疑っている。
ローザ・ファローズ(ジョージア・リッチ)
精神科医。リバーのカウンセリングを担当。リバーの死者が見える能力や深い孤独を理解し、救いの手を差し伸べる。副警視監と親しい。
スティービーの家族
ジミー・スティーブンソン(スティーブ・ニコルソン)
スティービーの兄。元ギャングで殺人を犯した過去があり、スティービーの証言によって実刑判決を受け16年間服役していた。スティービーとは何年も会っていないと思われていたが、スティービーが殺された日に連絡を取っていた。
フランキー・スティーブンソン(ターロック・コンベリー)
スティービーの弟。伯父マイケルが経営する会社で働いている。繊細な性格で、姉の死を深く悲しむ。スティービーは死の直前にリバーに1万ポンドを預け、「私に何かあったらフランキーを頼む」と言い残していた。
ブライディ・スティーブンソン(ソーチャ・キューザック)
スティービーの母。アイルランドからの移住者。
マイケル・ベニガン(ジム・ノートン)
スティービーの伯父。一族の長で元ギャング。現在は送迎サービスの会社を経営し、ギャングからは足を洗っている。警官の道を選んだスティービーに対し、複雑な思いを持っている。
そのほか
クリストファー・ライリー(ジョセフ・アルティン)
スティービーが殺された事件の容疑者。防犯カメラに映っていた車種と同じ青いフォード車に乗っていたため、リバーに追跡され、逃走中に転落死した。大麻の密売で前科2犯。妊娠中の恋人がいる。
ティア・エドワーズ(ピッパ・ベネット=ワーナー)
ライリーの恋人。ライリーを殺されたとして、マスコミを利用してリバーを糾弾する。妊娠中だが父親はブルーノで、ブルーノと子どもを育てることを望んでいる。
ヘイダー・ジャマル(ピーター・バンコール)
ケバブ店の従業員。ソマリア出身で、妻と4人の子どもを国に残している。ケバブ店近くの防犯カメラにスティービーと抱き合うところが映っていたことから、事件の重要参考人となる。マイケルの会社の面接を受けたことがある。
トム・リード(ミカエル・マロニー)
リードの夫。判事。妻に隠れて大麻を常習し、複数の愛人と関係を持っている。秘密の携帯電話でスティービーと連絡を取り合っていた。
エマ(アナマリア・マリンカ)
弁護士。トムの愛人。
アケントーラ(アジョア・アンドー)
弁護士。滞在ビザについて移民たちの相談に乗っている。スティービーが調べていた人物のひとり。
トーマス・クリーム(エディ・マーサン)
昔処刑された連続殺人鬼。リバーが読んでいる本『連続殺人犯 クリーム医師の裁判』の登場人物で、たびたびリバーの前に現れ〝死〟へと誘惑する。
各話のあらすじ(ネタバレ有)
ロンドン警視庁のリバー警部補は、相棒のスティービーと共にある事件の容疑者を追っていた。だが男はリバーの追跡に気づくと逃走し、転落死してしまう。リバーの傍らにいたスティービーは実は既に死んでおり、リバーはスティービーを殺した犯人が乗っていた〝青いフォード車〟を探しているのだった。
死者と会話ができるリバーは周囲から奇行を繰り返す変わり者として敬遠され、上司のリードからはカウンセリングを受けるよう命じられる。
リバーは新しい相棒のアイラと共に、行方不明になったエリンの事件を捜査する。エリンの恋人アテンは彼女を殺害したと犯行を自供するものの、遺体のありかを決して話そうとしない。リバーのもとには死者となったエリンが姿を見せるようになり、エリンの母親からも早く遺体を見つけて欲しいと言われていた。
エリンが愛読していた「ロミオとジュリエット」にヒントを得たリバーは、エリンがSNSに上げていた写真から彼女が首を吊って自殺した場所を突き止める。恋人のアテンも一緒に死ぬはずだったが、できなかったという。自分だけが生き残ったことを恥じたアテンは、刑務所内で自殺を図ろうとするが、リバーに止められる。
深夜、リバーが目を覚ますとベッドのそばにライリーが座り込んでおり、「俺は殺していない」と言う。
リバーはスティービーが殺害される直前、誰かを見て微笑んでいることに気づく。リバーはそのことを上司のリードに報告するが、リードはライリーの車内からスティービーのDNAが検出されたことで、スティービーが以前から麻薬密売人のライリーと親しかったのではないかと懸念する。
ライリーは事故死と判断され、リバーは責任は免れる。副警視監は「精神科の診断書しだいで辞めてもらう」とリバーに告げる。
スティービーの葬儀に足を運んだリバーは、ライリーの恋人ティアに殴りかかられる。その後、ティアは施設に入れられるが、お腹の子の父親がブルーノで、ライリーはブルーノが盗んだ車をもらったのだと話す。
リバーはカウンセラーのローザに、かつて薬を処方されていたこと、スティービーの助けでそのことを隠していたこと、唯一の友人は死んだスティービーだったことを打ち明ける。
スティービーはリバーに事件の日のことを思い出すように促す。車の中を掃除していたリバーは、スティービー
が所持していた2台目の携帯電話を見つける。
スティービーの2台目の携帯電話には、事件当日に疎遠になっていたはずの兄ジミーに連絡した履歴があった。ジミーはスティービーの証言によって殺人罪で16年間服役しており、スティービーが殺される5か月前に出所していた。
リバーは彼女に恨みを持つジミーの犯行と確信し問い詰めるが、ジミーは事件当日スティービーに呼び出されたが待ち合わせ場所に現れなかったと主張し、殺害を否定。さらにジミーのアリバイも成立する。
リバーはスティービーから1万ポンドを渡されていたことをアイラに打ち明ける。スティービーは殺される直前に「私に何かあったらフランキーを頼む」と言い残していた。アイラはそのことを上司に報告すべきだと言うが、リバーは拒む。
リバーとアイラは建設現場で感電したマートンの事件を捜査する。病院を見舞ったリバーはマートンがまもなく死ぬことを知るが、彼の妻はリバーの言葉を信じられず病室から追い出す。捜査の結果、マートンを発見したのはウクライナ人の作業員ミシチェンコが犯人だとわかる。彼とマートンは密かに関係を持っていた。
ローザは嘘の診断書を提出し、リバーは辞職を免れる。ローザは真実を話してほしいと言い、リバーは彼女を信じようとする。
リバーたちはスティービーが利用していたケバブ店に踏み込み、従業員ヘイダーを探す。しかし店長と別の従業員は一様に「そんな男は知らない」と主張する。スティービーがヘイダーと交際していた可能性が濃くなり、リバーはショックを隠せない。
警察はヘイダーの写真を一般公開し、情報を求めることに。写真を見たスティービーの伯父マイケルは、会社の面接を受けに来たと証言。ヘイダーはソマリア出身の既婚者で、大学で教師をしていたインテリだった。マイケルの会社を訪れたリバーは、姉の死から立ち直れないフランキーにスティービーから預かった金の一部を渡す。
リバーはリードの家で情報提供された内容をチェックし、「教授が行く場所を知っている」という内容に目を留める。リードはスティービーから「話がある」と言われたときに話を聞くべきだった、と後悔を語る。リードの夫トムは判事で、妻に隠れて大麻を常習していた。
リバーはローザとのカウンセリングで、スティービーが最後に会った時に「愛する人がいる」と言っていたことを明かす。ローザは自身が主催する〝声〟と話す人たちの集会にリバーを誘う。
ケバブ店の従業員カリドがヘイダーを匿っていたことがわかり、リバーはヘイダーを追って教授たちが集まる場所=図書館へと向かう。しかし一足遅く、ヘイダーは何者かに殺されてしまう。カリドはヘイダーがスティービーを手伝っていたことを明かし、リバーはヘイダーを疑ったことに罪悪感を覚える。
リバーは事件のあった夜、スティービーが2台目の携帯電話から連絡していた人物のひとりがリードの夫トムであることを知る。
リバーはトムを問い詰め、2人が秘密の携帯電話で連絡を取り合っていたことを知る。しかしトムは電話の内容について語ろうとせず、適当にごまかす。
リバーとアイラはヘイダーが滞在していたホテルを訪れ、滞在ビザについて移民たちの相談に乗っているという弁護士のアケントーラと面会する。アケントーラはヘイダーもスティービーも知らないと言い張るが、弁護士のエマは2人がアケントーラを訪ねていたことを証言する。エマはトムの愛人のひとりで、リードは彼女と夫との浮気を疑っていた。
リバーはローザが主催する集会で暴言を吐くが、ローザはそんなリバーを受け入れる。リバーはローザを自宅に招き、初めて死者を見た幼い日のできごとを打ち明ける。
アケントーラはビザの発行と引き換えに移民たちに汚れ仕事を請け負わせ、不正な金を受け取っていた。ヘイダーを殺害したモルドバ人のフィヨドルもまた、アケントーラから仕事を命じられた移民のひとりだった。そこには判事のトムも加わっていたことがわかる。
フィヨドルの供述で、報酬の置き場所が洗車場のロッカーだと知ったリバーは、洗車場の防犯カメラの映像を調べる。映っていたのはトムだった。真実を知ったリードはショックを受ける。リバーたちはリードの家を訪れ、トムを逮捕する。
アイラはスティービーが3つの会社を調べていたことを突き止める。そのうちの1社は、マイケルが経営する〈ベニガン送迎サービス〉の親会社だった。マイケルは判事のトムを使って不法滞在者にビザを与え、3社に就職させていた。警察は令状を出し、〈ベニガン送迎サービス〉に捜査が入る。
夫の逮捕で休暇を取っていたリードは、リバーに励まされ職務に復帰する。トムは聴取で移民たちにビザを与えるよう指示されていたことを供述。指示した人間については認識しておらず、浮気現場の隠し撮り写真をネタに脅されていたと話す。スティービーはトムの不正に気づき、リードに話すよう訴えていたのだった。
スティービーのパソコンに保存されていた動画を見たリバーは、フランキーがスティービーの弟ではなく息子だったことを知る。さらに、洗車場の防犯カメラにフランキーが映っているのを見たリバーは、マイケルの家を訪れ真相を問い詰める。
マイケルは犯行に使われた〝青いフォード車〟が会社の車だと認め、ある映像を見せる。そこには〝青いフォード車〟に乗り込むフランキーの姿が映っていた。フランキーの父親はマイケルで、スティービーは14歳の時にマイケルにレイプされてフランキーを出産したのだった。
迷った末に、リバーはフランキーに会いに行く。フランキーはスティービーに裏切られた怒りと憎しみを打ち明け、リバーはフランキーを逮捕する。
リバーは赤いバラの花束を持って中華料理店へ行き、スティービーと食事を楽しむ。しかしスティービーの姿はほかの客には見えておらず、周囲は怪訝な顔でリバーを見る。スティービーに催促されても、気持ちを伝えることができないリバー。店を出たスティービーは、リバーの前で再び銃殺される。
倒れたスティービーを抱き締め、「愛してる」と言うリバー。スティービーは笑いながら目を開き、2人はダンスを踊る。
感想(ネタバレ有)
死者が見える、という設定なのでファンタジーっぽい刑事ものかと思っていたら、とんでもなくシリアスで重くて暗いドラマでした。好きです。
リバーは〝死者が見える〟という特殊な能力を持っているのですが、ヒーローではありません。周囲から変人扱いされ、白い目で見られ、深い孤独を抱えて常に悩んでいるめちゃくちゃ暗い老人です。
相棒のスティービーが殺されたことで、リバーは大きな喪失感を抱えています。さらにスティービーは死者としてリバーの前に現れ、意味深な言葉を投げかけます。
精神的に追い込まれ、しだいに〝死〟(連続殺人鬼トーマス)に取り憑かれていくリバー。
彼が抱える孤独の深さは見ているこちらまで気が滅入るほどで、彼を理解しようとする精神科医のローザや相棒のアイラの心遣いを何度も突っぱね、台無しにします。
視聴者の立場で客観的に見ている分には「なんで心を開かないの?」と焦れったく感じるのですが、自分自身の人生を振り返ってみると、思い当たることが多すぎて心が痛む。
「友達がいない。唯一の友人は死んでしまった。俺はいい警官だが、それだけじゃダメなんだ。ビールを手に愛想良くできないと、この世界じゃ誰も――人と違うことは許されない。隔離される。俺はどうすれば?」
リバーがローザに初めて救いを求めるシーンですが、このセリフなんてもう…自分自身と重なってほんと辛い。
日本では、いい年した大人がこんなふうにべそをかいて弱音を吐いたり、生き方がわからないと言って誰かに助けを求めたり、生や死について真剣に悩んでいたりすると、「大人げない」「恥ずかしい」「中二病」などと言われて鼻で笑われますが、年齢は関係ありません。
10代だろうが40代だろうが60代だろうが、生きている限り、悩みが消えることなんてない。それを言葉にすることを「恥ずかしい」とする風潮がなくなればいいと心から思う。
老齢の主人公が孤独に悩み、生きることに迷い、死に怯え、愛することに躊躇する。リバーの痛々しくも健気な姿に、すこしだけ励まされた気がします。
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リバーに心を閉ざさせている存在が死者であるならば、彼を導く存在もまた死者です。
死者たちが話す言葉は決してわかりやすくはありません。彼ら自身の言葉なのか、リバーの心の投影なのか、はっきりしない部分もあって、混乱させられることも少なくない。〝死者たち〟と対話することによって、リバーは自分自身の心と向き合うことになります。
劇中で効果的に使われていたティナ・チャールズの「愛の輝き」は、明るくて自由奔放なスティービーを象徴するような曲。
でもその一方で、スティービーもまた心の奥に誰にも言えない孤独を抱えていた女性でした。だからこそリバーと通じ合えたのかもしれません。事件を通してスティービーの本当の姿を知り、彼女を受け入れ、彼女への愛を信じたリバー。
ラストシーンでようやく口にした「I Love You」には、彼女を愛する自分をも愛するという意味も込められていたように感じました。