Amazonプライム・ビデオで9月13日から配信がスタートしたSFアニメ「アンダン ~時を超える者~」(全8話)を見ました。
交通事故をきっかけに、時空を超えることができるようになった主人公アルマが、父親の死の真相を突き止めようとするSFファンタジー。
予備知識ゼロで見たんですけど、とんでもなく不気味で刺激的な大人向けのアニメでした。
「ロトスコープアニメーション」という、実写映像の輪郭線をなぞってアニメ化する手法で作られていて、絵がとてもリアル。海外ドラマを見ているよう。
わたしはこの手法のアニメを見るのは初めてだったので、驚きました。質感がこの作品の雰囲気とも合っていて、なんというか…鳥肌。
時空が切り替わる場面の描写には、アニメーションの持つ自由な表現力が最大限に生かされています。
過去と未来、現実と非現実が交錯する、不安定な世界の不気味さ。足元がグラつくような、得体の知れない恐怖感と不安感。
こういうのめちゃくちゃ好き……!
事件の真相を追うというミステリー要素も加わり、最後までゾクゾクする展開でした。心理学や哲学、タイムトラベル好きは必見。
Contents
作品概要
- 配信:Amazonプライム・ビデオ
- 製作国:アメリカ(2019年)
- 原題:Undone
- 製作:ラファエル・ボブ=ワクスバーグ/ケイト・パーディ
- 監督:ヒスコ・ハルシング
予告動画
登場人物(キャスト)
アルマ・ウィノグラード・ディアス(ローサ・サラザール)
託児所で保育士として働いている28歳の女性。皮肉屋で冷笑的。聴覚障害があり、子どもの頃に人工内耳の手術を受けている。恋人サムと同棲中。交通事故を機に新たな能力に目覚め、父の死の真相を突き止めるため特訓を重ねる。
ジェイコブ・ウィノグラード(ボブ・オデンカーク)
アルマの父。アルマが8歳の時、ハロウィンの夜に交通事故で亡くなった。理論物理学の教授で、時間を並べ替える研究をしていた。アルマの潜在能力を目覚めさせ、自分の死を回避させようとする。
ベッカ・ウィノグラード・ディアス(アンジェリーク・カブラル)
アルマの妹。リードとの結婚が決まり幸せの絶頂だったが、バーテンダーと浮気をしてしまう。
カミラ・ディアス(コンスタンス・マリー)
アルマとベッカの母。奇妙な言動を見せるようになったアルマを心配し、精神疾患を疑う。スペイン人で、敬虔なカトリック信者。
サム(シッダルタ・ダナンジェイ)
アルマの恋人。子どもの頃にインドから移住してきた。アルマと結婚して幸せな家庭を築きたいと思っているが、平凡な人生を望まないアルマに拒絶され、別れを告げられる。
ファルナズ・ラクハニ(シェイラ・ヴァンド)
ジェイコブの教え子で、研究のアシスタントをしていた。
チャーリー・バンダーホーン(ジョン・コーベット)
ジェイコブの研究に出資していたが、決裂する。
バーテンダー(ニコラス・ゴンザレス)
アルマとベッカが通うバーの店員。婚約中のベッカと関係を持つ。
ミゲル神父(タイラー・ポージー)
カミラが通っている教会の神父。アルマのことで悩むカミラの相談に乗り、助言する。
あらすじ
人生に退屈しているアルマは、妹のベッカが結婚するときいて複雑な気持ちになる。
アルマとベッカは行きつけのバーのバーテンダーと3人で飲み、ベッカはバーテンダーと浮気をしてしまう。
アルマは同棲中の恋人サムとこのままの関係を望んでいたが、サムに結婚願望があることを知り、一方的に別れを告げてサムを家から追い出す。
ベッカと喧嘩したアルマは、車を運転中に死んだはずの父ジェイコブを見かけ、交通事故に遭う。
アルマは病院で意識を取り戻すが、ベッドの傍らには父・ジェイコブの姿が。
以来、アルマは何度も同じ場面をループするようになる。
ジェイコブは事故によってアルマの中の眠っていた能力が目覚めたことを告げ、「私を助けて欲しい」と言う。
アルマはジェイコブの指導のもとで時間を操る訓練を始め、同時に20年前にジェイコブを殺した犯人を調べ始める。
感想(ネタバレ有)
ヤバイお父さんと皮肉屋の娘
あーーーめっっっちゃ面白かった! 奇妙で不気味な世界のトリコになってしまいました。
もうちょっと長くてもいいのになぁ。1話が23分前後で、全8話。短く感じた。
皮肉屋で冷笑主義の主人公アルマがお父さんに振り回されるところが面白かった。アルマも変わり者だけど、お父さんの比ではないね。
若い娘に「人の心なんてつまらない」とか「人間関係を捨てろ」とか、大真面目な顔でアドバイスするお父さん。
普通の人には見えていない「世界」で生きているジェイコブにとっては、そんなことはどうでもいいらしい。
「ヘンな物語だ。(オズの魔法使いの)ドロシーは刺激的な生活ができたのに、退屈な暮らしに戻りたがった。素晴らしい経験をしたいと思わないか?」
このセリフがすべてを語っていますね。で、アルマもその血を受け継いでいる。
お父さんとの関係がメインですが、過干渉な母親、結婚を控える妹、恋人サム(いずれもこちら側の人間)との関係も、見どころのひとつでした。
「現実」はどこにあるの?
「現実」とは、「自分が知ることができる世界」に過ぎない。
相当ヤバイお父さんでしたが、話していることは超面白かったです。積み木の説明がわかりやすかった。
「水槽の脳」や「胡蝶の夢」にも通じるものがあるような。
第1話では、アルマが少女にコギ族の因習について語っていました。
彼らは産まれてすぐに暗い洞窟に入り、9年後に初めて外に出て世界を目にするのだと。
そのとき彼らの現実は、「暗い洞窟」を含む「果てしなく広く明るい世界」へと変貌する。
アルマ自身も、聴覚障害で長い間「聞こえない世界」にいたけれど、人工内耳の手術で「聞こえる世界」を知ることとなる。
そして28歳になったアルマは、能力を手に入れたことで再び「自分が知ることができる世界」の境界線を広げることになる。
普通の人たちに精神疾患を疑われる
交通事故で新たな能力に目覚めたアルマ。彼女の祖母(ジェイコブの母)もまた、同じ能力の持ち主でした。
しかし祖母は現実世界に戻れなくなり、「統合失調症」と診断されて不幸な晩年を送ったようです。
アルマも同じように母親や恋人から精神疾患を疑われ、セラピーを勧められたり、精神安定剤を飲むように強いられたりするのですが…これ怖い。
こちら側にいる人間からは精神疾患にしか見えないっていうのが、ものすごい恐怖。
サムはいい人だし、アルマの話を信じてくれるかと思ったんだけど、そんな単純な話じゃなかった。いい人かどうかなんて関係ない。
アルマに感情移入して見ていたはずのわたしでも、終盤は「えっ…もしかしてアルマの妄想?」と疑ったくらいですから。
この世界しか知らない人間なんて、そんなものよね。ふっ。
ラストシーンが意味するものは
過去にもどったアルマは、ジェイコブの死の真相が事故ではなく自殺だったことを知ります。
ジェイコブは自らの手で過去を変えると言い、アルマはひとりで未来へ戻ることに。
メキシコの遺跡で、父が現れるのを待つアルマ。妹のベッカもやってきますが、ジェイコブは現れません。
物語はベッカが立ち去った後、アルマが目を見開くシーンで終わります。
お父さん、過去を変えることができたんでしょうかねぇ。…っていうか、コレどういうこと?
サムも言ってたけど、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だと、未来に戻った瞬間に(わかりやすく)現実が塗り変わるんだけど、この作品では違う。
未来から戻ったアルマはまだ「過去が変わる前の世界」にいて、彼女の「現実」は変わらない。
この世界に父親が存在していることを知った瞬間に、彼女の「現実」が書き換わるのか…。
そのあたりをどう表現するか見たかったんだけどなぁ。そこは見せてくれませんでした。
シーズン2、あるのかな?
続編じゃなくてもいいので、このシリーズもっと見たいです。
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