ネタバレ有「刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル」シーズン2全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|家族の断絶が引き起こした40年前の悲劇の真相

「刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル」シーズン2あらすじキャスト一覧

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英国ドラマ「刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル」シーズン2(100~105分×全3話)についてまとめました。

スコットランド警察の若き女性刑事カレン・ピリーが、過去の未解決事件に挑む本格クライムドラマの第2弾。今回のシーズンでは、1984年に起きた誘拐事件を再調査することになります。

事件の背後には、家族の崩壊や階級構造、そして時代の空気が複雑に絡み合っていました。親子の断絶が引き起こした悲劇の核心に触れることで、単なる事件解決を超えた人間ドラマが浮かび上がってきます。

個人的に大好きなシリーズです。今回も期待にたがわず(それ以上に)面白かったです。

▼シーズン1はこちら

英国ドラマ「刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル」あらすじキャスト ネタバレ有「刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル」全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|倫理と知性が拓く刑事ドラマの新領域

作品概要

  • 放送局:ミステリーチャンネル
  • 放送時間:2025年9月28日(金)16:00~ ※全3話一挙放送
  • 製作国:英国(2025年)
  • 原題:Karen Pirie
  • 原作:ヴァル・マクダーミド『迷宮の淵から』
  • 脚本:エマー・ケニー
  • 監督:ガレス・ブリン

あらすじ

1984年、不況下のスコットランド。資産家グラントの娘カトリーナとその息子が誘拐された。脅迫状が2通届いた後、犯人からの連絡は途絶え、事件は未解決のまま迷宮入りした。40年後の2024年、ある男の遺体が炭坑で発見された。迷宮入りしていたはずのグラント事件が再び動き出す。捜査を命じられたのは警部補に昇進したカレン・ピリーだ。フィルやミント、新人刑事のアイラと共に初動捜査の記録をたどりつつ、関係者の足取りを追う。

ミステリーチャンネル公式サイトより

原作について

このドラマの原作は、ヴァル・マクダーミドの長編小説『迷宮の淵から』(2008年刊行)です。

1984年の炭鉱ストライキ下で起きた2つの失踪事件と、2007年の再捜査を描く心理サスペンスです。裕福な一家の誘拐と炭鉱労働者の失踪——全く異なる背景の事件が、時を越えて複雑に絡み合います。

登場人物(キャスト)一覧

捜査関係者

カレン・ピリー(ローレン・ライリー)
スコットランドのセント・アンドルーズ警察署に勤務する刑事。鋭い観察力と粘り強さが武器だが、鼻につく女だと周りから疎まれている。シーズン2では警部補に昇進。1984年の未解決事件を任され、再捜査チームの指揮を執る。

ジェイソン・マレー(クリス・ジェンクス)
通称ミント。カレンの補佐役。未熟でやや頼りないところもあるが、捜査にはひたむきに取り組む。誠実で親しみやすい性格。再捜査チームでは、アイラとともにカレンの助手を務める。

フィル・パルハトカ(ザック・ワイアット)
巡査部長。カレンの元相棒で、交際相手。規則を重んじる真面目な性格。前回、カレンが再捜査チームの担当に選ばれたことを妬んで離れてしまったが、その後殺人課に異動し、カレンとの関係も復活した。交際していることを秘密にしたまま、カレンの再捜査チームに加わる。

サイモン・リース(スティーヴ・ジョン・シェパード)
カレンの直属の上司。カレンの優秀さを認めつつ、規則を守らない彼女に不安を抱いてもいる。アイラを再捜査チームに参加させて、動向を報告させる。

アイラ・スターク(サスキア・アッシュダウン)
リースの推薦でカレンの捜査チームに加わった巡査。以前はネット犯罪課に所属していた。リースから、再捜査チームの捜査状況を報告するよう命じられる。

リバー・ワイルド(エマー・ケニー)
カレンの親友で、ルームメイト。法医学と考古学の教授。カレンの捜査チームに法医として加わる。

被害者と周辺人物

カトリーナ・グラント(ジュリア・ブラウン)
資産家ブロデリック・グラントの娘。1984年に幼い息子アダムとともに誘拐された。その後、“スコットランド無政府(アナキスト)契約団”を名乗る犯人から脅迫状が届くが、事件は未解決のまま迷宮入りした。

ブロデリック・グラント(ジェイミー・ミチー/ジェームズ・コスモ)
カトリーナの父。“石油王”と呼ばれる資産家。40年前の事件以来、警察を信用していない。

メリー・グラント(マデリン・ウォラル/フランシス・トメルティ)
カトリーナの母。現在は夫と別れて独り暮らしをしているが、絆は深い。今も娘と孫の生存を信じ、待ち続けている。

ファーガス・シンクレア(ジャック・スチュワート/ジョン・ミッチー)
グラント社の重役。グラントの忠実な部下で、後継者でもある。40年前、既婚者でありながらカトリーナと関係を持ち、彼女の妊娠を知ると堕胎を迫った。以来、カトリーナとはほとんど話しておらず、息子のアダムとも会っていない。

ボニー(カット・ロニー/セイラン・バクスター)
カトリーナの親友。40年前にカトリーナとアダムが誘拐された時、すぐ近くにいて連れ去られる現場を目撃していた。親友を助けられなかった罪悪感から精神的に不安定になり、長い間依存症に苦しんでいる。

容疑者と周辺人物

ケヴィン・キャンベル(スチュアート・キャンベル)
40年前にカトリーナを誘拐した犯人。麻薬密売組織レノックス・ファミリーの一味。採石場で遺体が発見されたことにより、事件の再捜査が行われることに。

ライアン・キャンベル(スチュワート・ポーター)
ケヴィンの兄。レノックス・ファミリーの一味で銃器犯罪の前科がある。2022年以降データが消えており、足取りがつかめない。

アンディ・カー(コナー・ベリートム・マニオン)
ケヴィンの友人。炭鉱労働者。40年前、炭鉱ストにより生活が苦しくなり、ギャンブルにのめり込んでいた。1984年11月に自殺している。

ミック・プレンティス(マーク・ロウリー)
炭鉱労働者。40年前、ディスコクラブの用心棒をしており、カトリーナに接触していた。

ジェニー(レイチェル・ディック/ケイト・ドネリー)
ミックの妻。ニュートン・オブ・ウェミス在住。現在は義兄のトムと暮らしている。

トム・ロバートソン(カルム・マクリーン/マット・コステロ)
ミックの兄。40年前は炭鉱労働者で、ミックの妻ジェニーと不倫関係にあった。

そのほか

ベル・リッチモンド(ラキー・タクラー)
ジャーナリスト。捜査の情報を得ようと、カレンやフィルに接触する。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

1984年、不況に沈むスコットランドのイースト・ロズウェルで、資産家ブロデリック・グラントの娘カトリーナと幼い息子アダムが覆面の男に誘拐される。直後に「スコットランド無政府契約団」を名乗る犯人からの脅迫状と、拘束されたカトリーナの写真が送りつけられる。父グラントは身代金の支払いを望むが、警察は「人質交渉方針」を理由に拒否し、事件は進展を見せないまま迷宮入りしてしまう。
それから40年後の2024年、採石場で発見された男性遺体のポケットから見つかった車のキーが、カトリーナの車のものと判明する。セント・アンドルーズ警察署の警部補カレン・ピリーは、上司リースの命令で再捜査に着手する。
彼女のチームには、相棒のミント、恋人でもあるフィル、法医のリバー、新人刑事アイラが加わる。やがて遺体はグラスゴーの麻薬組織レノックスに属していたケヴィン・キャンベルと特定され、頭部を撃たれた他殺であることが明らかになる。
カレンはカトリーナ母子の誘拐にケヴィンが関与していた可能性を探り、当時の記録や聴取テープを洗い直す。カトリーナの友人ボニーは、事件直前にカトリーナが誰かに電話していたと証言していたが、その相手は不明のままだった。
調査を進める中で、ミントは母子が監禁されていた小屋を突き止める。小屋の所有者は炭鉱労働者アンディ・カーの妹アンジェラで、アンディは事件直後に失踪し、遺体が見つからぬまま死亡宣告を受けていた。アンジェラは、兄がケヴィンとつるんでいたこと、さらにケヴィンの兄ライアンから借金していたことを明かし、キャンベル兄弟が兄を殺して罪を押し付けたのではないかと疑う。
一方、アイラはカトリーナが残した絵や日記を調べ、繰り返し描かれている「同じ人物の手」に気づく。カレンはボニーから、1984年のある夜にカトリーナがクラブの用心棒の男と一緒に帰ったという記憶を引き出す。さらに防犯カメラ映像には、その男とカトリーナの姿、そして彼らを監視するアンディとケヴィンの姿が映っていた。
カレンは証人保護下にあるライアンを呼び出すため、ジャーナリストのベル・リッチモンドに情報をリークする。やがて姿を現したライアンは、誘拐の黒幕がカトリーナの恋人であった用心棒“ミック・プレンティス”であると告げる。
その後、カレンとフィルが帰宅すると室内は荒らされ、カレンが職場から持ち出していたハードドライブや資料、PCが盗まれていることが判明する。

カレンの自宅に空き巣が入り、フィルは上司への報告を提案するが、カレンはそれを制止し、自らの責任で解決すると宣言する。捜査から外される可能性を恐れたカレンは、フィルとの関係にも一線を引き、一方的に距離を置く決断を下す。
1984年、誘拐事件の捜査はグラント卿の圧力により混乱し、警察は証拠不十分で容疑者を釈放、担当捜査官も外される事態となっていた。グラント夫妻は記者会見を開いて事件を公表し、報奨金を提示して世間の注目を集めるが、真相には至らなかった。
2024年、カレンはかつての炭鉱労働者であり、カトリーナの交際相手だったミック・プランティスに注目する。ミックは、友人アンディ・カー、ケヴィン・レノックスと共に誘拐計画に関与していた疑いがあった。
ミックの妻ジェニーと兄トムへの聞き取りから、ミックが失踪後にフランスから現金を送っていたことが判明。さらに、ケヴィンが所持していた偽造旅券の出所を追っていたフィルが、服役中のレノックスの元妻ブリジットに辿り着く。
ブリジットは、ケヴィンの依頼で3人分の偽造旅券を作成したほか、アンディが「女と子ども用の旅券」を割増料金で追加依頼していたことを供述。これにより、カトリーナ母子が偽名で逃亡準備をしていた事実が明らかとなる。
小屋の現場検証では、カトリーナの指紋とケヴィンの血痕が発見される。カレンは、誘拐計画の全容を知ったケヴィンが激昂し、カトリーナを脅迫してグラント卿への暴露をほのめかしたことで、カトリーナが銃で彼を殺害したと推理する。つまり、カトリーナ自身が共謀者であり、誘拐は自作自演だったのだ。
カトリーナは父への反発から、恋人ミックとともに偽装誘拐を計画。身代金を得て息子とともに国外へ逃亡し、新しい人生を始めようとしていた。しかし、ケヴィンの殺害によって計画は狂い、ミックとアンディは遺体の後始末に追われることとなる。
カレンはこの事実をグラント卿に突きつける。彼は娘の裏切りに打ちのめされ、捜査の打ち切りを希望するが、カレンは孫アダムの安否を理由に捜査続行を宣言する。
部下のアイラがリースの指示で“スパイ”をしていることを知ったカレンは、リースに秘密をすべて告白する。規則に反して持ち帰ったPCや資料を盗まれたことや、その事実を隠ぺいしたこと、さらにフィルと交際していることも話す。リースはカレンの処分を後回しにし、事件を解決するよう命じる。
フィルの捜査により、カレンの家に空き巣に入った犯人マードックが捕まる。マードックは、グラント卿の後継者ファーガスから依頼されたと供述する。
カレンは年齢進行技術を用いてミックとアンディの現在の姿に近い似顔絵を作成し、ミントとアイラがそれをもとにフランスでの目撃情報を収集。やがて、アンディの偽名「マティアス・ジョンソン」、ミックの偽名「ダニエル・ポーテウス」、アダムと思われる「ガブリエル」の名前が浮上する。
法医のリバーは、ケヴィン殺害に使用された銃の発見場所を調査し、落石で埋もれた洞窟の中からカトリーナの白骨遺体を発見する。

カトリーナの遺体が洞窟で発見され、検視の結果、彼女は銃撃によって命を落とし、その衝撃が洞窟の崩落を引き起こしたことが判明する。
殺人の容疑をかけられたファーガスは、自身の潔白を証明するため、40年前に受け取った3通目の脅迫状の存在を初めて明かす。その脅迫状が彼の家に届いたことで、カトリーナの誘拐が自作自演であると察したグラント卿は、警察には通報せず、身代金を持って指定された場所へ向かったという。
ファーガスがカレンの自宅からPCを盗ませたのは、グラント卿の指示によるもので、捜査の進展を探るためだった。カレンはグラント卿を新たな容疑者として捜査対象に加え、ジャーナリストのベルに協力を求めて、彼とカトリーナの関係を調査させる。
ベルは1982年のキルマー油田事故に関する記事を新聞社のアーカイブから発見し、カトリーナがその記事を書いた記者と1984年に接触していたことを突き止める。
一方、ミントとアイラは偽名「マティアス・ジョンソン」で潜伏していたアンディ・カーに会うためイタリアへ向かう。アンディはがん治療中だったが、過去を問われると激しく拒絶し、病院を転院して逃亡を図る。
彼の通話記録からミックの居場所を突き止めるも、すでにマルタへ逃げていたことが判明。さらに、グラント卿が雇った探偵がミックを追っていることも明らかになる。
カレンはマルタへ渡り、ミントたちと合流。地元の女性刑事カミレリの協力を得て、ミックと息子ガブリエルを発見する。ガブリエルこそ、カトリーナの息子アダムだった。逮捕されたミックは、何も知らないガブリエルに真実を打ち明ける。
40年前、カトリーナは父グラントがファーガスを盾にして油田事故の責任を逃れていたことを知った。父がファーガスをかばう本当の理由を知った彼女は、家を捨てる覚悟を決め、偽装誘拐を計画。1984年10月12日、カトリーナとミックは身代金を受け取り、洞窟の裏口から逃げようとした。
しかし、夫を尾行した母メリーが現場に現れ、カトリーナを誘拐犯から救おうとして猟銃を発砲。誤ってカトリーナを撃ってしまう。ミックは彼女を連れて逃げようとするが、発砲の衝撃で洞窟が崩れ、カトリーナは岩の下敷きになってしまったのだった。
カレンは海外逃亡を図るグラント卿とメリーを空港で逮捕する。グラント卿は「自分が殺した」と主張するが、メリーは過去の過ちを認める。2人は、洞窟で遺体が発見されるまでカトリーナの死を知らなかったと語る。
スコットランドを訪れたガブリエルは実父ファーガスと面会し、「元の生活に戻る」と告げてマルタへ帰国。そして育ての親であるミックと抱き合う。

感想(ネタバレ有)

静かな衝撃と、心揺さぶる真実

高く評価されたシーズン1から2年。待望のシーズン2は、前作を超える余韻をもたらす作品でした。観終わった後も心に残り、何度も思い返さずにはいられない印象的なシーンがいくつもあります。

今回カレンが再捜査に挑むのは、1984年の誘拐事件。炭鉱ストライキによって社会的な緊張が高まる時代の空気が、事件の複雑さと登場人物たちの選択に影響を及ぼしていて、単なるミステリーにとどまらない重層的なドラマになっています。

捜査の過程で浮かび上がるのは、誘拐された女性カトリーナとその息子アダム、そして誘拐犯たちの関係です。彼らの人生が交錯することで、事件の構造が一層複雑に絡み合っていたことが明らかになります。

伏線の張り方と回収もみごとで、予想を裏切りながらも、物語の芯はぶれることなく進んでいきます。真相にたどり着いたときの驚きと、そこに込められた人間の悲しみや希望が、静かに胸を打ちます。

主人公カレンの変化と葛藤

シーズン2では、カレンが警部補に昇進し、再捜査チームの規模も拡大されました。組織の中での立場が変わったことで、自分の振る舞い方がわからなくなってしまうカレン。責任と権限の狭間で揺れる姿に、キャリアの転機に立つ人間のリアルな葛藤が見られました。

規則を重んじるフィルと、規則を超えてでも真実を追おうとするカレンの対比は、社会の中で男性と女性がどう評価されるかという構造的な問題を浮き彫りにしています。

男性は枠組みの中で努力すれば評価されるけれど、女性はその枠を壊すほどの成果を出さない限り、なかなか認められない。そんな不均衡な現実の中で、カレンはときに足を踏み外しながらも、冷静さと論理を武器に、着実に事件の核心へと迫っていきます。

カレンの行動には、シーズン1同様、勇気をもらえる瞬間がたくさんありました。自分の信念を貫くことの難しさと、それでもなお進み続ける強さ。彼女の姿そのものが、エールのように感じられました。

カレンとともに真実を追う仲間たち

フィルとの関係も見逃せません。シーズン1で破局したと思われた2人が、今作では互いに信頼を築き直し、成熟した関係へと変化していてびっくり。

フィルはカレンの暴走に不安を抱きつつも、リーダーとしての彼女の判断を尊重し、見守る姿勢を貫きます。特に、フィルがカレンの優秀さを率直に認め、言葉にして伝える場面は、彼自身の成長と変化を象徴するものだったと思います。

ミントとアイラの新コンビは、緊張感のある物語の中で唯一の癒しでした。ミントの幼さと純粋さ、アイラの冷静さが絶妙なバランスで、2人のやりとりには思わず笑ってしまう場面も。

上司のリースは、カレンに振り回されながらも、彼女への期待と信頼を失わず、捜査を続行させます。上司としての器の大きさを感じさせると同時に、自ら送り込んだアイラに“スパイ”をさせるなど、葛藤も見え隠れしていました。

リースが序盤に言い放った「グラント卿は手ごわい男だ」というセリフは、物語の核心に迫る伏線であり、後半の展開を予言するものでした。

グラント卿の罪の重さ

このドラマの巧妙な点は、40年前のグラント卿と現在の彼を同一人物として見てしまうことで、真実を見誤る構造になっているところです。

グラント卿の人物像は物語の展開とともに変化し、隠されていたものが徐々に見えてくる仕掛けになっています。最初は、娘と孫を失って悲しみに沈む老齢の資産家。やがて傲慢で冷徹な権力者としての側面が浮かび上がり、最後には過去の選択に苦しみ、自責の念に苛まれる父親としての姿が現れます。

「娘の叫びは聞こえていた。私への感情も理解していた。拒絶したのは父親として傷ついたからだ。私は自分の子どもに憎まれた。この傷の痛みは一生私につきまとう。これまで生きて十分に思い知った。私の業は深い」

グラント卿の罪は、派手な暴力や明確な悪意ではなく、家族や体面や自尊心を“守る”という名目のもとに積み重ねられた嘘と欺瞞でした。その罪の重さが、物語全体を通してじわじわと描かれていて、彼の行動の意味を深く考えさせられます。

組織に抗う声、社会に沈む影

この作品は、女性のリーダーシップや社会構造への挑戦を描いています。カレンが警察組織の中で孤独に戦う姿は、女性が既存の枠組みの中でどう生きるかを問いかけてきます。

イタリアで出会った女性刑事カミレリとの協力関係は、国境を越えたシスターフッドを感じさせるものでした。辞職を考えながらも、ただ「悔しい」だけではこの仕事を手放せない。女性たちが共有する葛藤と誇りが、さりげなく描かれたシーンでもありました。

また、物語の背景にある1984年の炭鉱ストライキは、労働者の搾取や階級構造の問題を浮き彫りにします。仕事を失ったミックやアンディが犯罪に手を染めていく過程には、個人の選択では済まされない社会の不条理が見え隠れしています。

1984年の時代背景を理解するうえでは、2022年の英国ドラマ「刑事シンクレア シャーウッドの事件」を観ていたことが大きな助けになりました。あの作品もまた、炭鉱ストライキと階級闘争を描いた秀作であり、同じ時代の空気を共有しているからこそ、本作の描写がより深く胸に迫ってきたのだと思います。

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耳をふさぎたくなる真実の先に

事件の真相が明かされると同時に、親子の断絶という深いテーマが浮かび上がってきます。

カトリーナは、父グラントへの根深い不信感から家を離れ、自分の人生を取り戻そうとします。その決意は、恋人ミックとの偽装誘拐という危険な計画にまで発展し、父から身代金を奪って国外へ逃げるという大胆な行動に繋がっていきました。

しかし、娘の真意を理解できなかった母メリーの誤射によって、カトリーナは命を落とします。家族の間にあったすれ違いと対話の断絶が、取り返しのつかない結果を招いてしまったのです。

「このような事件を解決しても祝う気にはなれない。でもよかった。真実を見つけるのが私の仕事だ。安らぎをもたらせたらと思う。でも時々、耳をふさぎたくなる真実もある。人は見かけによらないし、物語の型にはまらない被害者もいる」

カレンが辿りついた真実は、深い傷を残すものでした。けれども、カトリーナを失ったミックが彼女の遺児アダム(ガブリエル)に深い愛情を注ぎ、遠い地で親子としての絆を築いていたことに救われます。

それは血の繋がりを超えた家族の在り方を示していて、グラント家の悲劇的な崩壊と対照的に描かれることで、よりいっそう胸に迫ってきます。2人が抱き合うラストシーンは、失われたものの大きさを思い知らされると同時に、再生の可能性を感じさせるものでした。

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