「犬神家の一族」原作あらすじと感想|スケキヨマスクと逆さ死体の真相

横溝正史「犬神家の一族」

どうも、夏蜜柑です。
横溝正史の「犬神家の一族」を読みました。

「犬神家の一族」と言えば、「水面からニョッキリ出た足」と「白いゴムマスク」。
その不気味な絵が与える衝撃が強すぎて、それ以外を思い出せないくらいです。

これ、1976年(昭和51年)に公開された市川崑監督・石坂浩二さん主演の映画で植え付けられたイメージなんですよね(実は原作とは、微妙に違っています)

それ以降も何度も映像化されているので、物語のあらすじは知っているものの、原作は一度も読んだことがありませんでした。

面白かったです。

前回読んだ「悪魔が来りて笛を吹く」もあっという間に読み終えたけど、これも夢中で読んでしまいました。

以下、事件の経過を追いながら物語を紐解いていきたいと思います。
最後に事件の真相をまとめていますが、その都度〈ネタバレ〉も追記しています。

※引用文はすべて横溝正史著『犬神家の一族』(角川文庫)より引用しています

登場人物

金田一耕助(きんだいちこうすけ)
私立探偵。年齢は35、6歳。もじゃもじゃ頭で風采のあがらぬ小柄な人物。よれよれの袴に型の崩れたお釜帽がトレードマーク。興奮するとどもりがひどくなり、もじゃもじゃ頭をかき回す。東北生まれでスキーが得意。
若林豊一郎なる人物から犬神家の遺産相続に関する調査依頼を受け、信州那須湖畔にある那須ホテルにやってくる。

野々宮珠世(ののみやたまよ)
犬神佐兵衛の恩人・野々宮大弐の孫。絶世の美女で、金田一いわく「この世のものとは思えない戦慄的な美しさ」。聡明で勘が鋭く、時に狡猾でもある。
二十歳になる前に両親を亡くし、犬神家に引き取られる。恩人の忘れ形見として特別待遇を受けていたが、佐兵衛の死後、何者かに3度も命を狙われ、そのたびに猿蔵に助けられている。
佐兵衛の遺言により、犬神家の全財産をを意味する「斧、琴、菊」の三種の神器を受け取ることとなる。子供の頃からひそかに佐清を慕っており、復員した仮面の男の正体に疑念を抱く。

犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)
信州財界の巨頭・犬神財閥の創始者。放浪の孤児だったが17歳の時に信州那須湖畔に流れ着き、那須神社の神官である野々宮大弐に拾われる。
生涯正妻を娶らず、3人の妾を邸内の各離れに住まわせた。母がそれぞれ異なる娘・松子、竹子、梅子には愛情を与えず、野々宮大弐の孫である珠世を溺愛した。81年の生涯を閉じ、呪いと悪意に満ちた遺言状を残す。

犬神松子(いぬがみまつこ)
佐兵衛の長女。夫は亡くなり、一人息子の佐清も戦争にとられ孤独な境遇にあるが、常に気丈で凜としている。顔に怪我を負って復員した佐清に、もとの顔とそっくりなゴム製の仮面を作って被らせる。復員した佐清をわが子と信じて疑わなかったが、次第に疑いを持つようになる。

犬神竹子(いぬがみたけこ)
佐兵衛の次女。小太り。息子の佐武が珠世と結婚して犬神家の財産を受け取ることを望んでいる。

犬神梅子(いぬがみうめこ)
佐兵衛の三女。三姉妹の中では一番底意地が悪い。息子の佐智が竹子の娘・小夜子と結婚することを望んでいたが、遺言状が発表されたとたん掌を返し、小夜子に冷たく当たるようになる。

犬神佐清(いぬがみすけきよ)
長女松子の一人息子。佐兵衛の血を受け継ぐたぐいまれな美貌の持ち主だが、ビルマ戦線で顔に大怪我を負って復員する。松子が迎えに行った際、東京でゴム製の仮面を作らせ、仮面姿で犬神家に戻ってくる。犬神家の本邸に入って以来、奥の離れにある部屋にこもってほとんど出てこない。

犬神佐武(いぬがみすけたけ)
次女竹子の息子。小太りで四角い体つき。人を人とも思わぬ尊大な面構えをしており、傲岸不遜で態度が大きい。遺言状が発表されると、犬神家の財産を手に入れるため、これまで歯牙にも掛けなかった珠世に急接近する。

犬神佐智(いぬがみすけとも)
三女梅子の息子。ほっそりとした華奢な体型。小心者だが軽薄才子。常にせわしなく眼を動かし、狡猾そうな印象を与える。遺言状が発表されたとたん、見苦しいほど珠世に尻尾を振り始める。

犬神小夜子(いぬがみさよこ)
次女竹子の娘。美人だが珠世ほどではない。子供の頃から佐智を慕っており、佐智の両親の応援もあって恋仲になるが、遺言状の発表により状況が一変。佐智とその両親が珠世に目を向けるようになり、不安に陥る。実は佐智の子を身ごもっている。

犬神寅之助(いぬがみとらのすけ)
次女竹子の夫。犬神製糸会社東京支店の支配人。

犬神幸吉(いぬがみこうきち)
三女梅子の夫。犬神製糸会社神戸支店の支配人。

猿蔵(さるぞう)
珠世の身辺の世話をしている男。本名は別にあるが、猿にそっくりな顔をしているため、幼いころから「猿」と呼ばれて本名のようになった。粗野で思慮に足りないところがあるが珠世に対しては誠実に尽くす。菊作りの名人でもある。
以前犬神家の本邸があった豊畑村の生まれで、5歳のときに両親が亡くなり、珠世の母・祝子に引き取られ珠世と共に育てられた。珠世が犬神家に引き取られたとき、共についてきた。
佐兵衛から珠世を頼まれたこともあり、護衛も務めている。力が強く、岩のように逞しい体で何度も珠世を救っている。

古館恭三(ふるだてきょうぞう)
犬神家の顧問弁護士。古館法律事務所の所長。佐兵衛より遺言状の管理を任され、佐清が復員するまで金庫で保管していた。殺された若林が金田一に手紙を送っていたことを知り、金田一に会いにくる。金田一が信頼できる人物だとわかり、遺言状の発表に同席してほしいと願い出る。

若林豊一郎(わかばやしとよいちろう)
古館法律事務所に勤務する男。金田一に手紙を送り、犬神家の遺産相続問題について調査を依頼しようとするが、金田一と会う前に毒殺される。
犬神家の誰かに買収されて、遺言状の金庫を開けたと思われる。密かに珠世に想いを寄せており、珠世の身を案じていたらしい。

野々宮大弐(ののみやだいに)
那須神社の神官。犬神佐兵衛の恩人で、珠世の祖父。佐兵衛が17歳のときに那須神社で行き倒れているところを保護し、養育した。美少年だった佐兵衛との間に衆道の契り(男色関係)があったらしいことは地元では有名。「斧、琴、菊」の三種の神器を作り、後に佐兵衛に贈った。

野々宮晴世(ののみやはるよ)
大弐の妻で、珠世の祖母。故人。神のように優しく、美しい女性。夫の大弐より20歳年下。一時期実家に帰っていたのは、大弐が佐兵衛を寵愛するあまり妻を顧みなかったためと伝えられている。

野々宮祝子(ののみやのりこ)
野々宮夫妻の娘で、珠世の実母。故人。大弐の死後まもなく、佐兵衛の斡旋で婿養子を迎え珠世をもうけるが、珠世が二十歳になる前に亡くなった。豊畑村で孤児だった猿蔵を引き取り、珠世と共に育てた。

青沼菊乃(あおぬまきくの)
佐兵衛が50歳を過ぎて恋に落ちた愛人で、当時18、9歳の若い女工だった。佐兵衛は彼女に家を与えて住まわせていたが、徐々に入り浸るようになり、松子、竹子、梅子の怒りを買う。
佐兵衛との間に息子・静馬をもうけるが、松子らのいじめに耐えかね姿を消した。以来、消息不明となっている。

青沼静馬(あおぬましずま)
菊乃と佐兵衛の息子。消息不明。菊乃が富山に移った後、親戚に養子に出されている。戸籍名は津田静馬。年齢は佐清と同じ。佐兵衛は遺言状の中で、静馬の捜索を命じている。

宮川香琴(みやがわこうきん)
犬神家に出入りする松子の琴の師匠。目が不自由。実は行方不明になっていた青沼菊乃。

大山泰輔(おおやまたいすけ)
那須神社の神主。好奇心旺盛で慎みに欠けるところがある。佐清が出征前に奉納した手形を保管していたことから、犬神家の相続問題に関わるようになる。
神社の宝蔵の中から大弐と佐兵衛が封印した唐櫃を発見し、野々宮夫妻と佐兵衛との間に繰り広げられた異常な性生活を白日の下にさらすこととなる。

相関図

「犬神家の一族」相関図(ネタバレ有)

あらすじ(ネタバレ有)

犬神佐兵衛という人物

昭和2X年2月18日、犬神財閥の創始者、犬神佐兵衛(81)が亡くなります。

生前、佐兵衛は3人の妾を邸内の離れに住まわせ、それぞれに松子、竹子、梅子を産ませました。彼はどういうわけか3人の妾たちを冷酷に扱い、その娘たちにも終生愛情を与えようとはしませんでした。

なぜ、佐兵衛は妾と娘たちを冷酷に扱ったのか?

彼がとったこの行動こそが、惨劇を招く要因になったとも言えます。

孤児だった佐兵衛が信州那須湖畔に流れ着いたのは、17歳のとき。
空腹のあまり行き倒れていたところを、那須神社の神主・野々宮大弐に拾われます。

大弐は美少年だった佐兵衛と衆道の契りを結んで寵愛し、佐兵衛は生涯その恩を忘れませんでした。

大弐の妻・晴世は祝子という娘を産み、祝子は珠世を産みます。
その後、大弐も晴世も祝子も亡くなり、天涯孤独になった珠世は犬神家に引き取られます。

3人の娘を愛せなかった佐兵衛が、珠世を溺愛したのです。

佐兵衛は生前、顧問弁護士に遺言状を預けていました。しかし遺言状は、佐兵衛の意思により、松子の一人息子・佐清(すけきよ)が戦地から戻ったときに開封・発表されることになっていました。

犬神家の莫大な遺産は、どのように分配されるのか……誰もが佐清の復員を待ちわびていました。

佐兵衛と野々宮大弐の妻・晴世は姦通していました。佐兵衛は晴世を愛し、彼女との間にできた娘・祝子とその子・珠世を寵愛しました。
佐兵衛が3人の妾たちを道具扱いしていたのは、晴世への愛を貫くため。妾たちに愛情を抱いてしまうことを恐れ、人間扱いしないようにしたのです。

金田一耕助の登場〈第1の殺人〉

10月18日、金田一耕助が那須ホテルにやってきます。
佐兵衛の死から8か月後のことです。

彼は、古館法律事務所に勤める若林豊一郎という男から手紙をもらったのです。
犬神家の一族に、容易ならぬ事態が起こる気がする――いや、既に起こりつつあると。

その金田一の目の前で、野々宮珠世が乗ったボートが沈み、珠世が誰かに命を狙われていることを知ります。

この珠世という女性、金田一の言葉を借りると「美人もここまでくるとかえって恐ろしい。戦慄的である」「あの後光のさすような、神々しいばかりの美しさ」という、並外れた美貌の持ち主です。

金田一がホテルに戻ってみると、若林が何者かに毒殺されていました。

古館弁護士事務所の所長・古館恭三は、犬神家の顧問弁護士でした。

若林は、誰かに買収されて遺言状の金庫を開け、その人物に遺言状を読ませたのではないか。その結果、珠世が命を狙われることになり、金田一に相談しようとしたのではないか、と古館は推測します。

若林を殺したのは松子です。松子は若林に遺言状のうつしを取らせ、その内容を知ると、珠世を殺すため様々な工作をしました。
そのことに感づいた若林は金田一に相談しようと手紙を送ったのです。若林が疑いを抱いていることを知った松子は、彼のたばこに毒を仕込んで殺しました。

遺言状の内容

松子の息子・佐清がビルマから復員します。

佐清は戦地で顔に大怪我を負い、見る影もなくなっていました。
博多まで迎えにいった松子は、東京で佐清の顔そっくりのゴム製の仮面を作ります。

11月1日の朝、佐清は不気味な仮面姿で一同の前に現れます。

それはなんという奇妙な顔であったろうか。顔全体の表情が、凍りついたように動かない。不吉なたとえだが、その顔は死んでいた。生気というものがまったくなかった。全然血の気の通わぬ顔だった。

本当にこの男が佐清なのかどうか判らぬまま、古館は一同が揃う前で遺言状を読み上げます。

犬神家の家宝である斧、琴、菊(全財産と全事業の相続権を意味する)は、次の条件のもとに野々宮珠世に譲られる

  1. 野々宮珠世は佐清、佐武、佐智の中から配偶者を選ぶこと(3か月以内)
  2. 佐清、佐武、佐智が珠代との結婚を拒否、あるいは3人とも死亡した場合、珠世は誰と結婚してもよい
  3. 珠世が3か月以内に死んだ場合、犬神家の全財産は5等分され、5分の1ずつを佐清、佐武、佐智に与え、残りの5分の2は青山菊乃の息子・静馬に与える
  4. 珠世が3か月以内に死亡し、佐清、佐武、佐智のいずれかが死亡した場合、その分与額は青沼静馬にいくものとし、3人とも死んだ場合は犬神家の全事業、全財産は静馬が享受する

佐兵衛は遺言状の中ですらも、松子、竹子、梅子という3人の娘を無視し、黙殺したのです。

仮面の男は佐清ではなく静馬です。佐清と静馬は戦地で出会い、お互いの顔がそっくりだということを知っていました。静馬はそれを利用して佐清になりすまそうとしたんですね。
佐兵衛が珠世と静馬を特別扱いしているのは、心から愛した女性の血を彼らが受け継いでいること、にも関わらず、血縁関係を公にできず日陰の身を強いてきたことへの贖罪の意味もあったと思われます。

青沼菊乃と青沼静馬

遺言状に出てきた青沼菊乃、青沼静馬とは誰なのか。

青沼菊乃は、佐兵衛が五十を過ぎて恋に落ちた相手です。

佐兵衛は彼女を心から愛し、静馬という息子を授かりました。
しかしそのことが面白くない松子、竹子、梅子は菊乃をいじめて追い出し、親子は消息不明になっていました。

遺言状の中で、佐兵衛は静馬の行方を探すように書き記しています。

青沼菊乃は松子の琴の師匠・宮川香琴として、静馬は仮面の男として、偶然ふたりとも犬神家に入り込んでいます。菊乃は目が悪いため仮面の男が息子だと気づいていませんが、静馬のほうは母だと知りながら名乗り出せずにいます。

斧、琴、菊

犬神家の家宝である「斧、琴、菊」の三種の神器。
もともとは佐兵衛の恩人である野々宮大弐が考えた守り言葉でした。

斧(よき)琴(こと)菊(きく)で、「よきこと聞く」を表します。

大弐はこの言葉を表す黄金製の三種の神器を作り、那須神社の神器としました。
その後、佐兵衛が事業を始めたときに、前途を祝す意味で守り言葉と共に神器を贈ったのです。

この神器そのものは金メッキで、大した価値はありません。

問題は、神器に〈犬神家の相続権〉という意味が付随していることです。

遺言では、珠世が神器を受け取ることになっています。

30年前、佐兵衛は三種の神器をひそかに青沼菊乃に贈り、怒り狂った松子ら三姉妹が菊乃を襲撃して神器を奪い返すという出来事がありました。このとき、菊乃は三姉妹に呪いの言葉を吐いています。

犬神佐武、殺害される〈第2の殺人〉

11月16日の朝、竹子の息子・佐武(すけたけ)の生首が猿蔵によって発見されます。

菊人形の首が、佐武の生首にすげ替えられていたのです。

猿蔵はボートが一艘なくなっており、水門が開いていたことを証言します(その後、観音岬のそばで胴体を運んだ血まみれのボートが見つかり、胴体も見つかります)。

このとき、珠世は昨夜(11月15日の夜)、佐武と展望台で会っていたことを告白しています。

佐清の正体を疑っていた珠世は、佐清の指紋がついた時計を佐武に渡し、調べてみたらどうかと提案したのです。

実はこの時計には、佐清との思い出が詰まっていました。
時計について語る珠世の様子から、彼女が佐清に恋心を抱いていることがわかります。

その後、佐武が珠世に襲いかかったところで猿蔵が助けに入り、2人は佐武を置いて展望台を後にしたのでした。

佐武を殺したのは松子です。その後、松子の犯行を偶然目撃した佐清と静馬が共謀して隠蔽工作を図りました。
首を切り離して菊人形にすげ替え、胴体をボートで運んで湖に沈めたのは、犯人を男だと思わせるためでした(静馬の思いつき)。
佐武が珠世から渡された時計は、松子が持っています。

柏屋に現れた復員姿の男

佐武の胴体が見つかった場所のそばに「柏屋」という旅館があり、主人の志摩久平は、その日復員姿の怪しい客が泊まっていたことを証言します。

その男は軍服を着て兵隊靴を履き、戦闘帽と襟巻きで顔を隠していました。

山田三平と名乗る男が「柏屋」にやってきたのは、11月15日の20時頃。
男は22時頃外出し、0時頃に戻ってきたと言います。

翌朝5時頃に男が出発した後、男が泊まっていた部屋には「復員援護 博多友愛会」と染め出された、血のついた手ぬぐいが残っていました。

金田一は、わざと血のついた手ぬぐいを残していったのではないか、と推測します。

ボートで胴体を運び出したのも、血まみれのボートを柏屋のそばに乗り捨てたのも、犯人は外にいると思わせるためではないか、と。

つまり「犯人は家の中にいる」と金田一は考えたのです。

「柏屋」にやってきた兵隊服の男は佐清(本物)です。佐清は静馬が自分の名を名乗って犬神家に入り込んでいることを新聞で知り、静馬を説得しに来たのです。
しかし松子が佐武を殺す現場を目撃するという予想外な出来事に遭遇したため、静馬の説得に失敗。以降、佐清は静馬に脅迫され、従わざるを得なくなります。
2人は1日だけ入れ替わり(手形を取るため)、静馬は「柏屋」に戻ってきたフリをして、血のついた手ぬぐいをわざと残し(捜査を攪乱するため)、立ち去りました。

佐清の手形が一致する

那須神社には、佐清が出征する前に手形を押して奉納した巻き物が残っていました。

佐清に手形を押させ、巻き物の指紋と一致するかどうか鑑識で調べた結果、手形は同一人物のものだという結果が出ます。

手形が一致したことで、仮面の男=佐清であることが、科学的に証明されたのです。

しかしここにはあるトリックがあり、金田一はこのトリックにまんまとハマってしまったために、第3の殺人、第4の殺人を許すことになるのです。

11月16日の夜、佐武の通夜が営まれました。

通夜のあと、珠世は寝室に潜んでいた兵隊服の男と鉢合わせます。
男は猿蔵ともみ合いになるも外へ飛び出し、展望台で佐清を殴って逃亡しました。

そのとき、佐清の顔から仮面が外れ、無残な顔がさらされます。

珠世はハッキリと佐清の顔を見ることができたのです。

15日夜の段階で静馬と佐清は入れ替わっているので、16日に手形を取ったのは佐清(本物)です。
16日夜、静馬は屋敷に忍び込み、珠世の部屋から指紋のついた時計を盗もうとしますが見つからず、何も盗らずに逃げ出します。
その後、静馬は佐清と入れ替わりますが、その際わざと殴らせて仮面を外して顔をさらし、仮面の中身が入れ替わっていないことを珠世たちに見せたのです。しかし静馬の顔を見た珠世は、彼が佐清ではないことを確信したと思われます。

犬神佐智、殺害される〈第3の殺人〉

11月25日、佐智はボートで湖に出た珠世を拉致します。
力ずくで自分のものにしようと、クロロフォルムで眠らせて豊畑村の空き家に運びます。

翌朝、珠世が目を覚ますと自室にいました。

〈影の人〉と名乗る人物が残したメモと、猿蔵から聞いた話で、自分の純潔が守られたことを知ります。

猿蔵は〈影の人〉から連絡を受け、空き家に珠世を迎えに行ったのです。
そのとき佐智は縛り付けられて動けない状態でしたが、猿蔵は佐智を放置して帰ってきたのでした。

金田一らが空き家に行ってみると、佐智は琴の糸を首に巻きつけられて死んでいました。

佐武は「菊」人形、佐智は「琴」の糸。
金田一は「斧、琴、菊」の菊と琴に見立てた殺人ではないかと考えます。

そのことを聞いた松子、竹子、梅子の3人は動揺します。

珠世を助けた〈影の人〉は佐清です。帰る家がない佐清は空き家をねぐらにしていたのですが、そこへたまたま佐智が珠世を運びこんだため、佐智を縛りつけて猿蔵に連絡したのです。
しかし、猿蔵は佐智を放置して帰り、佐智は自力で縄をほどいて脱出。夜になって屋敷に戻ってきたところを、松子に殺されました。
またもや母の殺人現場を偶然目撃してしまった佐清は、静馬に命じられるがまま佐智の死体を空き家に戻し、琴の糸を巻きつけて隠蔽工作を行いました。絶望した佐清は那須を離れる決意をし、東京へ向かいます。

三姉妹の秘密

松子、竹子、梅子の3人には、決して誰にも話すまいと誓った秘密がありました。

30年前のことです。
佐兵衛は50過ぎにして、当時18、9だった青沼菊乃にのぼせ上がり、世間の評判になっていました。

そのうちに菊乃が子を宿し、佐兵衛が菊乃を正妻として犬神家に迎え入れ、その代わり3人を追い出してしまうつもりらしいという噂が出回ります。

生涯父から道具として扱われた母の恨みと怒りを受け継いでいた3人は、菊乃が正妻になることも、菊乃の子供に全財産をとられることも、到底許せませんでした。

「亡父が私どもを育てあげたのは、犬や猫の子とちがって、まさか捨てるわけにも、ひねりつぶすわけにもいかなかった。ただそれだけの理由からでございましょう。亡父はいやいやながら私どもを育てたのです。亡父は私どもに対して、微塵も親らしい愛情はもっていなかった。しかもいまや亡父は、どこの馬の骨とも牛の骨ともわからぬような、小便くさい娘の愛におぼれて、私どもを追い出して、その娘をこの家へひっぱりこもうとしている。しかも正妻として。……私の怒りが爆発したのも無理はございますまい」

3人は妾宅へおしかけ、佐兵衛と菊乃を激しく罵り、菊乃は恐れをなして姿を消しました。
喜んだのもつかの間、佐兵衛が菊乃に三種の神器を渡していたことが判明します。

怒り狂った3人は菊乃を見つけ出し、産まれたばかりの赤ん坊に火箸を押し当て、菊乃を上半身裸にして竹ぼうきで何度もぶち、水をかぶせました。さらに菊乃から三種の神器を奪い、「この子は犬神佐兵衛の子ではありません」と一筆書かせました。

泣き崩れていた菊乃は、最後に「いつまでもおまえたちに、よきことばかりは聞かしておかぬ。いまにその斧、琴、菊がおまえたちの身にむくいてくるのじゃ」と呪いの言葉を吐きました。

古館弁護士が調べたところ、菊乃は野々宮大弐の妻・晴世のいとこの子供でした。
3人の脅迫に怯えた菊乃は、その後富山の親戚を頼り、菊乃の息子・静馬は親戚の籍に入っていました。

菊乃の行方はわからず、静馬も消息不明でした。

佐兵衛の秘密

那須神社の神主・大山泰輔は、宝蔵の中から封印された唐櫃を見つけます。
その中には、手紙や日記、覚え帳のほか、佐兵衛と野々宮大弐の間で交わされた艶書が保管されていました。

それらの文書から、珠世が佐兵衛の実の孫だということが判明します。
大弐と晴世の娘・祝子(珠世の母)は、佐兵衛と晴世の間に生まれた子供だったのです。

男色だった大弐は男を知らない晴世を不憫に思い、佐兵衛と関係を持つことを許しました。
晴世は名目上は大弐の妻でありながら、事実上は佐兵衛の妻でした。

佐兵衛が生涯正妻を迎えなかった理由は、晴世に義理立てしたためだったのです。

3人の妾とその娘を冷遇したのも、晴世以外の女性に愛情を持つことを恐れ、警戒したためでした。

逆さの死体が意味するもの〈第4の殺人〉

12月13日の朝、氷の張った湖で、逆さに立てられた死体が発見されます。

映画などで有名になったあのシーンですね。

死体の顔は崩れており、殺されたのは佐清だと誰もが思いました。
しかし珠世は、解剖する前に指紋をとってほしいと願い出ます。

ところで、死体のどこからも「斧」は見つかりません。
佐武は「菊」、佐智は「琴」、残るは「斧」のはずです。

金田一は、死体が逆立ちしていることから、佐清の名前を逆さにして「ヨキスケ」とし、その半分が水中に埋没していたため「ヨキ」(斧)だと言い当てます。

その夜、松子の琴の師匠・宮川香琴が犬神家を訪ねてきます。
彼女の正体は、青山菊乃でした。

菊乃は正体を隠したまま松子に琴を教えていましたが、こうなっては自分が犯人だと疑われる、と思い、正体を明かすことにしたのです。

そして菊乃は、息子の静馬の顔が、佐清とそっくりだということを初めて明かします。

逆さの死体は佐清ではなく静馬です。殺したのは松子で、息子だと思っていた男が静馬だとわかり、逆上したのです。
静馬が自ら正体を明かしたのは、珠世が自分の姪にあたるとわかり、結婚に躊躇したためでした。
松子は1時間以上かけて死体を「斧」に見立てる方法をひねり出し、実行しました(その時点では氷は厚くなかった)。

死体は佐清ではない

指紋を調べた結果、逆さの死体の指紋は、前回とった佐清の指紋(および巻き物の指紋)とは一致しないことが判明します。では、死んだのはいったい誰なのか。

12月14日、ついに本物の佐清が姿を現します。
佐清は珠世の首を絞めて殺そうとした後、雪ヶ峰へ逃げ込み、警察に捕まります。

佐清は「わが告白」という走り書きを上着の内ポケットに忍ばせていました。

犬神家における連続殺人事件の犯人は、すべて私、犬神佐清である。私以外の何人も、この事件には関係がない。自決の直前に当たってこのことを告白す。

しかし金田一は、「彼は犯人ではない」と言います。

珠世を殺すフリをして逃げたのも、雪ヶ峰に逃げ込んで派手な捕り物劇を演じたのも、すべてこの告白文の効果を強めるため。世間の注目を引くためでした。

佐清は、母・松子を庇って、自分が犯人になり代わろうとしたのです。

犬神家一族が集まる奥座敷に、佐清が警察に連行されてやってきます。
金田一は佐清が犯人ではないことを証明し、佐清に真実を話すよう促します。

事件の真相1(佐清の話)

11月12日、佐清はわけあって「山田三平」という名前で復員しました。

博多に着いた佐清は、新聞で犬神佐兵衛の遺言が発表されたことを知ります。
さらに、誰かが自分の名前をかたり、佐清になりすましていることも。

このとき、佐清は静馬だとすぐにピンときました。

なぜなら2人は戦地で偶然出会い、お互いの顔が似ていることを知っていたからです。

母親同士の因縁を知りながらも、2人は過去を水に流し、戦地で語り合いました。
だから佐清は静馬を糾弾しようとはせず、誰にも知られぬうちに静馬に会って説得しようとしたのです。

11月15日、佐清は顔を隠して「柏屋」に泊まり、その夜、静馬に会いに行きました。
展望台の下のボートハウスで2人が今後のことを相談しているとき、偶然〈第2の殺人〉が起こります。

松子が展望台に現れ、佐武を殺してしまうのです。

これを見た静馬は、態度を一変させます。

自分が佐清として犬神家の財産を手に入れると言い、身を引かなければ松子が殺人犯であることを告発する、と佐清を脅迫したのです。佐清は承諾するしかありませんでした。

「なにをいわれても私はもう唯々諾々でした。私は悪酒に酔ったような気持ちで、ただ、命これに従うのみだったのです。すると静馬君は展望台をおりていって、どっからか日本刀を持ってきました。ぼくがびっくりして、なにをするのかと聞きますと、これもみんなおまえのおふくろを救うためだ。犯行が残虐であればあるだけ、女に疑いはかからぬと……」

佐武の首を切り離したのは静馬で、そうすることで犯人は女ではない思わせようとしたのです。その後、手形を押すため佐清と静馬は一日だけ入れ替わり、金田一らの目を欺きました。

しかし珠世だけは、仮面の男が佐清ではないことに気づいていたんですね。
なので手形が一致したときには、不思議でしょうがなかったのです。

11月25日に佐智が殺された日も、同じでした。
佐清と静馬は偶然、松子が佐智を殺す場面を目撃してしまったのです。

佐清は静馬に命じられ、隠蔽工作をしました。
そして那須を離れる決意をし、東京へ立ったのです。

しかし新聞で静馬が殺された(逆さの死体が発見された)ことを知った佐清は、このままでは松子が疑われると思い、自分が罪を被ろうと東京から戻ってきたのでした。

佐清が復員時に「山田三平」と名乗っていたのは、ビルマで捕虜になったときに家名に泥を塗ることを恥じ、とっさに偽名を使ったからでした。佐清は前線で指揮を誤り、部隊を全滅させてしまったのです。
静馬は佐清の部隊が全滅したことを知っていたので、佐清が死んだと思い、自分が佐清の代わりに犬神家に入り込もうとしたのです。

事件の真相2(松子の話)

松子は昔面倒を見ていた若林豊一郎に命じて遺言状の写しを取らせていました。
なので、彼女は発表前に遺言の内容を知っていたのです。

松子は犬神家の財産を独り占めする珠世へ憎しみと怒りをたぎらせ、珠世を殺そうとしました。ボートに細工して溺れ死にさせようとしたのも彼女でした。

若林はこのことに感づき、松子に疑いを持ち始め、金田一に相談の手紙を送ったのです。若林に疑われていることを察した松子は、毒入りのたばこを仕込んで若林を毒殺しました。

佐清を迎えに行く途中、松子の考えが変わります。

珠世を殺せば、静馬に分け前を与えることになってしまう。
静馬に財産を渡さないためには、珠世を生かすほかない、と。

彼女は珠世が佐清を慕っていることを知っていたので、必ず佐清が選ばれると確信していました。しかし、復員した佐清を見たとたん、その希望は打ち砕かれます。

この佐清の顔では珠世の愛を勝ち取ることはできない。

そう思った松子は、佐清そっくりのゴムマスクを作らせました。かつての佐清の面影を、珠世に思い出してもらいたかったからです。

「しかし、その苦心も水の泡。珠世さんがあれをきらっていることは、どんなにヒイキ目に見てもハッキリわかっておりました。いま聞けば珠世さんは、あれをにせものと感づいて、きらっていたそうですが、どうしてわたしにそれがわかりましょう。そこでわたしは考えました。これでは珠世さんにあれを選ばせることはむずかしい。佐武と佐智に死んでもらわないかぎりは……」

すべてはわが子・佐清のためでした。

彼女ははなから犯行を偽装する気はなく、捕まって死刑になることを覚悟していました。

12月12日、静馬は悩み抜いた末に松子に正体を明かし、珠世とは結婚できないと言います。
珠世が自分の姪であることが、大山神主によって明らかになったからです。

仮面の男の正体が静馬だと知った松子は、逆上して静馬を殺します。
そして本物の佐清に会うため、死体に工夫をし、犯行を隠蔽したのです。

物語の終わり

罪を告白した松子は、佐清が罪を償って出てくるまで待ってくれるかと珠世に問います。

「あなたは佐清が牢から出てくるまで待ってくれるわね」
珠世はさっと蝋のように青ざめたが、やがてその顔に、ぽっと血の気がのぼってくると、瞳がうるんでキラキラ輝いた。彼女は決意にみちた声で、なんのためらいもなく、キッパリといいきった。
「お待ちしますわ。十年でも、二十年でも……佐清さんさえお望みなら……」
「珠世ちゃん、すまない」

三種の神器は珠世に贈られ、珠世はそれを佐清に贈りました。

松子は、毒を仕込んだたばこを吸って自死しました。

死ぬ直前、松子は竹子の娘・小夜子が身ごもった子供に言及し、「財産を半分分けてやってほしい」「器量のある男の子だったら犬神家の事業にも参画させてやってほしい」と珠世に頼んでいます。

感想

映画と原作の違い

なんと言ってもスケキヨですよね、スケキヨ。
いちど聞いたら忘れられないこの名前と白いゴムマスク。そして水面から出た足。

この作品を読んだことがない(見たことがない)人でも、1976年公開の映画「犬神家の一族」によって植え付けられたこれらのイメージだけは知っているんじゃないでしょうか。

未だにあのシーンがお笑いのネタになったり、パロディが作られたりしているのは、それだけ多くの話題となり、記憶に残ったからでしょう。

わたしは幼かったので知りませんでしたが、映画が公開されてからしばらくプールで逆さまになって足を突き出すのがブームになったそうです。プールに行くと、「犬神家禁止」という貼り紙があったとか。

参考 日本映画に革命を起こした『犬神家の一族』はここがスゴかった現代ビジネス

しかし、原作を読んでみると映画とは少し違っているんですよね。

スケキヨのゴムマスクは、映画では頭からすっぽり被るタイプの白いゴムマスクですが、原作ではもとのスケキヨの顔そっくりの仮面、とあります。実は、これには意味があって。

「あれを昔の佐清の顔にそっくりにせて作らせたのは、それによって少しでも珠世さんに昔のことを思い出していただき、愛情をもってもらおうと考えたからなのです」

スケキヨの母・松子は、珠世がスケキヨに好意以上のものを抱いていることを知っていました。
珠世の心が離れないように、考えに考え抜いた末にひねりだしたアイデアだったのです。

湖面から突き出た足は、映画では裸の足でしたが、原作ではパジャマを着ています。
さらに、原作ではへそから上の上半身が氷の中に埋まった状態で発見されます。

ほかにも細かいことを言えばきりがないのですが、わたしは思っていたよりも原作に忠実に作られているなぁと思いました。いずれにしても、映画、原作ともに名作であることは間違いありません。

時代設定の矛盾

この物語の時代設定は昭和2X年と曖昧になっていますが、登場人物の年齢などから昭和24年であることがわかります。しかしそうすると矛盾が生じてしまうんですね。

昭和22年施行の日本国憲法の下で改正された民法の遺留分制度によると、松子、竹子、梅子はそれぞれ相続財産の6分の1を必ず取得できることになっているからです。

そのため映画などでは、時代設定を昭和22年とすることが多いようですね。

個人的にびっくりしたのは、犬神佐兵衛の愛人のことを「側室」と表現し、妻のことを「正室」と表現していること。

「正室」「側室」なんて言葉は、時代劇のお殿様にしか使わない言葉だと思っていたけれど、昭和20年代でそういう言葉を普通に使ってたんですねぇ……。

松子が望んだ父の愛情

原作を読むと、遺産欲しさに殺人を犯す冷酷非情な人間と思われた松子にも、同情する点があることがわかります。

犬神家の長女として、何の不自由もなく生きてきた彼女が本当に求めていたのは、父・佐兵衛の愛情だったのではないでしょうか。

自分には与えられなかった愛情を、彼女はわが子・佐清に与えようとしたのかもしれません。その方法は間違っていたけれど。

この悲劇の元凶は、どう考えても犬神佐兵衛ですね。
晴世に義理立てするなら、生涯女を断てばよかったんです。

それができないなら(実際できないから次々と妾を囲ってたんだろうけど)、妾だろうがなんだろうが惜しみなく愛情を与えればいいじゃないですか。減るもんじゃなし。

佐兵衛の歪んだ愛情が、この惨劇を引き起こしたとしか思えません。

しかし佐兵衛自身もまた、歪んだ愛情の犠牲者だったんですよね……。
当時は戦後ということもあり、佐兵衛のような孤児は多かったろうと思います。

最後に珠世が佐清を待つと言ってくれたことだけが救いです。
おそらく松子にとってもそうだったでしょう。

彼女は毒を仕込んだたばこを吸って、自ら死を選びました。
それは〈第1の殺人〉で、彼女が若林を殺害した方法と同じでした。

仮面の男スケキヨのからくりはよくできていたし(偶然に頼りすぎる面はあるけど)、遺産相続をめぐる殺人事件とともに、封印された犬神家の系譜が徐々に明らかになっていく過程はスリルがあって面白かったです。

ただ、今回の金田一はあんまり名探偵ではなかったような……(笑)

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