原作「チムニーズ館の秘密」ネタバレ解説|バトル警視初登場,冒険と謎解きのごちゃまぜ感が楽しい

アガサ・クリスティー「チムニーズ館の秘密」あらすじネタバレ解説・登場人物(キャスト)一覧

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あらすじと解説(ネタバレ有)

王室の秘密と恋文の真相

パリ警視庁から、怪盗キング・ヴィクターを追ってルモワーヌ刑事がやってきます。そして彼によって、王室と怪盗にまつわる“とんでもない真実”が明らかに。

なんと、7年前に処刑されたヘルツォスロヴァキア王妃・ヴァラガ女王の正体は、キング・ヴィクターの共犯者アンジェール・モリだったというのです。彼女は革命組織レッド・ハンド党と手を組み、ニコラス王に近づきましたが、途中で野心に目覚めて党を裏切り、王妃の座を手に入れたのでした。

しかも王妃になったあとも、宮殿でこっそり泥棒稼業を続け、秘密の暗号でキング・ヴィクターと連絡を取り合っていました。それが例の「恋文」。ヴァージニアの署名は、本来の目的を隠すための“偽装”だったのです。

さらにルモワーヌは、ヴァラガ女王がイギリス訪問中に英国王室の至宝“コイヌール”を盗み、賓客として滞在していたチムニーズ館のどこかに隠したと考えていました。そして、そのとき同じく館に滞在していたスティルプティッチ伯爵がその事実を知り、回顧録に書き残したのではないかと推測します。

極めつけは、キング・ヴィクターが出所後にアメリカへ渡り、ニコラス王子になりすまして石油利権をネタにアメリカ資本から莫大な金をだまし取っていた――という衝撃の告白でした。

キング・ヴィクターの狙い

恋文の真相が明らかになり、ヴァージニアへの疑いが晴れたことで、アンソニーはついにジュゼッペの遺体を遺棄したことをバトル警視に正直に打ち明けます。

バトル警視は推理します。「ジュゼッペを殺したのは、彼を雇ったキング・ヴィクターかレッド・ハンド党だろう。やつらはジュゼッペが回顧録と間違えて恋文を盗んだことを知らず、裏切られたと勘違いして報復したに違いない」と。

その後、なぜかアンソニーのもとに盗まれていた「恋文」が戻ってきます。バトルは言います。「この手紙にはダイヤのありかが暗号で書かれている。キング・ヴィクターはわざと手紙を返し、我々に解読させて隠し場所を突き止めさせてから横取りするつもりだ」。

一方、ルモワーヌは、ロンドンへ戻るため館を出発した賓客ハーマン・アイザックスタインのスーツケースの中から、ミカエル王子殺害に使われたと思われる拳銃を発見。事件はますます複雑な迷路に入り込んでいきます。

宝石の行方

バトル警視は暗号解読の専門家ウィンウッド教授を呼び寄せ、問題の手紙を解析させます。

作業は成功したが、Sがわれわれを裏切って、隠した場所から宝石を移した。彼の部屋を捜したが、なかった。しかし、そのありかを示していると思われる次のようなメモを発見した――〈リッチモンド、まっすぐに七、左へ八、右へ三〉

「チムニーズ館の秘密」より

アンソニーは、この「S」がスティルプティッチ伯爵を指すと考え、伯爵がチムニーズ館のどこかにダイヤを隠したと確信します。しかし最後の謎めいた数字の並びが何を意味するのかは、さっぱりわかりません。

さらに、館に変装して潜り込んでいるはずの怪盗キング・ヴィクターが誰なのかも依然として不明。謎は深まるばかりです。

そんな中、ミカエル王子の付き人ボリスが「ドーヴァー、ラングリー・ロード、ハーストミア」と書かれた紙切れを拾い、アンソニーに渡します。

するとアンソニーは急に怪しい行動を取り始め、読者を不安にさせます。彼は紙に書かれた住所を訪ね、ハーミストアの空き家がキング・ヴィクター一味の隠れ家だと突き止めます。しかもその2階には、意外な人物が監禁されていました。

アンソニーが突然姿を消したことで、チムニーズ館では憶測が飛び交います。ルモワーヌは「アンソニーは南アフリカにいたのがたった2か月で、それ以前の足跡が不明だ。もしかして彼こそキング・ヴィクターなのでは?」と疑いを強めます。

その夜、ヴァージニアはアンソニーから届いた手紙を受け取り、ひそかにチムニーズ館を抜け出していきました。

王子を殺したのは誰か?

ついに10月13日――ロンドンの出版社に回顧録を届ける期限の日がやってきます。アンソニーは関係者たちをチムニーズ館に集めます。

そこでアンソニーは、スティルプティッチ伯爵が残した暗号〈リッチモンド、まっすぐに七、左へ八、右へ三〉を解読したと宣言し、「ダイヤは書斎の本棚に隠されている」と告げます。ところがこれは犯人をおびき出すための嘘。見事に罠にかかった犯人は、ダイヤを奪おうと書斎に忍び込み、ボリスと格闘の末、銃の暴発で命を落としました。

その犯人は――家庭教師ブラン。さらにロロプレッティジル男爵の証言によって、ブランの正体が死んだはずの元王妃ヴァラガ(=アンジェール・モリ)であることが明らかになります。

彼女は本物の家庭教師ブランを誘拐し、なりすましてチムニーズ館に潜入していたのです。目的はもちろんダイヤ探し。しかし途中でミカエル王子に正体を見破られ、彼を射殺。その凶器の拳銃はアイザックスタインのスーツケースに隠していました。

キング・ヴィクターはレッド・ハンド党と手を組み、ヴァージニアがチムニーズ館に来るのを妨害しようとしました。なぜなら、ヴァージニアは本物のブランの顔を知っていたからです。ジュゼッペが彼女の家で殺されたのも、ヴァージニアに罪を着せて足止めするためだったのです。

キング・ヴィクターは誰か?

ルモワーヌは「アンソニーこそがキング・ヴィクターだ!」と声高に主張します。ところがその場に現れたのは――本物のルモワーヌ。アンソニーがハーミストアの空き家で監禁されていた彼を発見し、連れてきたのです。

つまり、ブランのときと同じく、キング・ヴィクターが本人を誘拐して変装し、チムニーズ館に潜入していたのでした。

正体がばれて逃げようとしたキング・ヴィクターを取り押さえたのは、チムニーズ館の客人ハイラム・P・フィッシュ。彼はアメリカからやってきた私立探偵で、ずっとキング・ヴィクターを追跡していたのです。

さらにアンソニーとフィッシュは、ダイヤの隠し場所もすでに突き止めていました。暗号の「リッチモンド」はバラの名前を意味していたのです。日時計に背を向けてまっすぐ7歩進み、左へ8歩、右へ3歩――すると、リッチモンドという名のバラの群生にたどり着きます。ダイヤはその花壇の下に埋まっているはずだ、と。

アンソニーの告白

最後に、アンソニーは、自分こそ次の王位継承者であるニコラス王子だと告白します。

もし素性が知られてしまえば、まっさきにミカエル王子殺害の容疑者にされてしまうため、アンソニーはずっとバトル警視の捜査能力を恐れていたと打ち明けます。

王制擁護派のロロプレッティジル男爵は大喜びで彼を迎え入れます。ミカエル王子が亡くなった今、彼らが求めていたのはまさに次の王位継承者だったからです。自由人としての人生を楽しんできたアンソニーは、不安を抱えながらも、国王の座につく覚悟を固めます。

さらにアンソニーは、今朝ヴァージニアと結婚したことを明かします。結婚後に彼の正体を知らされたヴァージニアは驚きつつも、ヘルツォスロヴァキア王妃となることを快く受け入れました。実はアンソニーが国王になる決意をしたのは、彼女のためだったのです。

そして最後の種明かし。スティルプティッチ伯爵の回顧録は、実はアンソニーが隠し持っていました。ミカエル王子に渡した原稿は偽物だったのです。

本物の原稿は、アフリカからやってきたジェイムズ・マグラスに手渡されましたが、その内容は拍子抜けするほど取るに足らないものでした。

感想(ネタバレ有)

回顧録の争奪戦に、恋文の謎、殺人事件、怪盗キング・ヴィクターの正体、ダイヤの行方、さらにヘルツォスロヴァキア政権をめぐる陰謀……フルコースのように盛りだくさんの物語でした。

登場人物もとにかく多くて、「えーっと、この人誰だっけ?」とわからなくなる場面もたびたびありましたが、冒険ミステリーらしい賑やかさが感じられて、終始わくわくしながら楽しめました。

キャラクターたちも魅力的。主人公アンソニーの大胆さは読んでいて爽快だし、ヴァージニアの芯の強さは頼もしさ抜群。冷静沈着なバトル警視の存在も大きかった。ケイタラム卿とロマックスが右往左往する姿は、ちょっとしたコメディ要素になっていてユニークでした。

アンソニーの正体については、ボリスが彼に従い始めた場面でなんとなく推測できるようになっていました。アンソニーが「あの連中はなんとも奇妙な本能を持ってるものだな」と言っていたのが伏線でしたね(それ以前に、彼はヘルツォスロヴァキアについて詳しすぎた)。

しかし終盤、「もしかしてキング・ヴィクターなのか?」と一瞬惑わされるミスリードが仕込まれていて、最後までハラハラさせられます。怪盗の正体のほうはまったく読めず、見事にしてやられました。

そして極めつけは、みんなが必死に奪い合った「スティルプティッチ伯爵の回顧録」が、実はまったく取るに足らない内容だったという痛快なオチ。

アンソニーが「スティルプティッチは作家としてはまったくなっちゃいない」とくそみそに語るところでは、思わず笑ってしまいました。あれだけ大騒ぎしたのに、中身は退屈な政治談義ばかりって。

さて、つぎは「七つの時計」を読みたいと思います。4年後のチムニーズ館でまたもや殺人事件が発生。おなじみの面々が登場し、ケイタラム卿の娘バンドルが大活躍する物語です。Netflixでドラマ化も決定しています。

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