映画「凪待ち」あらすじと感想|なぜ香取慎吾なのか?タイトルに込められた思い

どうも、夏蜜柑です。
映画「凪待ち」のあらすじと感想です。

「凶悪」「孤狼の血」などで知られる白石和彌監督の作品。絶望の底でもがく自堕落な中年男を演じる香取慎吾さんがドハマリしています。

はっきり言って最高でした。

暴力描写は多いし殺人事件も起こりますが、サスペンスではなくヒューマンドラマ。見終わった後にかすかな希望を感じさせます。

タイトルに込められた思いが、音のない画面から静かに伝わってきました。

作品概要

予告動画

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コロムビアミュージックエンタテインメント

登場人物(キャスト)

木野本郁男(香取慎吾)
ギャンブル依存症の男。同棲相手の亜弓の実家がある石巻に移り住み、酒とギャンブルを断って人生をやり直そうとする。

昆野亜弓(西田尚美)
郁男の同棲相手。美容師。元夫との間に生まれた娘・美波と郁男と3人で暮らしていたが、病気の父を心配し、故郷の石巻に帰ることを決意。いつかカリブの島へ行くことが夢。

昆野美波(恒松祐里)
亜弓の娘。震災後に川崎に引っ越し、イジメにあって不登校に。口うるさい母・亜弓には反抗的で、郁男に懐いている。石巻で定時制高校に通い始める。

昆野勝美(吉澤健)
亜弓の父。漁師。震災で津波にさらわれた妻を助けられなかったことを悔いている。末期の癌を患っているが入院を拒み、毎日船を出して漁を続ける。

村上竜次(音尾琢真)
亜弓の元夫。中学教師。昔は亜弓に暴力をふるっていたが、現在は心を入れ替え、再婚して幸福な家庭を築いている。

小野寺修司(リリー・フランキー)
昆野家の近くに住む世話好きの男。製氷工場で働いている。郁男と亜弓たち家族の力になろうと、何かと親身になって世話を焼く。

石母田翔太(佐久本宝)
美波の幼なじみで、高校の同級生。漁師の仕事をしながら定時制高校に通っている。

菊田忠夫(田中隆三)
郁男が再就職した印刷会社の社長。知識が豊富な郁男を重宝がる。

尾形大輔(黒田大輔)
郁男の同僚。ギャンブル好きで、会社の金を使い込む。郁男をノミ屋に連れて行く。

新沼健人(鹿野浩明)
郁男の同僚。尾形とともに郁男をノミ屋に連れて行く。

熊谷義則(不破万作)
勝美の友人。勝美の体を心配し、船を売ることを勧める。

穀田剛(寺十吾)
暴力団組員。ノミ屋に通う郁男に目をつけ、タネ銭を立て替える。

西條翼(奥野瑛太)
暴力団組員。ノミ屋で窓口をしている。

軍司知彦(麿赤兒)
暴力団組長。勝美とは顔見知り。

蝦名政則(三浦誠己)
刑事。殺人事件の捜査にあたる。

渡辺健治(宮崎吐夢)
郁男の元同僚でギャンブル仲間。印刷会社に勤務していたがリストラされる。同僚から嫌がらせを受けていた。

あらすじ

木野本郁男(香取慎吾)は、無職でギャンブル依存症。川崎で毎日を無為に過ごしていたが、同棲している恋人・亜弓(西田尚美)と彼女の故郷・石巻でやり直す決意をする。

末期がんを患う亜弓の父・勝美(吉澤健)は入院を拒み、亜弓の反対を押し切って今も石巻で漁師を続けていた。頑固で偏屈な勝美は、郁男に対して無愛想に接する。

亜弓は美容院を開業し、郁男は近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)の世話で小さな印刷所に就職する。亜弓は「いつかカリブの島に連れてってやる」という郁男の言葉を信じ、穏やかな暮らしに幸せを感じていた。

郁男は印刷所の同僚・尾形(黒田大輔)らの誘いでノミ屋に足を運び、競輪のアドバイスをする。レースを見ているうちに興奮し、自分も金を賭けるようになる。

亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、石巻で定時制高校に通い始める。美波は川崎の学校でイジメに遭い、不登校になっていた。高校で幼なじみの翔太(佐久本宝)と再会した美波は、楽しい毎日を過ごすようになる。

ある日、亜弓は美波の部屋にあった翔太のタバコを見て誤解し、激しく咎める。亜弓に頬を叩かれた美波は家を飛び出し、夜になっても帰宅しなかった。美波と連絡が取れず、パニックになる亜弓。

郁男は亜弓を落ち着かせようとするが、郁男が再びギャンブルに手を出したことを知った亜弓は「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」と激昂する。

腹を立てた郁男は亜弓に「降りろ」と怒鳴り、ひとりで探すよう突き放す。その夜遅く、郁男は翔太と一緒にいる美波を見つけ、亜弓に知らせようとするが、亜弓は何者かに殺害されて防波堤の工事現場で遺体となって発見される。

亜弓の葬儀の後、年老いた勝美と美波の将来を心配した小野寺は、美波に実父・村上(音尾琢真)と暮らすことを勧める。村上はかつて亜弓に暴力をふるっていたが、現在は再婚して幸せな家庭を築こうとしていた。

籍が入っていない郁男はこのまま美波と暮らし続けることはできず、さらに自分のせいで亜弓が死んだという自責の念にとらわれ、自暴自棄になっていく。

警察は郁男を犯人と疑い、町の人々も郁男に不審な目を向け始める。事務所の金を盗んだという濡れ衣を着せられ、印刷所も解雇される。金を盗んだのは尾形で、郁男に罪を着せようとしたのだ。

怒り狂った郁男は尾形に殴りかかり、印刷所で暴れて機械を壊してしまう。小野寺に弁償金を立て替えてもらうものの、再びギャンブルにのめり込んでいく郁男。

ノミ屋での借金は200万円を超え、見かねた勝美は船を売って金をつくり、郁男に全額手渡す。暴力団に借金を返済した郁男は、残った50万円をまたもや競輪賭博につぎ込む。

郁男は見事に的中させ大金を儲けるが、穀田(寺十吾)は配当金を払わずに逃げる。自棄になって縁日で暴れる郁男。小野寺は郁男に「もう一度やり直せ」と自分の職場を紹介し、郁男は製氷工場で働き始める。

工場に警察が現れ、小野寺を逮捕する。事件現場の防犯カメラに小野寺が映っており、犯人のDNAとも一致したという。警察に連行される小野寺に、掴みかかろうとする郁男。

郁男は勝美から「美波のそばにいてやってくれ」と頼まれるが、いずれ2人を裏切ることになるという不安から置き手紙を残して出ていく。

駅で電車を待っていると、川崎にいた頃の同僚でギャンブル仲間の渡辺(宮崎吐夢)がリストラされた印刷会社に押しかけ、職員数名を襲って逮捕されたというニュースが流れる。

郁美は町に戻り、ノミ屋に乗り込んで店内をメチャクチャに破壊する。組事務所にさらわれた郁美を助けるため、勝美はひとりで組事務所を訪ねる。組長の軍司(麿赤兒)は昔、勝美に命を救われたことがあった。

「こいつは俺のせがれだ」と言い、郁男を連れて帰ろうとする勝美。郁男は「金を返せ」と暴れるが、勝美に説得されて組事務所を後にする。表では美波が待っていた。帰り道、こみ上げる想いをこらえきれず、むせび泣く郁男。

翌朝、穀田が配当金を持って訪ねてくる。郁男はその金で勝美の船を買い戻し、美波と3人で海に出る。亜弓が署名をしていた婚姻届に名前を書き込み、海に捨てる郁男。

感想(ネタバレ有)

なぜ香取慎吾なのか?

白石監督の作品は暴力描写が多いので、見るのに若干の心構えが必要なんですよね。「孤狼の血」以降、バイオレンス色の強い作品のオファーが増えたそうで、バイオレンスが苦手なわたしにとっては悩ましい。

でも今回の作品は大丈夫かもしれない。なんせ香取慎吾さんが主演だから。そう思って見始めたけど、予想外に暴力的でびっくりしました(と言っても過去作品に比べるとおとなしめ)。

バラエティ番組で見せる彼の朗らかな笑顔はどこにもなく、画面に映るのは怠惰でだらしない中年男の暗い顔。口下手で、思いどおりにいかないとすぐにキレる、暴力的な男。

まったく違和感なかったです。そもそもわたし、「ガリレオ」や「薔薇のない花屋」や「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」などの暗い役を演じるときの香取慎吾さんが好きだったので(芸術を生み出せる人が孤独や闇を抱えていないはずはない)、待ってましたという感じでした。

そして期待を裏切らず、いやそれ以上にはまり役でした。白石監督、インタビューの中でこんなことを語っています。

もともと堕ちていく人を描くことが多かったんですが、ちゃんとはい上がる人の話もどこかでやりたいなと思っていました。直感的に、それが香取さんに似合うと思ったんです。

アイドルにしては大きすぎる体躯も、今回の役にドハマリ。恋人の金をくすねてギャンブルに明け暮れ、働きもせずに大きな体を持て余している主人公にぴったりでした。

主人公の木野本郁男は「変わりたいのに変われない」という鬱屈した感情を溜め込んでは、暴力に転化させて破壊行為に及ぶのですが、その暴力シーンでも効果を発揮。大きな体を使って、まさに“暴れ狂う”という表現そのもの。

一方で、心が平穏なときの郁男は優しくて純粋な心の持ち主。時おり見せる無邪気な表情はいつも見ている香取さんの顔で、郁男の人柄がスッと入り込んできました。

タイトルに込められた思い

恋人の故郷・石巻で、人生の再出発を試みた主人公・郁男。ところが平穏な暮らしは長くは続かず、些細な喧嘩をきっかけに恋人の亜弓を失ってしまう。

ポスターのコピーはサスペンスを想像させますが、殺人事件がメインではありません。あくまで主人公・郁男の“喪失”と“再生”の物語です。

『凪待ち』というタイトルは、心が波立って、そこに凪が訪れてほしい、いろんな悲劇に対して凪が訪れてほしいという思いを込めています。

白石監督がインタビューで語っていたとおり、この作品は常に「海」を想起させます。

末期癌を患う亜弓の父・勝美は、船に乗って海へ出ることで心の平穏を保とうとします。亜弓は世界一海がきれいだというパナマのサンブラス諸島へ行くことが夢で、写真集に挟んだ封筒の中にヘソクリを入れていましたが、お金が貯まることはありませんでした(郁男が度々くすねていた)。

エンドロールでは、津波で流された船やピアノが海の底に沈んでいる様子が映し出されます。

映画の中の海は時が止まっているかのように静かで穏やかなのに、陸の上で暮らす人々の生活は慌ただしく、心は激しく波立っている。

特に印象的だったのが、ギャンブルに向かうときの郁男をとらえたシーン。睨め付けるような郁男の視線とともに、ゆっくりと画面が傾いていく。わたしには、波にとらわれた船が大きく傾ぐように見えました。

語られなかった犯人の動機

終盤、亜弓を殺した犯人が明らかになりますが、その動機については最後まで語られませんでした。

犯人の正体については想像どおりでしたね。わたしはフォークリフトに乗った小野寺が暗い工場から明るい光の中へ出て行くシーンで気づきました。

ノベライズ本によると、犯行の動機は亜弓への叶わない恋心だったようです。亜弓を殺して、永遠に彼女を手に入れようとしたんですね。

彼が亜弓を特別視していることは繰り返し語られるセリフからも明らかでしたし、語らずとも想像できる範囲だったのではないでしょうか。

逮捕されたとき、小野寺が「亜弓が行きたがっていたのはパナマのサンブラス諸島」だと郁男に教える場面がありました。郁男に対する対抗心からだと思われます。

亜弓が郁男を連れて帰ってきたことで、彼の中の歪な愛情が暴走してしまったのかもしれません。

ギャンブル依存症の男になぜか共感してしまう

どうしてもギャンブルをやめられず、亜弓のヘソクリに手を出し、小野寺が貸してくれた生活費をつぎこみ、ついには暴力団に金を借りてまで競輪にのめり込む郁男。

200万円に膨れ上がった借金を返済するため、義父の勝美は大切な船を売って金を調達してくれますが、そのお金もやっぱり競輪につぎ込んでしまう。

お金も仕事も人間関係も、手に入れたものをことごとく自分の手で壊してしまう郁男。「どうしようもないろくでなし」だと自分でもわかっているのに、変わることができない。

わたしはギャンブルにはまる郁男の気持ちはまったく理解できませんが、「変わりたいのに変われない」苦しみには共感できます。

本当は控えめで優しい性格なのに、信じていた人に裏切られると憤りを抑えられなくなり、凶暴化してしまう気持ちも少しわかる気がする。

終盤、ボロボロになった郁男が、迎えに来た勝美と美波と一緒に泣きながら帰り道を歩くシーンはたまらなかった。子供のように号泣する郁男を見たら胸が苦しくなり、思いがけず涙が溢れてきました。

手をさしのべる人たち

酒もギャンブルも今度こそやめる。きっと、これまでにも郁男は何度も亜弓に約束してきたのでしょうね。でも、やめられなかった。

亜弓の夢はカリブ海の島に行くことで、「いつか連れて行ってやる」という郁男の言葉を信じ、旅行のための資金を貯めていました。でも、郁男はたびたびそのお金をくすね、ギャンブルに使っていた。亜弓が死んでからもです。最低です。

亜弓はそれを知りながら、それでも郁男を信じて、何年も待ち続けていました。自分の名前だけを記載した婚姻届を用意して。

裏切られても見放さず、何度も手を差し伸べ続ける彼女と彼女の家族の深い愛情と寛容な心に胸をうたれます。自分ならできるかどうか…正直なところ自信がないです。

買い戻した勝美の船で、海に出る郁男と美波と勝美。郁男がすんなりとギャンブルをやめられるとは、とても思えません。余命短い勝美が死んだ時、郁男と美波がどうなるのかも、わかりません。

それでもかすかな希望を感じさせ、彼らの日常に凪が訪れることを願わずにはいられない、穏やかで美しいラストシーンでした。

余談ですが、わたしの夫は宮城県の出身で、石巻には今も親戚が何人も住んでいます。津波で家を失い、復興公営住宅で独り暮らしをしている義叔父のもとを訪ねたこともあります。

わたしが石巻を訪れたのは震災から何年も経ってからで、町は比較的きれいでしたが、やはり多くの更地が目に付きました。義叔父が経営していた店も更地になっていました。

あのとき見た景色は忘れられません。

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