ネタバレ有*映画「彼女がその名を知らない鳥たち」予想できない衝撃のラスト

「彼女がその名を知らない鳥たち」ネタバレ感想

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映画「彼女がその名を知らない鳥たち」の感想です。

予備知識をまったく入れずに見たので、衝撃を受けました。
ちょっとしばらく頭から離れないかもしれない……というくらい。

登場人物は全員クズだらけ。不快なことこの上なし。
R15+指定作品なので、際どいベッドシーンがてんこ盛り。

それもこれも全て、ラストのどんでん返しで吹っ飛びます。

作品概要

  • 製作国:日本
  • 上映時間:123分
  • 公開日:2017年10月28日
  • 監督:白石和彌(「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」)
  • 脚本:浅野妙子(「ラスト・フレンズ」「ごめん、愛してる」「黄昏流星群」)
  • 原作:沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』
  • 音楽:大間々昂

あらすじ

15歳年上の男・陣治と暮らしながらも、8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられずにいる女・十和子。不潔で下品な陣治に嫌悪感を抱きながらも、彼の少ない稼ぎに頼って働きもせずに怠惰な毎日を過ごしていた。ある日、十和子が出会ったのは、どこか黒崎の面影がある妻子持ちの男・水島。彼との情事に溺れる十和子は、刑事から黒崎が行方不明だと告げられる。どれほど罵倒されても「十和子のためだったら何でもできる」と言い続ける陣治が執拗に自分を付け回していることを知った彼女は、黒崎の失踪に陣治が関わっていると疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと怯えはじめる――。(公式サイトより)

予告動画

登場人物(キャスト)

北原十和子……蒼井優
恋愛依存症のダメ女。陣治とは惰性で同棲しており、8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられずにいる。百貨店の時計売り場やレンタルビデオ店にクレームを入れてストレスを発散している。

佐野陣治……阿部サダヲ
十和子の同棲相手。地位もお金もない不潔で下品な男。十和子に過剰とも思える愛情を抱き、十和子に嫌われながらも懸命に尽くしている。

黒崎俊一……竹野内豊
十和子が以前付き合っていた男。8年前、十和子を酷い目に遭わせ、一方的に別れを告げて去っていった。5年前に失踪し、行方不明になっている。

水島真……松坂桃李
百貨店の時計売り場に勤務する妻子持ちの男。クレーム対応のため十和子の自宅を訪ね、十和子と関係を持つようになる。

國枝カヨ……村川絵梨
黒崎の妻。黒崎が十和子と別れた後に結婚した。黒崎が失踪した後、女児を出産している。

酒田……赤堀雅秋
十和子を訪ねてきた刑事。5年前に失踪した黒崎のことを十和子に尋ねる。

野々山美鈴……赤澤ムック
十和子の姉。陣治を信頼しており、十和子が黒崎とヨリを戻さないよう目を光らせている。

國枝……中嶋しゅう
カヨの叔父。黒崎が頼っているらしい実力者。



感想

最初に、ストーリー以外の部分について少しだけ。

主演は阿部サダヲさんと蒼井優さん。
2人が見せる多彩な表情はどれも強く印象に残りました。後半は特に素晴らしかったです。

2人とも関西弁を喋っているのですが、違和感がありません。
ドラマでも、こういう自然な関西弁を指導してほしいなぁ。

[kjk_balloon id=”1″]蒼井優さんの「アホか」が絶妙でした。[/kjk_balloon]

松坂桃李さんは濡れ場がとんでもなくエロかった。
ちょっと引いてしまうくらいエロいです。

彼が演じている水島は、一見まともそうに見えるけど中身スカスカの下半身男。
主人公とのありえない関係も、この男ならあり得るかも、と思わせるところがすごい。

白石監督は「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」などを撮っている人。
2019年1月クールのドラマ「フルーツ宅配便」も決定しましたね。

わたしは暴力的な作品が苦手なので敬遠していましたが、来年のドラマは見てみたい。

原作は「ユリゴコロ」の沼田まほかるさん。
現在御年70歳。この作品を書いたときは58歳。

信じられないです。
ああ、やっぱり原作読んで沼田さんの世界に浸ってみたい。

共感度0%のクズども

この映画の登場人物は、全員クズばかりです。

よくぞこんなクズばっかり集めたな、と思うくらい。
でも、ここまでクズだと、逆にサッパリしますね。

微妙なクズだと「共感できないわたしって、偽善者…?」という考えに陥って、共感できるところを必死に探したり、別の見方を試みたりするんですよね。

そういう意味では、今回はなんの不安もなくまっすぐ物語に集中できました。……が。

[kjk_balloon id=”10″]それが落とし穴でした。[/kjk_balloon]

主人公の十和子は、8年前に別れた恋人・黒崎のことが忘れられず悶々とした日々を送るダメ女。陣治を毛嫌いして罵倒したり足蹴にしたりするくせに、毎日陣治からなけなしのお金をもらってダラダラしている。

確かに、陣治は下品で不潔で、近寄るのもはばかられるような男です。
でも、それは一目瞭然で、会った瞬間にわかること。

イケメン好きの十和子が、なぜ小汚い陣治と付き合う気になったのか?

この小さな謎は、ラストで明かされることになります。



黒崎を殺したのは誰?

最初は彼らの日常になんの興味も抱けず、「嫌だなぁ、こんな人たち」と冷めた視線で観ていたのですが。

途中からミステリ要素が絡んできて、急に雰囲気が変わります。

十和子の浮気を疑った姉の美鈴が、「黒崎さんと会ってたんでしょ?」と十和子を問い詰めるシーン。
陣治は美鈴に、「それは絶対にない」と言い切るんですね。

あれっ……?って思いますよね。
陣治、もしかして黒崎を殺した……?

その後、十和子のもとを警察が訪ねてきます。
そこで明らかになったのは、黒崎が5年前に失踪し、今も行方不明だという衝撃の事実。

十和子は陣治を疑い始め、水島との情事に溺れていく。

[kjk_balloon id=”26″]不安を掻き立てる映像も増えていく。[/kjk_balloon]

陣治の行動はエスカレートし、水島との関係を突き止めて嫌がらせを始めます。
このままでは、水島もまた陣治の手にかかって殺されてしまう。

問い詰める十和子に、陣治は黒崎を殺して工事現場に埋めたことを告白します。

予想できない衝撃のラスト

ここからがっつりネタバレします。
作品を観ていない人は、できれば観てから読んでください。

水島に騙されていると知りながら、すがってしまう十和子。
十和子は水島をナイフで刺し、殺そうとします。

尾行していた陣治が止めに入り、十和子は5年前の記憶を取り戻します。

5年前、黒崎を殺したのは自分だった。
陣治は十和子に呼び出され、黒崎の死体を遺棄しただけだった。

十和子がその日の記憶を失っていることを、陣治は「しめた」と思ったと言う。
十和子はきっと耐えられないだろうから。

黒崎を殺してしまったことに。
もう二度と、黒崎に会えない人生に。

楽しかったなぁ、十和子。ほんま楽しかった。
この生活、いつ壊れてしまうんか思うから、いろんなことあってもあんだけ楽しかったんや。いや……十和子との全てのことが夢のようやった。

陣治にとって、十和子との時間はいつか覚めてしまう夢だった。

異常なほど十和子のことを心配していたのも、
十和子の行動を見張っていたのも、
水島との関係を断ち切らせようとしたのも、

十和子に再び罪を犯してほしくなかったから。
5年前のことを思い出してほしくなかったから。

もう生きていたくない、と言う十和子に、「生きとってくれ、十和子。俺が助けたるから」という陣治。陣治は十和子が思い出したことを全部持っていく、と言って飛び降り自殺を図ります。

そこから、陣治と十和子の出会いにさかのぼり、ふたりが過ごしてきた時間が描かれます。

陣治と出会った時の十和子は、黒崎と別れた直後で、心身共にボロボロの状態でした。
陣治の優しさと滑稽さが、傷ついた十和子を少しだけ救ったのです。

十和子は、知らなかったのかな。
陣治と一緒にいるとき、ふとした瞬間、安らかな表情で笑っている自分を。



これを愛と呼べるか

十和子を生かすためだけに生きていた陣治。
そして十和子を生かすために死を選んだ陣治。

陣治の愛は、間違っているかもしれない。
歪んでいるかもしれない。
到底、受け入れることなどできない愛かもしれない。

でも、わたしは100%否定することができませんでした。

十和子には絶対に生きていてほしい。
そして、今度こそ本当に愛し合える人を見つけてほしい。

十和子も陣治も、わたしが共感することは絶対にない、と思うような人物だったからこそ、このラストには衝撃を受けました。

自分の心の中の、ふだんは波立たない静かな湖面にとつぜん大きな石を投げ込まれたような、深い余韻を残す作品でした。

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