BBCドラマ「無実はさいなむ」感想と解説|原作とは異なる犯人と結末が面白い

BBCドラマ「無実はさいなむ」

「アガサ・クリスティ」の記事一覧を見る

どうも、夏蜜柑です。
BBCドラマ「無実はさいなむ」(全3話)の感想と解説です。

義母殺害の容疑で投獄された養子ジャックは本当に犯人なのか? ジャックの無実を証明する人物が出現、事件が再び動き出す! 想定外の衝撃のラストは必見!(AXNミステリー公式サイトより)

2018年にBBC Oneで放送されたドラマです。

舞台は1956年。第二次世界大戦から11年後、冷戦のまっただなかです。
富裕層は地下シェルターを作り、核戦争に怯えていた時代。

今回も時代背景が登場人物たちの設定にうまく生かされていました。

脚本は、2015年の「そして誰もいなくなった」、2016年の「検察側の証人」でも脚本を手掛けたサラ・フェルプス。原作とは異なるオリジナルの要素を大幅に加えた、ダークな雰囲気のミステリードラマに仕上がっています。

夏蜜柑
撮影はスコットランドで行われました。
ふぐ丸
雄大な自然の風景がすばらしい。

なおBBCはこの「無実はさいなむ」以降、4年間で合計7本のクリスティ作品を映像化すると発表しています。

番組概要

  • 原作:アガサ・クリスティ『無実はさいなむ』
  • 制作:イギリス(2018年)
  • 原題: Ordeal by Innocence
  • 脚本:サラ・フェルプス
  • 監督:サンドラ・ゴールドバッハー

予告動画


あらすじ

資産家のレイチェル・アーガイルが殺害される。現場に残された指紋から、彼女の養子の一人ジャックが逮捕される。しかし、彼は無実を訴え続けながら、獄中死してしまう… 事件から18か月後、ジャックのアリバイを証明できるという人物が出現!ジャックは本当に無実なのか?ジャックでなければ、レイチェルを殺したのはいったい誰なのか…。(AXNミステリー公式サイトより)

原作について

このドラマの原作は、1957年に発表されたアガサ・クリスティの長編小説『無実はさいなむ』です。

クリスティがお気に入りのひとつとしてあげていて、自選のベストテンにも入っている作品。クリスティが得意とする〝閉鎖された空間〟の中で複雑な人間模様が描かれ、いわゆる〝探偵役〟が存在しません。

物語は、ある男がアージル家を訪ねてくる場面から始まります。2年前、アージル家の女主人レイチェルが撲殺され、5人の養子のうちのひとり、ジャッコが犯人として逮捕されていました。

男はジャッコの無実を証明するためにやってきたのですが、ジャッコは既に獄死していました。

ジャッコが無実ならば、真犯人は別にいる。次第に疑心暗鬼になっていく人々。
やがてアージル家の秘密が暴かれ、家族全員に女主人を殺す動機があることがわかります。

1984年に「ドーバー海峡殺人事件」というタイトルで映画化もされています。

登場人物(キャスト)

レイチェル・アーガイル……アナ・チャンセラー
殺害されたアーガイル家の女主人。レオの妻で、資産家。慈善事業に熱意を注ぎ、5人の子供を養子にしている。体面を重んじる厳格な性格で、子供たちからは疎まれていた。1年半前のクリスマス・イブに自宅で撲殺された。

レオ・アーガイル……ビル・ナイ
レイチェルの夫。無職で独自にエジプトの研究をしている。妻レイチェルが亡くなった後、元秘書のグウェンダとの再婚を決め、結婚式の準備をしている。実はレイチェルが死ぬ前からグウェンダと関係を持っていたらしい。

アーサー・カルガリー……ルーク・トレッダウェイ
突然アーガイル家を訪ねてきた男。自称物理学博士。レイチェルが殺害された時刻にジャックを車に乗せたと証言する。研究のために北極に行っており、事件のことを知らなかったため名乗り出ることができなかったと話す。

ジャック・アーガイル……アンソニー・ボイル
レイチェルとレオの養子。気性が荒く、問題ばかり起こす厄介者。凶器のデカンタから指紋が検出され、レイチェル殺しの犯人として逮捕される。犯行時間には見知らぬ男の車で町まで送ってもらっていた、と無実を主張するも、裁判を待たずに獄中死する。

メアリー・デュラント……エレノア・トムリンソン
レイチェルとレオの1人目の養子。グウェンダをよく思っておらず、養父レオとの再婚を阻止しようとする。養母レイチェルの愛情を得られなかったことや、事故で車いす生活を送る夫フィリップから冷たくあしらわれることに傷ついている。

フィリップ・デュラント……マシュー・グード
メアリーの夫。戦時中に活躍した元パイロット。自動車事故で車いす生活を余儀なくされる。後遺症のため鎮痛剤の注射が欠かせず、酒にも依存している。メアリーに冷たくあたる。レオから金を強請るため、アーサーに手を組もうと持ちかける。

ヘスター・アーガイル……エラ・パーネル
レイチェルとレオの養子。末っ子。ミッキーに懐いている。過去に家を飛び出したことがあるが、レイチェルに連れ戻されている。

ミッキー・アーガイル……クリスチャン・クック
レイチェルとレオの養子。ティナと一緒に最後に引き取られた。ロンドンの下町出身で、幼い頃から自傷行為を繰り返している。養母に求められる上流の暮らしになじめず、現在はロンドンに住んでいる。

ティナ・アーガイル……クリスタル・クラーク
レイチェルとレオの養子。ミッキーと一緒に最後に引き取られた。内気でおとなしいが、芯が強い。事件の少し前に家を出て独り暮らしをしている。図書館勤務。

カーステン・リンドストローム……モーヴェン・クリスティー
アーガイル家の使用人。養護施設の出身。長年一家に仕え、家族に信頼されている。5人の子供たちにとっては心を許せる友人のような存在。

グウェンダ・ヴォーン……アリス・イヴ
アーガイル家の元秘書。レオの婚約者。エミリーが死んだ後、後妻になることが決まる。結婚式の準備に余念がない。

感想と解説(ネタバレ有)

無実を証言する者

物語は、アーガイル家の女主人レイチェルが何者かに撲殺されるところから始まります。

凶器のデカンタから養子のジャックの指紋が検出され、ジャックは犯人の疑いをかけられて逮捕されます。しかしジャックは「その時間は通りがかった男の車に乗せてもらい、町に行っていた」とアリバイを主張。

養父のレオをはじめ、家族は誰もジャックの言い分を信じようとしません。
なぜならジャックは素行が悪く、一族の厄介者だったからです。

ジャックは裁判を待たずに、刑務所で囚人とケンカをして死んでしまいます。

それから1年半後、レオは元秘書のグウェンダとの再婚を決め、家族は結婚式に向けて準備をしていました。そこへ、事件の夜にジャックを車に乗せたという男・アーサー・カルガリーが現れます。

カルガリーはジャックが既に亡くなっていると聞いてショックを受けますが、ジャックの名誉のために警察に行って無実を証明したいと言い出します。

レオたち家族はその話を聞いて穏やかではいられません。ジャックが犯人でないとなれば、真犯人はあのとき屋敷にいた家族の中の誰かということになるからです。

カルガリーの罪

カルガリーは警察へ向かう途中、車に轢き殺されそうになります。

車はそのまま石垣に突っ込み、運転手は即死。
運転していたのは、ジャックを逮捕したグールド署長でした。

警察に行っても無駄だと知ったカルガリーは、再びアーガイル家を訪ねます。
そして嘘をついていたことを告白します。

事件が起きた1954年の12月24日、カルガリーは精神科病院から脱走していました。
盗んだ車で逃亡中に、ジャックに会ったのです。

その後すぐに捕まって病院に連れ戻され、1年半もの間出られなかった。
北極の基地で研究していたというのは嘘でした。

しかし物理学者というのは本当で、彼は戦争中にある化学式を解いたと泣きながら打ち明けます――原爆です。

精神を病んだのは、その罪の重さに耐えられなかったからでしょう。
ジャックの無実を証明しようとしたのも、正しいことをしたいという強い思いに駆られてのことでした。

 

※この先はネタバレを含みます

 

5人の子供たち

レイチェルには5人の養子がいます。

施設から引き取られ、レイチェルの厳しい教育と躾を受けて育った彼らは、レイチェルに対して愛憎入り交じる複雑な感情を抱いていました。

レイチェルは母親としては問題だらけで、愛情を注ぐのではなく支配するという育て方。メアリーが問い詰めたように、なぜ彼女が5人もの子供を養子にしたのかわからない。本人は「淋しさを紛らわすため」と言っていましたが……。

人知れず涙を流す場面もあったので、冷酷非情な人ではなかったと思うのですが。

メアリー

長女のメアリーがいちばん愛情に飢えていたように見えました。

養母レイチェルからも養父レオからも冷たくあしらわれ、夫のフィリップからも邪険に扱われる気の毒な人だった。両親の愛情を独り占めしたいと思うのは、長女の性なんですかねぇ。

フィリップの死因は明らかになりませんでしたが、やはり殺されたんでしょうね。

ミッキーとティナ

ミッキーとティナは、レイチェルに隠れて密かに付き合っていました。
しかしジャックに見られ、ジャックは事件の夜、レイチェルにその事実を話してしまいます。

レイチェルに「けがらわしい」「不潔な女」と罵られたティナは、ミッキーと別れることを決意します。

おそらくその夜以来、ティナはミッキーを避けていたと思われます。

ヘスター

レイチェルの過干渉に耐えられなくなったヘスターは、家を出ることを決意。

その後は使用人のカーステンとだけ連絡を取り合っていましたが、ある日、結婚を報告する手紙をレイチェルに見られてしまいます。

激怒したレイチェルはへスターの住む部屋を訪ね、結婚相手を金で買収して追い出し、ヘスターに薬を盛って病院へ連れて行き、強制的に堕胎手術を受けさせました。

事件の夜、ヘスターの服が血に染まっていたのは、そのためです。

ヘスターは薬と手術のせいで朦朧としていたので、レイチェルを殺したのは私かもしれないと自分を疑っていたのでした。

ジャック

事件のあった夜、ジャックはレイチェルから実の母親がカーステンであることを知らされます。

カーステンは10代の頃にレオと関係を持ち、ジャックを出産していたのです。
ジャックの短気な性格は、父親譲りだったことがわかります。

カーステンと初めて親子として会い、「戻ってくる」と約束して屋敷を出て行ったジャックは、カルガリーの車に乗って町に向かっています。

その夜レイチェルが殺されてジャックは逮捕されているので、母親とは再会できなかったかもしれませんね。

レオと面会したとき、ジャックは犯人がレオだと気づいていました。
そして「絶対に逃がさない」と宣戦布告したのです。

レオと面会した翌日、ジャックは獄中でケンカに巻き込まれて死んでいます。
おそらくレオがグールドに命じて殺させたのでしょう。酷い父親です。

カーステンとレイチェルの関係

カーステン

レオとの間にできた子供ジャックを、産まれてすぐにレイチェルに奪われ、使用人としてわが子を見守ることしかできなかったカーステン。

でもレイチェルのことを恨んでいるわけでもなさそうでした。
レイチェルとカーステンの間には、友情以上の気持ちが通い合っていたのかも。

一生母親だとは名乗らないつもりだったようで、事件の夜、ジャックに知られて戸惑っていました。

母と子の愛情を確かめ合う間もなくジャックが逮捕され、カーステンはジャックが犯人だと信じてしまった。悲劇ですね。

レイチェル

この人はもしかして女性が好きだったのかなぁ。
カーステンに対する彼女の気持ちは、友情以上のものがあるように見えたけど。

レオとの間に子供ができなかったのも、そういう理由からなのかしら。

そう考えると、ティナとミッキーの恋を「けがらわしい」とヒステリックに否定したり、ヘスターの結婚を邪魔して子供を堕ろさせたり、男女の恋に潔癖になる理由がなんとなく腑に落ちるんだけど……本当のところはわかりません。

支配的で尊大で好きになれない人でしたが、どこか淋しそうでもありました。
愛するカーステンに看取られて旅立ったことだけが救い。

事件の真相と犯人

犯人はレイチェルの夫・レオでした。

事件のあったクリスマス・イブの夜、レオはグウェンダとの浮気現場をレイチェルに見られ、離婚を言い渡されていたのです。

レオはアマチュア学者なので、レイチェルと別れるとなったら働かなくてはなりません。そんな気はさらさらなかったのか、レオは書斎の置物でレイチェルの頭部を殴り、殺しました。

凶器はデカンタではなく、書斎の置物だったんですね。

4人の子供たちとカーステンは、しらを切るレオに凶器をつきつけ、犯行を認めさせます。カルガリーはレオによって精神科病院に入院させられましたが、4人の子供たちが迎えに行きました。

ラスト、レオはボートから転落して死んだと思われましたが……。
実はカーステンに地下シェルターに監禁されていました。

この結末(犯人も)は原作とは大きく異なりますが、巧い改変だなぁと思いました。
ストーリーに全く違和感がなかったので、知らなければ原作通りだと思い込んでいたはず。

ちなみに原作の犯人はカーステンで、カーステンとジャッコは親子ではなく愛人関係です。ジャッコはカーステンを利用してレイチェルを殺害させ、金を盗ませています。

このシリーズ本当によくできていて見応えがあります。
あと7本ものクリスティ作品が見られると思うと、ワクワクしますね。

「海外ドラマ」の記事一覧を見る

ほかの記事を読む?

BBCドラマ「ABC殺人事件」 BBCドラマ「ABC殺人事件」原作にないポアロの過去に驚愕…孤独で悲壮感漂うポアロ 海外ドラマ「刑事ジョン・ルーサー」 【NHK放送決定】刑事ジョン・ルーサー|登場人物(キャスト)・各話あらすじ・感想