どうも、夏蜜柑です。
時代劇専門チャンネル開局20周年記念作品「闇の歯車」を見ました。
なんかもう……嬉しいの一言に尽きますね。
痺れるくらいカッコよかったです。
藤沢周平さんの作品が映像化されるだけでも嬉しいのですが。
ここまで真っ向勝負の本格的な時代劇を見せてもらえたことに感激しています。
奇をてらわず正統派時代劇を書き続けてきた、藤沢周平さんの作風そのものでした。
登場人物・原作についてはこちら「闇の歯車」登場人物(キャスト)・あらすじ・原作
Contents
「闇の歯車」感想
どこかにありそうな世界
ライトで見やすい今風の時代劇が多い中、ずっしりと重みを感じる昔ながらの時代劇でしたが、期待を裏切らない出来映えでした。
わたしの想像力だけでは思い描けなかった江戸深川の風景が、細部まで見事に再現されてしました。
本当に「どこか」にこの世界が存在しているような。
登場人物もしかり。スタッフの細やかな仕事に脱帽です。
ストーリーは、藤沢周平さんの作品の中では珍しいハールドボイルド・サスペンス。
江戸時代の逢魔が刻(おうまがとき)の暗さや無気味さが、映像によって視覚的に伝わり、物語の行き着く先への不安と重なってどんどん引き込まれていきました。
不安を掻き立てる劇伴も耳に残り、印象的でした。
伊兵衛という無気味な男
瑛太さん演じる佐之助は、闇の世界で危ない仕事を請け負っているやくざ者。
仕事が終わると「おかめ」でうまい料理と酒を味わう。
ひとりで生きていく分にはそれで十分――そんな暮らしを続けていました。
ある日、佐之助は「おかめ」で伊兵衛という老人に声を掛けられます.
伊兵衛は愛想のいい笑顔で、佐之助に「百両で押し込みをやらないか」と持ちかけます。
押し込みというのは強盗のことなんですが、伊兵衛は「やばくない仕事」だと言う。
しかし百両は2、3年は遊んで暮らせるほどの大金です。やばくないわけがない。
橋爪功さんがまた伊兵衛のイメージにぴったりで。表面的には穏やかで、商家の旦那ふうに見える伊兵衛ですが、その目の奥には常人ならざる鋭いものが見える。
佐之助は闇の世界で生きているがゆえに伊兵衛が持つ「怖さ」に気づき、断ります。
しかしその後、引き受けざるをえない状況に追い込まれます。
集められた仲間は「おかめ」の常連
結局、佐之助は伊兵衛が持ちかけた押し込みの仕事に加わることになります。
伊兵衛は佐之助のほかにも3人の人物に声をかけていました。
全員「おかめ」の常連客で、素人です。
ひとりは浪人の伊黒清十郎。
ひとりは御店の若旦那、仙太郎。
ひとりは前科持ちの老人、弥十。
なんの繋がりもない素人を集めて押し込みをさせるのが、伊兵衛の手口でした。
佐之助に限らず、みなそれぞれにのっぴきならない事情を抱えていました。
四人は闇の歯車となって、伊兵衛の指図どおり逢魔が刻に「近江屋」を襲います。
しかし、金を奪って逃げる際、伊兵衛と佐之助は女中に顔を見られてしまいます。
その女中は、佐之助がよく知る人物でした。
男たちを待ち受ける運命
※ネタバレを含みますのでご注意ください
その後、男たちには予想外な運命が待ち受けていました。
清十郎と仙太郎は殺され、弥十も大怪我を負って寝たきりになってしまうのです。
伊兵衛は佐之助の目の前で町方に捕まるのですが、佐之助のことを訊かれても「知らない」と言う。悪党にも悪党の流儀があるってことでしょう。痺れるわ。
佐之助は命を狙われ、江戸を離れようとする。
そこへ、追っ手があらわれる。匕首を抜いて、立ち向かっていく佐之助。
果たして、佐之助は生き延びることができたのか……。
原作は佐之助がまっとうな生き方をしようと決意するところで終わるので、これはドラマオリジナルの結末なんですよね。
ドラマはハードボイルド・サスペンスに徹した作りになっていたので違和感はなく、すんなり受け入れられました。
男を翻弄する女たち
瑛太さんは大河ドラマでの武士役も似合うけど、下町の町人役も似合いますね。
べらんめぇ口調とか、着物のくずれ方とか、荒んだ雰囲気とか、どこから見ても佐之助でした。
佐之助は匕首を持ち歩くような物騒な男なのに、女の人には優しい。
おくみに対してもめんどくさいと思いつつ、邪険にできない。
そういう優しさというか淋しさというか、伊之助が捨てきれない「温かいものへの執着」が微妙に見え隠れする感じもうまかったです。
作家の宮部みゆきさんはこの作品についてこんなふうに語っていて。
『闇の歯車』というタイトルが素晴らしいのは、五人の男たちが犯罪に手を染めることで運命の歯車がギリギリと回り出すというイメージだと思うのですが、同時に男は女によって回されている歯車に過ぎないのかもしれないという読み方もできると思うのです。(「『蝉しぐれ』と藤沢周平の世界」より)
言われてみればそうだなぁと。
伊兵衛以外の男たちはみんな女に翻弄され、人生を狂わされたり、救われたりしていますよね。
原作にはないエピローグ
そしてもうひとつ。
これもドラマオリジナルの、おまけのようなうれしいエピローグが。
結局、盗んだ金は誰の手にも渡りませんでした。
伊兵衛が捕まってしまったので、金の隠し場所はわからないままです。
七百両はいったいどこへいったのか?
この物語の主役は、佐之助、伊兵衛、伊黒清十郎、仙太郎、弥十の5人です。
ところがドラマでは、もうひとりの人物に光をあてています。
酒亭「おかめ」の主人・繁蔵です。
このおじいちゃん、ほとんどセリフがありません。
しかし存在感は伊兵衛を上回ると言ってもいいくらい。ミステリアスで、つかみ所がありません。
原作では金の隠し場所を「知りませんな」と言っていたけれど、ドラマでは知っていたでしょうね。店の主人に知られずに隠すことなんて、できそうにないですし。
金の隠し場所に選ぶくらいだから、伊兵衛は繁蔵がどういう人間かをよく知っていたのでしょう。繁蔵が伊兵衛に協力するのは、今回が初めてではないのかもしれません。
七百両もの大金を手に入れた繁蔵と若い妻は、どんな人生を選択するのか。
そして生まれたばかりの赤ん坊は、いったいどんな運命を辿るのか。
さまざまな想像を掻き立てられる、秀逸なラストでした。
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長編小説のドラマ化・映画化は物足りなさを感じることが多いのですが、このドラマは省略する部分と見せる部分のバランスがよく考えられていて、非常にうまくまとまっていました。
見終わった後には「いいものを見たなぁ」という満足感しかありませんでした。
サスペンスだと若い人も見やすいだろうし、〈ハードボイルド時代劇〉というジャンルを攻めてもいいかもしれませんね。
次は「彫師伊之助捕物覚え」シリーズはいかがでしょうか?
スタッフの皆様ぜひご検討ください^^
最後になりましたが時代劇専門チャンネル開局20周年おめでとうございます。
次のオリジナルドラマも期待しております。
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