ネタバレ解説*映画「犬神家の一族(1976)」あらすじ・キャスト・予告動画・視聴方法

映画「犬神家の一族(1976)ネタバレ解説・キャスト・予告動画

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第1の事件・若林殺害

金田一が指定された那須ホテルに部屋を取り、依頼主が来るのを待っていたとき、たまたま犬神家にゆかりのある野々宮珠世(島田陽子)の乗ったボートが沈みかけているのを目撃、すぐさま救出に向かう。

珠世を助けてホテルに戻ると、依頼主の若林(西尾啓)が洗面所で血を吐いて死んでいた。重要参考人となった金田一は警察署で聴取を受け、そこで若林の上司・古館と面会する。

古舘は犬神家の顧問弁護士で、犬神佐兵衛の遺言状を預かっていたが、どうやら若林は密かに金庫を開けて遺言状を読んだらしい。

若林が「犬神一族に何かが起こる」と予測し、金田一に手紙を送っていたことを知った古舘は、毒殺された若林に代わって金田一に調査を依頼する。

重要人物のひとりである野々宮珠世を演じるのは、島田陽子さん。このとき23歳。「絶世の美女」という原作の設定どおり、異彩を放ってます。

本作でコメディリリーフを演じているのは、坂口良子さん演じる那須ホテルの女中・はると、加藤武さん演じる橘署長。「犬神家」は陰惨なストーリーだけど、この2人が登場するとほっこりします。

2人とも映画のオリジナルキャラクターといっていいくらいで、加藤武さんに関しては「よし、わかった!」というおなじみのセリフがシリーズを通して定着し、なくてはならない存在になりました。

ちなみに橘署長のズッコケキャラは当初からの設定ではなかったそうで。以下は、加藤武さんの談話。

最初は署長らしくやってたわけ。おっちょこちょいではなく、普通にね。屋根のとこ、雨降らしてて、あそこのシーンでコケたんだ。本当に滑ったんだけど、それで監督がひらめいたみたいだね。これは三枚目にしたほうが面白いんじゃないかって。

洋泉社「映画秘宝EX 金田一耕助映像読本」より

那須ホテルの主人を演じるのは、原作者の横溝正史氏です。このとき74歳。5年後に亡くなりました。

ロケは主に長野県上田市で行われ、湖のシーンは青木湖と木崎湖で撮影されました。

金田一が泊まる「那須ホテル」は長野県佐久市にある井出野旅館。「那須警察署」は、長野県上田市にある登録有形文化財・上田蚕種協同組合の建物。

犬神家の大邸宅は、外観のみ長野県安曇野市の旧飯田家(現在は、花林桃源郷「蔵久」安曇野本店)。屋内の撮影は、東宝撮影所の第9スタジオに作られたセットで行われました。

ストップモーション(金田一が珠世を助けるシーン)や、屋根瓦の上から捉えた俯瞰(金田一と古館弁護士が並んで歩くシーン)は、市川作品のトレードマークになっています。

遺言状とスケキヨマスク

古舘によると、遺言状は血縁者9人が揃ったときに公表されるという。佐兵衛は生涯正式な妻を持たず、3人の娘・松子(高峰三枝子)、竹子(三条美紀)、梅子(草笛光子)はそれぞれ生みの母を異にしていた。

博多へ行った松子が、戦地から戻った息子・佐清(あおい輝彦)を連れて帰ってくる。翌朝、連絡を受けた古舘と金田一が犬神家を訪れると、佐清は不気味なゴムの仮面を装着していた。戦地で顔に怪我を負ったため、松子が東京で仮面を作り、被らせていたのだ。

確認のため、ゴムマスクを取って顔を見せるよう促す古舘だったが、負傷した佐清の顔は変わり果て、誰も本人であるかどうか判別することはできなかった。

遺言状を公表する場で、佐清が黒頭巾を取り、一同が騒然とする場面。
原作では、以下のような描写になっています。

それはなんという奇妙な顔であったろうか。顔全体の表情が、凍りついたように動かない。不吉なたとえだが、その顔は死んでいた。生気というものがまったくなかった。全然血の通わぬ顔だった。

角川文庫『犬神家の一族』より

ぱっと見ただけではわからないくらい、精巧に作られたゴム製の仮面。原作ではそういう設定です。おそらく頭部をすっぽり覆うタイプではなく、顔の部分にだけつけるタイプではないかと想像します。その根拠についてはのちほど。

この映画で「頭から被るタイプ」のイメージが植え付けられたため、スケキヨ=白いゴムマスクがすっかり定着しました。

ただ本作のゴムマスクは、正確にいうと「白」ではなく、やや肌色味があるもの。ゴム自体も、髪の毛が透けて見えるほど薄く、やわらかい仕上がりに。以下は、監督助手・浅田英一氏の談話。

あのマスクには市川崑監督のこだわりがあった。東宝の特殊美術課造型の人が、あおいさんの顔から型を取って作ったんです。市川さんは、最初作ったものでひとまずOKしてくれたんですが、その後「やっぱりもっと柔らかくしてくれ」と要望が出てきた。3度ほど作り直し、とても柔らかいものになりました。

現代ビジネス「日本映画に革命を起こした『犬神家の一族』はここがスゴかった」より

広間に飾られている佐兵衛の遺影は、犬神家の呪いのメタファーでもあり、重要な役割を果たしています。以下は、スチールを撮影した橋山直己さんの談話。

監督から「眼力が大事」という指示が出て、いろんなパターンを撮りました。

洋泉社「映画秘宝EX 金田一耕助映像読本」より

一同が集まる大広間の金のふすまにもこだわり、クランクイン初日の撮影直前にダメ出しが出て、1日かけて作り直した…というエピソードも。

公開された遺言状

古舘が遺言状を読み上げると、一同は騒然となる。その内容は、犬神家の全財産と全事業の相続権を意味する三種の家宝「斧、琴、菊(よきこときく)」を、恩人の娘である野々宮珠世に譲るというものだった。

さらに珠世は佐兵衛の3人の孫、佐清、佐武(地井武男)、佐智(川口恒)の中から配偶者を選ばねばならず、珠世が3人との結婚を拒んで相続権を失った場合には、全財産は5等分され、その5分の1ずつを佐清、佐武、佐智に与え、残りの5分の2を青沼菊乃の一子、青沼静馬に与えるという。

青沼静馬は、50を過ぎた佐兵衛が自分の工場の女工だった青沼菊乃に産ませた子どもである。生きていれば佐清と同じ年だが、親子は消息を絶っていた。

金田一は珠世がこれまでに何度か危ない目に遭っていることを、古館から知らされる。若林はひそかに珠世を想っていたらしく、金田一に手紙を送ったのは彼女の身を案じてのことだろうと推測された。

遺言状の内容は、原作と同じです。
原作ではさらに細かく条件が付されていて、佐兵衛のすさまじい悪意と執念がうかがえます。

映画では、遺言状を公開したあと、金田一と古館弁護士が珠世について語るだけでしたが、原作では三種の家宝「斧、琴、菊(よきこときく)」の由来や、青沼菊乃と静馬親子のこと、猿蔵のことなどが、古館の口から詳しく語られています。

奉納手形と懐中時計

佐武と佐智は、那須神社に奉納されている佐清の手形を使って、仮面の男が本当に佐清本人かどうかを確かめると言い出す。そのアイデアを最初に思いつき、大山神官(大滝秀治)に提案したのは珠世だった。

珠世は故障した懐中時計を持ち出し、佐清に修理を頼もうとする。だが佐清は時計を手に取っただけで、何も言わずに返すのだった。

その日の夜8時ごろ、「柏屋」に顔を隠した兵隊服の男が現れる。一方、犬神家では佐武たちが佐清に手形を押させようと迫っていたが、松子は「佐清に間違いない」と言い張り、断固として許さなかった。

原作における大山神官は、好奇心旺盛で無神経な人物なのですが、映画ではそういう部分は省かれていましたね。演じているのが大滝秀治さんだからというのもあったのかな(存在だけで十分)。

那須神社のロケ地は、長野県大町市にある国宝・仁科神明宮です。

第2の事件・佐武殺害

翌朝、犬神家の庭で佐武の遺体が発見される。下男の猿蔵(寺田稔)が作った菊人形の頭部が、佐武の生首にすげ替えられていたのだ。息子を失った竹子は怒り狂い、梅子は捜査を担当する警察署長・橘(加藤武)に、松子が怪しいと耳打ちする。

犯行現場は犬神家の展望台だった。そこで珠世のブローチが見つかり、彼女が昨夜、犯行現場にいたことがわかる。珠世は佐武を呼び出し、懐中時計に付着した佐清の指紋を調べてほしいと頼んでいたのだ。だが佐武に襲いかかられ、駆けつけた猿蔵に助けられて展望台を下りたという。

観音岬で、胴体を運搬したと思われる犬神家のボートと死体を切断した凶器が発見される。警察はボートハウスを管理している猿蔵を怪しむ。猿蔵は10年ほど前に佐兵衛がどこかから連れてきた男で、「命にかえても珠世を守れ」と命じられていた。

佐武が殺され、その生首が菊人形の首とすげ替えられているという衝撃の場面。

この菊人形は、歌舞伎の「鬼一法眼三略巻」三段目「菊畑」の場を、犬神家の人々に似せて再現したものです(原作どおり)。

「菊畑」は、鬼一法眼(佐兵衛)が持つ「虎の巻」を手に入れるため、身分を偽って館に潜入した牛若丸(佐清)に、鬼一の娘・皆鶴姫(珠世)が恋をするという話。

鬼一の弟子の笠原湛海(佐武)は、皆鶴姫を娶って家を乗っ取ろうとしている敵役です。娘の思いを知った鬼一は、「虎の巻」を皆鶴姫に与え、いずれ夫となる者(牛若丸)の手に渡るだろう…と暗示して自害します。

犬神家の状況と、そっくりそのまま当てはまりますね。

原作では、猿蔵が「三種の家宝は珠世と佐清に与えたい」という佐兵衛の胸中を察して、このような菊人形を作ったのではないか…と金田一は推測しています。

犯行現場の展望台で、珠世のブローチを拾うのも原作どおり。原作では、ここで珠世がはじめて懐中時計について話す、という流れ。珠世の恋心も、ここで明らかになります。ちなみに原作では、佐清は「たぐいまれなる美貌の持ち主」。

モノクロでコントラストの強い画面処理を行うハイキー処理(珠世が襲われる場面)は、市川版金田一シリーズを代表する映像技法です。

「柏屋」と山田三平

金田一は観音岬の近くにある「柏屋」にたどり着き、「山田三平」という兵隊服の男が昨晩「柏屋」に泊まっていたことを知る。

松子は自分たちに向けられた疑いを晴らすため、佐清に手形を押させる。鑑定の結果、その手形は奉納されていた佐清の手形と一致し、仮面の男が佐清本人であることが証明される。

映画では「柏屋」の建物が登場し、橘署長も金田一もそこを訪れていますが、原作では「柏屋」の主人が宿帳と証拠品(血のついた手ぬぐい)を持って、犬神家にやってきます。

血のついた手ぬぐいは映画には登場しないのですが、実は準備稿の段階では「金田一が見つけ、署長に教える」というシーンが存在していました。

佐武の通夜

佐武の通夜が行われる。佐武の妹・小夜子(川口晶)は珠世を呼び出し、佐智の子を妊娠していることを明かす。そして「佐智さんを夫に選んだら恨むわよ」と告げる。

珠世が部屋に戻ると、兵隊服の男が何かを探していた。男が珠世を突き飛ばして逃走した直後、外から悲鳴が聞こえ、金田一たちは展望台へ向かう。そこにはゴムマスクを外し、気を失って倒れている佐清がいた。

湖で佐武の胴体が発見され、死亡推定時刻と死因が明らかになる。凶器は植木ばさみと思われた。金田一は遺体を切断した鉈と植木ばさみを使った人物は、別ではないかと考える。

通夜のあとで起こったことは、原作では犬神家の人々の証言によって語られています。なぜなら、金田一と古館弁護士は通夜が終わるとさっさと帰ってしまい、現場にいなかったから。

映画では金田一もその場にいて、展望台で倒れいている佐清を発見しています。以下は、このときの原作の描写。

佐清は死んでいるのではなかった。強いアッパーカットをくらって、気を失っていたのだが、倒れるはずみに仮面がとんだと見えて、そこに露出しているのは、おおなんという恐ろしい顔!

角川文庫『犬神家の一族』より

倒れたはずみにとんだ、という部分から、仮面が被り物ではないことがわかります。

さらに映画では省かれていますが、原作では、金田一が酔っ払った大山神官から「神社の宝蔵で古い唐櫃を見つけた」と打ち明けられる場面があります。大山はその中にあった文殻を読み、野々宮大弐と佐兵衛が衆道関係にあったことを知った…と。

「犬神佐兵衛のほんとうの姿を知りたい」と最初に強く願ったのは、金田一ではなく大山神官でした。

湖にあがった佐武の胴体を発見したのも、原作では大山神官です。凶器は植木ばさみではなく、短刀でした。

犬神製薬の闇

松子は実母・お園にしつこく言い寄られ、しぶしぶ金を渡して追っ払う。

金田一は『犬神佐兵衛傅』を読み、犬神製薬が戦争のたびに著しい躍進を遂げていることに気づく。古館を問い詰めると、犬神製薬の基礎を成したものは芥子だという。佐兵衛は特別な許可を得て芥子の栽培を行い、抽出した麻薬を当時の軍部が大量に買い付けたのだった。

佐智は珠世を薬で眠らせ、豊畑村の空き屋敷に運んで凌辱しようとする。だがそこに兵隊服の男が現れ、佐智に襲いかかる。その後、猿蔵のもとに「珠世さんを迎えに行きなさい」という電話がかかってくる。

金田一は那須ホテルの女中・はる(坂口良子)に使いを頼み、若林のたばこに混入されていた毒物の成分を薬学部の教授に調べてもらう。その結果、芥子の実の毒性の主成分であるモルヒネが含まれていたことがわかる。

原作では故人となっている松子の母が登場。これは伏線になっていて、のちに重要な証言者として再登場します。

犬神製薬が軍部と結託して麻薬取引を行い、戦争のたびに躍進して巨財の富を得た、という恐ろしい設定は、映画オリジナルです。原作では製糸業という設定なので、佐兵衛が麻薬の原料となるケシを栽培していたという話はありません。

また、猿蔵が珠世を迎えにいったとき、原作では彼女の胸の上に「佐智君は失敗した。珠世さんは現在もいままでと変わりなく純潔であることを証明す。 影の人」と書かれた紙切れが安全ピンで止められていました。

金田一が女中のはるに使いを頼み、大学教授にたばこの毒の成分を調べさせるというシーンは、原作にはありません。うどんを食べそこねてふくれ面をする坂口良子さんが最高にキュートでした。

第3の事件・佐智殺害

翌朝、佐智の遺体が屋根の上で発見される。遺体の首には琴の糸が巻き付けられていた。それを知った竹子は、自分たち姉妹が過去に青沼菊乃(大関優子)に対して行った蛮行について語り始める。

竹子ら3姉妹の母は、佐兵衛の欲望を満たす道具として飼われていたようなものだった。ところが女工の青沼菊乃が男の子を出産すると、佐兵衛は犬神家の三種の家宝「斧、琴、菊(よきこときく)」を与えてしまったのだ。

怒った3姉妹は家宝を取り返すため、親子が隠れている農家に乗り込んだ。そして菊乃を裸にして竹箒で何度も打擲し、赤ん坊に火箸を押し付け、家宝を奪ったのだった。

そのとき菊乃は「おまえたちを呪ってやる。必ず恨みは晴らす」と姉妹に向かって叫んだという。竹子たちは今回の事件を菊乃による復讐だと考えていたのだ。

だが古館の調査によると、青沼菊乃はその後、親戚を頼って富山へ行き、空襲で亡くなったという。息子の静馬は戦地へ行ったきり、消息がわからなくなっていた。警察は青沼静馬を犯人として指名手配する。

佐智の遺体は、原作では屋根の上ではなく、珠世が襲われた豊畑村の廃屋で見つかります。映画では小夜子が発見しましたが、原作では猿蔵、金田一、橘署長ら(小夜子も含む)が一緒に廃屋に行って発見しています。

映画では漫画チックなキャラ付けをされている小夜子ですが、原作ではごく普通のお嬢様です。幼い頃から想い続けていた佐智の死をまのあたりにし、錯乱してしまう小夜子。妊娠していることも、原作ではこのときに発覚します。

青沼菊乃について話すのは、映画では次女の竹子でしたが、原作では長女の松子です。父・佐兵衛の、自分たち3姉妹や母たちに対する異常な冷酷さについても語られます。

松子たちが菊乃に対して行った酷い仕打ちは、ほぼ原作どおりに再現されています。かなりショッキングな映像になってますね…。呪いの言葉を吐く菊乃がほんとに怖い。

映画では青沼菊乃は故人になっていますが、原作では生きています(詳しくはのちほど)。

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