「悪魔の手毬唄」原作ネタバレ徹底解説|老女おりんの正体と犯人の動機

横溝正史「悪魔の手毬唄」ネタバレ解説

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横溝正史の小説「悪魔の手毬唄」についてまとめました。

江戸川乱歩が編集長となった探偵小説誌「宝石」の1957年8月号から1959年1月号にかけて、〝 本格探偵小説 〟として掲載された作品。

舞台は『本陣殺人事件』『八つ墓村』などと同じく、岡山県の山間にある集落。時代設定は昭和30年の夏です。

一時の静養を求めて鬼首村の亀の湯を訪ねた金田一は、村に伝わる古い手毬唄になぞらえた連続殺人事件に遭遇します。

本格と謳っているだけあって読み応え充分。事件を紐解く伏線の数々が、犯人の動機に得心を持たせる丁寧な描写と共に、序盤から随所に散りばめられています。

もちろん金田一と磯川警部の名コンビも健在です!

最後に事件の真相をまとめていますが、その都度〈ネタバレ〉も追記しています。

※引用文はすべて横溝正史著『八つ墓村』(角川文庫)より引用しています

登場人物

主要人物

金田一耕助
有名な私立探偵。もじゃもじゃ頭で風采のあがらぬ小柄な人物。静養のために訪れた岡山県鬼首村で殺人事件に巻き込まれ、磯川警部と共に捜査に乗り出す。

磯川常次郎
岡山県警の警部。 静養地を探していた金田一に鬼首村の「亀の湯」を紹介する。昭和7年に鬼首村で起きた殺人事件を担当するも、犯人逮捕に至らず迷宮入りしている。

亀の湯

青池リカ
鬼首村のはずれにある湯治場「亀の湯」の女将。50歳前後。口数が少なく、どこか暗い、さびしい翳がある。昭和7年の事件で夫・源治郎を殺されている。

青池歌名雄
リカの息子。26歳。鬼首村の青年団副団長。立派な体格をしており、彫りの深い目鼻立ちの好男子。村の娘たちに人気がある。泰子と恋仲。

青池里子
リカの娘。23歳。美人だが生まれつき左半身に赤痣があり、めったに人前に出ない。外出時は頭巾を被っている。ぶどう畑で遺体で発見される。3番目の犠牲者。

青池源治郎
リカの夫で、亀の湯の次男(故人)。小学校卒業後に鬼首村を出て神戸市に移り住む。神戸で「青柳史郎」という芸名で活弁士をしていたが、トーキー映画の登場によって仕事を失い、昭和7年に妻子を連れて帰郷した。同年11月25日に恩田幾三に殺害された(当時28歳)。

お幹
亀の湯の女中。27、8歳。話し好きで愛嬌があるが、大空ゆかりのことは毛嫌いしている。泰子が殺される直前にすれ違っていたことから、泰子の死に責任を感じる。

仁礼家(秤屋)

仁礼嘉平
仁礼家当主。60歳前後。大柄でがっしりとした体つき。ぶどう栽培で成功した父の事業を継ぎ、「やり手」と噂される鬼首村の主権者。かつて由良敦子と噂があった。娘の文子を歌名雄に嫁がせようと、青池リカに縁談を持ちかける。

仁礼文子
嘉平の娘。ゆかり、里子、泰子の同級生。歌名雄に気があり、泰子に嫉妬している。ぶどう酒醸造工場で遺体で発見される。2番目の犠牲者。

仁礼直平
仁礼家の跡取り息子。36歳。嘉平に似て体が大きく、〝えらもん〟と評判の人物。終戦後すぐに結婚している。

仁礼勝平
仁礼家の次男。26歳。鬼首村の青年団団長。歌名雄と仲がよい。

咲枝
嘉平の妹。才女で19歳の時に神戸のJ学院に進学した。現在は鳥取県に嫁いでいる。文子の実母。

仁礼仁平
仁礼家先代主人(故人)。先見の明があり、鬼首村にぶどうの栽培を持ち込んで財産を築いた。

由良家(枡屋)

由良敦子
由良家先代主人 ・卯太郎の後家。大柄で負けん気が強く、「八幡様」と呼ばれている。仁礼嘉平に対抗意識を燃やす。

由良泰子
卯太郎と敦子の娘。ゆかり、里子、文子の同級生。純日本式の美人で、歌名雄の恋人。〝 腰かけの滝 〟で遺体となって発見される。最初の犠牲者。

由良敏郎
由良家当主。卯太郎と敦子の息子。一昨年シベリヤから復員し、昨年結婚したばかり。風采の上がらない男。

由良五百子
卯太郎の母。鬼首村手毬唄を金田一に歌って聞かせる。

由良卯太郎
由良家の先代主人(故人)。敦子の夫。仁礼家の台頭に焦り、対抗策を講じようとする中で恩田幾三に騙され、村人から物笑いの種にされて命を落とす。

別所家(錠前屋)

別所千恵子
恩田幾三が別所春江に産ませた娘。詐欺師・殺人犯の娘として迫害され、16歳の時に村を出る。のちに国民的人気女優・歌手となり、「大空ゆかり」として村に凱旋する。蓼太や松子のために〝ゆかり御殿〟と呼ばれる大邸宅を建設した。

別所春江
千恵子の母。23年前、村に滞在する恩田の世話をしていた。恩田と男女の関係に陥り千恵子を産むが、村内で迫害に遭い、千恵子と共に村を出て行く。

別所辰蔵
春江の兄。40半ば。仁礼家のぶどう酒醸造工場の工場長。常日頃から工場の酒を盗み飲み、鼻の頭を赤くしている。成功した千恵子に劣等感を持っている。

別所五郎
辰蔵の息子。鬼首村青年団団員。歌名雄や勝平と仲がいい。

別所蓼太
辰蔵・春江の父。千恵子の戸籍上の父。

別所松子
辰蔵・春江の母。千恵子の戸籍上の母。

そのほか

恩田幾三
昭和6年の終わり頃、鬼首村にやってきた正体不明の男。金縁眼鏡でちょび髭を生やした好男子。由良卯太郎にクリスマス用のモール作りの副業を紹介するが、青池源治郎に詐欺だと怪しまれ、昭和7年11月25日に源治郎を殺したとされている。その日以降、現在まで姿を見た者はいない。別所千恵子の実の父親。

多々羅放庵
世捨て人。庄屋の末裔で、村人からは「お庄屋さん」と呼ばれている。妻を7回も娶るなど、放蕩三昧の人生を送っている。5番目の妻おりんからが戻ってくるのを楽しみにしていたが、忽然と姿を消す。昭和7年に恩田幾三が村にやってきた際、離れを貸して寝泊まりさせていた。

栗林りん
多々羅放庵の5番目の妻。58歳。昭和7年の事件の夜に放庵と喧嘩をし、出奔した。放庵に「昔のことは水に流して一緒に暮らしたい」という手紙を送る。仙人峠で金田一とすれ違うが、実は数か月前に亡くなっている。

吉田順吉
神戸に住む多々羅放庵の甥(故人)。早稲田大学時代の親友が民俗学の雑誌を作っており、自身も柳田国男の愛読者だった。

日下部是哉
大空ゆかり(千恵子)のマネージャー。満州帰りで、以前は映画会社にいた。

本多(大先生)
横川大観に似た風貌の医者。 鬼首村で「本多医院」を営んでいるが、 現在は引退している。昭和7年の事件の際、青池源治郎の遺体を検屍している。

本多医師
大先生の息子。捜査に協力し、遺体の検屍を行う。

立花
岡山県警の警部補。捜査主任。40歳前後。背が高く精悍な男。金田一に対抗心を燃やす。

相関図

「悪魔の手毬唄」相関図
「悪魔の手毬唄」ネタバレ相関図

あらすじ解説(ネタバレ有)

金田一、鬼首村へ

昭和30年7月下旬。金田一は孤独と休養を求めて、兵庫県と岡山県の県境にある鬼首村の湯治場「亀の湯」を訪れます。

亀の湯を紹介したのは、磯川警部でした。
でも、どうやら彼には下心があったようで。

実は、この鬼首村では23年前(昭和7年)に殺人事件が起こっていて、磯川警部は当時の捜査を担当したのですが、犯人逮捕に至らないまま迷宮入りしているのです。

「亀の湯」は、その事件の被害者遺族・青池リカが営む湯治場なんですね。

あわよくば金田一耕助に事件の謎を……と考えた磯川警部、金田一に紹介状を渡すついでに昭和7年の事件の詳細を語り、彼の好奇心を刺激しています。

昭和7年に起きた事件とは

昭和7年に鬼首村で起きた事件について、小説では15ページにわたって詳細に語られていますが、ここではざっくり説明します。

発端は、村にやってきた恩田幾三という詐欺師です。

鬼首村には「由良家」と「仁礼家」という二大勢力家がありまして、当時は新興勢力だった仁礼家がぶどう栽培に成功し、がぜん勢いづいていました。

焦った由良家の三代目当主・卯太郎は、恩田幾三に持ちかけられた新事業を農民たちと共に始めるわけですが、これが詐欺だったんですね。

その時、いち早く「恩田は怪しい」と気づいたのが、青池リカの夫で「亀の湯」の次男・青池源治郎でした。

源治郎は恩田をとっちめようと仮宿に乗り込んでいくのですが、逆に殺されてしまいます。犯人の恩田はそれきり姿をくらまし、未だに見つかっていません。

実は磯川警部は、このとき死んだのは源治郎ではなく、恩田幾三ではないか…?と疑っていました。というのも、源治郎の顔は囲炉裏に突っ込まれ、判別できないほどに毀損していたのです。

23年前に死んだのは源治郎なのか?
殺したのは誰なのか?

磯川警部の推理は半分アタリで半分ハズレ。恩田幾三と青池源治郎は同一人物です。源治郎が新事業を興すときに「恩田幾三」を名乗っていたのです。彼は恩田幾三として由良敦子や仁礼咲枝をたらしこんで関係を持ち、それを知った妻リカに殺されました。リカに協力して犯行を隠蔽したのは多田羅放庵でした。

謎の老女〝おりん〟

金田一は亀の湯に逗留中、多田羅放庵という世捨て人と知り合います。彼は7回も妻を取り替えている放蕩者でしたが、現在はひとり者。

そんなとき、5番目の妻おりんから「また一緒に暮らしたい」という手紙をもらって大喜び。金田一に返事の代筆を頼みます。

その後、金田一は仙人峠でおりんと名乗る老女とすれ違います。

「ごめんくださりませ。おりんでござりやす。お庄屋さんのところへもどってまいりました。なにぶんかわいがってやってつかあさい」

ところが……。

後日、金田一はおりんがこの春に亡くなっていると聞かされ、驚愕します。

峠ですれ違った老女は誰なのか?
放庵に届いた手紙を書いたのは誰か?

老女の正体は、青池リカです。リカは放庵を陥れるため、そして名探偵・金田一耕助に挑戦するため、おりんのふりをして現れたのです。手紙は1年前に本物のおりんが書いたもので、放庵が受け取る前にリカが手に入れて隠していました。

消えた放庵と山椒魚

おりんが偽物だと知った金田一は、急いで放庵の家を訪ねます。
放庵は姿は見当たりません。

机の上には誰かと酒盛りをした痕跡があり、部屋には吐血の跡が。台所には、〝お庄屋ごろし〟と呼ばれるサワギキョウが残されていました。

そして水瓶の中でうごめいている山椒魚……。

放庵はどこへ消えたのか?
酒盛りをした相手は誰なのか?

放庵は青池リカに殺されました。リカは妻おりんのふりをして放庵と酒盛りをし、毒を飲ませたのち絞殺。遺体は猫車で運んで共同墓地に埋めました。
放庵がおりん=リカだと気づかなかったのは、彼が夜盲症だったためです。山椒魚は精力をつけるために放庵が用意したものでしたが、目が退化した山椒魚は、放庵の視力の弱さを暗示していました。

由良泰子の死〈第1の殺人〉

8月12日。亀の湯の娯楽室に捜査本部が設置されます。
もう「孤独と休養」どころじゃないですね。

放庵の遺体が見つからないまま、さらなる事件が起こります。

鬼首村が〝グラマーガール〟こと国民的人気女優・大空ゆかり(恩田幾三と別所春江の娘)の帰郷に湧いていたとき、〝腰かけの滝〟で由良泰子の遺体が発見されます。

由良泰子は、恩田幾三に騙された由良卯太郎と敦子の娘です。
とびきりの美人で、村で人気の青池歌名雄(青池リカの息子)と恋仲でした。

泰子の口にはガラス製の漏斗が挿し込まれ、頭上の腰かけ岩の上に置かれた三升枡から溢れた水を漏斗で受け止めるような形で、滝壺の中に横たわっていました。

ちなみに由良家の屋号は「枡屋」。
謎めいた見立て殺人に、「獄門島」事件を思い出す金田一と磯川警部。

泰子が死ぬ直前、青池リカの娘・里子と女中のお幹は泰子と遭遇しており、そのとき泰子は〝腰の曲がった老女〟と一緒に歩いていたと証言します。

泰子を殺したのは誰なのか?
なぜ、犯人は漏斗と枡を使ったのか?

泰子と一緒にいた老女は青池リカ。泰子を殺したのも彼女です。漏斗と枡を使ったのは、たまたま自分が殺したい3人が「鬼首村手毬唄」に登場することを知り、手毬唄に見立てて殺害することを思いついたためです。

泰子が受け取った手紙

恋人の泰子が殺され、ショックを受ける歌名雄。歌名雄と泰子の間には縁談話が持ち上がっており、本人たちもその気だったのです。

そんな中、泰子が殺される直前に受け取ったらしい手紙が発見されます。

手紙には、「お父さんが亡くなったときの秘密を教えてあげます」と書かれていました。差出人の名は、放庵。

しかし泰子の父・卯太郎は脚気衝心で亡くなっており、これといった〝秘密〟はありません。

手紙を書いたのは放庵なのか?
泰子の父の死にまつわる秘密とは?

放庵の名で手紙を書いたのは青池リカです。リカは、泰子の本当の父親が恩田幾三(=青池源治郎)であることを知っていました。つまり、泰子の父は恩田を名乗っていたリカの夫で、リカによって殺されたのです。

仁礼文子の出生の秘密

泰子の母・敦子は、仁礼嘉平を疑っていました。

嘉平は娘の文子を歌名雄に嫁がせようと、母親のリカに縁談話を持ちかけていました。そのため、邪魔な泰子を殺したのだろうと。

実は敦子と嘉平は過去に関係を持っていたことがあって、お互い相手に複雑な感情を持っていました。

泰子の通夜の席で、同級生だったゆかりが泰子のために「枯葉」を歌います。その歌声を聞いて、むせび泣く敦子。

敦子は密かに金田一と磯川警部を呼び、「仁礼文子の出生の秘密」を暴露します。文子は嘉平の娘ではなく、嘉平の妹・咲枝と恩田幾三の間に産まれた子だと言うのです。

敦子と嘉平はなぜ別れたのか?
敦子がゆかりの歌を聞いて泣いたのはなぜなのか?

敦子と嘉平を別れさせたのは放庵です。放庵は、敦子の娘・泰子と、嘉平の娘・文子の実の父親が恩田幾三であることを知っていました。ゆかりが泰子のために歌っているのを聞いて敦子が思わず涙したのは、ゆかりと泰子が腹違いの姉妹だったからです。

仁礼文子の死〈第2の殺人〉

泰子の通夜の後、仁礼文子が行方不明になります。
文子は仁礼家のぶどう酒工場で遺体となって発見されました。

うつぶせに倒れた文子の帯には竿秤が挿し込んであり、その竿秤の皿にのっているのは縁起物のマユ玉と作り物の大判小判でした。

仁礼家の屋号は「秤屋」。
死因は泰子と同じく絞殺でした。

文子を殺したのは誰なのか?
なぜ、秤と大判小判を遺体に添えたのか?

文子を殺したのは青池リカです。 秤と大判小判を添えたのは、泰子のときと同様、「鬼首村手毬唄」に見立てるためでした。

鬼首村手毬唄

さて、ここでようやく「鬼首村手毬唄」が登場します。

由良泰子の葬儀の日、由良卯太郎の母・五百子が、昔この村で歌われたという手毬唄を金田一と磯川警部の前で披露したのです。

女たれがよい枡屋の娘
枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
枡ではかって漏斗で飲んで
日がないちにち酒浸り
それでも足らぬとて返された 返された

鬼首村手毬唄より一部抜粋

その手毬唄の歌詞は、泰子と文子が殺された時の状況にそっくりでした。

この五百子おばあさん、人が悪いんですよね。今回の事件が手毬唄をなぞらえたものだと気づいていながら、面白がってあえて黙っていたらしい。

さらに一昨年の夏、放庵が手毬唄について尋ねてきたことを明かします。

放庵の甥に吉田順吉という人がいまして、彼は早稲田時代の友人が作った民俗学の雑誌を支援していて、放庵にもこの雑誌を送っていました。

放庵は「鬼首村手毬唄考」という文章を投稿し、雑誌に掲載されたことがあったのです。

放庵の家を探すも、雑誌は見つかりません。金田一は「この手毬唄には続きがあるのではないか?」と疑問を抱き、三番目の娘が殺されることを懸念していました。

由良泰子の出生の秘密

仁礼文子の通夜が営まれた夜。
金田一と磯川警部は、仁礼嘉平と妹の咲枝からある告白を聞かされます。

文子は咲枝が産んだ娘で、父親は恩田幾三であること。
そして由良泰子もまた、敦子と恩田幾三の娘だと言うのです。

嘉平は昔、敦子と付き合っていたことがありました。そのとき、敦子の娘・泰子が恩田との間にできた不義の子だということを、放庵から聞かされたのです。

23年前に殺されたのは、恩田幾三だった?

金田一は、「錠前屋」である別所家の娘・ゆかりが次に狙われるのではないかと考え、磯川警部に警護を頼んで神戸へ向かいます。

磯川警部は、23年前に殺された青池源治郎の検屍を行った本多医師(大先生)を訪ね、死体の写真を見せてもらうことに。

写真の死体は、足の中指が長いという恩田幾三と同じ特徴が見て取れました。

やはり、殺されたのは源治郎ではなく恩田幾三のほうだったのだ、と確信する磯川警部。興奮し、思わず深酒をして寝込んでしまいます。

そこへ、「青池里子がいなくなった」という知らせが届きます。

青池里子の死〈第3の殺人〉

8月16日、ぶどう畑で青池里子の遺体が発見されます。

里子は鈍器で後頭部を殴られ、ズロースを身につけただけの裸の状態で、ぶどう棚の中に置き捨てられていました。現場の近くの草むらには、南京錠と鍵が。

昨夜の里子は喪服を着て、文子の通夜に出席していました。
兄の歌名雄は、家の近くまで里子を送ったと証言します。

里子を殺したのは誰なのか?
里子の死体はなぜ裸にされていたのか?

里子を殺したのは青池リカです。リカはゆかりと間違えて、自分の娘である里子を殺してしまったのです。泰子が殺された時、里子は犯人が母親であることに気づきました。里子はゆかりの身代わりになるためゆかりが着ていたイヴニングと似た服に着替え、殺されに行ったのです。里子の死体が裸だったのは、リカがゆかりと間違えて殺したことを悟られたくなかったからです。

犯人の正体

8月16日の夜。金田一と磯川警部は犯人をおびき出すため、罠を仕掛けます。
ところがこれが大失敗。

警察の目をかすめて、犯人はゆかりが義理の両親のために建てた〝ゆかり御殿〟に火をつけて逃走。

金田一が追うも、自ら溜め池に身を投げて深い泥の中で溺死しました。のちに、農薬を飲んでいたことが判明し、覚悟の自殺だったことがわかります。

犯人は、「亀の湯」の女将で23年前に殺された源治郎の妻・青池リカでした。

自らの手で溜め池から遺体を引き揚げた歌名雄は、恋人と妹を殺した憎き犯人が母だと知って、泣き崩れます。

金田一の謎解き(里子の変化)

8月17日の朝、金田一耕助は本多医院の奥座敷に関係者を集めました。

磯川警部、仁礼嘉平、嘉平の妹・咲枝、別所春江、ゆかり、ゆかりのマネージャーの日下部是哉。

ここで金田一は、泰子が殺された直後から青池リカを疑っていたことを明かします。ひとつは地理的な理由、もうひとつは青池里子の変化でした。

里子は泰子が殺された直後から、それまで人前に出るとき被っていた頭巾を脱ぎ、堂々と顔の赤痣を見せるようになりました。

母親犯人だと気づき、その理由が自分の醜さだと思い込んだ里子は、「気にしていない」ということを母親に伝えるために堂々と振る舞っていたのです。

金田一の謎解き(23年前の真相)

23年前(昭和7年)に起きた殺人事件の犯人も、青池リカでした。

殺されたのは、リカの夫・青池源治郎であり、恩田幾三。
つまり青池源治郎と恩田幾三は同一人物だったのです。

昭和6年末。トーキー映画の登場によって活弁士としての将来に絶望した源治郎は、故郷・鬼首村に戻って新事業を始めようとしました。

その際、地位の低い「亀の湯の息子」では信用がないと考え、恩田幾三を名乗って別人になりすまし、村一番の分限者である由良卯太郎に取り入ったのです。

ちやほやされて調子に乗った源治郎は、金持ちへの復讐心もあって、由良家の敦子や仁礼家の咲枝を誘惑し、妊娠させました。

しかし彼が本当に愛情を持っていたのは、世話をしてくれていた別所春江でした。源治郎はリカと子どもを捨てて、春江と満州に渡る計画を立てます。

このとき、リカは里子を妊娠していました。
精神的に不安定だったリカは、放庵から源治郎の秘密を聞かされ、逆上。

発作的に源治郎を殺害してしまい、その後、放庵の入れ知恵で犯行を隠蔽したのです。

金田一の謎解き(犯人の動機)

青池リカが由良泰子と仁礼文子を殺し、大空ゆかり(別所千恵子)を殺そうとした動機は、彼女たちが夫・源治郎の血を引く娘だったからです。

リカから見れば、3人は夫を寝取った女の娘です。

彼女たちは3人とも美人で、中でもゆかりは源治郎の芸能の血をもっとも受け継ぎ、芸能人として大成功を収めていました(リカ自身もかつて寄席に出ていたことがあり、芸能界への憧れを人一倍持っていました)。

それに反して自分が産んだ娘・里子は、人目を避けて生活しなければならない不幸を背負っていました。

正妻である自分の娘よりも、隠し妻の娘たちのほうが幸福な人生を送っている……その残酷な現実がリカを苦しめたのです。

村に豪奢な〝ゆかり御殿〟が建ったことや、歌名雄の縁談が進んでいたことも、リカを追い詰める要因になりました。

泰子にしろ文子にしろ、歌名雄にとっては腹違いの妹なのですが、その事実を打ち明けることができなかったからです。

金田一の謎解き(犯人の計画)

放庵が書いた「鬼首村手毬唄考」を読んだリカは、手毬唄に登場する3人の娘が自分の夫を奪った3人の女が産んだ娘と一致することを知り、殺人計画を考えるようになりました。

まず、自分の秘密を知る放庵を殺して遺体を隠し、すべての罪を放庵に被せようと思いつきます。

1年前に届いたおりんからの手紙を隠したのは、後日その手紙を利用するためと、23年前の事件の時に放庵の妻だったおりんを村に呼び戻したくないという心理が働いたためです。

そしておりんになりすまして金田一や放庵を騙し、放庵を殺害して遺体を共同墓地に埋めました。放庵は夜盲症だったため、おりんが偽物だと気づかなかったんですね。

その後、泰子と文子をおびき出して殺し、手毬唄の歌詞と同じになるように仕立て上げました。

誤算だったのは、3人目のゆかりです。

文子の通夜の席で、リカはゆかりのハンドバッグに手紙を入れて誘い出そうとしましたが、それに気づいた里子が手紙を奪い、身代わりになってしまったのです。

物語の終わり

8月24日の午後、歌名雄とゆかりは初めて異母きょうだいとして対面しました。

ゆかりは自分も長いこと詐欺師で殺人犯の娘だと罵られ、肩身の狭い思いをしてきたと語り、歌名雄に強く生きていってほしいと言葉をかけました。

事件が片付いた後、磯川警部は休暇を取って金田一と共に大阪や奈良などで3週間ほど遊び、京都駅で別れています。

別れ際、金田一は磯川警部にこう言って立ち去りました。

「失礼しました。警部さん、あなたは青池リカを愛しておられたのですね」

感想

犯人が事件を起こすに至った背景と動機が切ない。
その動機の源となった里子が取った行動も……。

わたしは精巧なトリックよりも、犯行の背景や動機のほうに興味があるので、本作は非常に読み応えのある作品でした。

23年前の事件との因果関係もよく考えられていて、現在進行形の事件と過去の事件の繋がりを探っていく部分も面白かった。

作者の横溝正史は、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』やアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』に影響を受けて『獄門島』を書き上げました。

彼は〝 童謡に見立てた殺人 〟のアイデアに惹かれたのですが、『獄門島』では童謡の代わりに俳句を使ったことに物足りなさを感じていたようです。

しかし、殺人事件になりそうな童謡がなかなか見つからない。

そんなとき、深沢七郎の短編小説『楢山節考』を読んで、作中に登場する「楢山節」が作家の創作だと知り、自分で童謡をつくることを思いついたそうです(ちなみに『楢山節考』に登場する老母は〝おりん〟という名前です)。

映像は、

  1. 高倉健さんの映画(1961年)
  2. 范文雀さんのドラマ(1971年)
  3. 石坂浩二さんの映画(1977年)
  4. 古谷一行さんのドラマ(1977年)
  5. 古谷一行さんのドラマ(1990年)
  6. 片岡鶴太郎さんのドラマ(1993年)
  7. 稲垣吾郎さんのドラマ(2009年)

と、過去7回映像化されています。
2019年12月21日には加藤シゲアキさん主演のドラマも放送予定。

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