ネタバレ有NHK「悪魔が来りて笛を吹く(2018)」あらすじ感想*原作より淫靡で非情

NHKドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」ネタバレ感想

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NHK・BSプレミアムで放送されたスペシャルドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」のあらすじと感想です。

NHKとは思えない攻めた内容で、とても刺激的で面白かったです。後半は原作と違う展開でしたが、結末は原作よりも残酷でした。

感想とともに、わかりにくかった場面の解説、原作との違いにも触れています。

あらすじ

金田一耕助(吉岡秀隆)は、椿美禰子から「自殺した父・椿英輔の真意を確かめてほしい」という依頼を受け、椿邸を訪ねる。英輔は「天銀堂事件」の犯人の疑いをかけられたことを苦に自殺したと思われていたが、美禰子は英輔が「この家には悪魔が住んでいる」と言い残したことを気に掛けていた。

椿邸で奇妙な占いが行われた夜、英輔が最後に作曲したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」が流れ、椿邸に寄宿していた玉虫伯爵が殺される。美禰子の母・秌子(筒井真理子)は、黄金のフルートを持った英輔を見たと証言。防空壕で英輔のフルートケースが発見され、中から天銀堂で盗まれた宝石が見つかる。

金田一は、英輔が生前訪ねた須磨へ行き、英輔が泊まった旅館のそばに玉虫伯爵の別荘があったことを知る。別荘に出入りしていた植木屋の娘・駒子は、父親のわからない子どもを産み、小夜子と名付けていた。

小夜子は子を身籠もったまま自殺を遂げており、その後出家した駒子は淡路の寺に身を寄せていた。だが金田一が訪ねる直前に駒子は何者かに殺されてしまう。東京では美禰子の伯父・新宮利彦(村上淳)が殺され、秌子も毒殺されかかるが一命を取り留める。

金田一は全員を集め、椿邸で起こった殺人のトリックを解き明かす。犯人は使用人の三島東太郎(中村蒼)。彼の本名は河村治雄といい、駒子の父・植辰の妾の連れ子だった。治雄と駒子の娘・小夜子は、結婚を誓い合った仲だった。

治雄は小夜子を殺した犯人が椿邸に住む誰かだと思い込み、小夜子の死の真相を探ろうとしていた。だが金田一は、治雄の出生の秘密にこそ小夜子の死の真相があると言い出す。治雄は新宮利彦と秌子の子どもだった。

小夜子は、姉弟の近親相姦によって生まれた治雄が自分の兄であり、自分もまた兄と近親相姦によって子を宿したことに絶望したのだった。治雄の肩には、父・利彦と同じ火焔太鼓の痣があった。真実を知り絶望した治雄は、母である秌子を滅多刺しにし、等々力警部によって銃殺される。

後日。金田一は椿邸を訪ねる。美禰子は椿邸を手放し、ひとりの女として生きていくと言う。従兄弟の一彦(中島広稀)は、黄金のフルートで「悪魔が来りて笛を吹く」を奏でる。それを聞いた金田一は、その曲が中指と薬指を全く使わない曲だと気づく。治雄は、戦争で中指と薬指を失っていた。

犯人を示すヒントに気づけず、殺された人々を救えなかったことを悔やむ金田一。落ち込む金田一のもとに、岡山県警の磯川警部から電話が入る。「八つ墓村で事件です!」

相関図(ネタバレ有)

※ドラマにおける相関図のため、原作とは一部異なります

NHKドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」人物相関図
NHKドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」人物相関図

登場人物はこちら

NHKドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」ネタバレ感想 NHK「悪魔が来りて笛を吹く(2018)」登場人物(キャスト)・あらすじ

感想(ネタバレ有)

原作を読んでいても面白かったですが、読んでいない人でもよくわかる構成になっていたと思います。大事な部分は網羅されていたし、伏線も効果的に張られていたし、なんといっても後半の見せ場(謎解き)が凄かった。

後半は原作とはだいぶ違うのだけど、原作より淫靡で非情でドラマチックでした。
吉岡秀隆さんの金田一が最高によかったです。

ちなみにこの作品、わたしが小学生の時に、西田敏行さん主演の映画が公開されまして。
これがねぇ…マジで怖かったんですよ!

いや、映画本編は見てないんですけども。

当時、テレビでしょっちゅうCMが流れていまして。それが本当に怖くて震え上がりました。CMが流れるたびに目を閉じて耳を塞いだりしてね。今でもタイトルを読み上げるナレーションの声を覚えてます。

戦後の混乱期

ドラマではあまりわからなかったけど、原作では昭和22年という設定でした。戦後2年経っていますが復興ははかどっていないようで、焼け野原の描写が頻繁に出てきます。

椿邸は、麻布六本木にあります。このあたり一帯も戦災をうけ、椿邸だけが焼け残ったという状態。焼け野原にぽつんと建っている椿邸も、あちこち損傷が激しく、庭木は焼夷弾を受けて黒く焼けただれている。

金田一が訪ねた神戸や須磨も、空襲で大部分が焼き払われた状態だと書かれていました。この作品で描かれる旧華族の没落は、そういう時代の話です。

ちなみに華族制度は、昭和22年(1947年)5月3日に施行された日本国憲法によって廃止されました。

天銀堂事件の犯人は?

椿子爵が犯人と疑われた「天銀堂事件」は、実際に昭和23年に起こった「帝銀事件」のことです。未だに多くの謎が解明されていない事件ですが、この物語の中では飯尾豊三郎が犯人ということになっています。

治雄(東太郎)は、椿子爵と出会う前から飯尾と知り合いでした。そして「天銀堂事件」の犯人のモンタージュ写真を見た時、犯人は飯尾だと確信します。

たまたま椿子爵と飯尾の顔が似ていたことから、治雄は椿子爵を「天銀堂事件」の犯人として密告することを思いつきます。残忍な悪戯心から……。

ドラマでは、新聞の文字を切り貼りした書状になっていましたが、原作ではタイプライターでした。そしてこのタイプライターの文字にも犯人を示す仕掛けがあり、ここの謎解きも面白かったのですが、ドラマでは割愛されてしましたね。残念。

利彦と秌子、原作では兄妹

ドラマではなぜか利彦が弟、秌子が姉に変わっていましたが、原作では利彦が兄、秌子が妹です。別荘で小間使いをしていた駒子は、姉妹を刺激する道具に使われました。

原作では、利彦と秌子の行為を目撃した駒子を、利彦が口封じのために犯した、ということになっています。利彦も秌子も、ドラマのほうが外道でしたね。

原作の利彦は臆病で神経質なところがあって、秌子は若くて美人でみんなからちやほやされるお嬢様でした。

それゆえに、利彦が身内には傲慢で高圧的だったり、秌子がセックス依存症だったりする側面を持っていることが、立体的な人物造形として強いインパクトを与えました。

ウィルヘルム・マイステルの修業時代

ドラマにもちらっと出てきましたが、椿子爵が美禰子に残した遺書は、ゲーテの「ウィルヘルム・マイステルの修業時代」という本に挟まれていました。これにも意味があります。

「ウィルヘルム・マイステルの修業時代」には、兄と妹が互いに知らずに恋に落ち、子どもができて、3人が不幸な境遇に落ちていく遺族のことが書かれています。

椿子爵は、美禰子にそれとなく真実を伝えようとしていたんですね。

治雄の告白文

治雄は小夜子の死の真相を探るために椿邸に入りこんだ、と言っていました。彼は、金田一に真相を突きつけられるまで、自分が何者か知らなかったんですね。なんという残酷な結末……。

原作では、治雄は全て知っていました。

金田一に追い詰められた治雄は、みんなの前で酒を飲み、肩に浮かび上がる火焔太鼓の痣を見せます。そして、自分が利彦と秌子の息子だということを告白します。

そこからは、治雄が残した告白文(遺書)によって、すべてが明らかになります。

復員して小夜子が自殺したことを知った時、植辰の妾から真実を聞いたこと。
復讐のため、自分を生んだ両親と大伯父を殺すために上京したこと。

椿子爵に全てを話し、彼を脅して椿邸に住み込んだこと。

椿子爵が須磨へ行ったのは、治雄の話が本当かどうか確かめるためでした。

治雄の最期

ドラマでは、治雄は秌子を滅多刺しにし、等々力警部に銃殺されます。正直、ドラマの結末はかなり後味が悪かったですね…。

原作の治雄は、椿子爵の黄金のフルートを取り出して「悪魔が来りて笛を吹く」を吹き(このとき金田一が曲の仕掛けに気づく)、そのまま床に倒れて死にます。服毒死でした。

ドラマでは、秌子は毒を飲んで死にかけるも一命を取り留めますが、原作ではここで死んでいます。なので、真実を知らされた治雄が狂気にとらわれて母親を滅多刺しにする、というシーンもありません。

原作の治雄は、自分が悪魔であることを知っていたので、すべて覚悟の上での所業でした。その点で、少しだけ救われるんですよね…。

でもドラマの治雄は、何も知らなかったんですよ。
あの場で金田一に真相を聞かされるまで。

ドラマチックではあるけれど、治雄の気持ちになるとやりきれない。

復讐する理由も弱いですよね。小夜子の死の真相を知らない治雄が、なぜ新宮利彦と秌子を殺そうと思ったのか。小夜子を殺されたと思い込んでいたみたいだけど、やっぱりそれだけじゃ弱いと思う。

火焔太鼓の痣

酒を飲んだり入浴したりすると、利彦の肩に浮き出てくる火焔太鼓の痣。金田一は治雄に酒を飲ませ、彼の肩に同じ痣が浮き出るのを見せて、利彦の息子であることを証明します。

原作では、治雄は自分に利彦と同じ火焔太鼓の痣があることを知っています。
だから、砂占いの時に火焔太鼓を描いたのです。

治雄は駒子の家でお風呂に入ったとき、この痣を駒子に見られています。駒子はこの痣を見て、治雄が利彦の血を受け継いでいることに気づくんですね。

さらに、秌子もまた、鏡に映った治雄の肩にこの痣が浮かんでいるのを見て、悲鳴をあげています。

実は秌子が悲鳴をあげた理由は、ずっとわからないままでした。それを金田一が解明し、治雄(東太郎)の自白を引き出すことになります。

悪魔が来りて笛を吹く

椿子爵が残したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」。
原作では、こんな描写になっています。

このフルートのメロディーのなかには、たしかに一種異様なところがあった。それは音階のヒズミともいうべきもので、どこか調子の狂ったところがあった。そしてそのことが、この呪いと憎しみの気にみちみちたメロディーを、いっそうもの狂わしく恐ろしいものにしているのである。

椿英輔氏の「悪魔が来りて笛を吹く」は、徹頭徹尾、冷酷悲痛そのものである。ことにクレッシェンド(次第に強く)の部分のもの狂わしさにいたっては、さながら、闇の夜空をかけめぐる、死霊の恨みと呪いにみちみちた雄叫びをきくが思いで、いかに音痴の私でも、竦然として、肌に粟立つのをおぼえずにはいられない。

劇中で使われた曲はドラマオリジナルの曲なのですが、原作の描写に近い曲になっていて、印象的でした。

「悪魔が来りて笛を吹く」という曲名は、木下杢太郎の詩「玻璃問屋」の一節「盲目が来りて笛を吹く」から転用したものだろう、と金田一は推測しています。

ドラマでは、事件解決後に一彦が演奏し、それを見た金田一がこの曲に仕掛けられた秘密に気づきます。

この曲は、中指と薬指を使わなくてもすむように作曲されていたのです。
それによって、椿子爵は悪魔=治雄(東太郎)であることを暗示していました。

原作では、治雄はこの曲を奏でながら死んでいきます。

次は「八つ墓村」!

ラストシーンは、倍賞美津子さん演じる宿の女将せつ子とのやりとり。この場面は原作にはありませんが、膝を抱えてうじうじしてる金田一が可愛かったです。

余談ですけど、金田一がいつも持ち歩いているトランク、これ原作ではボストンバッグとかなんですよね。石坂浩二さん演じる金田一が映画で初めてトランクを使って、この映画がヒットしたので、以来そのイメージが定着してしまったとか。

最後にかかってきた電話は、岡山県警の磯川警部から。
「八つ墓村で事件です!」

これは予告と受け取っていいんですよね?
来年も楽しみにしています。

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