ネタバレ有NHK「獄門島(2016)」あらすじ感想*エキセントリックな金田一と病んだ人々

長谷川博己主演NHKドラマ「獄門島」ネタバレあらすじ感想

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

2016年に放送された長谷川博己さん主演のNHKドラマ「獄門島」のあらすじと感想です。

昨年CSで再放送されたのを録画してまして、このたび原作を読み終えたのでようやく見ることができました。2016年に作ったとは思えないくらい昭和な雰囲気が満載のドラマで、面白かったです。

あの島のちょっと汚い感じとか、古い建物のどっしりした感じとか、全体的に薄暗い感じとか……妙にリアルで懐かしい。それなのに斬新で、古さを感じないんですよね。

原作にも忠実に作られていて、内容はほぼ原作そのまま。ただラストだけは、平成という時代ならではの新たな解釈が加えられていました。そのバランスも絶妙でした。

作品概要

  • 放送局:NHK・BSプレミアム
  • 初放送日:2016年11月19日
  • 原作:横溝正史『獄門島』
  • 脚本:喜安浩平
  • 演出:吉田照幸

あらすじ

終戦直後、瀬戸内の孤島を訪れた金田一耕助(長谷川博己)。僧の了然(奥田瑛二)の案内で島の実力者・本鬼頭家にやってきた金田一は、そこで美しい女性・早苗(仲里依紗)と出会う。さらには島に似つかわしくない奇抜な風体の3姉妹にも。そしてある晩、末妹の姿が消える…。金田一耕助再起動!数々のミステリー・ランキングで1位に輝く横溝正史の最高傑作!封建的な島で繰り広げられる怪奇な連続殺人の謎に金田一が挑む!

NHK公式サイトより

原作について

このドラマの原作は、横溝正史の探偵小説『獄門島』(1947年~48年に連載)です。

前年に発表された『本陣殺人事件』の次に書かれた、金田一耕助シリーズの第2作目。

もともと金田一の登場は『本陣殺人事件』1回きりの予定だったのですが、『本陣~』を連載していた雑誌『宝石』の編集長から「次の作品を書け」と言われ、「新しい探偵を考えるのが面倒だった」という理由で再登場させたそうです。

アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』に触発されて書いたことや、横溝夫人が「犯人は○○なのね」と予想外な人物の名を言ったことがきっかけで犯人が決まった、などの逸話も有名ですね。

原作についてはこちらの記事↓で詳しく書きました。

横溝正史「獄門島」原作ネタバレ解説と感想 「獄門島」原作ネタバレ徹底解説|俳句見立て殺人の真相と悲しい結末

登場人物(キャスト)

金田一耕助(長谷川博己)
了然和尚(奥田瑛二)
磯川警部(小市慢太郎)
荒木村長(菅原大吉)
幸庵(綾田俊樹)
清水巡査(山中崇)
鬼頭千万太(石田法嗣)
鬼頭早苗(仲里依紗)
鬼頭嘉右衛門(瑳川哲朗)
鬼頭与三松(山崎銀之丞)
鬼頭月代(堀田真由)
鬼頭雪枝(秋月成美)
鬼頭花子(吉田まどか)
お小夜(中西美帆)
竹蔵(谷田歩)
了沢(岡山天音)
鬼頭儀兵衛(古田新太)
お志保(山田真歩)
鵜飼(柳俊太郎)

感想(ネタバレ有)

ドラマには登場しなかった人物

ストーリー展開もトリックも、登場人物の設定も、ほぼ原作通りでした。

原作に出てくる登場人物でドラマに存在しなかったのは、嘉右衛門の妾の勝野と、床屋の清公くらいかな。

床屋の清公は情報通で(しかも話がうまい)、本鬼頭と分鬼頭のこと、嘉右衛門、与三松、お小夜のことなど、かなりの情報を金田一に提供している人物です。

ドラマでは、駐在所の清水巡査や、竹蔵などが代わりに説明していました。
特に違和感はなかったので、まったく問題なし。

勝野おばあちゃんは、月代の遺体を発見する役を担っていました。

原作では勝野がいなくなった飼い猫を探している時に見つけることになっています。鈴を鳴らしていた猫、あれが勝野の飼っていた猫です。

こちらもとりわけ問題なかったですね。

清水巡査の勘違い

ドラマでは、清水巡査がいきなり本家にやってきて、座敷牢の前にいた金田一を連行して留置場へ放り込んでしまいます。

花子が殺されて、金田一が怪しいと思ったらしいのですが……。

原作では伏線があります。
清水巡査は、その前に磯川警部に会い、「金田一から眼を話すな」と言われていたのです。

その口ぶりがいかにも要注意人物といった感じだったので、てっきり大物犯罪者だと思い込んでしまったんですね。

了然和尚のこだわり

いちばん驚いたのは、「きちがい」をそのまんま使用していたことです。

この作品が書かれた当時は普通に使われていましたが、現代では差別用語という認識が広まり、ほとんど耳にしなくなりました。わたし自身も使うことはありませんし、ここに書くことにもかなりの抵抗があります。

ですが、この作品においては事件の鍵を握る重要な言葉です。

了然和尚は、花子が殺された現場を見て「きちがいじゃが仕方がない」と呟きます。それを聞いた金田一は、「きちがい」を座敷牢に閉じ込められている与三松のことを指していると勘違いしてしまいますが、実はそうではなかったことが後に判明します。

了然和尚は「季違いじゃが仕方がない」と言ったんですね。

花子を殺して、遺体を其角の句に見立てたのは、了然和尚自身です。
其角の句「鶯の身を逆に初音かな」は春の句ですが、劇中の季節は秋。

了然和尚には、嘉右衛門さんの遺言どおりに完璧に仕上げたかった、という思いがあったのかもしれません。

境界線に立つ金田一

今回のドラマで唯一と言ってもいいアレンジは、やはり金田一耕助のキャラクター造形でしょう。

身勝手な行動で捜査を攪乱した早苗を、大声で怒鳴りつける金田一。
謎解きのあと、了燃和尚に向かって「ざまあみろ!」と高笑いする金田一。

これらのシーンは原作にはもちろんありませんし、初めて見る金田一耕助でした。

正直、あの場面で「ざまあみろ!」はないんじゃないの~と一瞬いやな気持ちになりましたが、その後のシーンで腑に落ちました。

発狂したように笑い続けたあと、とつぜん表情をなくして虚空を見つめる金田一。

ああ……金田一もまた、戦争で心を病んでいるのだと気づきました。

与三松、お小夜、三姉妹、嘉右衛門、了燃和尚、村長、幸庵。
この島には心を病んでいる人がたくさんいます。

原作の金田一は、彼らを自分とは別の場所にいる者(きちがい)として扱っていました。

でも今回のドラマは、金田一自身もかれらと同じ場所に、あるいはその境界線に立っているのだと、伝えていました。

金田一が早苗に心の内を吐露する終盤のシーンが印象的。

「戦争は、本当にひどいものでした。目の前で、たくさんの人間が死にました。たくさんという言葉では言い表せないくらいたくさんです。何もできないまま、ただ、死んでいきました。それが今さら、娘の二人や三人を救うために、こんなに必死になるなんて……妙な話ですね。本当は……本当は、救う気などなかったのかもしれません。僕はただ、わけが欲しかったんです。今日を生きるわけが」

また、島を去る船の中で、金田一と鵜飼が短い会話を交わすシーンもとてもよかったです。

悪魔が来りて笛を吹く

船の中で、金田一は電報を受け取ります。
そこには、「アクマガキタリテフエヲフク タスケコウ トドロキ」という文字が。

なるほど~。で、第2弾の「悪魔が来りて笛を吹く」に繋がるわけですね。

金田一シリーズの記事