ネタバレ有「ライン・オブ・デューティ」シーズン1全話あらすじ・感想・登場人物(キャスト)一覧|報われない正義と揺れる境界線

「ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班」あらすじキャスト

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英国ドラマ「ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班」シーズン1(全5話)についてまとめました。

警察内部の不正を暴くために活動する特別チーム「AC-12」の姿を描いた、見応えたっぷりのサスペンスドラマです。海外でも高く評価されており、IMDbでは8.7という高スコアを獲得しています。

正義を信じて行動する警察官たちが、組織の中で腐敗とどう向き合うか、そしてその中で揺れ動く心の葛藤が丁寧に描かれています。

ひとつひとつの事件が複雑に絡み合い、先の読めない展開が続くため、気がつけば最終話まで一気に見てしまうほど。緊張感のある尋問シーンや登場人物たちの駆け引きも見どころで、サスペンス好きにはたまらない作品です。

見どころ

  • 緻密なプロットと伏線回収
    一見完璧な警官ゲイツが抱える秘密が、少しずつ明らかになる展開はスリリング。視聴者の予想を裏切る展開が続きます。
  • キャラクターの心理描写
    登場人物はそれぞれに葛藤を抱えており、現代における正義とは何かを問いかける構造になっています。
  • リアルな警察内部の描写
    英国警察の制度や内部政治、汚職の構造がリアルに描かれ、社会派ドラマとしての深みも。
  • レニー・ジェームズの圧倒的存在感
    ゲイツ役のレニー・ジェームズは、善と悪の狭間で揺れる複雑な人物像を見事に演じています。

作品概要

  • 製作国:英国(2012年)
  • 原題:Line of Duty
  • 企画・脚本:ジェド・マーキュリオ
  • 監督:デビッド・キャフリー、ダグラス・マッキノン

あらすじ

若手刑事スティーブ・アーノットは、テロ対策班での誤射事件をきっかけに、警察内部の汚職を摘発する特捜班「AC-12」に異動となる。
新たな任務は、年間最優秀警察官にも選ばれた敏腕警部トニー・ゲイツの捜査。最初は疑念を抱くスティーブだったが、上司ヘイスティングス警視の指示や、ひき逃げ事件の捜査を通じて、ゲイツの裏の顔に迫っていく。

登場人物(キャスト)一覧

特捜班「AC-12」

スティーブ・アーノット(マーティン・コムストン)
テロ対策班に所属していた刑事。誤射事件の隠蔽を命じられるも、それに従わず真実を貫いたことで、警察内部の不正を調査する特捜班「AC-12」へ異動となる。強い正義感を持ち、冷静な目と粘り強い姿勢で、複雑な事件にも真摯に向き合う。

ケイト・フレミング(ヴィッキー・マクルア)
特捜班「AC-12」に所属する捜査官。潜入捜査のエキスパートで、冷静な判断力と鋭い観察眼を持つ。正義への強い情熱を胸に秘めており、時に危険を顧みず捜査に踏み込む。ゲイツが率いる捜査班「TOー20」に潜入する。

テッド・ヘイスティングス(エイドリアン・ダンバー)
特捜班「AC-12」を率いる警視。規律と正義を何よりも大切にする真っすぐな人物で、時に頑固に見えるほど信念を貫く。厳しさの中に部下への信頼と責任感を持ち、チームを導く頼れるリーダー。

TOー20

トニー・ゲイツ(レニー・ジェームズ)
地元署で高い評価を受ける警部。優秀な捜査実績と人望を兼ね備え、何度も表彰されるなど“花形”として活躍してきた。しかし、検挙率を上げるために容疑者に複数の罪を加える「多重摘発」や、愛人ジャッキーによるひき逃げ事件の隠蔽など、疑惑が次々と浮上。特捜班「AC-12」の捜査対象となる。

マシュー“ドット”・コッタン(クレイグ・パーキンソン)
ゲイツが率いる捜査班「TO-20」に所属する刑事。ゲイツへの忠誠心が強く、彼を調査する「AC-12」に対しては強い反発を抱いている。仲間思いでチームを守ろうとする一方で、グリーク通りの殺人事件では監視を怠ったことで犯行を許してしまうという重大なミスを犯す。

ナイジェル・モートン(ニール・モリッシー)
ゲイツが率いる捜査班「TO-20」に所属するベテラン刑事。長年にわたりゲイツと親しく、家族ぐるみの付き合いがある信頼の厚い存在。足に障害があり、普段は杖を使って歩いている。かつては引退を考えていたが、ゲイツの説得を受けて現場にとどまる決意をしたと語っている。

ディーパック・カプール(ファラズ・アユブ)
ゲイツが率いる捜査班「TO-20」に所属する若手刑事。真面目で実直な性格だが、上司であるゲイツからスティーブの監視を命じられるなど、自身の信念に反する指示を受けることが増え、次第にゲイツへの信頼が揺らいでいく。

事件の関係者

ジャッキー・ラバティ(ジーナ・マッキー)
不動産会社「ラバティ社」を経営する実業家。表向きは成功した女性だが、ゲイツとの不倫関係や、飲酒運転によるひき逃げ事件をきっかけに、裏の顔が明らかになっていく。冷静さと計算高さを併せ持つ、謎めいた存在。

ライアン・ピルキントン(グレゴリー・パイパー)
治安の悪い地域で暮らす10代の少年。犯罪組織に関与しており、携帯電話の調達や情報のやり取りなど、組織の手先として動いている。厳しい家庭環境の中で育ち、善悪の境界が曖昧なまま犯罪に巻き込まれていく。

バターフィールド(ブライアン・ミラー)
治安の悪い地域で暮らす高齢の男性。これまでに何度も強盗の被害に遭っており、そのたびに警察へ助けを求めているが、対応は後回しにされがちで、不満を募らせている。ライアンを殴り、暴行罪で逮捕される。

トミー(ブライアン・マッカーディー)
犯罪組織の中心にいるとされる謎の男。姿を現すことはほとんどなく、携帯電話を使って脅迫や指示を飛ばすなど、影から巧みに組織を操っている。

そのほか

イアン・バックルス(ナイジェル・ボイル)
ゲイツの代わりにジャッキーの事件を担当することになる。上層部の意向に従いながらも、どこか曖昧な態度を見せる場面が多く、信頼できるのかどうか判断しづらい人物。

デレク・ヒルトン警視(ポール・ヒギンズ)
ゲイツの直属の上司。部下であるゲイツの捜査方針や行動に目を光らせつつも、上層部の意向や組織の都合を優先する。一見穏やかで理性的だが、その言動には計算や政治的な思惑が見え隠れする。

フィリップ・オズボーン主任警部(オーウェン・ティール)
かつてスティーブが所属していたテロ対策班の上司。部下であるスティーブら現場の捜査員に対し、誤射事件の真相を隠すよう圧力をかけるなど、組織の保身を優先する。

リタ・ベネット(アリソン・リントット)
警察署で事務処理を担当する民間スタッフ。捜査現場には出ないが、書類の管理や情報の整理など、裏方としてチームを支える。ゲイツによる隠蔽工作に巻き込まれ、休職を願い出る。

カレン・ラーキン(フィオナ・ボイラン)
現場で働く制服警官。地域のパトロールや初動対応など、日々の業務を着実にこなしながら、住民との信頼関係を築いている。

サイモン・バナジー(ニート・モハン)
新人の制服警官。穏やかで誠実な性格の持ち主で、問題を抱える少年ライアンに対しても偏見なく接する。

ジュールス・ゲイツ(ケイト・アシュフィールド)
ゲイツの妻であり、2人の娘を育てる母親。夫を深く信頼し、良き父親として尊敬していたが、ゲイツが「AC-12」の捜査対象となっていることを知り、心を揺さぶられる。

各話のあらすじ(ネタバレ有)

テロ対策班のスティーブ・アーノットは、自ら指揮した突入作戦で、部屋番号の誤認という初歩的なミスにより無関係の男性カリム・アリを射殺してしまう。上司のオズボーン警部はこの失態を隠蔽しようとするが、スティーブは命令に背き、真実を証言する道を選ぶ。その結果、彼はテロ対策班を追われ、警察内部の不正を追及する汚職特捜班「AC-12」に異動となる。
AC-12の指揮官テッド・ヘイスティングス警視は、スティーブに年間最優秀警察官トニー・ゲイツ警部の捜査を命じる。模範的な警官とされるゲイツだが、彼の行動には不審な点が多く、AC-12はその裏にある不正を疑っていた。
一方、ゲイツは愛人ジャッキー・ラバティから、飲酒運転中に犬を轢いたと告白される。彼女をかばうため、ゲイツは車の盗難を偽装し、証拠隠滅を図る。しかし後に、その「犬」が実は人間であり、しかもジャッキーの会社の会計士だったことが判明する。
ゲイツは彼女に出頭を促すが、ジャッキーは真実を語らず、盗難車の件だけを供述する。ゲイツは彼女を守るため、会計士に関するデータを削除するという不正に手を染める。
ヘイスティングスは、ゲイツが容疑者に複数の罪を加算する「多重摘発」によって検挙率を不正に水増ししていると疑いを強める。スティーブはゲイツに誠実さを見出そうとするが、ヘイスティングスは彼を「ベン・ジョンソンのような偽りの英雄」と断じる。
さらに、AC-12の潜入捜査官としてゲイツのチームに潜入していたケイト・フレミング巡査がスティーブに正体を明かす。彼女は、ゲイツのチームが「花形捜査班」として過剰な予算と権限を持つ一方で、多くの被害者が見過ごされている現実に憤りを抱いていた。
やがて、ゲイツの部下たちが監視を怠った隙に、麻薬取引に関与していたとされる2人の男が拷問の末に惨殺される事件が発生。ゲイツは現場を指揮しながらも、内外からの圧力と自身の秘密に苦しむ。

スティーブは、ひき逃げ事件に対するゲイツの過剰な関与に疑念を抱き、捜査を進める。カフェ店員から、ゲイツが黒髪の女性と朝食を取っていたという証言を得たスティーブは、その女性がひき逃げ車両の所有者ジャッキー・ラバティである可能性に気づく。
一方ゲイツは、グリーク通りで発生した指切断殺人事件の参考人として、売人ウェズリー・デュークを尋問。ドラッグの出所や関係者について情報を引き出すが、核心には迫れない。
その後、解放されたウェズリーは謎の人物“トミー”から脅され、少年ライアンを通じて金を渡すよう命じられる。やがてウェズリーは殺害され、街灯に吊るされた状態で発見される。
スティーブはジャッキーの事業に不正の疑いを持ち、美容院などラバティ社の所有物件を調査。不正を追及されたジャッキーは資金洗浄の疑いを否定するが、スティーブは彼女に出頭を命じ、協力を強制する。
ゲイツはジャッキーが資金洗浄と会計士殺害に関与していると知り、逮捕して署へ連行しようとする。しかしジャッキーに「あなたは刑務所行きよ。娘たちにも知られる」と脅され、連行を断念する。
その後、ゲイツはジャッキーとともに彼女の家へ戻るが、覆面の男たちが現れジャッキーを殺害。ゲイツは殴られて気絶し、男たちは彼の指紋を凶器のナイフに付着させるという巧妙な罠を仕掛けて逃走する。

スティーブはジャッキーの家を訪ね、異様な現場に遭遇する。カーペットには血痕が残っていたが遺体は見当たらず、先に到着していたゲイツは「彼女を逮捕するために来た」と主張する。ゲイツは自分の指紋が付いたグラスを持ち去り、酒瓶を拭き取るなど、巧妙に証拠を隠滅する。
AC-12の面談で、ゲイツはジャッキーとの関係について「彼女に脅されて関係を持った」と弁明するが、通話記録やメールの履歴からは彼自身も積極的に関与していたことが判明し、捜査から外される。
一方、ケイトはグリーク通りの殺人事件を追い、車載カメラの映像から事件当夜の時系列を分析。監視がバレていた可能性を示唆する。現場からは高純度のコカインが発見され、麻薬組織の関与が濃厚となる。
ゲイツは偽造ナンバーの車を追跡中に犯人たちに拉致され、無人の建物に連れ込まれる。そこには冷凍保存されたジャッキーの遺体があり、姿を見せない首謀者“トミー”から携帯電話を通じて「ジャッキーの代わりに働け」と脅迫される。
スティーブはゲイツがジャッキー殺害に関与した可能性を疑い、彼の車を調べ、妻ジュールスにも接触する。その結果、上司のヘイスティングスから「行き過ぎた行動だ」と叱責される。
疑心に駆られたゲイツは、部下たちに偽の情報を流して反応を探る。結果、ディーパックがAC-12に密告していたことが判明し、彼はチームから追放される。ゲイツが持ち去ったグラスは署内の食洗機から発見されるが、誰もその重要性に気づかない。
スティーブは誤射事件の当事者である銃器官ブラックリーと再会し、責任を問われると同時に隠蔽への協力を懇願される。苦悩の末、スティーブは「僕は向いてない。ゲイツの勝ちだ」とのメッセージをヘイスティングスとケイトに送り、AC-12からの撤退をほのめかす。

ゲイツの汚職疑惑が深まる中、スティーブの離脱を受けたヘイスティングスは捜査の打ち切りを決断する。しかしケイトは潜入捜査を継続し、ゲイツとの信頼関係を築いていく。
彼女の姿勢に刺激を受けたスティーブは特捜班に復帰し、ケイトと連携して捜査を進める中で、ゲイツの娘たちの高額な学費がジャッキーからの援助によるものであることを突き止める。
ヘイスティングスはゲイツ班のドットとナイジに面談を行う。ナイジはゲイツへの恩義から沈黙を守るが、ドットはグリーク通りの殺人事件当夜、監視を外すようゲイツから指示されたと証言する。
追い詰められたゲイツは、グリーク通りの殺人をテロ計画に関連づける虚偽のストーリーを捏造する。スティーブはそれが偽装工作であると見抜くが、ヒルトン警視はゲイツの主張を鵜呑みにし、耳を貸そうとしない。
ゲイツは自身が監禁された無人の建物を突き止めるが、ジャッキーの遺体はすでに消えていた。トミーは携帯電話を通して「スティーブ・アーノットを始末しろ」とゲイツに命じ、ゲイツは苦悩の末にスティーブをその建物へ誘導する。
誘い出されたスティーブは覆面の男たちに襲われ、拘束されて拷問を受ける。ゲイツはその場に居合わせながらも、スティーブを見捨てて車で逃走する。

誘拐され、指を切断されそうになっていたスティーブを救ったのはゲイツだった。彼はライアンを拘束した後、スティーブを現場に残して帰宅し、妻ジュールスにジャッキーとの不倫を告白。娘たちとともに実家へ避難するよう促す。
スティーブは現場に駆けつけたケイトに「ゲイツは来ていない」と嘘をつく。病院で回復した後もゲイツの行動に疑念を抱きつつ、その人間性に心を揺さぶられる。
ケイトはライアン少年を尋問し、彼がトミーの指示で携帯電話を調達し、拷問に加担していたことを知る。さらに、ゲイツがスティーブを助けた事実を知ったケイトは、真実を隠してゲイツをかばったスティーブを厳しく非難する。
その後、ゲイツはスティーブと密かに接触し、犯罪組織との共謀や殺人への関与を否定。自らの手でトミーを捕らえて引き渡すと約束する。
やがてトミーの携帯が発信され、スティーブ、ケイト、ゲイツの三者がそれぞれ追跡を開始。エッジパークのゴルフ場でトミーを発見したゲイツは、彼を拘束し、車に乗せて移動する。その車内での会話はスティーブとケイトに共有される。
ゲイツの巧みな誘導により、トミーはグリーク通りの殺人、ウェズリー殺害、ジャッキー殺害が自身の命令によるものであると認める。ゲイツはその告白を引き出した後、スティーブに後を託し、道路に飛び出してトラックに轢かれ命を落とす。スティーブとケイトは彼の願いを汲み、殉職として報告。遺族には手当と恩給が支給される。
しかし、ドットの誘導によってトミーに対する証拠は採用されず、ジャッキーを含む複数の殺人事件は未解決のまま終わる。ゲイツの汚職疑惑も証拠不十分で捜査終了となる。
スティーブが証言したカリム・アリ狙撃事件についても、誰一人として責任を問われることはなかった。

感想(ネタバレ有)

現代正義の複雑さ描いたドラマ

物語は、いきなりショッキングな場面から始まります。主人公のスティーブ・アーノットが指揮をとる突入作戦で、まったく関係のない一般市民がテロ容疑者と間違われて射殺されてしまう。

なぜ、そんな取り返しのつかないことが起きたのか。その原因は、部屋番号の誤認でした。「59号室」の「9」が外れて逆さまになり、「56号室」に見えてしまったのです。つまり、部屋を間違えて突入してしまったという、あまりにも痛ましいミスでした。

スティーブは上司からこの事実を隠すよう命じられますが、それを受け入れず、正直に報告する道を選びます。その結果、彼は警察内部の汚職を調査する部署「AC-12」へ異動となります。本人にとっては左遷のようなものでした。

AC-12でスティーブが最初に任されたのは、模範的な警官として知られるトニー・ゲイツ警部の不正疑惑を調べること。正しさを信じて行動するスティーブと、優秀な成績を持ちながらも裏では秘密を抱えるゲイツ。この二人の対立が、物語の中心となっていきます。

小さな嘘が生んだゲイツの破滅

ゲイツ警部は、警察内でも優秀な人物として知られ、表彰されるほどの実績を持っています。そんな彼にも、“不倫”という誰にも言えない秘密がありました。ゲイツはその事実を隠すために、小さな嘘を重ねていきます。

その嘘がしだいに大きな隠蔽へとつながり、自ら泥沼に足を踏み入れてしまう。ゲイツの行動の背景には、家族への深い愛情や警官としての誇りがあって、決して極悪人ではありません。彼が苦しみながらも嘘を重ねていく姿には、人間的な弱さが感じられ、だからこそ見ていて辛くなる。

誰でも、自分を守るために小さな嘘をつくことがあります。ゲイツはどこかで「いつでも引き返せる」と思っていたのかもしれない。でも、気づいたときにはもう戻れなくなっていた。その転落の過程がリアルに描かれています。

自業自得とはいえ、彼の破滅には、「報い」では片付けられない哀しみが残りました。

正しさだけでは乗り越えられない壁

このシーズン1は、2012年にBBC Twoで放送されました。最初はそれほど話題になりませんでしたが、口コミで徐々に注目を集め、シリーズ化されるほどの人気作に。撮影は北アイルランドで行われていますが、物語の舞台は架空の場所として描かれています。

本作の脚本を手がけたジェド・マーキュリオは、もともと医師として働いていたという珍しい経歴の持ち主。医療の現場で培ったリアリズムへのこだわりが、彼の作品づくりにも強く反映されています。

このドラマでも、「制度の中で正義を貫くことの難しさ」が大きなテーマになっています。

マーキュリオはインタビューの中で、「ヒーローが必ずしも報われるとは限らない世界を描きたかった」と語っています。その言葉通り、シーズン1の結末では、正義を貫いた人物が必ずしも幸せになれるわけではないという現実が突きつけられます。

「正しさだけでは乗り越えられない壁」を前にして、登場人物たちがどんな選択をし、行動するのか。そこがこの作品の見どころでもあったと思います。

正義がすれ違う時代

冒頭で描かれるテロ捜査は、物語の導入としてだけでなく、当時のイギリス社会の空気とも深くつながっています。

2000年代に入ってから、イギリスではテロ対策が急速に強化されました。特に2005年のロンドン同時爆破事件の後には、治安維持を名目に監視体制が進み、警察の権限も大きく広がっていきました。

その一方で、警察の行動に対する市民の不信感も高まり、「本当に守られているのか?」という疑問が社会に広がっていきます。スティーブが関わった突入作戦は、そうした時代の緊張感を映し出しているように感じました。

誤認による射殺という悲劇は、警察が掲げる正義が、必ずしも市民の安全につながらないことを示しています。そしてスティーブは、この事件を正直に報告したことで、左遷ともいえる異動を命じられます。

正義を貫くことが、必ずしも正しい結果を生むとは限らない。そのもどかしさが、作品の根底に流れているように思います。

報われない正義の行方

ゲイツは犯罪の首謀者である“トミー”を捕らえ、自分にかけられていた殺人容疑を晴らしたのち、自ら命を絶ちます。

けれども、事件そのものは解決されません。トミーは釈放され、犯罪組織の全貌も明かされず、視聴後には「すっきりしない終わり方だったな」という印象が残ります。

まるで現実の捜査の限界を映しているような構成。すべての真実が明らかになるわけではなく、正義が完全に勝つとも限らない。むしろ、真実を追いかけた人が報われないという皮肉な展開が、作品のテーマを強く印象づけていました。

ゲイツの破滅も、スティーブの孤立も、「正しいことをしたから救われる」という単純な図式では語れない。誰かを守るためについた嘘が、別の誰かを深く傷つけることにつながる。現代社会の複雑さを映しているとも言えます。

この未解決の余韻は、シーズン2以降へとつながっていくのでしょう。この作品が描く「報われない正義」の行方を、これからも見届けていきたいと思います。

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